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第29話 『とある日のプロテストの光景(前)』

 プロボクシング編、第29話です。



<拍手返信>
・ぴーこ様:トレーニング環境が向上したとはいえ、柊の成長が凄まじかったの一言で終始したのではないかと思いますね。
プロになったとしても、充分に世界のトップは狙える素質は秘めてそうですw





オリンピックの強化合宿を経て格段のレベルアップを果たした柊。そんな彼女にスパーリングを挑んだ順子とナミは、為す術なくあっさりと返り討ちに。
オリンピック強化選手の重みを改めて思い知らされる結果となるのであった。












 順子とナミの2人を相手に、瞬殺・完封という柊の著しい成長ぶりを見せつけた形で、スパーリング戦は終了した。
オリンピックの重みを感じた者、単純に感動した者、再戦の意欲に湧く者など、この場にある思いは様々。
そんな中、久野が植木の下へ向かいある決定事項を伝えた。

「植木先生、ご無沙汰してます。みんな、ちょっと聞いてもらえる? 私、来月プロテストを受ける事になったの。もしよかったら観に来てちょうだい」

いきなりの久野の告白に、一同しばしの沈黙。次いで、沸き上がるような歓喜の声がたちどころに上がった。

「来月って、ホールでのテスト?」

自分たちの知る者が受けるとあって、ほのかにプロを実感する部員たちの歓喜の声の中、別な声がすぐ近くで発せられる。
その質問の意味を瞬時に理解した数人が、一斉に声の上がった方へ視線を投げかけた。

その先には、黒い右眼と碧い左眼の少女が1人。
洛西高校の白鷺 美智子だった。

久野が、今回のスパーリング戦で面識を持ったばかりの美智子を見据える。

「ええ、そうよ。10/14の日曜、ホールで行われるテストを受けるの」

美智子を見据えたまま回答する久野に、ただならぬ空気を悟ったのか部室内が自然と静まり返っていく。

「ふぅん、そっか……奇遇、私もそうなのよね」

口元に微かな笑みを浮かべ、美智子も久野から視線を外さない。

「あら、そうなの? 確かライト級だったわよね、貴女。もしかしたら実技で当たるかも知れないわね、私たち」

美智子と似たように口元を歪め、サラリと怖い事を言ってのける。いや、もしかしたらそうありたいという願望を口にしたのかも知れない。
この人ならそう思っていても全然おかしくない、と心は胸の内で呟いた。

「そうね、“もしかしたら”やり合う事になるかもね、センパイ」

センパイの部分を強調するように言い、久野の鋭い視線を堂々と受け止める美智子。そして、暫しの間見つめ合うのであった。

 

 衝撃的な柊とナミ、順子のスパーリング戦から日は流れ、日付は10/14。久野と美智子のプロテスト当日である。

「ここに来るのもずいぶん久しぶりな気がするわ。U-15の時以来かな」

ナミとサラ、順子と秋奈、そして植木は隣県・東京に立つ日本ボクシングのメッカ、後楽園ホールへとやって来ていた。
全員が大人数で押し掛けると他の見学者に迷惑になるとの植木の提案により、希望者は各自で現地に向かうよう指示。
ナミとサラと植木は、そんな途上で偶然順子や秋奈と合流したのである。

「実は初めてなのよね、後楽園ホールって」

自分が受ける訳でもないのに、緊張した風の順子。かなりマシになったとはいえ、彼女のアガリ症は相変わらずのようだ。

「なら、今のうちに慣れておいた方がいいな。桜もプロになるんだろ?」

プロになったら間違いなくここに上がる事になるぞ、と変なプレッシャーを掛ける植木に、順子はあたふたと慌てふためていた。
そんなこんなで入口に到着し、植木を先頭に4人はズンズン中へと入っていく。
お目当ての場所へと向かうと、一同は手早く席を確保した。

