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第30話 『とある日のプロテストの光景(後)』

 プロボクシング編、第30話です。前の29話でちょろっと出てた【世界女子ボクシング選手権大会】についてですが、本来は2012年の5月に開催されるようです。作者、勉強不足の為に妙な日程で行っておりますが、創作と割り切っちゃって頂けると助かります。



<拍手返信>
・ぴーこ様:曲がりなりにもB級プロボクサーを(八つ当たりで)一蹴してしまう辺り、ウチの作品の女子たちは異様なようです(汗)
そして今回、挑発じみた美智子の発案がどのような結果をもたらすのか……お楽しみ下さい。





東 久野と白鷺 美智子、2人の女子練習生が受けたプロテスト。その実技テストに於いて、何と美智子は現役選手をKOしてしまう。
その選手が久野の相手もする予定であった為、対応に追われる協会役員。そんな中、美智子が火種を投下した。

「私が相手しようか?」と……














 2011年、10月。東京・後楽園ホールでは異例の出来事が起こっていた。

「まさか本当にこんな所で手合わせする事になるなんてね」

「別に狙ってたわけじゃないけど、これはこれでツイてるわ」

今、リング上ではゼッケン『50』と『51』、2人のプロテスト受験者が向かい合う。
Tシャツとビブスに包まれた張りのある胸を突き出すように、穏やかな笑みを見せる2人。
端から見れば、それは公正なスパーリングをしようという爽やかさにも取れる。が、そんなものは上辺だけのものと一部の人たちは知っていた。
2人の為人を知る者たちは、共通して感じた事だろう。

絶対まともな実技テストなんかでは終わらない、下手をすれば血の雨が降る

と。

『51』番、ヘッドギアから長い漆黒の髪を靡かせた東 久野は青コーナー。
『50』番、つい先ほど現役の女子プロボクサーを圧倒的実力でKOした黒い右眼と碧い左眼のオッドアイ、白鷺 美智子は赤コーナーへそれぞれ下がる。

「これは……またスゴイ事になったみたいね、アンナ」

思わず走ってきたのとは違う種類の汗が流れるのを感じながら、心は隣に佇む金髪碧眼のイタリアンハーフの方を見やる。
その視線の先、金髪をポニーテールに結ったアンナは確かに汗を浮かべ、しかしその表情は好奇に満ち満ちたものへと変貌していた。

「お、お姉さま……?」

どこか鬼気迫るその表情に、晶の背筋が凍る。それは、試合で高揚してきた時の、バトルジャンキーの顔そのものだった。



 時間が迫り、プロテストの枠を超えた2人の女子ボクサー、その闘いの開始を告げるゴングが今打ち鳴らされた。



カァァァァンッ!



高らかに響く鐘の音と同時に、2人は勢い良くダッシュ。
一応の儀式とばかりバンッ! と乱暴にグローブを合わせるや、すぐさま臨戦態勢へと入っていく。

美智子は左構えサウスポースタイル。
対して久野はアップライトの右構え。

普通は上半身をやや丸めるように構えるものなのだが、中には久野のように背筋をしっかり伸ばしたアップライトスタイルの者もいる。
両者はリズミカルなフットワークで、ただしなかなか手を出さない。
その様は、どこか陣地争いをしている風にも見て取れた。

「シュッ!」

そんな緊迫した雰囲気のリング上、先に動きを見せたのは美智子。
“右拳”から繰り出される回転の加わった、美智子の得意技……『スクリュージャブ』が、唸りを上げて久野の頬を穿つ。

バンッ! とヘッドギア越しに突き刺さる美智子のパンチ。
元々右利きの彼女はコンバート(転換)によってわざと左構えを取っている。
つまり、このスクリュージャブはもはやただのジャブなどではなく、“利き腕から放たれる必倒のジャブ”なのだ。
先の女子プロボクサーも、このパンチで散々なまでに嬲られた挙げ句にKOされたのである。
幾らヘッドギア越しといえど、こんなパンチが直撃すれば無傷では済まない。

(ふん、こんな程度もかわせないなんて。口だけのチョロい相手……って、え?)

威力重視の為、普通に放つよりはスピードの劣るスクリュージャブ。
それをすら防御出来ず、木偶の如く喰らった久野に対し美智子は相手ではないと即断。
つまりは舐めた訳だが、それが大間違いだと分からされたのは、続いて2発目のジャブが当たった直後だった。



ビュンッ!



