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第24話 『試練の夏合宿(7) まさかの挑戦状』

 プロボクシング編、第24話です。


<拍手返信>
・ぴーこ様:アンナの最大の持ち味であり怖い所は、ダメージも省みない猪突猛進なのだと思います。多分心もその辺を読み誤ってあっさり負けたのでしょう。





部内選考、最終戦。ライト級の出場を賭け激突したアンナと心の闘いは、アンナがまさかの1R・RSC勝ちという結果で幕を閉じる。
かくして、全ての闘いは無事に終了……とはいかなかった。











「ん……んぅ」


 知念 心が身体を起こしたのは、リング上で横にされ処置を終えてから優に3分を経ってからだった。

光陵女子ボクシング部、夏のI・H出場権を賭けて行われた部内選考、最終戦。
ライト級、城之内 アンナと知念 心との真剣勝負は、予想だにしていなかった1R・KOという形でアンナが勝利。
彼女の成長の速さをまざまざと見せつける結果となった。

アンナのパンチによって脳を立て続けに揺らされた心は、パンチ酔いによる不快感で嘔吐、その後横に寝かされると意識を手放している。
軽い脳震盪も併発したらしい。

「だ、大丈夫? 心ぉ」

視界を覆っていたタオルが起き上がった拍子に零れ、次いで映ったのは天井の照明で淡く光る金色の髪。
心本人も認めるイタリアンハーフの親友が、心配そうな表情を覗かせていた。

「ん…大丈夫……立てるよ」

今にも泣き出しそうな程に碧い目をうるうるとさせる親友の肩に掴まり、反動をつけ立ち上がる。そして掴まったままの肩をポンポンと叩き、右手を差し出した。

「参った、アタシの完敗。おめでとう、ライト級の代表はあんただよ……アンナ」

負けた悔しさを感じさせない笑顔を湛え、心は勝者たるアンナに握手を要求。

「う、うん。ありがと」

心の爽やかな表情に、思わず赤面しながらアンナも右手を握り返す。

「あんたがここまで伸びてくれたおかげで、アタシも踏ん切りがついた。選手を引退するよ」

一同に衝撃が駆け巡る。この勝負の前から宣言していた事とはいえ、改めて告げられると勿体ないという気持ちがそれぞれに思い浮かぶ。
しかし、そんな周囲の気持ちなど素知らぬ顔で心は1人納得のいった様子を見せていた。

「すみません先生、勝手に決めてしまって。選手は引退だけど、出来るならこれからはトレーナーとして部に置いてもらえないですか?」

選手は引退だが、それはそのまま部を去るという訳ではないのだと分かると、ホッと溜息の植木。
トレーナーとして再起するつもりなのであれば、歓迎こそすれ断る理由などどこにもなかった。

「もちろんだ。ただし、トレーナーはトレーナーで決して簡単じゃないからな。覚悟しとけよ」

顧問の許しを得て、心の周りにナミや順子ら部員たちが輪を作って再起を歓迎していく。
そんな中、晶だけは輪から一歩外れた所でそっぽを向いていた。

「そういうわけだから、これからビシビシ鍛えてやるよ。改めてよろしく、晶」

「ふ、ふんッ! なによ、アンナお姉さまに手も足も出なかったヘボのクセに。お前なんかに教えてもらう事なんかなんにもないっての!!」

トレーナーとして改めて挨拶する心に、顔をひきつらせ紅潮させる晶。まるで瞬間湯沸かし器だな、と一笑に付し、心はアンナと共にリングを降りていくのであった。



 約1週間の夏合宿、その6日目に行われた部内選考。各階級の出場者も決まり、全スケジュールは無事終了……とはならなかった。

「姉ちゃん」

皆が各々会話を弾ませていた、まさにその時。1人真剣な表情のサラが、姉を呼び止めた。

「ん? なに、サラ」

バンデージを解こうとしていたナミが、妹の呼び止めに振り返る。サラは何かを決意した表情を貼り付けたまま、だが無言。

「なに、どうしたの? 黙ってたら分からないじゃない」

何やら妙な妹の態度に、つい小首を傾げてしまう姉。

サラは、本来遠慮のない性格である。少なくとも、ナミは遠慮するサラというのを見た試しがなかった。
そんな彼女が、何かしら言い辛そうにしているのだ。

妙という他ない。

どれだけ見合っていただろうか。やがて、サラは意を決し口を開いた。

「姉ちゃん。わたし、姉ちゃんと勝負したい!」

途端、その場が凍りつく。正確には、そう思わせるような沈黙、続いて静寂。
それは、その一言は、あまりにも虚を突いたものだった。


姉と勝負したい


そう言ったのである。

仮にも、ナミは昨年のI・H全国ベスト8を始めとして数多い実績を持つ実力者。そんな彼女に、あろうことか未だ公式用グローブすら嵌めた事もない素人が本気の勝負を挑んだのだ。
いくら実の姉妹といえど……いや、実の姉妹だからこそ、これを受ける筈はなかった。

