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第11話

 第11話です。

夕貴とのスパーリングで、またも惨敗とも取れる止められ方をしたナミ。何故夕貴に勝てないのか? その理由の一端を那智に解説され、自分の至らなさを痛感する事となった。
それから日は過ぎ……




  夕貴(ゆうき)が練習に参加してから3日目。最終日である。今日の練習が終われば、彼女は本来いるべき東京に戻ってしまう……そう思うと、皆一様に寂しくなるな、と感じていた。


…幼馴染みである柊(しゅう)以外は…


刻一刻と別れの時間が迫り、

「はい、終了! みんな、お疲れ様」

宗観(そうかん)から作成されたトレーニングメニューを引き継ぎ、指導に当たっていた那智(なち)の号令によりその日の練習は終わりを告げた。

皆ヘトヘトになりながらも座り込むような者は1人としておらず……

「片山会長。加藤さん。ご指導、ありがとうございました!」

一同を代表してナミが礼を述べると、続いて他の部員たちも一斉にナミに倣った。


「いやいや、こっちもこの3日間楽しかったよ。ありがとう」

 微妙に照れた表情を浮かべ、那智は最後に1人1人長所と短所を伝えていく。その後、宗観から預かった個人用のトレーニングメニューが書いてある一冊のノートをトレーナー兼マネージャーの由起(ゆき)に渡した。

「あ、そうそう。みんな聞いて。男子部との試合日程が決まったわ」

那智からノートを受け取ると、由起は部員たちに重大な発表を始める。後片付けを始めていた部員たちに緊張が走る。

「日時は4月24日。場所は男子ボクシング部室よ」



ガタッ!



 日時を聞いたナミは、驚愕のあまり手にしたモップを落とす。

「な、なんですってぇッ!?」

次いでナミは大声で叫んでいた。

男子部との試合期日……そんなに猶予があるとは思っていなかったが、まさか残り1ヵ月もないとはさすがに予想だにしていなかったのだ。

「ごめんね、私の交渉力不足で……」

力及ばず、といった風の由起に、「先輩は悪くないですよ」とナミはフォローを入れる。

「そこで相談なんですが」

由起は那智の方を振り向き、

「試合当日、加藤さんの力をお借りしたいんです」

そう述べてから、現在の女子ボクシング部の置かれている事情を全て話した。





 話を聞いた那智は少しだけ考え、

「いいよ」

と実にあっさりとOKを出してしまう。あっさり返事を貰えた事に、ナミは些か拍子抜けしたものの、『義兄が決めた事なら』と夕貴は反対する様子を見せなかった。



「んじゃ、オレ2人を送ってくっから」

 柊は那智と夕貴を駅まで送る為、先に帰る。その別れ際、

「下司(しもつかさ)さん。絶対に勝ちましょうね!」

夕貴に励まされた。





 那智と夕貴が東京に帰ってから数日、ナミは格闘技系のクラブを見て回っていた。夕貴が参戦してくれるのは非常に心強いのだが、あまり部外者に頼る訳にはいかない。ナミはとりあえずも即戦力になりそうな女子を探し続けていた。

「あれ? ナミちゃん何してるの?」

そんな折、校庭でアンナと出会い事情を話すと興味が沸いたのか、一緒に付いてきた。アンナと他愛のない会話をしながらクラブを回っていると、今度は会いたくもない腐れ縁と出会ってしまった。

「よう」

 我聞 鉄平(がもん てっぺい)は気さくに片手を上げて挨拶してくる。無視するナミの隣で、アンナはペコリと頭を下げていた。

「お前、まだ女子部を作るとか言ってんのか?」

出会うなりこの一言……神経を逆撫でする事に関してはもう世界ランカーね、とナミは思う。

「なによ今さら。アンタには関係ないでしょうが!」

無性に腹が立ったので、そっぽを向いたまま答える。

「関係なくはない。俺も出る事になったんだ……女子部との試合に」

「なッ!?」

これにはさすがに驚きを隠せなかった。


 鉄平はナミと同じ山之井(やまのい)ジムの練習生であり、植木の愛弟子でもある。気に食わない男だが、実力は確かなのはナミも認める所であった。
体格も良く、フェザー級かライト級辺りでエントリーするだろう。女子部で該当するのは……越花(えつか)か隣のアンナ、という事になる。
どちらにせよ、この勝負に関しては諦めざるを得ない、とナミは思った。


