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第23話 『試練の夏合宿(6) 進退を賭けて 心vsアンナ』

 プロボクシング編、第23話です。


<拍手返信>
・ぴーこ様:都亀、頑張りました。ちなみに跳ぶ~の件は動かなくなってきたら思い切りジャンプして地面を踏みつけて、大丈夫な事を気付かせるつもりでした(そちらは結局描かれませんでしたが)。
ナミにとってやはり最大のライバルは夕貴だと思うので、ああいう流れになった次第です。

・竜二様:負けたら引退する、とかちょっと大袈裟な展開かも知れませんが、それだけこの部内選考とアンナの成長に賭けてるのだと思って頂ければ幸いです。





部内選考、特別スパーリング。片目の不利に戸惑いを見せるナミだったが、徐々に地力の差が現れ一瞬の隙を突いて都亀をダウンさせる。
ハンデを受けて尚抗えない全国クラスとの差に絶望しかける都亀だったが、その気持ちを震い立たせたのは、大江戸 進の一言だった。
そして最後の1戦、ライト級。ここで、心が「負けたら現役引退」を宣言し……









 いよいよ、光陵女子ボクシング部にとって2年目のI・H、その出場権を賭けた闘いが始まった。
部内選考、最終戦。ライト級の出場を争うのは、赤コーナー・知念 心と青コーナー・城之内 アンナ。
一年生の時に心の入部を賭けて試合して以来、2人の直接対決はこれで2度目。
心の入部以来親友同士の間柄となった両名だが、ここでまた出場権を賭けてグローブを交えるというのは、皮肉な運命と言わざるを得ない。
そして、今回賭けているのは出場権だけではなかった。

負けたら選手を引退する

試合前、心が公言した台詞である。よほどの覚悟を決めてきたのだろう、心は開始直後から積極的に攻め立てた。

「シュッ!」

口から小さく息を漏らし、心は左ジャブを親友へぶつけていく。

まず相手の出方を窺い、癖を読み、見切りを付けた上でカウンターブローを叩きつける

それが、知念 心の基本戦法である。しかし、この試合に限っては、そのセオリーを自ら破った。
アンナの秘めたポテンシャル……驚異のラッシュ力に晒されない為だ。

コンビネーションラッシュといえば、まず主将の下司 ナミが思い浮かぶ。
ナミのそれは、抜群の当て勘を活かした理詰めの技術。
対してアンナのそれは、言うなれば強靭な膂力で振り回された鈍器の破壊力。
『ソリッドパンチャー』という、KOパンチャーの資質を備えている上、筋力も部随一のアンナ。まともに貰えば、1発で意識を断たれる可能性はかなり高い。
加えて、スタミナの続く限り本能で打ち込んでくるパンチの数々は、カウンターチャンスを特定するのも困難。

生粋のカウンターパンチャーたる心にとって、最も厄介なタイプのボクサーといえよう。
故に、セオリーを崩してでも攻めに回る必要があった。



パンッ!



心のジャブがアンナの顔面を叩く。オフェンスが脅威的なアンナだが、幸いディフェンスはそこまで上手くない。
とにかく、穴を突いて常にペースを握れるかが勝負の鍵だった。

バスッ、バスッと心の左ジャブが音を立て、連続でアンナの顔面を叩く。これに対し、アンナの方も怯まず左ジャブを刺し返した。
手数は心に、威力はアンナに、それぞれ分がある。
スピードはほぼ互角。お互い、リードブローを捌き切れずに貰い続け、1Rが終了する頃には既に頬が赤く目立ち始めていた。

「はあ、はあ……やっぱり強いなあ心は。でも、それ以上に楽しい」

青コーナーへ戻り、スツールに腰を下ろすやアンナは本当に嬉しい、といった風に破顔一笑。
『強い相手とは、勝ち負け度外視でガンガン殴り合いたい』と日頃から公言する通り、彼女の表情からは喜びに満たされているのがよく分かる。

「気持ちもよーく……あ、いや、正直分からないけど、とりあえず息を吸って」

アンナの性癖を理解には至らなかった由起は思わず苦笑しつつ、トランクスのベルトを掴みゆっくり前後させる。
それに合わせ深呼吸を繰り返すと、徐々に乱れた息遣いが治まっていく。