「はぁ? ア、アンタねぇ……冗談にしてもちょっとタチが悪いわよ?」

誰もが予想した通りの返事。しかし、妹は食い下がった。

「冗談なんかじゃないもん、わたし本気で言ってるの!」

グッと両拳を握り締め、声を荒げるサラ。途端、

「もっとタチが悪いわッ!」

サラをも上回るナミの怒声が一面に響き渡った。さすがの迫力に、一瞬でサラの強気な姿勢も気圧されてしまう。

「まだまだ基礎も充分じゃないのがいきなりスパーとか、アンタボクシング舐めてるの!?」

続く怒声に、サラは唇を噛み下を俯く。怒りか悔しさか、肩を微かに揺らしていた。

サラの気持ちも分かるが、ここはナミが正しい。
全くの初心者だったサラには、体力や筋力など基礎の部分からして不足。
かつての柊のようにバスケットをしていた訳でも、順子のようにキックボクシング部に在籍していた訳でもない。
アンナもエスクリマという武術を母親から学んでいたし、越花ですら3頭の大型犬を毎日欠かさず散歩に連れていったりしていたのだ。

大小の差こそあれ、皆何かしらで基礎体力が出来上がっていたからこそ、早くから活躍たり得た。
ナミとしては、1年の間はじっくりと鍛えに鍛えて、それから正式に選手として活躍して欲しいと考えている。
しかし、サラは必ずしもそうは思わなかったようだ。


もうスパーリング程度ならこなせる


そう思っているに違いない。どこからその自信が湧いてくるのか皆目見当もつかないが、はっきり言って危険な兆候だった。
ただ、ここで意外な人物から飛び出した意外な一言が、流れを急速に変える事となる。

「グローブとヘッドギアを着けてリングに上がれ、ナミ坊。サラもだ」

未だリングの中にいた植木が、よく通る大きな声で姉妹にリングインするよう顧問命令を発令したのだ。

「なッ!?」
「ホントッ!?」

まさかの一言に、内容は違えど同じタイミングで叫ぶ2人。

「ただし、1分半の1Rのみ! いいな」

条件を付け加え、植木は由起と陽子に支度を急がせる。これにはさすがに方々からざわめきがあがったが、植木はその一切を無言で跳ね返した。



 やがて準備が整い、正反対の態度で下司姉妹はリングへと上がった。

姉は暗い表情を浮かべ、足取りも重い。
対して妹は初めて公式用のグローブとヘッドギアを着けて貰い、初めて実戦が出来ると初めて尽くしにはしゃぎ、足取りも軽やか。

2人をリング中央に呼び寄せる前に、植木は陽子を呼び何事かを伝える。コクッと頷きリングを降りると、ようやく植木は両者を中央へ招き諸注意を説明していった。

「どういうつもりよ、四五兄ィのヤツ」

説明を終え赤コーナーへと戻り、乱暴にスツールへ腰掛けると、まだ怒りが治まらないのか口を尖らせるナミ。

スパーリングとはいえ、本気の殴り合いとなる。
下手をすれば怪我を負わせ兼ねない。

それが対等以上の相手だったら、まだ自分を慰めようもあるが、相手はスパーリングも今日が初めての、しかも実の妹なのだ。
正直、何故挑んできたのかさえ理解に苦しむ。
もしかしたら、「ボクサーとして姉を超える」と常日頃から公言しているのを実践する気でいるのかも知れない。

「下司さん、ちょっと……」

サラの真意を測れずしきりに首を捻っていたナミに、セコンドに就いている陽子が声を掛ける。

「ん、なに?」

思考を現実に呼び戻され、陽子の方を覗くと手招きのジェスチャー。それに従い顔を近付けると、陽子は耳元でヒソヒソと呟き出した。

「先生から伝言。徹底的に腹を叩いて分からせてやれ、だって」



「これが本物の試合用のグローブ、ヘッドギア……なんかヘンな気分」

 対する青コーナーで、サラは改めて公式用の防具に身を包んだ事にそわそわしていた。試合用のグローブを着けるのも、ヘッドギアを被るのも、その姿で殴り合うのですら、これが初めて。

しかも、相手は念願の姉なのだ。

(姉ちゃん、わたしがどれだけ強くなったか見せてあげる!)

大きく深呼吸し、昂る気持ちを落ち着かせる。女子ボクシング部に入部してから、約3ヶ月。その間、実に真面目に練習へ打ち込んできた。
何度胃の中の物を吐いたか分からない。だが、ひたすらに姉の後を追い続いた。

今はまだ勝つには至らなくても、1R程度は食らいつける。

その自負はあった。
そんな自信に満ちた彼女は、まだ実戦の怖さを知らない。

やがて部員たちの見守る中、妹が挑戦状を叩きつけ顧問が受理するといった形で組まれたスパーリング、その開始を告げるブザーが高らかに鳴り響いた。
姉妹はゆっくりとリング中央へ進み、ナミの差し出した右拳にサラが一歩遅れて右拳を合わせると、一旦距離を外す。

