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第25話 『試練の夏合宿(8) エピローグ、そして2年目のI・Hへ』

 プロボクシング編、第25話です。


<拍手返信>
・ぴーこ様:残念ながら心は宣言通り現役選手を引退してしまいました。でも、これからはトレーナーとして頑張るので、変わらぬ応援をしてあげて下さい(笑)
そして手痛い教訓を学ばされたサラ……身内だから厳しい、というのもありますが、本編で言っていたようにサラの行動はタチが悪かったので姉としての折檻という意味合いもありました。
ちょっとかわいそうだったかもですね。





長かった1週間の夏合宿もいよいよ終わりが近付いてきた。アンナに負けた心は新たにトレーナーとしての再起を宣言、部に存続となる。
夏のI・H県予選を間近に控え、光陵女子ボクシング部は母校へ引き揚げんとしていた。









「今年も1週間、ありがとうございました!」

 一同を代表し、下司 ナミが声を弾ませ湘南スポーツセンター館長、下司 拓人へ礼を述べる。それに続き、後ろに並ぶ少女たちも声を合わせ頭を下げた。
7月下旬のI・H県予選に向け行った、1週間に及ぶ合宿はこの日が最終日。その間徹底した猛練習を積み重ね、6日目には各階級の代表選手を決める為の部内選考も敢行した。


ピン級代表、桜 順子
ライト・フライ級代表、葉月 雪菜
フライ級代表、下司 ナミ
バンタム級代表、杉山 都亀
フェザー級代表、葉月 越花
ライト級代表、城之内 アンナ


以上6名。

尚、この合宿中にライト級の代表を争った知念 心は選手を引退、新たにスパーリングパートナー兼任のトレーナーとして再起する事が決まっている。

「知念君、ちょっといいかい?」

そんな、新しいスタートを迎えた心に気さくに声をかける者が1人。湘南スポーツセンターで働く新人インストラクター、大江戸 進である。

「……なにか?」

いきなり呼び止められ、即座に警戒態勢を取る心。新人とはいえその指導力や理念は卓越したものを感じさせたし、都亀のアキレス腱の一件でも確かな目を持っている。
事実都亀の件で突っかかった事には後にちゃんと謝罪もした。ただ、心はこの浅黒い大男がどこか苦手だった。
都亀の事で彼の発言が間違いだと噛み付いたのに対する、ある種のコンプレックスによるものなのかも知れない。

対して苦手意識を抱かれているとは露知らず、進は肉の厚い指に挟んだ2つ折りの小さな紙を心に手渡してきた。

「君がどういう気持ちで選手からトレーナーに転身するつもりになったのかは分からない。でも、トレーナーとしてなら僕でもなにかアドバイスも出来るかと思ってね」

そう言われて紙に目を通すと、そこにはアルファベットと数字の羅列。どうやら、彼の電話番号とメールアドレスのようだ。
威圧的な見た目によらず、細かい気配りの出来る性格らしい。

(……ヘンなヤツ)

この配慮は彼女の警戒心を幾分か和らげる効果があったようで、心はクスッと微かに苦笑してしまう。

「また機会があったら連絡します」

そう告げ、心も自分の番号とアドレスを交換すると改めて軽く頭を下げた。



 別れも程々に、いよいよ湘南スポーツセンターを後にする女子ボクシング部一同。そんな時、館長の拓人が姪を呼び止めた。

「おいサラ、ちょっとこっちに来い」

「………なに?」

呼び止めたサラから返ってくる、元気のない返事。

6日目に行われた部内選考、その最後の最後に姉へ挑戦状を叩きつけた彼女。1Rは保つと甘く見ていた結果、30秒と立たずたった3発のボディーブローによって撃沈。
部員たちの見守る中、抵抗も出来ず嘔吐という醜態を晒してしまった。
幸い肉体的ダメージは微々たるものだったが、精神的ダメージは相当なものだったようで、取り柄の元気も影を潜めていた。

「なあ、ナミの奴を恨んじゃいかんぞ。元々お前とは比べものにならないくらいキャリアを積んできたんだ、あいつは。その中で悔しい思いもいっぱいしてきたはずだ。だから……」

