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第17話 『都亀の去就、陽子の助け舟』

 プロボクシング編、第17話です。


<拍手返信>

・ぴーこ様:一生懸命だけどなかなか勝てない千恵子ですが、努力だけは欠かさないのでいつの日か大成する事を祈るばかりです。
あと、一応アイドルボクサーを売りにしてるのでコスには結構頭を悩ませました。気に入って頂けて何よりです。

・通りすがり様:グローブのデザイン、ですか。ちょっと角ばった感じになったのでしょうかね?一応カタログは持ってるので確認してみます。
マウスピースですが……お恥ずかしい、単に影をつけたかっただけなのですよ。改めて見ると確かに上下で色分けしてるように見えますね。未熟な事この上ないです、精進せねば(汗)



品森高校との練習試合、その最終戦。ナミと千恵子の主将対決はナミが格の違いを見せつけ圧勝、光陵側の大差勝ち越しで幕を閉じる。
そんな中、唯一黒星をつけてしまった杉山 都亀が遂に黒い感情を爆発させ、退部を宣言してしまうのであった。









「んー……」


 植木 四五郎は、自宅で頭を抱えていた。光陵高校で新設された女子ボクシング部を預かる身になって約1年。
今まで頑張ってきた部員たちの中から、遂に脱落者が出るかも知れない。


杉山 都亀


部活での練習内容では優秀な部類でありながら、不思議と試合ではただの1度も勝てないでいる少女。
かつて中学時代には、数年に1人の天才スプリンターと期待されていた事もあった。しかし、周囲の彼女への期待は左アキレス腱断裂という怪我とともに、水泡となって消えたと聞く。
そんな都亀が自分を変えたいと女子ボクシング部に入部したのは、植木にとって喜ばしい事であった。

実際、練習では天才スプリンターと言われたのも頷けるような身体能力を遺憾なく発揮していたし、スパーリングの時も思わず太鼓判を押してしまう程動きにキレがあった。

「なんだがなぁ……どう思う? お前」

1枚の紙に視線を落としたまま、植木はちゃぶ台の向かいの人物に声を掛ける。

「ん……やっぱり勿体ないと思うな、わたしは」

植木に声を掛けられた人物……下司 ナミは、両手を床に着き伸びを打った体勢で天井を仰ぎながら答えた。2人が真剣に話しているのは、話題に上がっている都亀が退部を口にしたからに他ならない。
品森高校との練習試合で唯一黒星を喫してしまった都亀は、その日の内に退部を申し出たのである。

それから1週間。都亀は部室に顔を出していない。退部届はまだ受領してはいないが、いつまでも先延ばしにしていい案件でもなかった。

「そうだよなあ。1度預かった身としては、こんな形で脱落者を出したくはないしなあ……」

ナミの真似をするかのように同じ体勢を取りながら、植木は溜息をひとつ。原因はやはり、試合で1度も勝った事がないからだろう。
自分には才能がない……そう口にもしていたからには、少なからず他の部員たちに対してコンプレックスを感じている筈。

「アキレス腱断裂、か。どうもそれだけが原因じゃない気がするんだよなぁ」

練習では優秀な動きを見せる都亀が、試合に限って精彩を欠く。そういう選手の事を『ジム・ファイター』ともいうが、それでもない気が植木はするのである。
動きが極端に悪くなるのは決まって後半。そこに、何か理由があると思うのだが……

「うーん、分からん。とりあえずコーヒーでも飲んで気分を変えてみるか。お前も飲むだろ? ナミ坊」

植木が立ち上がり、愛用のコーヒーメーカーを用意しながら天井を見上げたままの一番弟子に尋ねる。ん~、と気のない生返事をしつつ、一言付け足した。

「苦いの苦手だから、薄めに淹れて」



 顧問と主将が気分転換でコーヒーを啜っていた頃、当の悩みの種となっていた杉山 都亀は、親友であり女子ボクシング部マネージャーの中森 陽子に連れられ歩いていた。
用事があると真剣な眼差しを向けられ、竦んだ都亀は半ば強制的に連れ出されてしまったのである。

「ねえ、一体どこに行こうっていうの? 陽子」

「人と待ち合わせ。都亀が一緒じゃないと意味がないのよ」

道中に2回こんなやり取りをし、辿り着いたのは全国規模で手広くやっている有名ファーストフード店。

「ここ、なの?」

怪訝そうな表情の都亀に「ここであってるはずだけど……」とあまり自信なさげに返答しつつ、店に足を踏み入れていく陽子。
2階へ続く階段を昇り、外の風景が良く見える窓ガラス側に置かれたテーブル、そこに陽子の待ち人はいた。
艶やかな髪を後頭部でシニヨンに纏め、静かにカバーを掛けた本に視線を落としている。
女子高生が本を読んでいる……ただそれだけの事なのに、周囲から向けられる好奇の視線が少なくない。