お互い、右構えのオーソドックススタイルで向き合う。
違いがあるとすれば、軽快なフットワークでキャンバスを蹴る姉に対し、妹はどこか鈍重で構えにも重厚さを感じない所であろうか。

「シュッ」

睨み合いも程々に、先に手を出したのはサラだった。
練習した通り……とは程遠いフォームで左ジャブを放つ。
明らかに間合いが掴めておらず、ただ放たれたそれはナミの顔面より手前でリーチの限界に達し、引き戻されていく。
そして左腕を引き終えた時、サラは背筋に冷や汗が流れるような感覚に襲われた。

ナミの顔が、まるで瞬間移動でもしたかの如く間近に迫っていたからである。

(うそ、近いッ)

前に構えたグローブ越しに映る姉の姿が、四方をロープに囲まれた閉鎖空間の中ではとても恐ろしく思える。
ドクンドクンと脈打つ心臓の音が、やけに大きい。

「ひッ」

サラは、自分に危害を加えるべく迫る“相手”に左ジャブを連打。
その表情は、極度の緊張によってか強張ったものとなっている。
狙いも絞らず、ただ闇雲に打ち出されただけのジャブなど、ナミにしてみればどうというものでもない。
必要最低限のフットワークだけで、それらを全てかわしていく。
ガードの必要性すら感じなかった。



「はぁ、はぁ、くッ」

 ナミと向かい合ってからまだ10数秒、その間飛んだパンチはサラの左ジャブ数発のみ。だが、そのたった10数秒のやり取りで、サラは既に呼吸を乱してしまっていた。

元よりスタミナが充実している訳ではない。
ことさらにナミから浴びせられるプレッシャーが、サラのスタミナを見えざる刃となって削ったのだ。
初めての実戦で全国レベルのプレッシャーが伸し掛かってきては、仕方のない事というべきだろう。

ナミと対峙していると、絶えず嫌な汗が噴き出す。
まだ1発のパンチすら打たれてはいないのに、だ。
これが、本当に厳しくも優しいあの姉なのか、と疑念が湧いてくる。

(実戦って、こんなに息苦しいの? 怖いの? )

大きく息を乱しながら、サラは後悔する思いだった。


姉ちゃんの言う通りボクシングを舐めていた


と。

そんな折、ふと眼前からナミが消えた。

(え、消えた!?)

つい今し方まで、確かに向かい合い視認も出来ていた。
それが、まるでコマが切り取られたかのように忽然と掻き消えたのである。
突然の事態に思考が追いつかず、サラは混乱を来してしまう。
次の瞬間……



ドスッ、ズムッ、ドグッ!



言い知れぬ重い衝撃が3回、隙だらけの腹を穿った。

「……え、ぉうぷッ」

一体何が起こったのか分からず、だが次の瞬間には身体の方が無理やり理解させようとしてきた。
突如、腹に焼けるような鈍痛を覚え胃の物が逆流してきたのである。
本能的に両腕で疼く腹を抱え、身を丸めてしまう。
呼吸も満足に出来なくなり、抗えず目からは涙が零れていく。
その場でトンッと両膝を着き、腹を抱えたまま正座の形でサラはダウンした。

開始、僅か20秒弱。ナミはたった3発のボディーブローにより、実の妹をダウンに追い込んだ。
これが普通の試合であれば、腹を抱え身を丸めた時点でKOを宣告された事だろう。
いや、サラに立ち上がれるだけの戦意・余力などもはやないのかも知れない。
彼女のまだ柔らかい腹筋は装甲の役目など成さず、3発ともに内臓を押し潰す手応えをナミは両拳から感じた。

KOの手応えだった。

蹲り地獄の苦しみを味わっているであろう妹の姿を、姉はただ見下ろす。
3発で終わって良かったという安堵感と、たった3発のパンチすら耐えられなかったのかという、相反する複雑な気持ちを抱えつつ。

ダウンしてから大して間も置かず、限界に達したサラの口からマウスピースと共に胃の中の物が大量に吐き出された。
それを合図に、植木は首を振りスパーリングの終了を告げるのであった。





to be continued……
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コメント

No title

ちょっ、サラちゃん無謀過ぎるワ!w
これ、トラウマになりそうで怖いワネ。
柊ちゃんでさえトラウマになったことあるし、ナミちゃんトラウマ製造機!?!!www


あとアンナちゃん、エスクリマwww
懐かしいwwあとサーベル、レイピア、剣道、黒式火薬銃、乗馬…サファーデみたいな流派で混ぜてたわよネ。
イタリア式フェンシング?だっけ??

今回はサラが少々無茶ぶりをしたので、お灸を据えられた形となりました。まぁ、トラウマといってもボディーブロー3発程度なので、そこまで深刻なものではないかとw
Secre

プロフィール

チャパロット

Author:チャパロット
基本的に携帯サイトで書かせて頂いているもののリメイク(?)ですが、ちょくちょく文を変更してたりします(あと拙いですが自作絵なども)。
何かある方は、ckcwb305あっとまーくsutv.zaq.ne.jpにご連絡下さい。

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