「城之内さん。細かい指示をしたって、どうせ自分の好きにやっちゃうだろうから何も言わないわ。次も思うままに闘ってきなさい」

半ば諦め気味に溜息をついてみせながら、由起はヘッドギアの奥にあるアンナの白い顔を覗き込む。

「はい! 心とは小細工なしで思いっきりやり合いたいですから」

案の定、このバトルジャンキーは細かい指示など聞くつもりはなかったらしい。その目は早く2Rの鐘を鳴らせ、と催促しているかのように由起には思えた。



 程なくして第2Rのブザーが響き、心とアンナは共にコーナーを飛び出す。射程圏内に捉えた瞬間、心は様子見もなくワン・ツーと左右のストレートを打つ。
バンッ、バグンとグローブの重い音が響く。
クリーンヒットで入った心の2連打。
汗を飛ばし、アンナの首がヘッドギアの重さに耐え切れないかのように仰け反らせる。

(よし、効いたッ!)

頬を打った残滓から、有効打と確信した心は更なる攻勢に出ようとした。そうして左足を踏み出した、その途端……



ズンッ!



腹に得も知れぬ波が全身へ押し寄せてきた。

「かふッ」

仰け反り、後方へよろめく筈だったアンナの右拳が、心の腹を下から突き上げたのである。
堪らず口から唾液が飛散し、身体を僅かに折ってしまう。
さっきのワン・ツーはダウン……は無理だとしても、その布石となるだけの手応えはあった筈。
だが、アンナはヨロめく事も後退する事もなく、逆に虎口へ無防備に姿を晒す羽目になってしまった。

ソリッドパンチャーやラッシュ力、スタミナや筋力など見るべき所の多いアンナだが、今最も期待……或いは厄介なのは、このタフネスなのかも知れない。

一瞬動きを止めた心の腹に、もう1発アンナの右ストレートが打ち込まれる。それは何とか後方へ下がる事で当たりを浅くし、腹筋でダメージを抑えた。
しかし、この攻防を機に天秤は少しずつアンナの方へと傾き始めていく。
パンチ自体は割とよく入るのだが、如何せん動きを止めない。その突進ぶりたるや、まるで痛覚が麻痺しているのかと錯覚しそうな程。

(チッ、戦車か何かかコイツは!)

忌々しげに舌打ちし、仕切り直すべく左ジャブをぶつけていく心。それに対し、アンナは中間距離での刺し合いを放棄。
ひたすらガードを固め接近を試みてきた。
正面からのジャブやストレートは、一時的に前進を止めはするものの全てグローブやヘッドギアで防がれてしまう。
巧みなフットワークのおかげでクロスレンジへの侵入だけは許していないが、このままではいずれ捕まるだろう。

(……イチかバチか、狙ってみるか)

作戦変更、この不沈艦を沈めるには主砲しかない。ジャブでアンナの突進を緩和しつつ、心は素速く周囲の風景に意識を持っていく。その時……



ギィッ



後退を妨げる何かが背中を押し返してきた。

「ロープ背負った!?」

リング下から観戦していた越花が、悲鳴に似た声を上げる。

「ナイス、アンナお姉さまぁ! そんな奴ボッコボコにしちゃえ!!」

更に、晶がここぞとばかり野次を飛ばす。

(もらったぁッ!)

ここを千載一遇のチャンスと見定めたアンナ、一気に距離を詰めると左ショートフックから右ボディーストレートのコンビネーションブローを放った。

だが、アンナは気付かなかった。
ロープに詰まったのが、心の仕掛けた計略だった事に。



 アンナがそれと気付いたのは、フックが“心の前を掠めるように空振った”時である。明らかにクリーンヒット……それが叶わないまでも、間違いなくガードはさせられた筈。
それが、拳には何の手応えすらなくかわされた。

“当たる筈の空間に心がいなかった”。

そして、反復練習で覚えさせた通りに右ストレートは心の腹へ。そこを狙われた。



バクンッ!



