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第26話 『結果を出して、そして現状を知って』

 皆様、新年明けましておめでとうございます。昨年に引き続き、頑張って物語を綴っていけるように頑張っていきたいと思います。

というわけで新年最初の更新、プロボクシング編の第26話をお送りします。



<拍手返信>
・ぴーこ様:心は一応みんなを見るトレーナーという形ですが、気持ちを託したのはアンナという事になります。
一方でサラも姉に強烈なお仕置きを受けてしまいました。しかし、それでもヘコたれないのが彼女の強みといいますか……
そして1人本筋から外れて急成長を遂げて(?)いる柊。彼女とのスパーもどうなるのか、楽しみにお待ち下さい。





都亀のトラウマ克服、心の現役選手引退、サラの挑戦など、目白押しだった夏合宿を終えた光陵女子ボクシング部。
それぞれの思いを胸に秘め、彼女たちは真夏の戦場へと臨む。









 明智 奈々子(あけち ななこ)は、昨年高校六冠を達成した、高校女子アマチュアを代表する有名人である。
そんな彼女は、この大会を最後にプロの道へと羽ばたく予定となっている。
順風満帆に見える彼女の航海だが、実はそうでもなかった。

年の始め、幼馴染みで恋人だった少年が世を去ったのだ。脇見運転をしていたトラックとの接触事故だった。

『なな、ここで挫けたら今までの努力が全部無駄になるんだぞ』

『どうした、俺の知ってるななはこんな程度で諦める弱虫じゃなかったはずだ!』

『なな、ファイト!』

最愛の彼を失った失意から、一時はボクシングすらどうでもいいという心境に陥っていた奈々子。
鬱屈した日々を過ごしていた彼女だったが、ふと彼の激励の数々が脳裏を過ぎる。

リングで輝く彼女をこそ、彼は応援していたのではなかったか?

内から囁きかけてくる彼の声にそう感じた時、気付けば再びグローブを取っていた。



明智 奈々子、18歳の春である。



 母校・桔梗学院女子ボクシング部はエースの復帰を歓迎した。丁度その頃、マスコミは奈々子の復活劇を美談として記事にしプロへの転身をまくし立てていく。
何せ彼女は高校六冠という偉業を成し遂げた、金の成る木なのだ。彼らにしてみれば、奈々子への宣伝費はいわば先行投資。
プロとして早いうちから世界に打って出てくれれば、若さと実力を兼ね備えた抜群の商品とするのも夢ではない。

しかし、周囲の期待と不安を跳ね退けるように奈々子はアマチュアの続行を選んだ。まずは心配をかけた部への恩返しと考えた結果である。
そして奈々子はその実力を遺憾なく発揮し、全く相手を寄せ付けず全国大会へ出場。
その後も続く快進撃にどこか翳りを残しつつも、奈々子は遂に決勝の日を迎えた。

(見てて。この試合も勝って必ず優勝してみせるから!)










グシャアッ!



 強烈なアッパーがアゴを跳ね上げ、意識をも刈り取っていく。それが、決着の瞬間だった。
パンチの勢いに抗し切れず、汗を撒き散らし口から飛翔していく唾液まみれのマウスピース。
両コーナーのセコンド陣が、この試合を見守る会場内の観客たちが、時間を測るタイムキーパーが、そして決定的瞬間を間近で見ていたレフェリーが、アゴを打たれキャンバスに沈んでいく少女の肢体をただただ眺める。

派手な音を立てバウンドした少女は、両腕を横に伸ばしたままの姿勢で動かない。
レフェリーはその姿を見て、即座に両手を頭上で交差した。



カンカンカンカンカンカーン!



I・H全国大会決勝、兵庫県代表・明智 奈々子対神奈川県代表・下司 ナミ。その終末を告げるゴングが乱打される中、エプロンコーナー下の大内山 由起はボソリ呟いた。

「……無駄に回想長過ぎるんですけど?」

何かにウンザリした様子を見せる由起の視線の先で、日本一となった自分の後輩が感無量の表情を覗かせ右腕を高々と突き上げていた。

県予選、全国大会と、ナミは驚異的ともいえる実力でI・Hを制した。
1年前と比べてその地力が格段に上がったのもあるが、今年の出場選手層に穴が多かった事も要因の1つといえよう。
まず、県予選では都和泉高校の中村 香澄が既に引退していたし、洛西高校の“狩人”こと樋口 静留も怪我で2回戦敗退してしまった。
こうなると県内に敵はおらず、大方の予想通りナミは全国大会へと駒を進めていく。

全国大会に於いても、選手層の穴は変わらなかった。
まず、去年の大会で偶然のバッティングから負傷敗北を余儀なくされた相手、沖縄県代表・後藤 心奏(ごとう かなで)は県予選であえなく敗退。

