スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

第13話 『勝負の真意』

 プロボクシング編、第13話です。前回の更新より時間が経ってしまいました、申し訳ありません。


<拍手返信>

・ぴーこ様>何を思ったか、雪菜が思い切った事をしでかしました。さて、どうなるかはとりあえず今回のお話で明らかに……



柊と雪菜の闘いは、お互い譲らぬ展開から始まった。動きのキレを見せ雪菜を翻弄する柊の攻略法として、ナミと心が口を揃えたのは……









 高頭 柊と葉月 雪菜のスパーリング、いや本気の勝負は第2Rに入っていた。1Rはお互い牽制に終始する形で流れ、まともなクリーンヒットは柊のショートアッパー1発のみ。
日を増す毎に伸びていくそのスピードは、全国大会出場者たる雪菜をして捉えるのが至難の業であるようだ。
そんな流れの中、下司 ナミと知念 心は口を合わせて柊対策を呟いた。

「「ズバリ、ボディー狙い」」

と。

果たして、雪菜もその答えに辿り着いたかのように果敢な接近を試み始めた。元々がインファイターの雪菜だけに、近距離に詰めていくのは先程と変わらない。
ただ、身を屈め上体を振りながら踏み込んでいくさまは、1Rでは見られなかった戦法。

「シッ」

艶やかな唇の間から漏れる空気音と共に、柊は右ジャブを放つ。それに対し、雪菜は強固なガードを形成して遮りつつ、さながら弾丸となって目標へと突撃していった。
威力の低いジャブではこの弾丸を止める事が出来ないと判断した柊は、内心舌打ちをしつつ左足を少し下げ、一瞬溜めを作ると腰を捻り左ストレートを打ち放った。



ガッ!



直線軌道で打ち込まれた柊の左拳は、向かってくる雪菜の顔面……に届く前に右側へ大きく流れてしまう。
大きな1発を待っていた雪菜が、右側へとシフトしつつ左腕で柊のパンチを払ったのである。

「上手い!」

思わず、心が雪菜の巧みさに声を上げた。今、雪菜の前にはがら空きになった柊の脇腹。
そして、渾身の右を叩き込める絶好のポジショニング。

(もらったぁ!)

これだけの好機を、みすみす見逃す手はない。雪菜は躊躇なく右拳を引き、振り抜いた。
1Rでやられたパーリングからのショートアッパー、これはその意趣返しともいうべき一連の動作といえるだろう。
この行動、実はナミのシミュレートの中にも入っていた。ただ、ここまで巧妙に出来たかといわれれば、疑問符を付けなければならない。
それ程までに、スムーズな流れだったのだ。

これは決まる!

誰もがそう確信しただろう。だが、次の瞬間全員の予想を覆す行動を、この天才は取った。



バンッ!



革を打ち付ける乾いた音。柊の脇腹を打ち抜いたであろう雪菜の右拳は、何と柊のグローブによって遮られていたのである。

「ッ!?」

声にならない声を発し、1番動揺したのは右拳を止められた雪菜当人。右側へ身体を流された柊は、凄まじい反射速度を以て右腕を伸びた左腕と交差させ、その手の平で雪菜の一撃をストッピングしたのだ。
必中を期した一撃がまさかの不発に終わったショックを隠し切れず、茫然自失の雪菜を置いて柊は素早く体勢を立て直す。

「……なんで?」

この攻防に、信じられないといった声を上げたのはリング外のナミ。

これ以上ないポジショニングとタイミングだったのに、よもや止められてしまうとは!

意趣返しでボディーブローを狙う所までは、ナミの予想内だった。が、あんな体勢でのストッピングは予想の範疇を超えている。

(あんなのやられたら、わたしだって呆けるわよ……)

ナミは、改めて柊の防御本能の高さ・非凡さを噛み締める思いであった。



 皆が驚きを隠せないまま、2人の勝負は続く。1番動揺し茫然自失にあった雪菜だったが、いつまでもそのままでいる訳にもいかない。
気を入れ直してガードを固めつつ、またも懐へと潜り込もうとダッシュを敢行。だが先程の攻撃で肝を冷やしたのか、柊は警戒した様子で後退を続ける。
中距離以上を保ち、ジャブで要所要所に楔を打った。



パァンッ!



