スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

第22話 『試練の夏合宿(5) 予想外の苦戦の中』

 プロボクシング編、第22話です。



<拍手返信>
・ぴーこ様:雪菜、さすがにI・H全国経験者の貫禄を見せ付けて詩織を下した訳ですが、詩織もまだまだこれから。これを糧に詩織も頑張っていく事でしょう。
そして今回の肝の都亀と片目を塞いだナミ……進の謎のアドバイスも併せてお楽しみをw




左アキレス腱断裂という、都亀の抱えたトラウマを払拭するべく組まれた、ナミとのスパーリング。
ハンデとして左目をタオルで隠し臨むナミであったが、片目の不利は彼女の予想を遥か上回った。
都亀優位のまま、スパーリングは続いていく……









「ぐぅッ」

 ボスッ! と鈍い音を立て、左脇腹に衝撃が波立っていく。身体全体に響く鈍痛に眉を顰め、視野の無くなった左側へと正対するもそこに相手はいない。

光陵女子ボクシング部の夏合宿、部内選考第3試合……下司 ナミと杉山 都亀とのスパーリングは、誰もが目を疑う展開で幕を開けた。
都亀の左アキレス腱はもう完治している、というインストラクター、大江戸 進の一言から始まった今回の特別スパーリング。
ナミはハンデと称して左目をタオルで覆い、片目だけの視野で対峙。
結果それは彼女から遠近感を奪い、都亀が圧倒的優位に試合を運ぶ呼び水となったのである。

「シッ!」

短く息を吐き、ナミは回り込まれたであろう死角へ向け左ジャブを放つ。パシッと乾いた殴打音と僅かな手応え。
どうやら、当たりはしたもののグローブの上から叩いただけらしい。
そしてすぐに引きガードの位置に構えた左拳から、打たれた衝撃が伝わる。
散々やってきた反復練習のおかげで、辛うじて被弾を免れたナミは改めて身体を左側へと展開していく。

一瞬都亀の左肩が見え、さらに身体を捻りつつ右フックを振り回した。



ゴッ!



鈍い打撃音が二重奏で重なる。ナミのフックは都亀の左肩に、恐らく右ストレートであろう都亀のパンチはナミの頬を綺麗に打ち抜いていた。

「くッ」
「ぶほぅッ」

互いの口から漏れる呻き声。形だけの相打ちは、だが顕著にダメージの差を見せた。即ち、ナミの口から唾液の糸を引きマウスピースが弾き飛ばされたのだ。

見えない所からのパンチは予想以上に効く。しかもそれがカウンターヒットとあっては、ダメージのない訳がない。
ナミは身体をグラつかせ、自分の右拳に確かな感触を覚えた都亀は機に乗じて追撃の態勢。

そこへ、「ストップ、杉山! 1R終了だッ!!」と植木が割り込み都亀を制した。どうやら、相打ちの時点で1R終了のブザーが鳴っていたようだ。



 1Rが終了し、2人はコーナーへと引き返す。被弾らしい被弾もなかった都亀と、左頬だけが僅かに赤味を差し息を吐くナミ。
その対照が、優劣の差を嫌でも浮き彫りにしていた。

