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第27話 『部内スパーリング戦(1) 順子の場合』

 プロボクシング編、第27話です。


<拍手返信>
・匿名様:リアルではなかなか見られないからこそ、創作だと足を止めての打ち合いが多くなるのかも知れません。やはり挿絵はなにかと時間が掛かってしまったので、毎回は難しいと改めて思い知らされました。

・ヨシコ様:ボクシングは基本的に残酷なものです。でも、だからこそそれに一生懸命な女の子たちは勝っても負けても美しくあって欲しいと思う次第です。

・ぴーこ様:玻璃子も充分に実力者なので、さしもの早弥香も存外の苦戦となってしまいました。しかし、強敵を打ち破ってのこのプロ初勝利は早弥香にとって大きな経験値となる事でしょう。





高校六冠の強敵、明智 奈々子を破りI・H王者となったナミ。それぞれ結果を残し帰還してきた光陵部員の面々を迎えたのは、オリンピック強化合宿から戻ってきた柊。
その実力を確かめたいと立候補した順子とナミ、そして柊とのスパーリング戦が始まるのであった。









 高頭 柊は、もうすっかり慣れた光陵女子ボクシング部室の中心に鎮座するリングの上で、もう1度周囲を見回す。
そして、やはり夢でも幻でもないと確認するや、大きな溜息と共に独りごちた。

なんでこんな事になってんだ

と……

時は9月最初の日曜日。この日程は、今や唯一の最上級生となった由起からの提案によるものである。
敢えてこの日は部活練習を中止として、スパーリングだけをするとの話で植木を説得したらしい。
この時、気を遣ってくれたのだと柊は密かに感謝したものだった。

甘かった。

当日、約束の時間に近付くにつれ部員たちも集まってくる。そして、何故かそれ以外の部外者の顔までちらほらと見え始めたのだ。

獅堂 きららが、雪菜の隣に座りやいやいと声援を上げている。
曹 麗美や弥栄 千恵子、他にも馬剃 佐羽や白鷺 美智子などの顔も目に付く。
そして、“鬼東”こと東 久野までがこの場に集まっていた。

端から見れば、実に錚々たる面子といえよう。だが、柊は仏頂面だった。そしてその顔のまま、由起の方へ視線を移していく。
それに気付いた由起、ニコッと微笑み「なあに?」と無言で返してきた。

間違いなく彼女の手回しだ……

そう、柊は直感した。証拠はない。だが、この手回しの良さは由起以外には考えられない。

(くっそぉ。やってくれたぜ、大内山先輩)

思わず舌打ちしてしまう柊であった。



「さて。オリンピックの強化選手ってのがどれくらいやるのか、今から楽しみね」

 黒い右目、碧い左目と左右非対称の虹彩異色症(オッドアイ)を光らせ、少女は隣に座るイタリアンハーフへと話し掛けた。
部室内には、明らかに観戦用と思わしきパイプ椅子の列が一角に配され、部員たちはそれぞれ好きに陣取って今回のスパーリング戦を堪能する運びとなっている。
その最後尾、やれ金髪だのそれに近い茶髪だのといった、派手な髪色を目立たせ白鷺 美智子と城之内 アンナは隣り合って座っていた。

「う、うん。そうだね……柊ちゃん、どのぐらい強くなったんだろう」

美智子の勢いに気圧され気味のアンナは、とりあえず曖昧に返す。その右手はまだギプスが着けられ、その上から包帯ぐるぐる巻きにされていて、痛々しさが伝わってきた。

「そうね。高頭さんの才能はとんでもないもの、きっと下司さん相手でも面白くなると思うわ……順子ははっきり言って役不足だけど」

更にアンナの隣、美智子と挟む形で陣取る久野が、強気な笑みを浮かべ口を差し挟む。
ちなみに、久野と順子は相田ボクシングジムの同門となる。順子に対しやや辛口なのは、普段の練習を横目から見ているからこそであろうか。

「あ、あの。それを言うなら“役者不足”だと思います、東さん」

両腕を組みリングへ視線を合わせる久野の後ろで、桃生 詩織が消え入りそうな声でツッコむ。
兄、桃生 誠と久野がつき合っている事に、不思議と複雑な心境を抱き続ける彼女は自然と消極的になってしまうのだ。

