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第15話 『vs品森高校(2) 理想と現実のギャップ』

 プロボクシング編、第15話です。

<拍手返信>
・ぴーこ様>第1Rでは完全に優位を誇っていた都亀ですが、最後で不穏な空気が……さて、この決着は今回のお話でw



光陵高校と品森高校との練習試合が始まった。第1試合、ピン級は順子が勝利を収め続く第2試合、バンタム級の都亀も1Rを優勢に進めていく。
しかし、対戦相手の今井は1人静かな笑みを浮かべていたのだった。









「ハァ、ハァ、ハァ……」


 ダウンカウントが聞こえる。何を貰ったのか予想もつかず、下2本のロープに背中を預けたまま赤グローブの選手……杉山 都亀は宙を見上げていた。

第2Rに入り、攻守共に絶好調な都亀は再び試合のペースを握る……事が出来ないでいた。今井の動きが、先程までとはまるで別人のように機敏になったからである。
もしかしたら、これこそが彼女の本来の動きで、1R目は様子見だったのかも知れない。そう思わせる、今井の動きであった。
都亀としては、これが今のベストであったろう。だが、ベストの状態を以てしても、今井を捕捉する事が叶わない。
それどころか、かわせた筈のパンチを次々と貰ってしまう。年下に良いように蹂躙される身の悔しさに、都亀は次第に動きが固くなっていく。
そこにつけ込まれ、数発の纏まったコンビネーションブローを叩き込まれた都亀は、ロープに凭れ掛かる形でダウンを奪われてしまったのである。

「都亀ぃー! 立ってぇぇー!!」

呆然と宙に視線を泳がせていた都亀は、この陽子の叫び声で我を取り戻す。まだ脚に力が入るのを確認すると、ロープをひっ掴みその場でファイティングポーズを構えて見せた。

「まだやれるか?」

レフェリーの桃生 誠が都亀のグローブを掴みつつ訪ねてくる。

「ハァ、ハァ…はいッ!」

余力のある所をアピールするように、努めて大きな声で返答する。それが通じたのか、誠はコクリと頷くと試合再開を促した。



 最初の優勢など完全に消し飛んでしまった都亀だが、まだ諦めるつもりなどない。

とにかく攻めあるのみ!

ダウンした事を脳裏の隅っこへ追いやり、射程圏内へと踏み込んでいく。すかさず今井が左ジャブを散らし迎撃してきたが、堅実にブロッキングし左ジャブを刺し返す。
こうして、2人はジャブを主軸にペース争いへもつれ込んでいった。
どちらの左も3発に1発ぐらいの割合で顔を叩く。

ただ、数の上では互角でも威力の程はどうか?

それは徐々に、しかし明確に現れる事となる。



バンッ!



何発目かの左ジャブが口元に刺さり、都亀が体勢を崩して後退したのだ。

「都亀ぃッ」

陽子の悲痛な叫びが響く。それは、親友がペース争いに敗れた事の証左。
打ち合いを制した今井は、チャンスと見るや果断な攻勢に出る。
クリーンヒットを許さないよう何とかガードだけは固めつつ、都亀は強制的に後退させられていく。だが、リングは無制限に退路を保証などしてくれない。
やがて距離の限界に達した都亀は、後退を阻むリングロープによってその身体を跳ね返されてしまった。

「ぐッ」

背中を押し返すロープの、意外に硬い弾力に思わず息を詰まらせる都亀。

(悔しいけど、テクニックは向こうの方が上か……ここはなんとか耐えないと)

後退の場を失った上級生は、覚悟を決め腕に力を込めて迎撃体勢へ。これから始まるだろう猛攻を迎え撃ち、耐え凌がなければならないのだ。
ダッ! とキャンバスを蹴る音が鳴り、今井が動いた。都亀はその動きに合わせて左ジャブで足を止めに掛かる。
それは小気味良い革の炸裂音と共にヒット。
しかし、今井の足は止まらない。
それどころか、ダッシュの余波を駆って勢いのある右ストレートを腹へと打ち出してきた。
都亀は咄嗟に身を屈め、左肘でブロッキング。だが勢い付いた凶弾の衝撃を殺し切れず、ロープとサンドイッチされてしまった。

「がふッ」

身体中を駆け巡る衝撃に、都亀の口から空気が漏れる。これを機に主導権を握った今井、持ち前の回転力を活かして上下左右と思うさまパンチの雨を叩き込んだ。
最初のボディーストレートによって出鼻を挫かれた形の都亀は、徐々に増していく手数の前にひたすらガードに徹する以外、出来る事はなかった。
この時、ガードを解いた瞬間この暴風に巻き込まれるとの思いから、反撃という選択肢は脳裏から消え去っている。
今はただ我慢の時間であった。

どれぐらいの時間を殴られ続けただろう。 

1分ぐらい?
それとも、まだ10秒も経ってない?

