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第20話 『試練の夏合宿(3) 部内選考始まる』

 プロボクシング編、第20話です。

<拍手返信>
・ぴーこ様:ナミを相手に都亀がどう立ち回るのか? アキレス腱のトラウマは果たして克服出来るのか? そこがこの1戦の醍醐味となるでしょう。
久野のプロ希望を皮切りに他の面々がどういう行動を取るのか、そこも重ねてお待ち下さい。
・竜二様:心がプロに興味ないと言ってますが、それは『あくまで現時点で』の話です。話次第でどうなるかは、まだ分かりませんよ?
・blackflyingwing様:Yahooブログの【美沙紀~】は申し訳ありません、今の所続きを書く予定はないです。ですが、意欲が沸けばまた手がけていきたいな、とは思ってますので……





夏合宿3日目。インストラクター、大江戸 進は都亀に告げた。「もうアキレス腱は完全に治っている」と。
それを証明する為、部内選考でナミと都亀のスパーリングが組み込まれる事に一抹の不安を覚える植木。それぞれの思惑を乗せ、運命の日はすぐそこまで迫ってきていた。









 2011年、7月。光陵女子ボクシング部が発足して2年目の夏合宿は、早いもので6日目を迎えた。
この日は、I・H神奈川県予選の出場者を決める為の部内選考が午後から予定されている。

出場権を賭けた真剣勝負、そのプログラムは以下の通り。

第1試合、葉月 越花vs室町 晶(フェザー級)
第2試合、葉月 雪菜vs桃生 詩織(ライト・フライ級)
第3試合、下司 ナミvs杉山 都亀(特別試合)
そして最終第4試合、城之内 アンナvs知念 心(ライト級)

ちなみにピン級の桜 順子とフライ級のナミ、バンタム級の都亀は同階級に対戦者がいない為、既に出場が決定している。
本来であればピン級には比我 秋奈、フライ級には下司 サラがそれぞれいるのだが、まだ公式戦に出るだけの実力が備わっていないと顧問の植木が判断。今回は試合を組まなかった。

尚、ナミと都亀の試合はインストラクター大江戸 進からの提案で急遽組まれたものである。



 午前中は軽いウォームアップのみとし、各々がコンセントレーションを高めていく。試合に臨む部員たちは言葉少なめに午前を終え、いよいよ午後に突入。
部員たちがリング下で見守る中、リング上では早速越花と晶が中央で向かい合っていた。レフェリーは、やはり1番経験の豊富な植木が担当し、試合上の諸注意を両部員に伝える。
最後にグローブタッチをさせると、それぞれ各コーナーへと下がらせた。

赤コーナー側に越花とマネージャーの中森 陽子、対する青コーナー側に晶と同じくマネージャーの大内山 由起。
この部内選考、選手だけでなく由起と陽子も互いにセコンドとして真剣勝負の場に立っているのだ。

「よし、そろそろ始めるぞ。時間合わせてくれ」

越花と晶の準備が整った頃合いを見て、植木は今回試合予定の入っていない順子に自動タイマーのセットを指示。
開始10秒前! との返答が返ってくると、越花と晶はマウスピースを口に含み時を待つ。



ビーーーーッ!



トレーニングルーム全体に響く大音量をヘッドギア越しに聞き、リング上の2人は弾かれるようにコーナーを飛び出していった。



 リング中央、右構えのオーソドックススタイルで向かい合う両者。この対戦、例えるならば静と動。即ち、越花は守り晶は攻めるという構図。

「シッ! シュッ!!」

晶が、様子見を決め込む先輩に対し果敢な左ジャブの連打を放つ。負けるなど微塵にも感じていない、それは自信に満ちたパンチであった。
しかし、越花は焦った様子も見せず的確にそれら自信の塊を捌いていく。

ボクシング歴だけでいえば、確かに晶の方が長いかも知れない。が、越花とて光陵の厳しい練習や彼氏・前野 裕也とのマンツーマン練習を経て、確実に地力をつけてきている。
後輩に負ける訳にはいかない、との意地も少なからずあった。