 何だかまたもや無性に腹が立ったナミは、思う様文句を言ってやろうと鉄平の顔を見上げ……言葉を失ってしまった。
あろう事か鉄平はずっとアンナの方を見ていたのだ。しかも、頬を赤らめながら……
アンナは、鉄平の視線を受けながら時折小首を傾げ、ニコッと人懐っこい笑顔を見せている。

「……………」

鉄平の思考は、完全に固まっていた。

(か、かわいい……)

アンナを一目見た瞬間から、鉄平の思考はその機能を停止させているかのように凍りついてしまう。



一目惚れであった。



 今までボクシングに全てを捧げ、彼女などは必要ない! と周りには事ある毎に言い続けてきた。いわゆる硬派な男……それが我聞 鉄平という男の、周りが持つ印象だった。否、本人もそのつもりでいたのだ。
が、アンナの見せた笑顔は、鉄平の脊髄に容赦なく電撃を落とす。

「…平、……っと! ………いてんの!?」

何かが聞こえた気がする。が、そんな事は今の鉄平にはどうでも良かった。

(もう1回笑ってくれないだろうか)

あまつさえそんな事に思いを寄せる鉄平。すると、



ズンッ!



腹に強烈な痛みが走り、

「ぐはッ」

鉄平の思考が無理やり現実に引き戻される。そこには、怒りの表情を湛えたナミが右拳を下から突き付けるような恰好で鉄平を睨み付けていた。


「痛ってえな! いきなり何すんだ!!」

 どうやら腹の痛みの原因はナミらしいと理解した鉄平は、怒りの言葉を漏らす。

「アンタが人の話聞いてないからでしょうが! それに何? わたしに話しかけてたのかと思ったら、ずっとアンナの方に見とれちゃって……いやらしい」

ここぞとばかりに悪態をつきまくるナミ。言い返したいのは山々だが、確かに見とれていたのは事実なのでここはグッと堪える。悪かった、とあまり誠意の篭っていない謝罪をナミに返し、鉄平は再びアンナの方に視線を返した。

「俺、1-5の我聞。下司とは小学校から一緒の……腐れ縁って奴だ。お前の名前は?」

私は城之内(じょうのうち)アンナ。ナミちゃんのクラスメイトで女子ボクシング部の部員なの。よろしくね、鉄平ちゃん」

アンナは鉄平の自己紹介を受けると自分も同様に返し、またも人懐っこい笑顔を見せて右手を差し出す。

「お、おう。よろしくな」

鉄平は恐る恐るアンナの手を握り返し、顔を真っ赤にしていた。普通なら、初対面の相手に『鉄平ちゃん』などと呼ばれたら激怒していた事だろう。だが、不思議とアンナにそう呼ばれるのは嫌ではなかった。
握手を終えると、鉄平の表情は一転して険しいものになり

「城乃内。女子ボクシング部に入った、ってのは本当か?」

アンナに再度確認するように訊ねてきた。

「うん。本当だよ」

鉄平の質問に、アンナは即答で答える。

「そうか。階級は……見た所ライト級ぐらいか」

ボクシングの階級などに詳しくないアンナはそうなの? とナミに訊ね、ナミはそうよ……と肯定した。

「なら今度の試合は俺と戦る事になりそうだな。言っておくが、俺は試合では一切手を抜かないぜ。例え女だろうと、素人だろうがな!」

せいぜい鍛えておけよ、と最後に残し、鉄平は2人の前から去っていった。


 結局、微妙に無視され続けていた事に後から気付き、不機嫌な表情のままナミはアンナと共に校庭を後にする。何故かアンナは強気な表情で微笑んでいた。

ナミとアンナが引き続き2人で格闘系クラブを回っていた時、

「セイッ!」
「ウリャアァッ!」

気合の入った掛け声がある部室内から聞こえてきた。入口に立て掛けてある看板には、


『空手部』


と書いてある。興味がそそられ、ナミは入口の隙間からコッソリ中を覗いて見た。すると、



ドサッ!



空手着を着た男子が畳の上に倒れ伏し、

「次ッ!」

と腰までありそうな長い髪を振り乱した空手着姿の女性が、鋭い怒声と共に次の相手を呼んでいた。部室の周りには横になっている男子部員が4名ばかり倒れており、いずれも今組手をしている女子部員が倒したのだろう……というのが見て取れる。
組手をしている女子部員の鋭い視線や裂帛の掛け声、そして打ち込みの迫力に、ナミは食い入るように部室内を覗いていた。そんな折、

