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第18話 『試練の夏合宿(1) 大江戸 進、登場』

 プロボクシング編、第18話です。前回から随分と時間が空いてしまいました、申し訳ありません。

<拍手返信>

・ぴーこ様:千恵子はちゃんとした信念を持っているのですが、どうしても実力が及ばないのでかわいそうな立場でもあります。まだまだ当分は苦労するでしょうが、いつか勝てるよう応援してやって下さい。



退部を突き付け、女子ボクシング部を飛び出した都亀。しかし、そんな彼女を見かねた陽子が救いの手を求めたのは、まさかの弥栄 千恵子。
千恵子の言葉によって再びボクシングへの意欲を取り戻した都亀は、改めて部の一員として再出発するのであった。









 杉山 都亀の退部騒動が無事解決してから日にちは過ぎ、学生たちにとって待ちに待った夏休みが到来した。
光陵高校女子ボクシング部の面々は、来る8月のI・Hへ向け最後の追い込みとして、去年と同じように1週間の夏合宿を行う。
場所は、これまた去年と同じ湘南スポーツセンターである。

「さあ、また1週間張り切っていくわよッ!」

主将の下司 ナミが、どこか興奮を抑え切れない様子で吠えた。

今回、この夏合宿に参加するメンバーは以下の通り。


植木 四五郎
下司 ナミ
葉月 越花
大内山 由起
中森 陽子
桜 順子
城之内 アンナ
杉山 都亀
知念 心
葉月 雪菜
比我 秋奈
桃生 詩織
下司 サラ
室町 晶


総勢14名。

ちなみに“目つきの鋭い日本人形”こと高頭 柊は、翌年のロンドンオリンピック強化選手としてそちらの合宿に行っている為、この場にはいない。
全く気にならないかと言えば嘘になるが、成果の程は戻ってからの楽しみと自分を納得させるナミであった。



「よく来たな、ナミ。今年からはサラも一緒か!」

 湘南スポーツセンターに到着するや、1人の筋骨隆々な中年男性が一行を迎えた。

当施設オーナー、下司 拓人。ナミやサラの叔父に当たる人物である。

「今年も1週間、よろしくお願いします」

植木が一同を代表して挨拶し、宿舎に荷物を置くよう指示。その間、植木は拓人に今回就くという専属の指導員に引き合わされた。その人物を見た時、植木に戦慄が走った。

とにかく、デカい。170cmと決して背の高い部類ではない彼だが、これ程肉感のある者を間近で見た事はなかった。ざっと180cm強はあるだろうか。
ランニングシャツに短パンというラフな恰好から見える身体は、全身がマッシブに鍛え上げられているのが分かる。
肌は夏に相応しく小麦に焼け、短く刈られた頭髪がいかにもスポーツマンを連想させた。

「はじめまして、大江戸 進(おおえど すすむ)といいます。1週間よろしくお願いします、植木先生」

はちきれんばかりの筋肉に包まれた浅黒い巨人は、丁寧な口調で挨拶し右手を差し出してきた。

「あ、ああ……こちらこそよろしくお願いします」

まるでグローブのような肉の厚い手を握り返しながら、植木も応える。準備を終えてトレーニングルームに現れた部員たちも、概ね顧問と似たような印象を受けたようだ。

ただ1人、心だけは警戒したように眉を顰めていたが……



 進への挨拶が済むと、早速一同は砂浜へと出る。まずは馴らしと、ナミが先導して5kmのロードワークが始まった。
スポーツセンターに着いて早々練習に入ると思っていなかった晶などは、ぶつぶつ小言を呟きながらも最後尾へ付いて渋々出発していく。
砂浜でのロードワークは、路上のそれと違い柔らかく沈み込む上、砂が足に絡む。故に普段以上の労力を必要とするのである。

「はぁ、はぁ、はぁ……」

先頭を切るナミは勿論の事、去年同じ砂浜でのロードワークをした二年生組は、問題なく通過していく。
同じく二年生ながら初体験の秋奈は、慣れない感覚に戸惑いつつも必死に付いてきている。