小気味良い音と共に、雪菜のダッシュが止められる。左側へ避け、雪菜が振り向いた瞬間を狙い済ましたように、左のショートフックを死角から叩き込んだのだ。

「ぶッ」

ガードしたグローブとヘッドギアで遮られた視界、その見えざる空間から飛来したパンチに反応出来ず、雪菜は口から少量の唾液を散らす。
右ジャブを中心に直線系のパンチに目を慣らされていた所へ、上手いタイミングでの曲線系パンチ。
右頬に熱い衝撃を残しながら、雪菜は(上手いッ)と柊を賞賛していた。
しかし動きを止められる程効いた訳でもなかったので、さながらサーベルを刺された闘牛の如く執拗に柊へと迫った。

(マジでタフだな、コイツ。全然止まんねーじゃねーか)

本当は打ち合いに挑みたい所を抑え、アウトボクシングに徹する柊は雪菜の頑丈さに感心する事しきり。
ともすれば猪突との謗(そし)りを受けそうな、雪菜のダッシュ。だが、目前で何発楔を打ち込んでみせても止まる事のないこの突進が、どれほど恐ろしい事か。
集中力を切らしたら、その瞬間一気に弾き飛ばされる……そんな恐怖感に耐えつつ、柊はそれでもジャブを刻んでいった。

近付き過ぎず、離れ過ぎず、常に一定距離を保ちながら。
そして、永遠に続くかと思われた展開は遂に終わりを迎える。



ドンッ!



背中から衝撃が伝わり、柊は一瞬呼吸が詰まる。次いで、憎々しげに自分の失態を悔やんだ。

(しまった、コーナーに詰めちまった)

空間を把握しながら後退したつもりだったが、自らコーナー際……袋小路へと入ってしまったのである。
もしかしたら、雪菜の巧妙な誘導であったのかも知れない。いずれにせよ、これがピンチであるのに変わりはなかった。
さすがに柊といえど、退路を断たれてナミに匹敵するラッシュ力を誇る雪菜の攻めを防ぎ切るなど、極めて困難。

(ここが勝負所ってヤツか)

柊は脱出を断念、脚のスタンスを広げ打ち合いの構えを取った。再び巡った機会に、雪菜も脚を広げ打ち合う姿勢を見せる。
2Rも残り僅か、この闘いの決着を左右する打ち合いが、今始まった。



 まず、先手を打って雪菜が左ジャブから右ボディーフックの2連打。それらをしっかりガードし反撃に移ろうとする柊。
だが、雪菜の手数は多く糸口を掴めない。
さらに雪菜はショートフックの連打を上下に打ち分けていく。
この間、柊はひたすらガードを固め暴風に堪え忍んだ。

(クッ、パンチの回転が速くて反撃が……でも、このままって訳にもいかねーよなッ!)

肩や腕を通して伝わる衝撃は、1発の重さこそないものの絶えず伝わってくる。
このままでは雪菜の思う壺、事態は悪くなる一方だ……そう考えた柊は、危険を承知の上で反撃に出た。
顔へ飛んできた右ショートフックを片腕でブロッキングしつつ、柊はすかさず右ストレートを放つ。
これは狙いが上手くいかず雪菜のヘッドギア、そのこめかみを掠ったのみ。
さすがにこれでは勢いを殺せるべくもなく、雪菜は間髪入れず左ボディーアッパーで腹を穿ちに掛かる。
背中に冷たい汗が流れるのを感じながら、柊はそれを肘で阻み打たせない。
そして柊が返す左アッパーを放とうとした瞬間、柊は先程の冷や汗が凍結したのを感じた。

即ち、柊が得意とするカウンターを相手たる雪菜が狙っていたからである。

肘で防がれた左拳を戻し切らず、自分へ向かってくるアッパーに合わせる形でフックを放つ。タイミングはドンピシャ、このままいけば間違いなく柊の頬は醜く歪まされてしまう事だろう。
良くて相打ち、といった所か。

覚悟を決め首に力を込めた時、



ビーーーーッ!