一際大きな殴打の音。それは、心のカウンター……右ストレートであった。
一方アンナのボディーブローは、届くより前に心によってブロックされている。

「ぶひゅうッ!」

頬を歪に押し潰されたアンナは、パァッと霧状の汗を撒き散らしヨロヨロと後退。効いてしまっているのは、誰の目にも明らかだった。
強烈な、タイミングの合ったカウンターだけにこれは倒れるか? と思われた。が、アンナは踏み止まった。
肩や脚を震わせながら、だがこのイタリアンハーフは眼前の親友に対する闘志を些かも萎えさせてはいない。
鼻からは赤いラインが一筋垂れ、それは口の端を経由しアゴへと伝っていく。
荒い呼吸を繰り返しながらもグローブの隙間から覗くアンナの、その鬼気迫る表情に心は戦慄を覚えた。

イチかバチか、隠し玉まで披露して尚ダウンにすら届かない。
もしかしてアタシのパンチではアンナを倒せないのか?

嫌な思考が脳裏を過ぎる。その戦慄、逡巡は致命的な反応の遅れとなって自身へと覆い被さってきた。
即ち、アンナの放った右アッパーに全く反応出来なかったのである。



ゴゥッ!



反応するより速く、アンナのアッパーがロープに詰まったままの心のアゴに炸裂。
見えざる糸がブチブチと断線していく感覚を味わいながら、心は口腔内から唾液を噴き出す。
本能的にヤバいと思った時には、返しの左ショートフックでテンプルを痛打されていた。
振り下ろされた死神の鎌が、獲物の感覚神経の糸を次々と断ち切っていく。

「ぐかッ……」

脳を縦横に揺らされ、視界がブラックアウトした心はバランスを失い、腰を落とす。
咄嗟にロープを掴もうとするも叶わず、遂には人形を操る糸すら断たれたかのように、アンナの足元へ蹲る形で崩れ落ちた。

「ダウーン! 下がれ、城之内」

植木が間髪入れず2人の間に割って入り、アンナをニュートラルコーナーへ下がらせる。
よりによって、ソリッドパンチャーの切れるパンチを立て続けに2発、それも脳を揺さぶるクリーンヒット。
これはもう無理か、と思いつつ植木はカウントを数え始めた。



「これは決まっちゃったかも。狙いはすごかったんだけどなぁ……」

 ダウンカウントが数え上げられる中、越花は隣に並ぶ従姉妹の呟きを耳にする。

「狙い?」

「うん。多分、“ロープ・ア・ドープ”戦法を狙ったんだと思うの」

「ろーぷあどーぷ……?」

聞いた事もない単語を紡がれ、首を捻りながら鸚鵡返しに尋ねる越花。

「昔の有名なボクサーが使った戦法でね。わざとロープに詰まって相手の連打を誘うの」

「え~。でもそれって、KOしてって言ってるのも同じなんじゃ……」

「ところが、逃げ場がないと思われたロープ際に逃げ場はあった。どういう事か分かる?」

「ん~~……分からないよぅ」

「ロープを背にはしたけど、凭れ掛かってはいなかった。つまり、追いつめたと相手に錯覚させたのよ」

突如、越花の隣から雪菜の問いかけに対する解答が述べられる。ナミであった。
心のダウンに神妙な面持ちを湛え、視線をリングに向けたままでの解答である。

ナミも、雪菜と同じく十中八九勝敗は決したと判断。意識はあったとしても、或いは……

「う~ん。言いたい事はなんとなく分かったけど、やっぱり危険すぎるよぉ」

この先の展開に意識を傾けていると、隣の越花があれこれと思考を巡らせていた。
彼女の言う通り、『ロープ・ア・ドープ』はあくまで背水の戦法。あの局面で狙うには、ハイリスクだったと言わざるを得ない。
ロープの弾力を利用し、身体を強引に押し込む事で逃げられない筈の場所に空間を生み出す……即ち、ロープ・ア・ドープ。
ただ、ロープを飛び越えてバックステップは出来ない。やはり、どうしても行動の制限が掛けられるのは当然の帰結といえた。

恐らく、並のパンチではグラつかないアンナに効いたパンチを入れるには、ロープ・ア・ドープ戦法によって攻め気を誘発した上でカウンターを当てる方法しか見い出せなかったのだろう。
もしくは、それでダウンを奪える程度の算段はあったのかも知れない。そして、狙いは九分九厘成功したといってよかっただろう。