ただ、意地だけで勝負に勝てるほど、甘美な世界でないのがボクシング。捌きこそしたものの、反撃するには至っていない。
晶のジャブには、容易に反撃を許さないだけの迫力を感じさせた。
キュキュッというキャンバスとシューズの摩擦音が良く響くリング上、晶が積極的な攻勢に出れば越花が後退しつつ守勢に回る、といった展開が続く。
越花も左ジャブをばら撒き突き放しにかかってはいるものの、突進力を加味した強固なガードに弾かれるばかり。

“攻撃は最大の防御”とは良く言ったものだ。

ガードを固めていながらも、さながら竜巻の如く突っ込むその姿勢は、まさに攻撃であった。



 大した動きの変動も見られないまま1Rも残り僅かとなった頃、バンッ! という一際大きな音が膠着を切り裂く。
それは、同時に繰り出した右ストレートがお互いの顔に突き立った音であった。

「ぐぶっ」
「ぶひゅっ」

交差した腕が引かれ、一撃を貰った2人がヨタつく。威力だけなら晶に軍配が上がっただろう。しかし、リーチに勝る越花のパンチの方が先に当たった事で晶のパンチは威力が弱まったようだ。
それでも晶の方がいち早く体勢を立て直し、まだバランスを崩したままの越花へと襲いかかった。

(もらったぁ!)

ダンッと左足を踏み締め、右腕を引く。腰に力を溜め、晶は体重を乗せた渾身の右ストレートを先輩へと打ち放つ。
右腕を引いた辺りでようやく体勢を整えた越花、迫る右ストレートに対し反撃。再び中空でパンチが交差され……



グシャッ!



鈍い殴打音が響き渡った。

「ぐぼぅッ」

頬を押し潰す強烈な一撃に、唾液に濡れた白いマウスピースが口から押し出される。全身を痺れるような感覚に支配され、吹き飛ばされた身体はロープにしがみつく事で辛うじて崩れ落ちる事態だけは免れた。
ただ、明らかに効いてしまっているらしく、口の端からは唾液が滴り目は泳いでいるのが一目で分かる。
鼻を打たれたのだろう、一筋の出血が垂れ落ちていく。

「ストーップ! ダウンだッ」

ダメージが深いと見て取った植木は、すぐさま両者の間に割って入る。そして、ダウンを奪った方……越花に対しニュートラルコーナーへと下がるよう指示した。

「はあ、はあ……」

晶より後に放った筈の越花のパンチ……それは彼女の秘密兵器、『スイッチ』からの右ストレートによるものであった。
元来世にも稀な両手利きという特長を活かした『スイッチ』で、体勢を立て直しざま構えを左右対照に切り替え、最短軌道でカウンターを打ち込んだのである。
結果は見ての通り、晶は溜めを作った分初動作が遅れ、しかも最短距離を突き進んでくる越花のパンチを迂回する格好となってしまった。
故にカウンターが成立してしまい、マウスピースを吐き出した挙げ句スタンディングダウンを奪われてしまったのである。

事態を飲み込むのに若干時を要したものの、ロープに背中を預けつつカウント8でファイティングポーズを取る。
キャンバスに落ちていたマウスピースを銜えさせ、グローブを拭くと植木は試合再開を促した。



ビーーーーッ!



いざ試合再開といった所で、第1R終了のブザー音。『スイッチ』が効を奏し、意気揚々と赤コーナーに戻る越花。
大して、何が何だか分からないうちに攻めを断ち切られ、ダウンすら奪われた晶は茫然自失といった面持ちで青コーナーへ。
端から見れば、もう試合が決まってしまったかのようなコントラストがリング上で彩られているかのよう。

事実、第2Rに突入しても晶は動きに精彩を欠いていた。というよりは、完全に越花の術中にはまってしまったといった所か。
右構えだったかと思えばいつの間にか左構えに、もしくはその反対に。自在にスタンスを変化させ、左右のパンチどちらもが大砲。
迂闊なパンチを打つとまた訳も分からない内にカウンターを取られかねない……そう考えると、自然と手数が減っていく。

もはや主導権は越花のものであった。



パンッ、パァンッ!