「はぁ、はぁ……」

スツールに座り、ナミは顔を上げ酸素を取り込む。左目を塞がれるという状況が如何に絶望的なものか、改めて思い知らされる。

だが、これはいつか役に立つハズ! ナミは、そう信じて疑わなかった。

「下司さん、やっぱりいくらなんでも片目だけじゃ無理だよ。今からでもタオル外そう?」

キャンバスに落ちていたマウスピースを水で洗いながら、陽子が心配そうな顔を覗かせる。

「ダメよ。一旦腫れた瞼が試合中に治るなんて事はないんだから。それに、これぐらいの逆境を乗り越えられないんじゃ、あの娘には勝てないわ」

深呼吸を繰り返し、ナミは陽子の提案を静かだが強い意志で拒否。タオルで隠れていない、少女の右の瞳は都亀の方を向き鋭い光を放っていた。



 第2R開始のブザーが鳴り、ナミは勢い良くコーナーを飛び出していく。その後ろ姿を視線で追いかけながら、陽子はナミが呟いた“あの娘”という単語が気になっていた。

それが、眼前の都亀を指さない事だけは確かだろう……

2Rに入っても、死角に回り込む都亀をナミが追う、という構図は変わらない。ただ、都亀のパンチがクリーンヒットする回数は格段に減っていた。
ナミが背を丸め、左腕をガッチリ固定する事で完全な盾を形成したからである。

ガードの上から、都亀のパンチが衝撃を残す。手首に余韻を残し、飛んできたパンチを辿るようにナミは右フックを丁度腹に当たる高さで振り抜いた。
ブンッ! と風を切る音が鳴るのみで、拳に手応えはない。
腰を捻るように身体を正対させる。
射程圏の僅か外に都亀の姿が視認出来た。

(もうちょっと踏み込まないとダメ、か)

すぐさま左側へと溶け込んでいく都亀を追跡しつつ、ナミはさらに一歩分踏み足を強めていった。

 

 2R目に入ってから、パンチがめっきり当たらなくなった。盾と化した左腕が、ヒットポイントを完全に遮断しているせいだというのは理解出来る。
それはナミの左を封じたに等しい、という事も都亀にとっては大きな強み。

このままの展開に終始出来たなら、自分はあの下司 ナミに勝てる!

そう、信じた。今、目の前で空振りした右ボディーフックさえなければ。
結果としては、ただの空振りで終わった筈のパンチ。

だが、“結果として空振った”だけだ。

実は、都亀は死角から右ストレートをガードさせた後に一歩踏み込んで左フックを打ち込もうとしていたのである。
インファイトでは、如何に片目であろうとナミを相手に勝てる要素はない。
それを踏まえて、距離は充分取っていた筈。
だのに、彼女のフックは自分の脇腹を擦める一歩手前まで飛来してきたのだ。

この空振りで、都亀は一瞬その脚を止めてしまう。そして、それは致命的な隙を生んでしまった。

刹那、右脇腹に重く鈍い衝撃。次いで、左頬を熱風が襲い掛かってきた。

「がッ」

訳も分からない内に身体がグラつき、望んでもいないのに後ろへと脚が進む。ようやく体勢を直したと思えば、今度はナミの姿が見えない。
視認もままならぬ状態、貫かんばかりの重い1発が腹へ。

「うぇッ」

予期する間もなかった都亀に腹筋を絞る余裕などなく、深々と突き立ったナミの右拳を支点に身体がくの字に折れ曲がる。
素速くナミが拳を引くと、都亀は両腕で腹を抱えた姿勢のまま、その場で膝を着いてしまった。

「ダウーン!」

一部始終を間近で見ていた植木が、すかさず両者の間に割って入る。
そして、少し息を切らしたナミをニュートラルコーナーへ下がらせ、腹を抱えて蹲る都亀に向けてダウンカウントを数え始めた。

たった1発の空振りが生んだ逆転のノックダウン。
これには、リング下で見ていた誰もが戦慄を覚えた。
恐らく……いや、間違いなく偶然の産物だろう。
だが、その一瞬の光明をナミは見事に掴んでみせた。

「すごいな……」

どこからか、掠れた声が上がる。それは、多分全員の総意であった。



 カウントが続く。口から唾液の筋を垂らし、都亀はただ焼けるような痛みに耐えていた。

(息が……くそッ、ハンデをもらったって、結局ボクなんかじゃ手も足も……)

