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光陵高校女子ボクシング部・別話 【格闘令嬢、リングを舞う(後編)】

 【格闘令嬢、リングを舞う】の後編をお届けします。


<拍手返信>
・匿名様:ありがとうございます。挿絵はとりあえずの試みでやってみました。基本的には文章で想像してもらいたいな、という勝手なポリシーと画力もたかが知れてるので、今回だけになると思います。




 肉を殴打する音と、次いで「ぶぅッ」という情けない呻き声がリング内を駆け巡る。注目を集める試合は第3Rまでを終了、続いて第4R。
アゴを跳ね上げられ、バランスを失いロープに背中を支えて貰う上下真紅のコスチュームのボクサー。

新堂 早弥香は、思わぬ苦戦の最中にあった。

早弥香が不調な訳ではない。玻璃子の調子が予想以上に良いのだ。
パンチのキレが鋭く、早弥香は何発も顔面や腹を殴られ所々にアザが浮かんでいる。
早弥香のパンチも当たってはいるものの、直撃には遠い。
大方の予想に反した展開のまま、早弥香は赤コーナーへ追い込まれ窮地に立たされていた。

「はぅッ、ぐぅぅ……」

退路を断たれ、前面から押し寄せるパンチの雨をひたすらガードで耐える早弥香。それも長くは持たず、巧みに上下へ揺さぶられ次第にパンチを貰ってしまう。
そして、脇腹を叩かれ僅かにガードの下がった一瞬を突かれ、玻璃子の右ショートフックが早弥香のアゴを打ち抜いた。

「かふッ」

唾液を散らし、視界がブラックアウトする。
膝が折れ、踏ん張りの効かなくなった下半身をそれでも無理やり動かし、玻璃子の腰元にしがみつく形でダウンを拒む。
玻璃子に振り離されまいと、早弥香は腕に力を込めた。
やがて「ブレイク!」とレフェリーが2人を分け、改めて再開を指示。

その後は、お互いパンチをぶつけ合い、早弥香劣勢のまま第4Rが終了した。



 スツールに座り、処置を受ける早弥香。その耳には、セコンドの言葉など一切入っては来なかった。

(さっき、一瞬だけど意識が飛んでた。あのパンチ力も侮れませんね。こんな時、裕希子先輩ならどんなアドバイスをくれたでしょうか)

自分の中のイメージを最大限に増大させ、早弥香はここにいない裕希子を思い描く。今目の前にいるのは、中年トレーナーなどではなく最も信頼する若き師。
その彼女からのアドバイスを直接肌で受けると、早弥香はセコンドアウトのブザーと同時にスツールから立ち上がった。



 第5R。残すは正味4分間のみ。このまま判定でいけば、かなり微妙な裁定になる。
いわば、この第5Rをモノに出来るか否かで形勢は大きく傾くと言えるだろう。

しかし、早弥香は判定など意識していなかった。
即ち、玻璃子へ向け全力特攻を仕掛けたのだ。

機先を制し、早弥香は左ジャブの連打で懐への突破口を開きにかかる。だが、玻璃子は巧みに牽制打を弾き、容易に懐を取らせない。
それどころか、続いて放った右ストレートに対し、パーリングで捌きつつ左ボディーフックをカウンターで返した。
拳から伝わる感触に内心ほくそ笑む玻璃子……の顔が、次の瞬間には激しく歪んだ。
カウンターで脇腹を打たれた早弥香は、だが歯を食いしばって耐え、顔面へ左ショートフックを打ちつけたのである。

「ぷぅッ」

パンチの衝撃で、身体に付着していた汗が舞い上がる。

「くそッ!」

玻璃子も負けてはいない。グラつく身体を踏み留まらせると、右ショートアッパーで早弥香のアゴをかち上げていく。
ゴツンッ! と鈍い音が鳴り、早弥香の口からマウスピースが宙へと捻り出された。
マウスピースと共に飛翔しかけた意識を、リングを思い切り踏みつける事で覚醒させる早弥香。
ダウン必至のアッパーに耐え、玻璃子の鳩尾に早弥香は右ストレートを叩き込む。

脚を止め、リング中央でひたすらパンチをぶつける乱打戦に、観客はヒートアップ。
その激しい応酬に、顔が腫れ痛々しいアザが浮かび上がっていった。
退いた方が一気に崩される……そんな予感を覚えつつ、会場内の全てが2人のプライドのぶつかり合いに注目した。

第5R開始早々から始まった、脚を止めての激しい殴り合い。30秒を過ぎた頃、それは不意に終わりを告げた。
果敢にパンチを返していた玻璃子の身体が、グラリと揺らいだかと思うとそのまま両膝を着き、正座のまま前のめりに崩れたのだ。

早弥香が打ち合いを制した瞬間だった。

レフェリーに指示され、ニュートラルコーナーへ下がると、ダウンしている玻璃子へカウントが数えられていく。
壮絶な乱打戦からのダウンだけに、客はこれで決着と見る流れが大半。しかし、予想に反して玻璃子はカウント8で立ち上がった。
脚はダメージで震えているものの、その瞳にはまだ闘志の炎がはっきり見て取れる。
その気迫と会場の雰囲気に、レフェリーは試合再開を告げた。

(戦意は刈れたと思いましたのに……まだ立つなんて、精神力の強い方なのですね。でも、身体は正直なはず!)