この、都亀にとって苦痛の時間は、結局誠が一方的な展開にスタンディングダウンを宣告するまで続いた。
時間にして、僅か10数秒の出来事。身体をパンチによっていいように揺らされた都亀は、倒れこそしなかったものの軽いパンチ酔い状態に陥っている。
それでもカウント8にはしっかり構えて続行の意思を示したのは、彼女なりのプライドであったといえよう。



 試合再開が告げられる。既にこの2Rで2回のダウンを受けた都亀は、もう後がない。続行の意思表示を示したものの、ダメージの残るこの状態では打ち合うなど自殺行為。
ここは恥も外聞もなく、逃げの一手を打つ事にした。だが……



ピキッ!



突如、左足首に違和感が走る。

(うそ……こんな時に…)

今まで気にならなかった左アキレス腱が、悲鳴を上げ始めたのだ。

「シュッ」

都亀に訪れたアクシデントなど知る由もない今井は、あと1回ダウンを奪えばTKOという高揚感に支配され、加速をつけたまま大振りの右フックを放つ。
これは、普通に考えれば彼女の失敗である。もし外したなら、加速を止められず致命的な隙を晒した事だろう。

ただ、彼女はそういう意味合いでいえば幸運の持ち主だったのかも知れない。

それを打ち込まれた都亀は、アキレス腱の違和感で集中力も散漫になっていたのだから。



グシャアッ!



鈍い殴打の音がリング内に鳴り響く。クリーンヒットを貰ってしまった都亀は視界が瞬時にブラックアウトし……



ダァンッ!



横倒しに崩れ落ちた。

「ストップ! 試合終了だ」

その瞬間、誠は今井を遮るように立ち塞がり試合終了を宣告。そして倒れ伏した都亀の方へと駆け寄った。



「杉山、意識はあるか? 俺の声が聞こえるなら返事をしろ!」

 頬をペシペシ叩き、都亀の状態を確認する誠。呼び掛けを何度か繰り返し、僅かながら都亀がそれに応じたのを見て、念の為保健室へ運ぶよう指示。
本人は歩けるといったが却下され、すぐさま手の空いている詩織と晶が担架で担いでいく。
陽子がこれに付き添う形で保健室へと運ばれていった。

必勝の覚悟を以て臨んだ試合ではあったが、奮闘空しく第2R、1:39……品森高校、今井のTKO勝利で幕を閉じた。



 唯一の一年生が大金星を上げた事で大いに沸く品森陣営。続く第3試合はフェザー級。光陵、葉月 越花と品森、稲山(いなやま)との対戦。
流れに乗じたいと盛んな攻めを見せる稲山だったが、機先を制したのは越花の右ジャブだった。
世にも稀な両利きという自身の特性を活用した“スイッチ”で、越花は稲山を翻弄。
さり気なく右構えから左構え、また気付いた時にはその逆と、スムーズに切り替わる越花の構え。
それで距離感を狂わされ、しかも徹底して中距離を維持され、稲山はさぞ混乱の極みであったろう。



「……ん………」

のどかで静かな、ここだけ時が停滞しているのではないかと錯覚してしまいそうな保健室で、都亀は目を覚ました。
担架で運ばれベッドに寝かしつけられてから、約10分後の事である。