片目を隠すハンデを貰って尚突きつけられる、全国レベルのナミとの確たる隔たり。理解していた筈なのに、都亀は自分の中で戦意が急速に萎えていくのを感じた。

もう、このまま終わってもいいか……そう半ば以上諦めかけた時、

「君はまだ終わってない! 全力を出し切っていないぞ!! 立つんだッ、杉山君」

地鳴りの如き怒声が部屋全体を揺さぶった。
青コーナーに佇む、大江戸 進である。

「そうよ、杉山さん。こんなので終わらせたんじゃ、わたしがなんの為にここに立ってるのか分からないじゃない!」

更に、ナミもニュートラルコーナーから蹲ったままの都亀に激を飛ばす。
これは、ただのスパーリングではない。
都亀のアキレス腱がちゃんと完治しているか、しっかり動けるかを確認する為のスパーリングなのだ。

「どうする。まだやれるか?」

カウントを数えていた筈の植木も、すぐそばに膝立ち都亀を見つめる。
ナミの、部員たちの、植木の、そして何よりこんな自分を信じ大声で激を飛ばしてくれた進の、数多くの気持ち。
これらは、ものの見事に都亀の弱い虫を吹き飛ばしてくれた。

「まだ……まだやりますッ」

腹に響く鈍痛を跳ね退け、都亀は立ち上がりファイティングポーズを構える。それを見たナミは、1度大きく頷いてみせ、都亀へと向かっていった。










ビーーーーッ!



 全3R、正味6分間に於ける、ナミと都亀のスパーリングは無事終了。結局、都亀は2Rの残りと3R全部を一方的に押され、都合4度ものダウンを喫した。
ナミの抜群の当て勘が冴えた結果である。しかし、都亀は明らかな劣勢でも懸命に脚を動かし、手を出し続けた。

最後の最後まで、左足は気にしなかった……否、ならなかった。

皆の期待に応えたい! という気持ちが溢れ、他の雑念を入れる余裕などなかったからだ、と都亀は今にして思う。

「はぁ、はぁ、大江戸コーチ……」

全力で動いた代償として、大きく肩を上下させ珠の汗が身体中を伝っていく。
ヘッドギアを外すと、そこには苦しそうに口を開けて酸素を取り込みながらも、満足げな表情を見せる都亀の顔があった。

「どうやら、僕の教えた小細工は必要なかったようだね。足はどうだい?」

日に焼けた浅黒い顔に白い歯を光らせ、進がアキレス腱の具合を訊ねる。その場で軽くジャンプしてみせ、都亀は首を振ってみせた。
どうやら、痛みは感じないようだ。

「そうか。ともかく、君の足はもう完全に問題ないよ。僕の見立てが正しくてよかったよかった」

胸を撫で下ろすフリをしてみせ、大きく息を吐く進。

「でも、大江戸コーチが激励……後押ししてくれたから、ボクは最後まで頑張ろうって気になったんです」

由起から手渡されたタオルで汗を拭い、都亀は破顔してみせる。

「実際、動きは悪くなかったと思うし……県予選が楽しみだわ」

都亀の後ろから、同じくタオルを首に掛けたナミが近付き健闘を称えた。



「そういえば下司さん。あの左目を隠したのって、本当にハンデだけの理由だったの?」

 リングを降り、ナミの顔へ手際良く処置を施しつつ、由起は抱えていた疑問をぶつけてみた。隣で進に同じく処置を受けていた都亀も、興味があったらしく身を乗り出してくる。

「あー、あれですか? 一応わたしなりのサウスポー対策を試してみたんですよ」

「サウスポー対策?」

「ほら、ちょうどI・H前辺りで帰ってくるじゃないですか。アイツが……帰ってきたら成果を見せてもらうつもりなんで」

嬉々と語るナミに、ボクも気になると都亀も頷く。

“あの娘”の見当がついたようで納得する陽子や、楽しみだねと相槌を打つ都亀と談笑するナミに、由起は腑に落ちない表情を覗かせていた。

(高頭さん、か。いいえ、多分違うわね。貴女がサウスポー対策をした本当の理由……それって)