精神的にタフでも、散々殴り合った挙句のダウンだけにダメージは相当残っていると踏んだ早弥香。
拳を握り締め、手負いの獲物目掛けて一気に迫った。

ファンやセコンドからの声に後押しされ、KOチャンスとばかりダッシュした早弥香だったが、ダメージの深い玻璃子の左ジャブで迎撃されてしまう。
パァンッ! と乾いた殴打音と共に、早弥香の顔がブレ汗が飛び散る。
殴り勝ったとはいえ、早弥香も相当なダメージを負っているのだ。
ただのジャブ1発で身体の方が刻まれたダメージを思い出し、急速に動きが鈍る。

こうなれば精神の勝負だと歯を食いしばり、早弥香と玻璃子は再びプライドを賭けた打ち合いを始めた。
ステップを踏み、腕を振るう。
拳が顔や腹を叩く度、汗や血などといった体液が舞い身体がグラつく。
お互い、プライドとプロ初勝利を賭け、必死にパンチを繰り出していく。
予想を遥か上回る激闘に、観客のボルテージは最高潮に達した。

誰が言った訳でもないが、このRで勝負はつくだろう。勿論、KOで……

そう感じていた。それは他の誰でもない、リング上の早弥香にしても同意見であった。

最終6Rを闘い切るだけのスタミナは、今の彼女にはない。
それほどの壮絶な打ち合い、それほどの壮絶なプレッシャーに耐え続けてきたのだ。
両者とも、まだ相手をKOせしめるだけのパンチ力は残っている。
故に、この5Rでの決着を改めて覚悟した。



ゴッ!



 第5R、残り30秒。勝敗を司る天秤が大きく傾く一撃が炸裂した。リング中央よりやや青コーナー寄り、2人が同時に放った右フックが、相打ちで互いの頬を鋭く抉る。

「ぶぅッ」
「おごッ」

同時に呻き声が上がり、体勢を崩す。ここで、ダウンの影響が現れたのか玻璃子よりも先に早弥香が素早くリカバー。
左ショートアッパーでアゴを軽く跳ね上げた。
ダメージでグラつく身体を精神力で無理に押し付け、口の端から唾液の筋を垂らしつつも、玻璃子は必死の形相で相手の方へ顔を向ける。
しかし、そこに早弥香の姿はなかった。

「え?」

思わず口についた疑問の呟き。これが、この試合で玻璃子が覚えていた最後の光景だった。



ズギャアッ!



突如、赤い凶弾が玻璃子のアゴを刈り上げる。
それは、咄嗟にしゃがみ込んだ早弥香から放たれた、“下から打ち上げられた右ストレート”だった。

   早弥香vs玻璃子(2)

猛烈な勢いで玻璃子の口からマウスピースが飛び出し、遥かリングの外へと吸い込まれていく。
弓なりにしならされたその全身は、僅かばかりの浮遊の後、派手な音を立てキャンバスへ。

激闘の決着、その瞬間だった。

玻璃子は、その意識まで刈り取られていた。
焦点の合わない視線、全身をひくひく震わせる玻璃子のその姿に、レフェリーは即座にノックアウトを宣言。
それに呼応して乱打された試合終了のゴングと共に、会場内は大歓声が湧き上がった。

「か…勝った……」

リングに横たわる玻璃子を目の前に、早弥香は堪らずマウスピースを吹き出す。彼女も、限界寸前だったのだ。



 初勝利のインタビューもそこそこに、セコンドに肩を借りてリングを後にする格闘令嬢。
控え室に着くと、早弥香は処置もせず自分のバッグをひっ掴み携帯電話を取り出す。裕希子へ、何よりも早く戦勝の報告をしたかったのだ。
そう思い画面を開くと、1件の受信メール。裕希子からだ。そこには、こう書かれていた。


『早弥香、初勝利おめでと~』


ふと時刻を確認すると、受信は試合前。


「ふ…ふふ、うふふふッ……もう、先輩ったら。負けてたらどうするつもりだったんですか、このメール」


思わず笑みが、次いで涙がその頬を零れる。早弥香は携帯電話を胸に抱きしめ、とめどなく零れるそれを止めようとはしなかった。





~~fin~~
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コメント

No title

試合絵いいわね!!
かなりの迫力と臨場感素敵だわー!

裕希子さんメールwww
信頼しているんでしょうけど、負けてたらきついわねーwww

ところで、お嬢様と裕希子さんの薄い本はまだかしら??

ありがとうございます。そう言って頂けると、頑張って描いた甲斐があるというものです。
以前作中で植木が言ってましたが、裕希子は割とちゃらんぽらんな性格なので負けるとは露にも思ってなかったのでしょう(汗)

ちなみに薄い本など出ないですよw
Secre

プロフィール

チャパロット

Author:チャパロット
基本的に携帯サイトで書かせて頂いているもののリメイク(?)ですが、ちょくちょく文を変更してたりします(あと拙いですが自作絵なども)。
何かある方は、ckcwb305あっとまーくsutv.zaq.ne.jpにご連絡下さい。

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