「なんか……思ったより人が少ないなぁ」

辺りをキョロキョロ見回しながら、サラは拍子抜けでもしたように言う。
まだ開始時間になっていないのもあるが、確かに方々で数人が固まる以外はがらんとしたもの。
それも、大半がジムメイトやそれに類する者たちが大半といった所か。

「まぁ、実技テストまで結構時間あるし……そのぐらいになったら増えるわよ」

まばらな観客席の一角を眺めながら、見学者の少なさを気にした風もなく返すナミ。
一言にプロテストと言っても、実技テストの前には適正階級の測定や簡単なペーパーテストなどもある。
実技テストの段になれば、嫌でも見学者の数は増えるだろう。



 しばらく会場内を見回していた植木が、誰かを見つけたらしくしきりに手を振り始めた。
植木に呼ばれた一団は急ぐでもなく向かってきて……その中の1人を見た瞬間、ナミは心底嫌そうな表情を見せた。

「どうも。先生たちも見学ですか?」

殆ど手入れのされていない短髪に三白眼、上下黒ジャージ姿の少年……我聞 鉄平は、他に2人を伴って植木らの前へと現れた。

「……うっとうしいのが来たわ」

不機嫌面を臆面なく晒し、ナミは腕を組んでそっぽを向く。中学からの腐れ縁で同じ山之井ジムのジムメイトだが、ナミにとって鉄平は天敵のようなものだった。

「やあ下司。相変わらず、我聞が近づくと途端に不機嫌になるんだな。ホント見てて愉快だよ」

鉄平の隣でニヤニヤしながらイヤミっぽく話し掛けてくる男。割とセンスの良い着こなしに若干パーマを当てた髪、そしてこの人を小馬鹿にしたようなニヤけ顔。
この男も、ナミたちは良く知っていた。

柳澤 翼(やなぎさわ よく)

鉄平と同じ、光陵男子ボクシング部員である。女子ボクシング部設立を賭けて行った男女対抗戦、その時のライト・フライ級代表。
ちなみに、初めてリングに上がった高頭 柊に1発のクリーンヒットも浴びせられず、判定負けを喫したU-15全国出場者でもある。

「よう、下司。悪いな、俺たちも同席していいか?」

さらにその隣、ぶっきらぼうながらも社交性を感じさせる口調で同席を求める男。
彼も、ナミたちは面識のある者だった。

光陵高校二年、間島 竜一(まじま りゅういち)

鉄平に負けず劣らずの細く鋭い目つき、無理やり櫛を通したと思われる癖毛、そして他を圧倒する壁の如き長身が、本人の望む望まざるに関わらず圧迫感を与えてくる。
特に所属クラブはないが、これで運動神経抜群、学力も全国トップクラス、しかも気さくで社交性にも富んでいるのだから、世の中は分からない。
これに越花の彼氏である前野 裕也を含め、何かと4人でつるむ事が多い為、密かに『光陵四天王』などと呼ばれているらしかった。
いずれにせよ、ナミには興味の沸かない話題である。



 ジムワークやバイトの話題を順子に提供させ、暫しの間それらを肴に談笑していると、良く似た顔の2人ともう3人ほどの集団がナミたちに接触してきた。

「やっほー、ナミちゃーん」

おっとりした間延び口調で呼び掛けてくるのは、未だあちこち成長中の葉月 越花。
その隣には『ミニチュア越花』こと葉月 雪菜。
さらに越花の彼氏たる前野 裕也、そして雪菜と親友仲となった獅堂 きらら、きららと同じボクシング部の志紀 龍子。