問題は、やはり一年生であった。詩織は辛うじて食いついているが、サラと晶は2kmを過ぎた辺りから徐々に引き離され、3kmくらいから完全に失速してしまう。
結局、完走したのは遅れに遅れて10数分後だった。

「遅い! 2人とも、腕立て30回ッ」

息も絶え絶えようやく辿り着いたサラと晶に、ナミの叱咤が飛ぶ。問答無用で腕立て伏せをさせ、他のメンバーには順次100mダッシュを命じた。

「大内山先輩、室町さんとサラなんですけど……」

皆に指示を出す一方で、ナミは由起に練習メニューの一部変更について相談を持ち掛けた。

「あの2人には、まず基礎体力をつけさせないといけないと思うんです」

「そうみたいね。とりあえず植木先生や大江戸インストラクターと話し合ってみるわ」

ノートに何やら書き込みつつ、由起はナミの提案に頷いていた。



 室外では走り込みを重点的に行い、室内に移ってからは器材を使っての筋力トレーニングや、オフェンス・ディフェンステクニックの練習を行う。
植木や由起が練ったプランに則り、それぞれが練習を始める。それは、個人個人の短所を埋める作業であった。
尖った部分を絶対の武器にまで昇華する……という考え方もあったが、アマチュアではやはり総合力がモノをいうだろう、と植木は思っている。
由起も、概ねこれに同意であるという。

まず、第一にスタミナ・基礎筋力。多少テクニックが未熟であろうと、2分3ラウンドをきっちり全力で動き回れさえすれば何とかなるのだ。

筋力トレーニング等の基礎練習は進に頼み、専門的な部分は植木と由起が中心となって指導していく。それに、ナミや心、雪菜といった長年の経験者がフォローを行う事で、効率は一層飛躍していた。

「次ッ! 桜、リングに上がって」

リング上でパンチングミットを持った心が都亀を招き入れる。その様子を見ていた植木が、感心したようにしきりに頷いていた。

「あいつ、結構教えるの上手いな」

そばにいた陽子も、それに釣られて頷く。実際、選手としては勿論の事、トレーナーとしての才も豊かなものを、知念 心という人物は持ち合わせていた。
本人は否定するかも知れないが、目上を相手にしても歯に衣着せない直球な意見を言える意志と、理論的かつ客観的に物事を捉えられる視野は、彼女の適性の高さを窺わせるものといえよう。



「よぉし、10分休憩。みんな、しっかり水分取って」


 部で持ち込まれたタイマー型のブザーが正確に鳴り響き、ナミが休憩を告げた。本人はまだ至ってピンピンしていたが、アンナと雪菜を除く他の部員たちは全員が汗だくの表情で肩を上下させる。
サラに至っては、身体の酷使に耐え切れず何度か嘔吐していた。

「サラ、大丈夫? 今日はもういいから、クールダウンして上がりなさい」

完全に伸びているサラへ、姉が声を掛ける。主将という立場上甘やかす事は出来ないが、明らかにオーバーワークである様子の妹を権限で休ませるのも、また務めと考えての言葉だった。

しかし、そのオブラートに包まれた姉の愛情を、妹は拒絶する。

「はぁ、はぁ、はぁ……いい、大丈夫。こんなので根なんか上げてたら、姉ちゃんの足元すら見えないもん」

汗だくの身体に鞭打ち、ガクガクと震える膝を手で抑え込み立ち上がるサラ。かつて『姉を超えたい』と洩らしたあの言葉に偽りのない、ある種執念じみた根性でサラはこの後の練習全てを食らいついてみせた。



「よーし、今日の練習はこれまで! 晩メシは18:30だ、それまでは自由にしていいぞ」

 PM17:00。クールダウンの最中だった部員たちに、植木から練習終了が告げられる。「ありがとうございましたぁ!」とナミの号令一下、全員が頭を下げたのを見届けてから、植木は進と奥に引っ込む。