第3Rも越花優勢の展開で、右ジャブから左ストレートの連打が晶の頭を揺らす。

「んッ、はぶぅッ!」

ダウンする程の威力は感じられないが、それでも動きは止まってしまう。元々スタミナ不足な上、散々に翻弄されてしまった晶には、もはや反攻する気力など残っていなかった。



ビーーーーッ!



全3R、賞味6分間の真剣勝負に幕を閉じるブザーの音。途端、晶は天へ顔を向けたまま力が抜けたように肢体をキャンバスへと放り出していった。



 部内選考、第1試合。フェザー級の代表は、終始自分のペースを掴んで離さなかった副主将、葉月 越花が満場一致で勝ち取った。

「残念だったね、晶ちゃん」

敗者となった晶の肩にタオルを掛けてやりながら、サラがベンチへと誘導する。

「う、ん……なんていうか、頭の中がぐるぐるかき回された感じ? わけ分かんないうちに終わっちゃった。悔しいなぁ」

肩に掛けてもらったタオルの柔らかさに和みつつ、足元に視線を落とす晶。

勝てる自信はあった。
自分のパンチが当たれば、だ。

結果は、完敗といっていいだろう。右があと1発でもまともにヒットしていたなら、絶対に倒していた。

だが、当たらなかった。
否、当てる事が出来なかった。

第1Rでのカウンター以外、正直に言って効いたパンチは1つもない。やはりあのカウンター、そして『スイッチ』にしてやられたと、今にして痛感する。

(丁寧なボクシングって、きっとああいうのを言うんだろうな。もっとちゃんと練習して、来年はアタシが勝つんだからッ)

汗か、はたまたそれ以外のものか判別のつかない雫が床に点々と染み込んでいくのを眺めながら、密かに誓う晶であった。



 第1試合、フェザー級の代表が越花と決まった。次は、ライト・フライ級の出場者を決める為の第2試合である。

赤コーナーには先程出場を決めた越花の従姉妹、前年度I・H福島県代表として全国大会にも出た葉月 雪菜が
青コーナーには、一年生トリオの中で1番の成長ぶりを見せる桃生 詩織が

それぞれ準備を終え、リングへと上がっていた。

「胸を、お借りします。全力で行きますので」

「貸せるほど大っきくないけど、どんとおいで。私も手加減はしないから」

リング中央で、植木の注意を聞き終えグローブタッチをする2人。まだ実戦の場数が少なく緊張した面持ちの詩織に対し、雪菜からは余裕のようなものが感じられる。
だが、それは相手が格下だから舐めている……といった、程度の低いものではない。
ナミに負けず劣らずの激戦・接戦を潜り抜いてきた、いうなれば一種の風格とでもいうべきものであろうか。
気を抜けば、瞬時に押し潰されそうなプレッシャーを受けながら、それを振り払うように雪菜を凝視する詩織。
その健気な意地がいっそ初々しく、赤コーナーに向かう途中でつい笑みが零れてしまう。

(おっと、いけない。これから試合だっていうのに)

綻んだ表情を引き締め、雪菜は陽子からマウスピースを受け取る。それを左拳で調整し、試合開始のブザーが鳴ると同時にコーナーを飛び出していった。





to be continued……
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コメント

No title

晶ちゃん残念だわね。
殆どのパンチが効いていなかったらしいし…スイッチのからくりにも馴れたら次は絶対勝てるわ!!
アテクシ、応援シてるからァ!!

晶は根が単純なので、越花のトリッキーな動きで手玉に取られた結果となりました。これがプロのルールなら晶にも充分勝機があったでしょうけど、残念ながら今回はポイント重視のアマチュアルールなんですよね(汗)
Secre

プロフィール

チャパロット

Author:チャパロット
基本的に携帯サイトで書かせて頂いているもののリメイク(?)ですが、ちょくちょく文を変更してたりします(あと拙いですが自作絵なども)。
何かある方は、ckcwb305あっとまーくsutv.zaq.ne.jpにご連絡下さい。

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