計5名である。

充分に知る者たちだけに、挨拶もそこそこで近くの席へ腰掛けていく。

「あれ、高頭さんは一緒じゃないの?」

ふとこの場に姿を表していない1人の事が気になったのか、きららが小首を傾げた。

「ああ、高頭な。あいつ、今日本にいないんだ」

前の席からきららの方を振り向き、植木は言う。

柊は今日本にいない

と。この発言は、きららと龍子を驚愕させた。

「え、いないって……オリンピックって来年ですよね!?」

驚いたが意味の理解出来ないきららは、ひとつに纏めた三つ編みを揺らし席から身を乗り出す。

「高頭さんは今、中国の重慶にいるわ。最終的な代表を勝ち取る為にね」

慌てた風のきららの後ろ、杉山 都亀と中森 陽子、桃生 詩織らを伴い現れた大内山 由起が、さり気なく柊の居場所を伝えてきた。

「お? 随分と遅かったんだな」

軽く会釈する由起たちに、植木は待ってたとばかり手を上げる。
これで、城之内 アンナと知念 心、室町 晶を除く全ての光陵女子ボクシング部員が、ここ後楽園ホールに集結。
アンナたちが来ていない事に関しては、皆共通の見解を示していた。

遅刻の常習犯が2人もいるのだ、単に遅れているだけだろう

という見解である。

「こんにちは、植木先生。みんなも。で、話の続きなのだけれど……」

そこで一旦会話を切り、由起はハンドバッグから1冊の手帳を取り出した。

「来年、つまり2012年のロンドンオリンピックから女子ボクシングが正式種目に認められたのは知ってるわね? それに先んじて、予選大会も兼ねて行われるのが世界女子ボクシング選手権大会。開催地は中国の重慶……つまり、今高頭さんはオリンピックの予選に臨む為に日本を離れてるって事」

手帳に視線を落としながら、由起は柊が国内にいない理由を説明。方々から感嘆の声が上がる中、あちこちに人だかりが現れ始めた。
どうやら、実技テストの時間が近付いてきたらしい。

「それはそうと来ないわね、アンナたち。もしかして道に迷ってるんじゃないでしょうね?」

花道からプロテスト受験者たちがゾロゾロ姿を見せるのを見下ろし、ナミは頬杖を付き1人ごちた。



「はぁ、はぁ、ようやく……着いた」


 ナミたちが集合してから約1時間後。アンナと心、晶の3人はようやく後楽園ホールの入口へとやってきた。
全力で走ってきたのか、額に汗が浮かぶのが見て取れる。

「はぁ…はぁ…急ぎましょ、アンナお姉さま。もう試合始まってるかも!」

同じく息を切らせ、晶がアンナに入場を急かす。

「はぁ…はぁ…元はといえば、あんたが集合時間に寝過ごして遅刻したからでしょうが」

こちらも額に汗した心が、半ば呆れた風で晶にツッコむ。あと試合じゃなくてプロテスト、と続けるも「うるさい黙れ」と一蹴し、晶はアンナの背中を押し入場を促した。





アンナたちが遅れて会場内に到着した頃、実技テストは半分以上を終えていた。
元々の受験者数が男子と比べて少ないのもあるが、C級受験者はスパーリング2分2R……B級でもそこにシャドーボクシング1Rが加わるのみで、1人に割かれる時間はごく短い。
故に、実技の進行は目まぐるしいものであった。



 今回、光陵の面子が注目する選手は2名。光陵高校OG、東 久野と洛西高校二年、前年度IH覇者の帰国子女、白鷺 美智子。
共にライト級でのエントリーである。同時に、ただ2人のライト級受験者でもあった。

ちなみに、プロボクサーにはA級、B級、C級と3つのライセンス分けがある。またライセンスに応じて試合のラウンド数が変わり、下は4回戦から始まり6、8、10、12回戦とそれぞれ変わっていく。

久野の受けるC級とは、一般の練習生が受けるテストの事で、受かればまず最下層の4回戦からのスタート。
一方の美智子が受けるB級とは、アマチュアで成績を残した者などがジムの推薦の下、受かれば1つ上の6回戦からのスタートとなるのだ。
美智子はアメリカでも最優秀選手に選ばれたり、一年生ながらにI・Hを制する等の実績を上げているのだから、当然といえよう。
久野の場合、実力はともかく公式戦の経験がない為に仕方無し、といった所か。