「分かってる。別に姉ちゃんを恨むとか、そんな事しないって。どっちかっていえば、ますます姉ちゃんに勝ちたくなってきたぐらいなんだから」

拓人の言葉を遮るように、サラは顔を上げる。そこに、先程までの暗さは見られない。いつも通りの、元気一杯な表情だった。
恨みや妬みといった感情とは無縁の所で、純粋に姉を超えたいという境地に今のサラは至ったのかも知れない。

拓人はもとより彼女らの両親も、姉妹が本気で殴り合うを良しとは思わないだろう。
しかし、こればかりは止められないとも、拓人は直感するのだった。



 湘南スポーツセンターを後にし、帰路につく一同。そんな中、おかっぱ頭の比我 秋奈が気になっている疑問を口にしてみた。

「あ、あのッ、知念さん。気になってたんですけど、なんで選手を引退しちゃったんですか?」

あんなに強いのに、と溶け込みそうな声で繋げ、秋奈は心へと弱気に訊く。
他にも同様の疑問を持っていた者がいたらしく、こぞって何故? とまくし立ててきた。

「……東吾 邦子(とうご くにこ)」

秋奈から始まり皆にまくし立てられた心は、1度下を向き目を閉じる。何秒程そうしていただろうか、静かに天を仰ぐと1人の名前を呟いた。

(東吾 邦子?)

心の口から紡がれた名前を、ナミは声に出さず復唱してみる。どこかで聞いた覚えのある名だ。が、そこから先は靄が掛かったように出てこなかった。
ふと、越花が「あ…」と声を漏らす。何やら思い当たる節があったようだ。

「中学の時、手も足も出せずに負けた相手の名前。文字通り完敗だった。それまでは負けなしだったんだけどね。思い知ったよ、コイツには絶対に勝てないって……で、辞めた。そこから先は知っての通りさ」

自嘲するように鼻を鳴らし、越花の方を見る。
笑顔が返ってきた。

中学時代、ボクシング部の退部を機に素行不良が進行し、クラスメイトで親友だった越花を拒絶した時期があった。
その事は未だ心にとって消え難いしこりとなって残っている。
それを察した越花は、笑顔を返す事で私はもう気にしてないよ、と訴えたのだ。

「正直、今やっても勝てる気がしない。でも、もしかしたら勝てるかも知れない娘がアタシの前に現れた」

そう言い、心は隣へ視線を移していく。いきなり見つめられ、隣にいる金髪碧眼の少女……アンナは慌てふためいた。

「わ、私!?」

自分を指差し聞き返してくるアンナに、心はコクッと頷く。

「アンタはまだ足らない所の方が多い。でも、それでもアタシに2回も勝ったんだ。それに、その成長スピードはとんでもないからね……これから鍛えれば、充分勝算はある!」

どこか興奮した様子でアンナの肩を叩き、もう1度頷く心であった。

一同が学校へと帰着したのは、太陽も傾き始めた夕方の頃。解散の前に県予選へ向けてのミーティングを行う為、皆は部室へと向かう。
近くまで来た辺りで室内からバスバスと音が聞こえ、怪訝そうな表情でナミがドアを開けると……

「やっと帰ってきたか。ったく、10R分はバッグ叩いちまったぜ」

聞き覚えのある男口調が皆を出迎えた。

「柊!?」
「柊ちゃん!?」
「高頭さん!?」
「先輩!?」

全員が一斉にボブカットの美少女の名を呼ぶ。
『目つきの鋭い日本人形』こと高頭 柊は、青の練習用グローブを外すと額の汗を腕で拭いながら片手を上げた。

「よう、久しぶり。元気にしてたか?」

厚手の白Tシャツに青地で白いサイドラインの入った短パン、黒のショートタイプシューズ姿の柊は、懐かしむように微笑みながら輪の中へと入っていく。
それぞれが再会を祝し柊の下へと集まる。そんな中、順子が気付いたように口を開いた。

「あんた、ちょっと焼けたんじゃない?」

「まあな。そりゃ沖縄の炎天下に晒されりゃ肌ぐれー焼けるって」

カラカラと快活に笑い、柊は腕をさする。

(え……どこが?)