それ以外にも主だった有力選手は軒並み早い段階で姿を消している。

そして何よりも決定的だったのが、加藤 夕貴の不参加。
I・Hが始まる前に柊から聞かされたのだが、どうやら夕貴は柊と同じようにロンドンオリンピックの強化選手として招聘されていた、との事だった。
そうして迎えた決勝戦は、どこか精彩を欠く奈々子と激しい削り合いの末、ナミのアッパーが決め手となって勝利。
念願の1つ、I・H制覇を見事成し遂げたのであった。



 ここで、ナミ以外の部員たちの結果も述べておこう。まず、県予選を制し全国大会への切符を手にしたのはナミの他に2名。

ライト・フライ級の葉月 雪菜と、ライト級の城之内 アンナである。

低い階級から順を追って説明していこう。
最軽量、ピン級の桜 順子は県予選の決勝でポイント僅差による判定負けを喫し、惜しくも全国大会出場はならなかった。
次にライト・フライ級の雪菜だが、彼女はナミより先んじて日本一を果たす事に成功。
しかしその途中、県予選の2回戦で三笠女子の獅堂 きららと試合前にいざこざを起こしてしまった。
「高頭さんが相手じゃないのか……」ときららが偶然雪菜の前で漏らしたのが事の発端だったのだが、この発言に雪菜が激怒。
あわや取っ組み合いの喧嘩にまでなりかけた。

妙な因縁を孕んだ2人の対決は、きららのフリッカージャブに苦戦しながらも雪菜が強引に突進を繰り返し、手数で押し辛うじて判定勝ちを収める。
この試合後きららは自分の失言を謝罪し、雪菜も彼女の健闘を大いに称えわだかまりは解消された。

その後は順調に勝ち星を重ね続け、高校女子アマチュア日本一に輝いたのである。

次にバンタム級、杉山 都亀。公式戦に1度も勝った事のないコンプレックスから、退部騒動まで起こした彼女。
そんな都亀だったが、遂にこの県予選に於いて初勝利を掴む。
それも、格上と目されていた三年生相手に文句なしのポイントアウト……RSC勝ちである。
元々身体能力の高さは植木も太鼓判を押す程のものであったし、地道に基礎トレーニングも重ね続けてきた。
左アキレス腱のトラウマを払拭した今、その実力は格段に伸びたといえる。
そういう意味で、夏合宿で1番成長したのは間違いなく彼女だろう。

その後、3回戦で判定負けを喫した。

フェザー級、葉月 越花は何と初戦で脱落。それも、無名の一年生に接戦とはいえ及ばなかったのだ。
初めてボクシングをしたいと言い出した時、そののほほんとした性格も相まってとても長続きはしないだろうと思われていた越花。
ところが、周囲の思惑など知らない顔でメキメキ実力を伸ばし、下手な同学年レベルでは崩すのが困難なくらいになっている。
だが、無名の一年生にまさかの敗退。
そんな彼女が、のんびり屋な彼女が試合後、控え室で誰憚る事なく大泣きしたのが部員たちには印象的だった。

負けて泣けるのは、自分の積み重ねてきたものに真剣だった証拠。
越花も、もう良い勝負をして満足、という訳にはいかなくなったらしい。
ナミとしては、この傾向を喜ばしく思ったものだった。

そして、確信を得る。

越花は負けた。だが、この敗北を糧としてより強いボクサーになるだろう

と……

ちなみに越花を下した一年生の名は、神楽 千秋(かぐら ちあき)という。
実はこれがとんだ伏兵で、何と一年生ながらに全国大会ベスト4という快挙を成し遂げた。
そして、この一年生と越花は、図らずもまたグローブを交える事となるのだが、それはまた後日の話である。

最後にライト級のアンナ。専属トレーナーの形で知念 心と共にI・Hに臨んだ彼女は、開花された才能を存分に振るい並みいる強豪を次々と撃破。
県予選を制し、全国大会決勝へと勝ち上がっていく。

そこで待つは、埼玉県代表・東吾 邦子(とうご くにこ)。
どことなく他人を小馬鹿にしたような雰囲気を持つ小悪魔タイプの少女。
この娘こそ、心にとっての長年のしこりであった。

アンナならもしかしたらアイツに勝てるかも知れない

夏合宿の最終日に心が言った言葉。
その見立ては的中し、強烈かつハイスピードな左右のフックを主軸に攻めてくる邦子とソリッドパンチャーのアンナは終始打ち合いの激闘を繰り広げていく。

I・H開催中、恐らく最も血を見た試合であったろう。
お互い意地を張り合うかのように拳をぶつけ合う、猛烈な乱打戦。
どちらがいつ倒れてもおかしくない、そんな展開が2R、正味4分間に渡って続けられた。
だが、この白熱した好勝負は、意外な形で幕を閉じる。