由起は、心中で呟き1人の女の子を思い浮かべる。

黒っぽい茶色の髪をポニーテールに結わえた、巨乳のハードパンチャー。
ナミに初めて敗北を刻んだ、加藤 夕貴の姿を。

どう言い繕おうが、下司 ナミというボクサーにとって1番の壁はやはり彼女。
例え夕貴より強い選手が目の前に現れたとて、それ自体にあまり意味はないだろう。
ナミにとっての彼女は、まさに最大最強のライバルなのだ、と思う由起であった。



 ナミと都亀のスパーリングが終わり、いよいよ部内選考も残す所あと1試合のみ。
ライト級の出場権を賭けて鎬を削るのは、金髪碧眼のイタリアンハーフ、城之内 アンナと黒髪ロングヘアーの元・不良少女、知念 心。
紆余曲折を経て、お互い親友と認めるに至ったこの両名が、本気でグローブを交えるのはこれで2度目。

「アンナ」

準備が整い、リングへ上がった所で心が対戦者を呼び止めた。

「ん?」

やや緊張の面持ちで、アンナは碧い瞳を向ける。その先には、何事か大きな決意を感じさせる親友の眼差しがあった。
そして、程なく彼女はその決意を知る事となる。微塵の逡巡もなく発せられた、本人からの告白によって。

「この試合……アタシは自分の選手生命を賭ける。もしあんたに勝てなかったら、アタシは選手を引退する」

目が点になっていた。アンナだけではない。
この場の全員が、等しく目を点にし爆弾発言に耳を疑った。そして思った。


一体何を言い出すんだ、こいつは


と……

「前々から感じてたんだ。あんたからコーチングを頼まれて、近くで見るようになってから」

アンナと向き合い、心は淡々と心中を言葉に乗せ紡ぐ。

「二年生になってから、あんたは急激に伸びていってる。多分、他のヤツらも感じてるんじゃない?」

この言葉に、覚えのあるのか何人かが頷き同意。

「確かにあんたはすごい勢いで成長してる。正直、今のアタシじゃ勝てないかも。でもね、アタシにはどうしても借りを返したいヤツがいるんだ。だから、全力であんたから勝ちをもぎ取る!」

かつて、完膚無きまでに叩きのめされた相手がいる。
プライドは完全に砕かれ、1度はボクシングを捨てた。
だが、リベンジの炎は小さく小さく燻ぶり続け、今また激しく燃え始めた。

勝てば、再びリベンジの舞台へ。
負ければ、現役選手を引退。

内に盛る炎を具現化したかのような、この心の決意。それは、否応無しにアンナの闘争心をも着火させた。

「心……分かった。私も全力で心を倒すよ!」

ガラス細工のような碧い瞳をギラギラに光らせ、アンナが右拳を突き出す。心も右拳を合わせ、部内選考・最終戦は幕を開けようとしていた。





to be continued……
スポンサーサイト

コメント

No title

夕貴ちゃんの名前、久しぶりに聞いた気がするわ…そうよね、ナミちゃんが倒すべき相手、目標は夕貴ちゃんなのだわ!
肝心の夕貴ちゃんは柊ちゃん相手にゴニヨゴニョだけどwww

そして、ついにアテクシのアンナちゃん!そして対するは心ちゃん!
さてさてアテクシの記憶からどう転んでいくかァァ期待だわ!!!

やっぱりナミにとって最大の壁は夕貴なので、おのずと対策を考えてしまう訳です。
あと、ようやく最終戦までこぎつけました。アンナの闘いぶりをとくとご覧下さいw
Secre

プロフィール

チャパロット

Author:チャパロット
基本的に携帯サイトで書かせて頂いているもののリメイク(?)ですが、ちょくちょく文を変更してたりします(あと拙いですが自作絵なども)。
何かある方は、ckcwb305あっとまーくsutv.zaq.ne.jpにご連絡下さい。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。