第2R終了のブザーが鳴り響いた。まるで十字を組むように腕が交差し、当たる寸前で手を止めた両者は、静かな表情で各コーナーへと引き揚げていく。
端から見て、柊は一命を取りとめたように映っただろう。それ程に、雪菜の積極性が目立った。

(またこの手のタイプにやられちまうのか………冗談じゃねーッ!)

自コーナーで由起の指示も耳に入らず、柊はリング外のナミをチラッと見る。ナミと闘った時、柊はスタミナ切れによって負けた。
今は、あの時と比べてみてもまだまだ余力がある。スタミナの貯蔵は充分。

(どうせ次がラストだ。思いっきりやってやる!)

次の第3R、最後の2分間を全力で打ち合う覚悟を決め、柊はスツールから立ち上がりコーナーから飛び出した。
そして、それが高頭 柊を語る上で外せないエピソードの1つとして、女子部員たちの中で語り継がれていく事となるのである。



 最終第3Rのブザーが鳴り、2人はリング中央でグローブタッチを交わす。この時、由起はやはりインファイターとまともに打ち合うのは危険と見なし、徹底したアウトボクシングを指示していた。
が、それは開始直後に砕かれてしまう。

雪菜に突っ込むという真逆の行動に出たからだ。

「高頭さん、私の指示を聞いてなかったの!? 打ち合いは危険なのよ、離れなさい!!」

コーナー際から轟く由起の怒声も知らん顔で、柊は雪菜の一挙手一投足に最大限の集中力を以て臨む。
“眼”を媒介に集中力を高めた結果、またいつもの頭痛が彼女を襲う。だが、そんなものは無視する。
対する雪菜も、まさか柊が突っ込んでくるとは計算外だったのか逡巡したものの、それも刹那の事。
近付いてきてくれるならかえって好都合と、左ジャブで迎撃する。
しかし、集中力を高めた柊にとってこれは何ら障害足り得ない。
難なくかわしてみせると、返しの右ジャブを雪菜の鼻っ柱に叩きつけた。
パンッ! と小気味良い音が響き、遅れて「ぶッ」という雪菜の呻き声。

それが3回は続いただろうか。中距離での刺し合いは不利と踏んだ雪菜、頼りとする接近戦へと移行するべく突進の姿勢に入る。
ガードを固め身を屈めた、その瞬間……



ゴツッ!



一際鈍い殴打音がリング内を駆け巡り、雪菜の頭が天へと撥ね上げられた。珠の汗を散らし、口から飛び出したマウスピースが唾液を纏いながら飛翔していく。

(う、そ……なに今のアッパー………まるで雪菜の動きを先読みしたような入り方じゃない)

リングの外のナミは、この柊の動きに戦慄を覚えた。千変万化する展開の中、また絶えず動き回る相手のアゴを的確に捉えるのは、それだけで至難。
そんな中、柊は明らかに“雪菜が接近戦へ移行しようとした瞬間”を狙ったのだ。

まるで、雪菜の動きを先読みしたかのように。

確証はないが、恐らくこの見立ては間違っていないとナミは思う。隣で心が放心しているのが、良い証左といえよう。



バァンッ!



僅かに目を離した隙にさらなる殴打音が響き、ナミはすぐさま視線を戻す。そこには、左ストレートを放った体勢の柊と、尻もちを着きキャンバスに視線を落とす雪菜の姿があった。

「ダウン!」

電光石火の展開の中、レフェリーの植木は迅速な動きで2人の間に割って入る。柊をニュートラルコーナーへ下がらせると、雪菜の方を振り向きダウンカウントを読み始めた。

ナミも呆気に取られた柊のアッパーだったが、それにも増して呆気に取られたのは当の雪菜本人である。
混乱しているといってもいいだろう。何が何だか分からないうちにアゴを跳ね上げられ、次いで顔面に衝撃が走ったのだから。

まだ少し頭が揺れる感じがするが、とにかく考えるのは立ってからの話。悠長に座っていたのでは、10秒などあっという間だ。
そう結論付け、雪菜は起き上がる姿勢を取った。その時、今度は彼女の方が背中に冷や汗を感じる事となる。

(あ、脚が……脚に力が入んない!?)