まず、絶世の美少女といってよかった。容姿だけでいえば、あの高頭 柊にもひけは取らないだろう。そして、都亀はその少女の事を知っていた。

「弥栄さん!?」

都亀が思わず声を上げる。名前を呼ばれ、そこでようやく美少女……弥栄 千恵子は本へ落としていた視線を上げ、柔らかい微笑みを向けてきた。

つい1週間前に練習試合をした、品森高校・女子ボクシング部主将。その彼女が、何故陽子と待ち合わせているのか?
都亀には理解が及ばなかった。そしてそれ以上に、この場にいるのが気まずかった。
半ば逃げるように退部を告げ、女子ボクシング部から遠ざかるきっかけとなったのが、まさに先日の練習試合にあったからである。

弱気の虫が現れ、すぐにでも立ち去りたいと思う都亀ではあるが、それは叶わなかった。いつの間にか陽子の手が自分の手を取り、指を絡めていたからだ。

逃げちゃダメ

握り締めてくる手のひらから、陽子の意思が伝わってきた気がして押し黙ってしまう都亀。そんな事は露知らず、千恵子は2人に向かいの席への着席を勧めた。



 店内から聞こえてくる喧騒を余所に、本を閉じた千恵子が口を開く。

「わざわざごめんなさい、こんな所まで来てもらって。ジムワークの予定もあるから、ちょっとこちらからは出向けなかったんですよ」

申し訳なさそうにもう1度謝罪を入れ、千恵子が陽子の方を見る。向かい合う陽子は「いえ」と静かに首を振り、都亀もつられてそれに倣った。

「相談事があるって話でしたけど、私でお役に立てるかどうか……」

居住まいを正し、千恵子が今回呼ばれた件に関して切り出す。所作動作1つ取っても美少女然としている千恵子に内心見惚れながらも、陽子は都亀が退部しようとしている事、またその経緯を話した。
話を聞く間、千恵子は顎に指を添えて時折頷くのみで、陽子が話し終えるまで静かに耳を傾ける。そして全てを聞き終えた後、瞼を閉じ思案に入った。

しばしの沈黙。まるで周囲の喧騒から隔離されたかのように、都亀には思えた。

「なるほど。大体の話は分かりました。で、杉山さんに1つだけ質問があるんですが」

沈黙から何秒程経っただろうか、不意に千恵子が口を開く。いつの間にか、顎に指を添えた姿勢ではなくなっていた。

「え? はい、何でしょう」

慌てて返事し背筋を伸ばす都亀。

「杉山さん。今でもまだお好きですか? ボクシング」

質問の意味が分からなかった。辞めると突き付けて以降、部室にも行っていないし部の仲間とも距離を置いている。
ただ、だからといってボクシングそれ自体が嫌いになったのかと言われれば、答えはNoである。
ボクシングには、確かに彼女を魅了する何かが存在して、それは今も変わってはいない。

しかし、自分が退部する理由とどう関係があるのか?

「あの、その質問にどういう意味があるの? ボクが部を辞めたのはボクシングが嫌いになったから、って訳じゃなくて……」
「じゃあ、今もまだ好きでいてくれてるんですね?」

嫌いになった訳ではない、の辺りで千恵子に割り込まれ、話の腰を折られた形の都亀は静かに頷く。

「そうですか。ボクシングがまだ好きなのなら、好きでいられるのなら、見切りをつけるのはまだ早い……と私は思いますよ?」

柔らかな微笑を湛え、千恵子は都亀に告げる。見切りをつけるのは早い、と。

これも、今の都亀には理解の及ばない台詞であった。ボクシングは好きだが、どれだけ練習を重ねても試合に勝てない。
自分には才能がないと、何度も負けてようやく分かったのだ。これ以上居ても皆に迷惑を掛けるだけだと、自分を納得させた。

そして、退部を宣言した。

だというのに、眼前の少女はまだ見切りをつけるのは早いなどと言う。理解は及ばないが、無性に腹が立った。
今までの自分を否定されたような、そんな気分になったから。

「ボクシングが好きなら見切りをつけるのはまだ早い? ハッ、キミにボクの何が分かるっていうの。あれだけ練習してきたのに、3回とも勝てなかった。才能がないんだよボクには!」

気付けば、思わず叫んでいた。その慟哭にも似た叫びは、或いは1度も試合に勝てなかった悔しさ・情けなさを象徴したものであったのかも知れない。
その叫びをぶつけられた千恵子当人は、一瞬唖然とした表情を浮かべ、次いで冷たい眼を都亀に突き刺してきた。

「たかだか3戦……そんな程度負けたくらいであっさりボクシングを捨てられるなんて、随分と安い情熱だったんですね。私はもう10戦はしましたよ? 勿論勝った事はありません……情けない限りとは思いますが」

冷たい視線を向けたまま、千恵子は都亀に語る。その視線は、卑屈な精神状態に陥った都亀にとって、自分の脆さを蔑み切り刻む冷徹な刃のようにも思えた。

「私はボクシングを始めて2年と数ヶ月経ちます。貴女はまだ1年かそこらなのでしょう? そんな人が、勝てないからというだけでボクシングを捨てるだなんて、笑わせないで下さい」