夏合宿、その初日の練習は終わった。ここからは女子高生としての時間である。

「さあ、海に出るわよぉッ」

いつの間にやら水着に着替えたナミが、爛々と目を輝かせながら湘南の海へとひた走っていく。
越花やアンナ、順子らもそれに倣い駆け出していく姿を見て、余裕の欠片もない詩織や晶は唖然としていた。

「あ、あんな猛練習の後なのに……」
「まだ動き回るワケ……」
「ね、姉ちゃんって、夏になると最低2回は行かなきゃ気が済まないぐらい好きだから……海水浴」

全身に力が入らず肩を上下させながら、呆れた表情でナミたちが飛び出していった入口を眺める一年生3人。

「あんたたちも行ってきたら? 持ってきたんでしょ、水着」

練習場に倒れ込んだままの3人を見下ろし、練習着姿の心が言う。

「そういう知念先輩は行かないんですか?」

「アタシは別に。ガラじゃないし……というか、そんなヘタってたんじゃ行くに行けないか」

床に寝そべったまま動けないでいる後輩たちを一瞥し、思う所あったのか腕を取るとリング内に上げ、うつ伏せに並べていく。
そして、急に晶の全身をマッサージし始めた。

「い!? いひゃひゃひゃ、痛ひゃいッ!!」

痛いのかくすぐったいのか判別し辛い奇声を上げ、晶が悶絶する。だがそんな叫びはさらっと流し、入念に筋肉をほぐしていく。
それを全員に行い、立ち上がると手をパンパンと払う仕草をしてみせる。
そして、痛さと気持ち良さでさながら陸に打ち上げられた魚の如く身をくねらせる3人を置き去りに、心は無言で宿舎へと引き揚げていくのであった。



 夕飯が済み、夜の月を反射して漣が静かに押しては返す海の音に聞き耳を立てながら、ナミは植木、由起の2人と一緒に砂浜をざくざくと歩いていた。

「で、6日目の部内選考なんだが……」

そう切り出し、植木が1枚の紙をナミに差し出す。そこには、各階級に於ける光陵の代表を決める為の試合一覧が記されていた。


ピン級、桜 順子(決定)
ライト・フライ級、葉月 雪菜vs桃生 詩織
フライ級、下司 ナミ(決定)
バンタム級、杉山 都亀(決定)
フェザー級、葉月 越花vs室町 晶
ライト級、知念 心vs城之内 アンナ


各階級の対戦表一覧を目に通し、ナミは小首を傾げる。てっきり、自分は雪菜とやり合う事になるとばかり思っていたからだ。
他にも、心とアンナがぶつかるといった構図が意外性を誘う。心は、どちらかといえばフェザー寄りの体格である。
従って、ナミは越花と心のフェザー級争いになると踏んでいたのだ。

「雪菜と知念はどちらも自分から言い出したんだ。今回は本人たちの意志を汲んでやろうと思ってな」

ナミの疑念を読んだのか、植木が先んじて理由を説明する。顧問とマネージャーの決定に口を挟むつもりは、ナミにはない。
部内選考がどのような結果に終わるのかはともかく、それはまだ数日先の話。

夏合宿は、まだその初日を終えたばかりであった。





to be continued……
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コメント

No title

…詩織ちゃん可哀想…。

後、アテクシの愛する、光陵の花山薫(ダレモイッテナイ)アンナちゃんに何か動きが有りそう、楽しみだわ!

対戦カードだけ見ると、確かに詩織は既に詰んでますよね。でも、何があるのか分かりませんよ?
素手ゴロな感じは確かに花山さんに似通ってる所もあるのかも、アンナ。さて心との対戦となる訳ですが、どうなるでしょうか。それはまた次回以降という事で。
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プロフィール

チャパロット

Author:チャパロット
基本的に携帯サイトで書かせて頂いているもののリメイク(?)ですが、ちょくちょく文を変更してたりします(あと拙いですが自作絵なども)。
何かある方は、ckcwb305あっとまーくsutv.zaq.ne.jpにご連絡下さい。

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