「あら、そうだったかしら? ごめんなさい、詩織さん」

間違いを正され、気まずそうに頬をポリポリ掻く『鬼東』。彼女は彼女で、彼氏の妹とどう接すればいいのか、悪戦苦闘中であるらしい。



 パイプ椅子の一角が騒がしくしていた頃、青コーナーで待機している柊と赤コーナーに対陣する順子とが、すっかり恒例となったレフェリーの植木によって呼びつけられた。
諸注意が終われば、いよいよスパーリング戦の開始となる。リング中央で、柊と順子が視線を絡ませ合う。
ただ、リラックスした雰囲気の柊とは対照に、順子はガチガチの表情。
勝手知ったる仲間の筈が、『オリンピック強化選手』という肩書きが付いた途端、まるで初めて会った相手かのような圧迫感を感じてしまう。

いつものアガリ症が顔を覗かせたようだ。

「なに緊張してんだよ。どうせ2Rしかさせてくれねーんだから、リラックスしようぜ」

順子のあまりの緊張面に、思わず柊が落ち着くよう促す。

「べっ別にぃ! き、緊張なんか、し、し、してないわよ!!」

対戦相手たる柊に促され、つい顔を真っ赤にして反論する順子。完全に図星を突かれた状態だった。
今回、順子とナミは2人で2Rずつ、最大4Rを行う。ちょうどオリンピックルール、2分4Rを想定しての配慮である。

「いまさら高頭のスタイルについて説明はいらないでしょ? というより、多分アタシたちの知ってる高頭とはもう違うものになってる可能性の方が高いから、正直アドバイスは出来ない」

赤コーナーで待機する順子の真正面に立つ心が、顔を覗き込んでくる。今回のスパーリングでの、2人のセコンドを志願したのだ。
選手としては極めて優秀な彼女。トレーナーとしても悪くない。

しかし、セコンドとしてはどうなのか? 

その辺を見る意味でも、心からの志願を植木は受諾した。
トレーナーとして歩んでいくと決めた以上、心としても少しでも数多く実戦をこなしたいと考えている。
考えてはいるのだが、今の柊がどれだけのパワーアップを果たしているのか……全く見当がつかない。

分かっている事は、自分たちの知る高頭 柊ではないという、ただそれだけ。

自ら志願しておきながら、実際には何の力にもなれない無力さを痛感するばかりだった。

「ふぅ……あのさ、別にあんただけが今のあいつを分からないって訳じゃないのよ? あたしだっておんなじなんだからさ、申し訳なさそうな顔するのやめたら?」

不意に順子が溜息をついたかと思えば、グローブを嵌めた右手で心の腕をパンパン叩いてきた。
知らず知らずのうちに暗い表情で俯いていたらしい。

誰もが今の柊の実力など分からない
だから恥じる必要もない

言外に込められた、これは順子なりの気遣いであった。もっとも、素直にそう言えない所が順子らしいのだが……

「そう……そっか。悪い、桜」

闘う前から選手に不安な思いをさせるなんてセコンド失格だな、と己の不明を詫びる心であった。



ビーーーーッ!



 備え付けの自動タイマーが大音量を響かせ、いよいよスパーリング戦が始まった。静かにリング中央まで歩み、グローブを合わせる2人。
右構え、ガードをがっちり固めやや前傾姿勢で構える順子の表情は未だ強張っている。が、ブザー前と違って迷いや緊張という類のものではない。
対して左構え、サウスポースタイルの柊は変わらずリラックスした風。
元々ポーカーフェイスな所もあり表情を読ませない彼女だが、今はそれさえもが圧迫感を与えてくる。
普段なら開始から構わず接近戦を試みる順子だが、柊の無言のプレッシャーがそれを許さない。
キュッキュッ、とマットを蹴るシューズ音だけがしばらく響く。