ここで一旦置き、千恵子は紙コップの水を一口含む。

「中森さんの話だと、杉山さんがボクシングを始めた理由は“自分を変えたいから”という事でしたね。それは、試合に勝たないと出来ない事なのでしょうか? もしそうだとするなら、もっともっと練習して、死に物狂いで練習して次で勝てばいいだけの話です!」

一呼吸置き、千恵子は都亀へ更に語りかける。それは徐々に熱を帯び、終いには握り拳すら作る程であった。

今日勝てなければ、次勝てるように努力すればいい
自分に諦めさえしなければ、チャンスはいつか巡ってくる

千恵子の、ボクシングに対する情熱が伝わってきたように、都亀と陽子には感じられた。
自分の倍以上のキャリアと戦績を持ちながら1度も勝ちの味を知らず、だが決して諦めていない千恵子だからこその説得力。
この言葉に、都亀は内にくすぶっていたボクシングへの未練、自分を変えたいという思いが再燃してくるのを自覚していた。

その目から、涙が溢れてくる。甘えや弱い気持ちを流し出すように。

「ボク、なんだか目標を見違えてたみたい。試合に勝たなきゃ自分を変えた事にならない……そう、思うようになってしまってたんだね。他のみんなが勝ってきたから、自分だけ置いていかれたみたいで、焦ってたんだ」

涙で頬を濡らしながら、都亀は自分に言い聞かせるように呟く。いつの間にか、勝ち負けにばかり固執していた事を恥じるかのように。

「もちろん、試合に勝つのはモチベーションを上げる意味で大事でしょう。でも、私たちはあくまでアマチュア。勝ち負けの結果以上に価値のあるものが必ずあると、私は思います」

涙を流す都亀に、千恵子が諭す。その眼は、いつもの柔らかなものに戻っていた。



 千恵子と別れ、2人は夕闇の道を歩く。千恵子に頼んだ事に間違いはなかった、と陽子は思っていた。

彼女ならきっと有益なアドバイスをくれる

これは、陽子の直感であった。賭けのようなものではあったが、おかげで親友は立ち直ってくれたようだ。
活き活きとした表情で夕陽に照らされる都亀が、不意に陽子の手を繋ぐ。
いきなりの事に心臓を締められる思いの陽子だったが、面に出さないよう努め「ど、どうしたの?」とだけ訊ねる。

「うん……その、ごめん。ありがとう…陽子。ボク、また頑張ってみせるから」

柔らかい眼差しで見つめる都亀の顔には、僅かに赤味が差しているように見える。それは、夕陽の反射光によるものなのかも知れない。

「そうね。またやる気になってくれただけで、骨を折った甲斐があったわ」

穏やかに見つめ返し、陽子は静かに微笑む。自分が手伝えるのはここまで。ここから先、本当に自分を変えられるのかは都亀自身の努力次第。
だが、今の気持ちを持ち続けられたなら、そう難しい事でもないだろう……そう思う陽子であった。



 翌日。朝一番で都亀は職員室へ向かい、植木に頭を下げた。勿論、女子ボクシング部への復帰を申し出る為である。

「ん~~。いや、実はまだ正式に受理してないんだ、お前の退部」

無精髭の生えた頬をポリポリ指で掻き、植木は事も無げに話す。結局、家でナミと2人あれこれと考えてみたものの、案が纏まらず受理せざるを得ないかと思っていた矢先だったのだ。

「頭を上げろ。どういった理由で心境が変化して気持ちの整理をつけたのかは敢えて聞かないが、お前はまだウチの部員だ。で、数日間部活をサボったツケは夏合宿で倍にして払ってもらうからな。覚悟しておけよ!」

サディスティックな笑みを覗かせ、植木は都亀に退室を促した。背筋に嫌な汗が流れるのを感じつつ、都亀は顧問に従い職員室を後にする。
多分、放課後の部活の時はさらに嫌な汗を流す羽目になるだろう。でも、またボクシングを続けられる嬉しさに比べれば、そんなのは些末事だと思う都亀であった。

2年目の夏合宿……波乱の幕開けは、もうすぐそこまで迫っていた。





to be continued……
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コメント

No title

弥栄ちゃんから立ち上る大物感にたじろぎそうになるわね!w
10戦10敗って…この子を駆り立てるものって一体…。

杉山ちゃんと中森ちゃんのソフト百合もおいしいワネ!

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実力はともかく、不屈の闘志ならまず間違いなくトップクラスでしょう。どんなに負けてもめげずに頑張り続けるからこその説得力なのかな? と思ってます。
確かに都亀と陽子はソフト百合な関係なのかも……
Secre

プロフィール

チャパロット

Author:チャパロット
基本的に携帯サイトで書かせて頂いているもののリメイク(?)ですが、ちょくちょく文を変更してたりします(あと拙いですが自作絵なども)。
何かある方は、ckcwb305あっとまーくsutv.zaq.ne.jpにご連絡下さい。

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