「あ。都亀、目が覚めた?」

覚醒した都亀の隣で、慈愛に満ちた表情を向け話しかけてくる陽子。どうやらずっと付き添っていたらしい。

「また…勝てなかったか……ボク」

試合結果自体は理解出来ていたのだろう、都亀はやや自嘲気味に口元を歪ませ起き上がろうとする。

「都亀、まだ寝てないと駄目だって!」

淡い栗色の髪を揺らし、陽子は身体を起こそうとする都亀を慌てて止めた。

「その、今日のは…相手も悪かったんだよ……年下だけど都亀よりキャリア長かったんだし」

無理やり都亀を安静にさせ、掛け布団を被せながら陽子は静かに語りかけていく。

相手が悪かった
仕方なかった

と。だが、都亀は納得出来なかった。彼女とて、厳しい光陵の練習に耐え培ってきたプライドがある。
それに、今回は必勝を期し“覚悟”まで固めて挑んだのだ。

「陽子の言いたいのは分かるつもり。でも、やっぱり今回も勝てなかったんだよ……多分向いてないんだ、ボクには」

そう呟き、物悲しそうな顔で笑う。足の怪我で陸上を断念せざるを得なくなった中学時代から、真っ暗闇に放り込まれひたすらに彷徨ってきた。
リハビリを繰り返し、完治したと言われても彼女の闇は晴れなかった。
だが、新しく入った高校で、同じ一年生なのにリングの上で輝くナミや柊、アンナらの試合を偶然見て、都亀は一筋の光明を見た気がした。

これこそ、今の自分を変える絶好のチャンスなのかも知れない

そう思った都亀は、陽子と一緒に女子ボクシング部へと身を投じたのだ。それから練習を重ねて、少しずつ少しずつ上達していくのが分かり、都亀は殻を破れると思った。信じた。

I・Hの後、一年の二学期に行った服根崎高校との練習試合。
初めて立った試合のリングでアキレス腱の痛みを思い出した、あの時までは……

「結局……ボクはこの足の怪我から逃げられないんだ。自分を変えるなんて無理な話だったんだよ」

そう言い終えると、都亀は布団を抱き顔を押し付けて喋らなくなった。時折嗚咽の声と身体を揺するのを見る所、泣いているようだ。

(都亀……)

陽子は、都亀の邪魔をしないようそっと椅子から立ち上がり保健室を出た。親友がむせび泣くのを見て、何の力にもなれない自分の不甲斐なさを恨めしく思いながら……



 陽子が部室のドアを開けた際、入れ違いで詩織と晶が再びせわしなく担架を担いでいったのが見えた。多分、ライト級のアンナと試合した品森の選手だろう。
金髪碧眼のイタリアンハーフは、今回の試合も豪快にKOで勝ったようだ。仲間が勝ったのは喜ぶべき所なのだが、現状では今ひとつ喜び切れない陽子であった。

部室では、いよいよ今日の最終戦となるライト・フライ級の2人がリングへと上がっていた。

光陵、下司 ナミ
品森、弥栄 千恵子

「杉山の様子は?」

室内へ入るや、いきなり心が近寄ってきて陽子に都亀の容態を確認してきた。

「う、うん…大丈夫。今保健室で寝てるから」

心の鋭い眼光に、若干腰の引けた態度で陽子は答える。どうにも元・不良の心を前にすると臆病な自分が出てしまう。
彼女が実はすごく仲間思いだというのは、もう充分知ってるハズなのに……少し警戒したような態度を取られて、彼女は傷ついただろうか。
そう思うと、自然と口から「ごめん」と俯き加減で返す陽子であった。



 そんなやり取りが行われていた一方、リング上では光陵と品森の主将がお互いコーナーでセコンドから指示を受けていた。
由起の話によれば、千恵子は新人戦でデビューして以来公式戦では1度も勝ち星がないらしい。だが、彼女は心が折れる事もなくリングに立ち続けている。

(都亀と一緒、か。弥栄さんのボクシングに賭ける情熱……もしそういうのが聞けたら、都亀の役に立てるかも。このまま辞めるだなんて、もったいないよ!)

この試合が終わったら、個人的に負け続けてもボクシングを辞めないでいられる理由を聞いてみたい。そんな思いを抱いたまま、陽子は最終戦の開始を告げる電子ブザーの音を耳にするのであった。





to be continued……
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コメント

No title

杉山ちゃん負けちゃったわね…。
次回はいよいよ弥栄ちゃん登場!
弥栄ちゃんがキーキャラになるとは!?
思いもよらない展開になって来たワ!

残念ながら都亀の初勝利はなりませんでした。そして次はいよいよ主人公・ナミとアイドル・千恵子の勝負!
千恵子がどういう形でキーになるのか……それは次回以降に。
Secre

プロフィール

チャパロット

Author:チャパロット
基本的に携帯サイトで書かせて頂いているもののリメイク(?)ですが、ちょくちょく文を変更してたりします(あと拙いですが自作絵なども)。
何かある方は、ckcwb305あっとまーくsutv.zaq.ne.jpにご連絡下さい。

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