不意に風が舞ったのは、開始30秒を経った頃だった。
ヒュッと音が鳴ったかと思った瞬間、バンッ! という殴打音と共に順子の首が後ろへと仰け反る。

「ッ!?」

部室内に戦慄が走った。その動き……スピードが、遥か予想の上だったからだ。
リングの外から見ていてその認識。
恐らく、順子には柊の姿が急に掻き消えたようにしか映らなかった事だろう。
そして、驚くべきはパンチ力である。
元来、スピードを武器とする柊はパンチ力が高くない。
階級が下とはいえ、威力だけなら順子の方が上だろう。
柊が放ったのは右ジャブである。ただ、今までの彼女にはなかった力強さを持っていた。

より無駄のないスムーズな体重移動(シフトウェイト)による力の連動が、柊のパンチ力を高める要因となったのだが、その事実に何人が気付いただろうか。

「くぅッ」

威力が上がったといえど、さすがにジャブ1発で止まる順子ではない。
元キックボクシング部の順子は、タフネスと粘り強さに定評がある。
すぐに体勢を立て直し、果敢に左ジャブを刺し返す。
柊は上体を小さく柔らかく使って、繰り出されるジャブをかわしていく。
順子のタフネス以上に、柊のディフェンス能力は評価が高い。
もはや神がかり的な領域といえよう。

「くッ」

さすがに単調なジャブの連打だけでは、柊のディフェンスは簡単には崩せない。
分かっていた事だ。いまさら驚きはない。
やはり柊を崩すには最も得意なフィールド、接近戦での乱戦しかない。
順子はそう定めた。

道標が見えたなら、もう迷う事などしない。

愚直に一直線に、順子は柊目掛けて突っ込む。
さながら、拳銃から弾き出された弾丸の如く標的へ向かう順子を、柊は半身に構え迎え撃つ。
右腕を胸元辺りまで下げ、順子の繰り出す左右のフックの連打を軽やかにかわしていく。
フックの連打を最も得意とする順子のそれは、つまり最も洗練された最高のパンチである事を意味する。
シャープかつコンパクト、スピード感のあるフックの連打を前に、柊は顔色ひとつ変えず避け続けていた。

「はぁ、はぁ、はぁ……」

無呼吸で攻め続ける順子の息が荒くなり、段々と振る腕が重くなる。
きららや雪菜、他の対戦相手も同じような感覚を覚えたのだろうか?

コイツにパンチが当たる気がしない

拳を振るう都度、その感覚が強くなっていく。
何せ、信じられない事に柊はその場から殆ど足を動かしてはいないのだから……
リング内に目線を集めるほぼ全ての人間が、この状況がどれ程のものか理解していた。
その証拠に、「す、すご……」と越花がぼつり漏らした事からも見て取れる。

仮にもI・H県予選の決勝まで残り、判定負けこそしたものの僅差にまで迫った実力を持つ順子。
その彼女が最も得意とするパンチが、遅い訳などある筈がない。
だが、それをフットワークも殆ど使わず上体だけで捌き切っているのだ。
呆気に取られたといって良いだろう。そんな中……



ゴッ!



両腕を振り回していた順子とかわし続けていた柊との間で、突如大きく鈍い殴打音が鳴り響いた。

「なッ!?」

美智子がオッドアイを大きく見開き、思わずパイプ椅子から立ち上がる。
隣のアンナが驚いた表情で、いきなり立ち上がった美智子の方を向く。
美智子に何があったのか尋ねようと僅か目を剃らした、まさに次の瞬間。
ドォッ! と派手な音が聞こえた為再び視線をリングへ戻すと、たった今まで攻勢に出ていた筈の順子が柊の足下でうつ伏せに崩れ落ちていた。

「え…? え?」

碧い瞳が捉えた光景をまだ脳が理解していないのか、アンナはひたすら困惑。しかし、明確な答えはすぐさま植木の声によってもたらされる。

「ダウンッ!」

足下でうつ伏せになった順子と、それを無感情に見つめる柊との間に素早く割り込み、植木はノックダウンを宣告。ニュートラルコーナーへ下がるよう指示した。

柊が指示通りニュートラルコーナーへ下がったのを確認すると、植木はダウンした順子の方を振り向く。
倒れ方が倒れ方だけに、まずは表情を確かめるべく覗き込む。
数秒後、無言で首を振り小さく溜息をひとつ。