「あ~、もう始まってるみたい」

アンナたちがリングを見下ろす観客席へと辿り着いた頃、実技テストも真っ最中。そこで、目を疑う光景に遭遇する事となる。

即ち、『50』と記されたゼッケンを付けた受験者が、最下段のロープから上半身を飛び出させてうつ伏せに倒れた対戦者を、仁王立ちで見下す場面であった。
所々で驚愕とも戦慄とも取れるざわめきの声が上がる。
それも当然だろう。何せ、派手なダウン姿を衆目に晒しているのは現役の女子プロボクサーなのだから。

慌ただしくロープに掛かった上半身を引きずり出され、容態を確認される相手を一瞥。
ゼッケン50番の女性は青コーナーへ戻り、ヘッドギアを解き始めた。

「あっ……」

無骨なヘッドギアから解放されたその素顔を見たアンナは、思わず声を上げる。
それは、紛れもなく白鷺 美智子その人だった。
黒い右眼と碧い左眼のオッドアイを見間違える訳がない。

「もしかして……終わっちゃった? 白鷺さんの番」

ぐったりと起き上がる様子の見られない女子プロボクサーと、涼しくもどこか苛ついた表情の美智子を見比べ、アンナは背筋に嫌な汗が流れるのを感じた。

絶対応援に行くからね! と女の約束をしていたからだ。多分、美智子はアンナが会場内に見当たらないので約束を破られたと思ったのだろう。
それで、目の前の相手を八つ当たりの捌け口としたのかも知れない。
やがて、リング上の美智子がようやくアンナに気付いたらしく、とても鋭い視線を突き刺す。
何となく殺気が混じっているような気がして、アンナはただひたすらに頭を下げるばかりであった。



 美智子が八つ当たり気味にスパーリング相手をKOしてしまった余波は、意外な方向で影響を与えてしまっていた。
役員たちがひと塊となって集まり、何事か話し合い始めたのである。

「なにかトラブルでもあったのかしら」

「技術や体力を見る為のテストなのに、あんまりあっさり終わらせたから物言いでもついたのかも」

ただならぬ役員たちの雰囲気に、ナミやきららが憶測を飛ばす。そんな中、一石を投じたのは植木だった。

「白鷺がKOしちまった相手が、そのまま東の相手も兼ねるつもりだったんじゃねえかな?」

これには一同ハッとリングへ視線を向けた。『51』のゼッケンを付け万全の準備を整えたロングヘアーの女性……即ちもう1人のライト級受験者である久野は、リング下でただ待つばかり。
ライト級が2名しかいない以上、植木の意見こそ妥当のように思える。

このままでは久野の実技テストはどうなるのか?

それに対し、役員たちは緊急で話し合っているのだろう。しかし、どうにも打開策が見当たらないらしく何人かが小首を傾げているのが見えた。
そんな折、まだスパーリング時の格好のままだった美智子から、意外な提案がもたらされた。

「なんだったら、私が相手しようか?」





to be continued……
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コメント

No title

白鷺さん、かっこいいwww
そして、白鷺さん対鬼東先輩!w
個人的にかなり夢の対決w次回が楽しみだわ!


寝過ごして遅刻してトラブルの遠因になっている遅刻魔晶ちゃんはトラブルメーカーかわいい。

アンナが観に来てないってのでテスト相手をフルボッコにした美智子、やっぱりまだ子供のようです。
そして衝撃の一言を放った美智子に対して、久野はどう出るのでしょうか。

いまやすっかりトラブルメーカーとなった晶ですが、心としてはいい迷惑だったかも知れませんねw
Secre

プロフィール

チャパロット

Author:チャパロット
基本的に携帯サイトで書かせて頂いているもののリメイク(?)ですが、ちょくちょく文を変更してたりします(あと拙いですが自作絵なども)。
何かある方は、ckcwb305あっとまーくsutv.zaq.ne.jpにご連絡下さい。

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