右拳に手応えの伝わり切るより速く、空を裂く音と共に美智子は自分が殴られたのを理解。
何か硬い石のようなものをぶつけられた感触に、眉をしかめながら首が仰け反らされた。

「くぅッ」

体勢を崩したのも束の間、美智子は素早くリカバーし眼前の久野を見やる。
そこには、スクリュージャブを立て続けにクリーンヒットさせられたにも関わらず、突き出した左拳を引き悠然と構える『鬼東』の姿があった。
鼻孔から僅かに見える出血にも、まるで意に介しない。
高揚するでもなく、久野はただ静かに美智子だけを見ていた。

「くッ」

久野の放つ静かなプレッシャーに抗うように、美智子はさらにスクリュージャブを連打。
それらは久野のガードによって固く遮られていく。

(そんなガード、いつまで保つかしら?)

間断なく打ち付けられる美智子のジャブに、久野の顔が曇る。
利き腕、かつ捻りの加えられた美智子のジャブは、もはやジャブ足り得ない威力。
しかも、久野から見て充分な速射力をも備えている。
反撃の糸口が見えなかった。

1発2発ぐらいなら、踏ん張って殴り返す事も可能だろう。
その自信もある。
しかし、こうも連打されては反撃してもカウンターで貰い続ける結果になりかねない。
実際、美智子の相手をしたプロボクサーはそれでダメージを蓄積させていった末、まさかのKOとなったのだ。

(くッ、このままではまずいわ。なんとか懐を取らなければ)

普通なら、ここで一旦距離を取り体勢を立て直すのが定石。
しかし、『鬼東』にとって後退の選択肢はないようだった。

無慈悲なまでに打ち込まれるジャブの雨に、久野は歯を食いしばりながらも前進。
頬や鼻に何発かまともに貰うものの、強靭な精神力で抑え込む。
そうした苦難の果て、美智子が下がるより先に久野は懐へと辿り着く。

「ふんッ」

射程距離へ達した久野は、口から僅かばかりの空気を吐き出しつつその右拳を振るう。

狙うは、美智子の腹!

唸りを上げ打ち出された右ストレートが、美智子のボディーへと迫る。

「チッ!」

予想外に速い久野のストレートに、思わず舌打ちを入れ美智子は両肘を差し込み防壁を作った。



ゴゥッ!


美智子の肘と久野の拳に、それぞれ衝撃が走る。

「ぐッ」

肘へ伝わる鈍い衝撃に、美智子は忌々しそうに眉をしかめ距離を離す。

(な、なに、今の? ハンマーか何かで殴られたのかと思った)

未だ痺れの取れない肘をチラッと見やり、美智子は戦慄した。
今までに受けてきたどのパンチよりも“硬い”。こんな硬いパンチは初体験だった。
威力だけで言えば、城之内 アンナも負けてはいないだろう。
しかし、眼前の相手の拳はとてもボクサーのものとは思えない。
グローブで覆われていなければ肘がイカレていたのではないか? と錯覚する程だ。

この相手に守勢に回ったら負ける!

美智子は、そう直感した。



 その後は、お互い一進一退の攻防を繰り広げていった。美智子のスクリュージャブは、腕への負担が大きく終始打ち続ける、という訳にはいかない。
かといって、普通のパンチでは久野は止まらず、何度もインファイトへと持ち込まれていった。

一方の久野も、回避をメインに立ち回る美智子のディフェンスを崩せずにいた。
彼氏・桃生 誠に仕込まれたフェイントや駆け引きも、アメリカ帰りのエリートにはまるで役に立たない。
結局、双方決定打のないまま時だけが進み……



カァァァァンッ!



2Rに渡る実技テストは終わりを告げた。



「「はぁ、はぁ、はぁ……」」

 二つの吐息が間近で重なる。 久野、美智子、共に抱き合う形で実技テストを終え、ヘッドギアの奥から覗く顔には珠の汗がいくつも滴り落ちていく。

「はぁ、ふぅ……さすがにやるじゃない、センパイ」

「はぁ、はぁ、貴女こそ……アメリカ仕込みってヤツ、なのかしら?」

お互い預けていた身体を離し、健闘を称え合う。集中力が途切れ、途端に襲ってきた気怠い疲労感を心地良いものに感じながら、どちらともなく突き出したグローブを軽く合わせ、両者はリングを降りた。



ジムの付き添いらしき男性にヘッドギアを解かれ、露わとなった2人の表情は明るいもので、時折笑みさえ浮かべている。
オフェンス・ディフェンス各テクニック、スタミナ、ハートなど、およそ採点基準となる部分は総じて高水準。
元・日本2位のプロボクサー、植木から見ても文句なしの合格だろう。
寧ろ、これを正式な試合として観てみたいとすら思った程に、彼女らの闘いぶりは清々しく、そしてプロフェッショナルだった。