自らの身体をわざとロープに沈み込ませる事で空間を生み、フックを空振りさせる。
更にロープに押し戻される反動をも利用し、勢いの乗ったカウンター。
まさに、心の描いたこの流れこそが勝利の方程式。

ただ、唯一の誤算はアンナの打たれ強さが心の予想の遥か上にあった事。
強靭な首の筋肉が脳の揺れを緩和し、バネのように柔軟な下半身の筋肉がパンチの衝撃を流させた。

ただ唯一の誤算が、この闘いを決定づけたのだと、ナミは思った。



 ダウンカウントが数えられる中、心はグニャグニャに歪んだ風景に吐き気を催す気分だった。意識はある。ダウンしたのも分かる。
ただ、どんな体勢でリングに這っているのかが全く分からない。ともかく立たなきゃ、と身体を動かしてみると、背中に柔らかくも硬い感触。
何の事もない、ロープを背に尻もちを着き天井を仰いでいただけだ。

(まさかあのカウンターに耐えるなんて……必要以上に首と下半身を鍛えさせるんじゃなかった)

良かれと思ってアンナのコーチングを引き受け、ディフェンスの脆さを補う為に打たれ強くなるトレーニングを課した。
それがこの場で裏目に出た事への自虐に、内心苦笑する心。
カウントが3に差し掛かった頃、心はニュートラルコーナーに佇む親友の姿を一瞥すると立ち上がる仕草を見せた。
そして、まるで効いていないかのようにスクッと立ち上がり……



ドンッ!



あっさりとキャンバスに腰を落としてしまった。

「え……?」

思わず疑問の声を漏らしてしまう。もう1度立ち上がろうと腰を上げるも、生まれたての小鹿のようにカクカク膝を震わせた後、ペタンと内股で座り込んでしまった。

「うそ……立て、ない」

未だ歪な視界に、間近で無情なカウントを宣告する顧問の姿。それを確認した瞬間、忘れかけていた吐き気が一気に押し寄せ……

「ぅぶッ! うえぇッ、おええ!!」

グローブを口元に宛てがう間もなく吐いた。
マウスピースごと胃の中の物を吐瀉し、涙に顔を歪ませていく。

「む? ストップ、試合終了だ! 誰か、タオルと氷嚢の用意ッ」

心の異変に植木がすぐさま試合を止め、処置の準備を急がせる。用意していた救急セットを手早くひっ掴み、大江戸 進が巨躯に似合わぬ身軽さでトップロープを飛び越えリングに舞った。
ひとしきり嘔吐し終え、次いで眩暈(めまい)を起こした心をゆっくり寝かせると、ヘッドギアを植木、グローブを由起、シューズを同じくリングインしてきたナミによって手際良く外されていく。

処置を一旦由起らに任せ、植木は呆然と立ち尽くすアンナの方へ向かうと、

「試合終了だ。城之内、お前がライト級の代表だ」

と腕を高々と掲げてみせた。

激闘必至と思われたライト級の対決。
激闘には違いなかっただろうが、こんな呆気ない幕切れを予想した者は、恐らくアンナも含め誰もいなかった。





to be continued……
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コメント

No title

やったわネ!アンナちゃん!さすがは光綾の花山!!!
首の強靱さップリはむしろピクルだわ!!
そして、引退する心ちゃん…今後の展開に期待だわ!!

晶ちゃんの応援(野次)に素晴らしいゆでイズムを感じたワ…w

アンナ、予想以上の成長ぶりを見せ付けました。花山さんやピクルは……まぁアレですけど、ちょっと女子高生してないですね。
決意も虚しく嘔吐してのKO負けを喰らった心、その行く先は果たしてどうなるのでしょう。

あと、特にゆで先生は意識してませんでしたw
Secre

プロフィール

チャパロット

Author:チャパロット
基本的に携帯サイトで書かせて頂いているもののリメイク(?)ですが、ちょくちょく文を変更してたりします(あと拙いですが自作絵なども)。
何かある方は、ckcwb305あっとまーくsutv.zaq.ne.jpにご連絡下さい。

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