「完全にとんでる。これ以上は無理だ」

端的に呟くと、植木は部員の数名を呼び順子をベンチへと運ばせた。

「え、えーっと……終わり、ですか?」

文句なし柊の秒殺劇に呆然としたままの詩織が、誰に聞くでもなく呟く。
みたい、と誰からか返答の声が上がる。

「カウンター、だね。桜さんの右フックに左フックを合わせた……さしずめクロスフックってトコ?」

雪菜に隣り合って観ていたきららが、柊のした事を説明する。
とはいえ、実はきらら本人も半信半疑だった。
順子のフックの連打は緩急やフェイント、上下への打ち分けを巧みに織り交ぜ、見た目程に単調な代物ではなかった。
しかも、カウンターを合わせた柊の左の方が、打ち出しはずっと遅かったのだ。

まず、自分なら成立しないタイミング。
それを、柊はジャストタイミングで切って落とした。
怖気のする程の動体視力とハンドスピード、そしてボクシングセンスである。

(ボクも世間じゃ天才だなんだって言われてるけど、はっきり言って高頭さんは遥か上を行ってるよ)

腕に鳥肌が立っている事に気付くと、きららはグッと腕を掴む。そして、静かに闘志が沸き起こってくるのを自覚した。

(いいなぁ、高頭さん。もう1回ちゃんと闘いたいよ)



 やがて順子がベンチからむくりと上半身を起こし、キョロキョロと周りを見回し始めた。軽く混乱しているらしい。

「ずいぶん派手にすっ転んだわね」

試合着に身を包んだナミが、視線を彷徨わせる順子の下でしゃがみ込み、クスクス苦笑する。

「んー……もしかして、もう終わった?」

恐る恐る訊いてくる順子に、無言で頷くナミ。
脳を揺らさない配慮として、アゴ紐を解かれただけでヘッドギアを着けたままの順子は、「そっかぁ」とだけ言うともう1度ベンチに寝転ぶ。

「やっぱりメチャクチャ強いよ、あいつ……」

そして天井へ突き出した右拳を見やりながら、静かに独りごちた。





「ナミ坊、そろそろ始めるぞ」

しばらくして植木に促されると、ナミは視線を順子から外す。

「姉ちゃん、キツくない?」

グローブとヘッドギアを着けられ、具合を訊いてくるサラに「オッケー、大丈夫」と頷くナミ。
その表情は、僅かだが緊張したように映る。ヘッドギアの奥に隠れて、そう錯覚させているだけかも知れない。
だが、妹の目にはいつもの自信に満ちた姉の表情とはどうしても思えなかった。

「ねえ、姉ちゃん。高頭先輩に勝つ自信、ある?」

思わず訊ねていた。実の姉妹だからこそ、姉の機微を敏感に感じ取ったのだろう。

「どう、かな。やってみなきゃなんとも……ね」

自信がない、とは言えなかった。言えるわけないじゃない! と己を奮い立たせ、ナミは由起に広げられたリングロープを潜りオリンピック強化選手の前へと躍り出る。
確かにとんでもない成長を遂げて帰ってきたのは、順子との手合わせで充分過ぎる程に伝わってきた。
だが、ナミとて積み重ねてきたキャリアがある。比類無き天才を前に、ナミは新たに気合いを入れるのであった。





to be continued……
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コメント

No title

アンナちゃんと白鷺さんが富樫虎丸状態でワロタwww
柊ちゃんヤバいわねー、順子ちゃんのつんでれ台詞と良いかませっぷりに萌え。
柊ちゃんは一人だけ、もう部活動レベルじゃないものね……。
GURPSで言うとこの時CPが1.5倍くらいちがったんだったかしら???ww

分かりやすい驚き役に徹してもらってる所は確かにありますね>アンナ&美智子
やはり国と国の威信を賭ける(?)アマチュア最高峰のオリンピック代表候補ともなると、その練習密度は部活とはケタが違うと思う訳です。
あっさりKOされた順子ですが、相手が悪かったとしか言えないです。順子も決して弱くはない……ハズ(^^;
Secre

プロフィール

チャパロット

Author:チャパロット
基本的に携帯サイトで書かせて頂いているもののリメイク(?)ですが、ちょくちょく文を変更してたりします(あと拙いですが自作絵なども)。
何かある方は、ckcwb305あっとまーくsutv.zaq.ne.jpにご連絡下さい。

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