「さすがにハイレベルだったわね。いいなぁホント」

2人の攻防を食い入るように見ていたナミが、嘆息混じりに呟く。早く自分もプロテストに挑みたいと、言外に匂わせながら。

「そう焦るなって。あとたった2ヶ月待ったら、お前にも順番が回ってくるんだから」

羨望の視線で続く実技テストを眺める一番弟子の態度に、内心苦笑しながらその頭に手を乗せる。

「キーッ! だから頭触んないでってばぁ!!」

反射的に手を振り払うナミを見つめ、今度は声を挙げて笑う植木であった。



 一方、別の場所で久野と美智子の闘いを観ていたアンナたちは、暫し会話のないままナミらを見つけ合流した。
そこで思い思いに感想を話し合っていた所へ、アンナが突然叫んだ。

「わ、私もプロボクサーになる! プロになって、白鷺さんや東先輩と試合したい!!」

一瞬静まり返り、皆が金髪碧眼の少女へ視線を集める。そして、全員がアンナならそう言うだろうと納得した。

「あんたは確かにプロ向きだとは思うけど。でも、ジムには入ったの?」

順子が訊ねる。確か、以前部員たちでボクシングジム巡りをした際、結局決めずじまいだったと思い出したからだ。

「ん~ん、まだ」

順子の問いに、ポニーテールをフワフワ揺らしながら首を横に振るアンナ。
プロボクサーになるのに不可欠なジムへの所属もまだなのに、このお気楽さはアンナたる所以か。
ジム選びと聞き、ここでキラリと目を光らせる者が1人。

「あの、ちょっといい? 耳寄りな話があるんだけど……」

眼鏡をクイと上げ、三つ編みのおさげを靡かせながら進み出てくる少女……獅堂 きららが、ズイと1歩前に出る。

「実はこの度、ボクのパパがジムを再開する事になって、今ちょうど練習生募集中なんだ。城之内さん、よかったらウチに来ない?」

きららの父、獅堂 孝次郎はかつて無敗のまま世界チャンピオンとなり引退した、世界的に有名なボクサーであった。
引退後にジム経営へと乗り出したのだが、彼の教える練習方法はあまりにも逸脱しており、およそ一般人の理解出来るものではなかった。
選手としては無類の天才だったが、トレーナーとしてはその天才が仇となってしまったようで、彼の指導について来られる選手のいないまま、遂に閉鎖となったのである。

彼の指導法について来られたのが、1人娘のきららだけであったのは皮肉という他ない。

閉鎖に伴い多額の負債を抱え込んでしまった孝次郎だが、ボクシングを忘れる事が出来なかったのだろう。
東奔西走の挙げ句、救いの手を差し伸べてくれる者が現れた。

『格闘令嬢』の異名で知られる新堂 早弥香の所属する、新堂スポーツクラブである。

早弥香が財閥の後ろ盾を使って設立した新堂スポーツクラブ、そのオーナーが孝次郎の大ファンだったのだ。

そうこうして、新堂スポーツクラブの傘下という形で、獅堂ボクシングジムが再開される運びとなったのであった。

「え、えっと……ごめんなさい、せっかくのお誘いなんだけど、実はもう決めてるの。入るとこ」

きららの好意に手のひらを合わせて謝罪する、金髪碧眼のイタリアンハーフ。
「そっか、残念」と、さして残念がる風でもない様子で小さく溜息をつくきらら。
あまりにもいきなりの申し出だったので、上手くいくとも思っていなかったようだ。



 やがて全ての実技テストが終わり、観戦者たちはそれぞれ引き揚げていく。ナミたち一行もそれに倣い、帰宅の途へと着いた。
結局、久野と美智子の一戦が最もハイレベルで、以降は今ひとつパッとしないものに終始したように思う。
あの2人と比べられた、他のテスト生が酷というべきなのかも知れない。
いずれにせよ、ナミは自分の番が迫ってきているのをひしひしと感じていた。

あと2ヶ月。たった2ヶ月で、自分もあのリングに立つのだ。
一度深呼吸をし、眼下のリングを一瞥すると、ナミは踵を返し後楽園ホールを後にするのだった。





to be continued……
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コメント

No title

テストが殆ど試合みたいになっているわね!w
真の決着はプロになってからだわネ。
そしてプロになると宣言したアンナちゃん!
まだジム入ってない所が何というか、抜けててかわいいワwww


女子ボクシングの世界選手権ってリアルにもあったのネ。
まぁ開催時期なんて現実に照らし合わせる必要性はないと思うわヨー。

あの2人がグローブを交えるのに、無難なテストで終わる訳がないというのはある意味仕方なしですよね。その辺を敏感に察知したのか、アンナもバトルジャンキーな表情になってましたしw
そして闘ってる時以外はやはりどこか抜けてるアンナ。これからも何かと苦労しそうです。
Secre

プロフィール

チャパロット

Author:チャパロット
基本的に携帯サイトで書かせて頂いているもののリメイク(?)ですが、ちょくちょく文を変更してたりします(あと拙いですが自作絵なども)。
何かある方は、ckcwb305あっとまーくsutv.zaq.ne.jpにご連絡下さい。

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