「ねぇ、貴女。そこでなにをしているの?」

と、空手着を身に着けた1人の小柄な女子部員に後ろから声を掛けられた。


「え? べ、別になんでも……」

 不意打ちで話しかけられたナミは、慌てて入口から離れその場を後にしようとした。が、

「見学なら堂々と中に入ってしたら?」

有無を言わさず、アンナ共々ナミは空手部室内に放り込まれてしまった。ちょうど5人目の相手を沈め、6人目を呼ぼうとした時にナミとアンナが部室内に入ってきた為、組手を一旦止め休憩を言い渡す女子部員。その途端、緊張の糸が切れたのか他の部員たちは一斉に息を吐き出していく。

「東(あずま)先輩、コソコソ覗いてるのがいたんで連れてきました」

小柄な女子部員は、東と呼んだ先輩に対し褒めて欲しそうに伝える。

「美月(みつき)、ご苦労様。貴女も休憩なさい」

東は、美月と呼んだ小柄な女子を下がらせるとナミとアンナに鋭い眼光を光らせ見つめた。


「え、えと……」

 あまりの眼光に気圧され、ナミは上手く喋れない。そして、この威圧感をどこかで感じたような気がして……桃生(ものう)と初めて会った時の事を思い出していた。

「空手部主将、東 久野(ひさの)よ。貴女たち、入部希望なの?」

東は鋭い視線を外さないまま、2人の目的を問い質してきた。

「私たち、女子ボクシング部なんです。今度の男子部との試合で助っ人になってくれそうな人を探してたんです」

ナミが言いあぐねていた所を、アンナが遮るように東の前へ立ち事情を説明した。男子部との試合、の辺りで東が眉を潜めるのをナミとアンナは見逃さなかった。

「ふぅん……面白そうね」

東は興味を持ったらしく、

「いいわ。私が手を貸してあげる」

少しだけ考えた素振りを見せたかと思えば、即決で女子ボクシング部への協力を申し出てくれた。即決にどんな思惑があるのかは分からないが、空手部の主将ともなれば男子部ともいい勝負をしてくれるだろう。

ナミは礼を言おうとした。が、

「但し、主将の桃生君とは私が戦らせてもらうわよ? 彼とは一度白黒はっきりさせないと、と思っていたのよ」

東は危険な笑みを浮かべていた。


 ナミは、頼んだ立場とはいえ東が引き受けてくれた理由がどうしても気になったので理由を聞いてみると、

「元々ボクシング部が幅を利かせていた事は気に食わなかったのよ。それに、主将の桃生君は相当に強いって話だし……なら私が彼を倒して、天狗の鼻をへし折ってあげるわ」

との事だった。
ナミはとりあえずも東に礼を述べると、そのまま空手部を後にしていった。





「え? 『鬼東(おにあずま)』が協力してくれるって!?」

 練習終了後、東からの協力を得られたという報告を受けると、いの一番に驚きの声を上げたのは由起と久美子の2人だった。

「先輩、なんです? その『鬼東』って……」

越花が疑問を口にすると、

「東先輩のあだ名よ。あの人、空手部のエースで全国大会の常連なのよ。見た目に反してラフな闘い方を信条としてて、その強さから付いたあだ名が『鬼東』なのよ」

由起は越花の疑問に、知る限りの情報を話してくれた。





 翌日。定刻になりキックボクシング部室に向かうと、トレーニングウェア姿の東が先んじて皆を待っているのが見えた。

「東先輩……何故ここに?」

部室でのトレーニングに入るべく向かった先に、何故か東がいた事に驚いたナミはここに来た理由を訊ねてみた。

「何故もなにも、私はボクシングに関しては素人ですもの。さすがにボクシングルールでボクサーに勝てると思う程、自惚れてはいないつもりよ?」

東は桃生に勝つ為、部室を使う練習からは女子ボクシング部の方へ参加する旨を伝えた。


 キックボクシング部室での練習は、基本的に顧問である植木(うえき)が担当している。空手の構えからボクシングの構えへの修正や技術の方は植木に任せ、ナミは柊とアンナの担当を受け持つ。

実の所、ナミは自分の練習に没頭したい所であった。こうしている間にも、夕貴は猛練習を続けている事だろう。これでは差は縮まるどころか、開く一方なのではないか? ナミは焦ったが、今は部員たちをいっぱしに闘える程度に仕上げて男子部との試合に勝たないと大会も何もないのだ。

これもまずは正式な部になる為と、ナミは雑念を振り払う事に専念するのだった。





to be continued……
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チャパロット

Author:チャパロット
基本的に携帯サイトで書かせて頂いているもののリメイク(?)ですが、ちょくちょく文を変更してたりします(あと拙いですが自作絵なども)。
何かある方は、ckcwb305あっとまーくsutv.zaq.ne.jpにご連絡下さい。

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