自分をダウンせしめた、たった2発のパンチ。正直、動けなくなる程効いてはいない。だのに、脚が微かに震えている。
何故か? 雪菜にはすぐに1つの答えが導き出されていた。

(脳を揺らされたッ!)

脳が急激に揺らされると、意識はハッキリしているのに一時的に身体の自由が効かなくなる事がある。
この現象を狙って、アゴ先を掠らせるように打つパンチを『ピンポイントブロー』という。

今回、偶然にもそれに似た作用が雪菜を襲ったのである。

これには、さすがの雪菜も焦った。意識が冴えている分、カウントが進む度絶望感ばかり増していくのである。
踏ん張りの効かない脚をグローブでバンバン叩き、雪菜はロープのある方へ這う。

「フォー…ファイブ…」

カウントが半分に差し掛かった時、雪菜はようやくロープにしがみつき腕の力で上がり始める。そうして立ち上がったのがカウント9。寸での所でこの勝負を繋ぎ止めたのであった。



 辛うじて命の灯を残した雪菜だったが、ある意味ダウンの時点で試合は終わっていたのかも知れない。
脚に踏ん張りが効かない以上、攻める事も守る事すら難しい雪菜は、迫り来る柊の猛ラッシュに堪える以外に術はなかった。
亀のようにガードを固めるのみで、ひたすらに押し込まれていく。
やがてコーナーへ追い込まれ、決死の思いで返した苦し紛れの右ストレートも、柊の左ストレートによって倍返しされてしまった。
ここにきてクロスカウンターという最悪のしっぺ返しを受けた雪菜、膝がガクンと折れてしまう。
事ここに至って、植木はもうこれ以上の継続は無理と判断、尚も追撃を掛けようとしていた柊を遮り、「ストップだ高頭!」と叫ぶや雪菜を正面から抱き留めた。

昨年のI・H全国大会出場者たちの、だが拳を交える事の叶わなかった2人の本気の勝負は、高頭 柊のRSC勝ちという結果で幕を降ろす。
振り返ってみれば、柊はこの試合も1発のクリーンヒットを許さず、その天才ぶりを余す所なく発揮。
オリンピックを目指すに相応しい印象を部員たちに与えたのであった。



「本当に強いなぁ。完敗だよ、高頭さん」

 身体の自由が戻った頃合いで、グローブとヘッドギアを外した雪菜が柊に握手を求めてきた。その表情は晴れ晴れとして、この結果に満足しているように見える。

「ああ……いや、お前も相当ヤバかったぜ」

柊も珍しく顔を綻ばせ、差し出された手を握り返す。1発も貰っていないのに皮肉か、と思われるかも知れない。
が、これは彼女の本心である。
彼女は、試合に際して1発も貰わないよう常に心掛けて臨む。だから、クリーンヒットがなかったからといって、相手が弱かった事はイコールとならない。

少なくとも、柊の判断基準の中では雪菜はダントツに強かった。

「とりあえず、これが私から贈ってあげられるもの、かな。オリンピックへの餞別になればいいんだけど」

頑張ってね、と付け加え、雪菜は柊の肩をポンポン叩く。この突然の勝負、裏に餞別の意味合いが込められていた事を、この時初めて知った柊。
雪菜の不器用なエールに胸が熱くなるのを覚えながら、

「サンキュー、な。やれるだけやってくるぜ」

と呟き雪菜の肩を叩き返すのだった。


光陵女子ボクシング部、2度目の夏合宿まで
世界初となるオリンピック女子ボクシング、その強化合宿まで


あと2ヶ月。その前にもう一波乱起こる事を、この時ナミらは知る由もない。





to be continued……
スポンサーサイト

コメント

Secre

プロフィール

チャパロット

Author:チャパロット
基本的に携帯サイトで書かせて頂いているもののリメイク(?)ですが、ちょくちょく文を変更してたりします(あと拙いですが自作絵なども)。
何かある方は、ckcwb305あっとまーくsutv.zaq.ne.jpにご連絡下さい。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。