3R開始早々、邦子のアゴを跳ね上げたアンナの左拳から鈍い嫌な音が響く。かなり派手に鳴ったらしく、レフェリーが一旦試合を止め左拳を掴む。
手首から血が滴り落ちていくのを見て、慌ててグローブを外し……絶句した。

拳に巻いたバンデージが真っ赤に染まっていたのである。
これ以上の試合続行は無理と判断され、アンナは涙を飲む結果となってしまったのであった。

試合後、バンデージを解かれたアンナの左手は皮膚がずる剥け、中指も骨折。
自身のパンチ力の高さに、拳が保たなかったのだ。
これにより邦子が優勝となったのだが、アンナ以上にフラフラなその姿はとても勝利者のものとは思えなかった、とは後に観戦していた観客たちが述懐した感想である。



 そんな訳で、2011年・夏のI・Hも終わった。光陵女子ボクシング部は全国大会優勝2名、準優勝1名という大きな土産を引っ提げ、神奈川県へと帰着。
一方、男子ボクシング部は個人戦で桃生 誠が全国大会優勝、我聞 鉄平が全国大会準優勝、また越花の彼氏である前野 裕也が全国大会ベスト8、更には団体戦優勝と、名門に恥じない結果を残している。

今や男女共に名門ボクシング部として、光陵高校は全国に名を馳せる事となった。

「よう、みんなおかえり。やったじゃんか!」

ナミたちI・H組が部室に帰ると、居残っていた部員たちに混じって練習していた高頭 柊が、軽く右手を上げ出迎えてくれた。

「ただいま。まぁ今年は選手の穴が大きかったからね……そういうアンタの方はどうだったのよ?」

雪崩れ込むように雪菜が越花と抱擁するのを一瞥しつつ、ナミが柊の上げた手を軽く打ち鳴らす。
話題を自分の方へ振られ、柊は端正な顔のまま小首を傾げてみせた。

「オレの方は……まぁぼちぼち、ってトコかな? 加藤のヤツは完全にスランプ入っちまったみてーだけど」

1年後に迫った、2012年のロンドンオリンピック。初めての開催となる女子ボクシング競技、その日本代表として世界選手権に出場する選手を選定する事を目的とした、今回の合同練習。
そこで、加藤 夕貴は簡単な総当たり戦で1勝も出来なかったらしい。
彼女の実力を目の当たりにしてきた部員たちは、この柊の言葉を俄には信じられなかった。

柊が言うには、身体の連動がバラバラでウリの強打にも全然威力が乗っていなかった、との事。

「そのクセ無駄に突っ込みまくった挙げ句、サンドバッグにされてストップってパターンが多かったな」

自分が見た限りを回顧するように、柊は皆に夕貴の状態を語ってみせた。

「加藤さんに限って、って思いたいけど……スランプかぁ」

夕貴を最大のライバルと定めているナミにとって、正直ショックな話ではある。今の所、ナミはまだ1度も夕貴には勝てていない。
そんな彼女が、スランプとはいえ他の強化選手に全く歯が立たなかった事実は、オリンピックへの道がいかに険しく、かつ熾烈な競争をしているのかを想像させた。

となると、そんな猛者たちと手合わせした後で、口だけでもぼちぼちと言ってのけた柊の天才性が際立ってくる。
夕貴と並び、まず間違いなく柊は最年少。加えてキャリアも最も短い筈。
確かに柊なら……という思いも、不思議とナミの中にはあった。

恐らく、自分以上に柊の天賦の才を認めている者はいないだろう

そう確信もしていた。そしてその天才と、遠からずグローブを交えるのだ。



 由起から柊とナミ、順子が正式にスパーリングをする旨を聞いた植木が、1週間後と定めたのはナミたちが帰ってきた翌日の事。
当事者たる3人は、思い思いに闘志を漲らせていく。しかし、このスパーリングが予期せぬ結果を生むなどと、この時点では誰も知り得なかった。





to be continued……
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コメント

No title

あけましておめでとうございます!今年もよろしくお願いいたします!


アンナちゃん、準優勝か~、美味し…じゃない、惜しかったわね。
自分の拳を壊すパンチ!
潜在能力引き出し過ぎだわww
試合に負けても、観客の目には対戦相手が勝ったように見えない…素敵な展開よぉ!!

明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

作中の通りアンナは準優勝で終わりました。でも、ボクシング初めて2年も経ってないのに日本2位とか、ある意味やりすぎな感が……(汗)
元々ポテンシャルは相当高い上に環境がハンパないですから、ガンガン伸びていっているんでしょうね。
Secre

プロフィール

チャパロット

Author:チャパロット
基本的に携帯サイトで書かせて頂いているもののリメイク(?)ですが、ちょくちょく文を変更してたりします(あと拙いですが自作絵なども)。
何かある方は、ckcwb305あっとまーくsutv.zaq.ne.jpにご連絡下さい。

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