思わず詩織がツッコミを入れそうになったが、寸での所で口を閉ざす。どう見ても、合宿前に見た時と比べて変化がなかったからだ。
1週間の合宿ですっかり小麦色に焼けた自分たちと比べ、柊の肌の何と白い事か。
だが、古くからいる同級生たちには、その微々たる焼け具合がはっきりと分かったようで、ワイワイ盛り上がっていた。



「という訳で、I・H県予選がすぐそこまで迫っている。出場者はもちろんの事、そうでない者もサポートをしてやってほしい」


 ホワイトボードに日程を書き、植木がパイプ椅子に座る部員たちの前に立つ。県予選まで、残り1ヶ月を切った。
出場者はそれぞれ、減量も含めた最終調整に入らなければならない。だが、この為にあの苦しい合宿も乗り越えてきたのだ。
各階級の出場者たちは、若干の不安とそれを大きく上回る自信とを内に秘め、植木の言葉に耳を傾けるのであった。

ミーティングが終わり、皆ようやく1週間ぶりの帰宅である。その帰り道、柊が思い出したように呟いた。

「あ……そういやオレ、応援に行けねーわ県予選。また別の所で合同練習があって、そっちに行かなきゃならねーんだってよ」

ったくメンドくせーよな、とぶっきらぼうに文句を垂れる柊。ただ、顔の方は口程に不満がある訳ではないように見える。
彼女なりに、今の状況を満足出来ているのかも知れない。

「だったらさ、I・Hが終わったら軽くスパーやらない? オリンピック強化選手の実力っていうのも知りたいし」

ナミから、いきなりの提案だった。確かに、それらしい事を言われた記憶はあったのだが、約束として提案されたのはこれが初めてである。暫しの間熟考した結果、

「まぁ、いいか」

あっさりと受けた。ナミもそうだが、実は柊としてもナミともう1度グローブを交えてみたい心境だった。

以前の彼女なら、面倒と一蹴した事だろう。

今は、とにかくも不足しているキャリア・実戦の場数を補いたいという思いの方が強い。
そういう意味では、柊の中でボクシングというものの価値観が変わってきているようであった。

「あ、だったらあたしもやってみたい!」

柊がナミとのスパーリングを受諾したのを脇で聞いていた順子が、珍しく手を挙げ対戦を主張。普段の順子ではおよそ考えられない大胆発言に、一同揃って暫し声を失った。

強気な態度で積極的な印象を与える順子。だが、実際は引っ込み思案でアガリ症、加えて人見知りが激しく自分からアピールする事は殆どないのだ。

そんな順子が、この場面で柊と手合わせをしたいと言い出した。声の1つも失おうというものである。

「オレは別に構わねーよ」

らしからぬ積極性を見せた順子の提案を、柊はまたもあっさりと受諾。先述の通り、柊としては実戦不足を補いたい所なので、寧ろ渡りに舟。

「さすがに私は階級違いすぎるからパスかなぁ。雪菜ちゃんはどうする?」

柊に挑戦の話題の中、どこか口惜しそうに呟く越花。隣を歩く瓜二つの従姉妹に話を振ってみるが、やんわりと首を横に振られた。

「私はもういいよ。前に1回やったし」

オリンピック強化選手に抜擢され夏合宿には参加しないと知らされた時、餞別と称して雪菜は柊とグローブを交えている。
結果は1発もまともに捉える事が叶わないままRSC負け。
見かけによらず負けん気の強い雪菜なのだが、彼女へのリベンジは考えていない様子であった。



 柊とナミ、順子が手合わせをする事で盛り上がった帰り道だったが、それはあくまでI・Hが終わって以降の話。
まずは、皆目指すべきものの為に邁進しなければならなかった。





to be continued……
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コメント

No title

柊ちゃん久しぶりwww

そして、アンナちゃん!いよいよ、話が進んできたわね、楽しみだわ。

それにしても、あの筋肉男さらっとメルアド交換wwwww
ナニコノヤリテ!!???!!ww

柊は何かと出番が少なくなってくるので、出てくるだけで貴重だったりするかも。
これからアンナと心のコンビがどういう旋風を巻き起こすのか、それは本編のお楽しみという事でひとつ。

大江戸も密かに重要なキャラなので、メアド交換はまた出てくる為の布石?w
Secre

プロフィール

チャパロット

Author:チャパロット
基本的に携帯サイトで書かせて頂いているもののリメイク(?)ですが、ちょくちょく文を変更してたりします(あと拙いですが自作絵なども)。
何かある方は、ckcwb305あっとまーくsutv.zaq.ne.jpにご連絡下さい。

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