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第11話 『ボクシングジム見学ツアー・後編』

 プロボクシング編、第11話です。

<拍手返信>

・むむむ様>先日のアマチュア観戦は大阪での実施だったのですが、大きな規模のものではなかったので会場のもの(旧来のグローブ)を使用したのかも知れません。
あと、高校女子のアマチュア大会というのはないみたいですね。当作品ではあくまで男子と同等の環境が整っている……という設定ですので、女子のI・Hや国体等ははっきり言ってでっち上げと思って下さると幸いです。

・ぴーこ様>山之井ジム所属の主な女子練習生はナミと佐羽だけで、しかも2人してプロ志望というステキ設定だったりします。ナミがプロの世界に移行すると共に出番も増えるかと。
ナミが鉄平を嫌う理由のひとつに「中学時代にスパーリングをしてフルボッコにされた」というのがありまして、何割かは私怨によるものだったりします。でも彼の実力は認めてるので、案外傍から見れば名コンビなのかも……



7月のオリンピック強化合宿に先駆けて地力をつける為、という柊の考えから始められたボクシングジム巡り。
山之井、沼田、相田と大手ジムを見学して回ったものの、柊の琴線に触れるものではなかった。果たして、彼女は入会に足るジムを見つける事は出来るのだろうか?









 2011年、5月。夏のI・Hへ向けて新たに始動しようと動き始める、その合間。1人その枠から外れオリンピック強化選手となった高頭 柊は、7月の強化合宿へ先駆けて彼女なりに思案した結果、ボクシングジムに入ろうと考えた。
そして主将たる下司 ナミに相談、県内のボクシングジム巡りという運びとなったのである。

初日に回ったジムでめぼしい所は、


・山之井(やまのい)ボクシングジム
・沼田(ぬまた)ボクシングジム
・相田(あいだ)ボクシングジム


の3つ。ただ、今ひとつ柊の琴線に触れてはいない。いずれも大手といっていいレベルのジムなのだが、それはあくまで男子の話。
大手の割には、女性の練習生が極端に少ないのだ。

比較的山之井ジムが多い印象ではあったが、何といってもそこにはナミがいる。妙に動向が知れてしまうのは、柊としてはあまり好ましい状況といえなかった。
相田ジムも今ひとつパッとせず、個人的に入会までの決心には至らない。
沼田ジムなど弥栄 千恵子1人しか女子練習生が見当たらないという体たらく。

ナミも、山之井と沼田の交流の深さの割には1度も出稽古に呼ばれた試しがないと言っていた事から、女子に対する力の入れようの程も窺い知れる。
2日目となる今日が勝負所と柊は思った。



「ごめーん、今日どうしても外せない用事が入っちゃって……一緒についていけそうにないのよ」

 学校へ来た途端、柊は内に秘めた意気込みを挫かれる事となった。ナミが、外せない急用が入ったとジム巡りをキャンセルしてきたのである。
更に葉月 越花、雪菜のコンビからも、同様にキャンセルの申し出。海外で仕事を終えた父親が急で帰ってきたらしく、外食に出るとの事だった。
世界的に有名な芸術家として普段飛び回っているだけに、こればかりは無理を言えそうにない。
仕方なく、柊は順子とアンナ、秋奈の3人を連れ立ってジム巡りを続行した。

「あと残ってる所といえば……有名どころとなると緒原(おばら)ナックルジムぐらいかしら」

ナミに成り代わり引率を引き受けた順子が、ボクシング雑誌をパラパラ捲りながら行き先を示す。

緒原ナックルジム……神奈川県でも屈指の財力・規模・興業力を誇る全国レベルのジムである。
特にトレーニング器財の豊富さでは他の追随を許さず、「練習生の皆さんに不自由させないように」という、会長の理念を体現したかのようであった。

神奈川の北東、東京に程近い所に緒原ナックルジムは存在する。目的地へ近付いた4人は、そこで奇妙な……あまりにも奇妙な光景を目の当たりにした。

「こりゃあ……なんかの冗談かぁ?」

柊のその桃色がかった唇から、思わず言葉が漏れる。恐らくは、4人の気持ちを代弁したものであったろう。
彼女たちから見て左側に目的のジム。その反対側、車道を挟んだその向かいに西洋の教会と思わしき建物が視界へと入ってくる。
それだけなら、まだしも風変わりな街並みで許せたのだが……荘厳さや神秘性とはかけ離れた、無機質なアルミ製のドアの隣に無造作に立て掛けられた一枚の板。

それこそが、全ての元凶といって良かった。



『聖ヘレナボクシングジム』



板には無駄に達筆な筆書きがされており、西洋と東洋のコントラストが余計に違和感を駆り立てる。何と、この教会風の建物はボクシングジムを謳っているのだ。
しかも、あろう事か神奈川最大手のボクシングジムの向かいで。
近付いてみるとドア周りは全面ガラス張りになっており、中を覗き見る事が出来る。
やけに高級そうなサンドバッグ(もしかしたらウォーターバッグかも知れない)やパンチングボール、小綺麗なリングが見える辺り、どうやらボクシングジムであるのは間違いないらしい。

ただ、得も知れぬ不安感が漂うのは、やはり教会風といった外観のせいであろうか。

「あ、怪しいですね。思いっきり」

「う、うん……胡散臭さしか感じられないわ」

秋奈も柊に続いて怪訝顔で呟き、順子もそれに同調する。そんな中、ただ1人アンナだけは碧い目をキラキラさせ、食い入るように教会風の外観に見入っていた。
彼女の中に宿るアニメオタクの血が、この非常識に反応したのだろう。

とにかくも、一行は一旦聖ヘレナジムを背後に当初の目的地へと足を踏み入れていった。



 自動ドアの開いた奥、柊たちを迎え入れた先はなるほど県内最大手と言われるだけの、見事な内装を誇っていた。
山之井ジムや沼田ジムなどはどこか古めかしさを感じさせるものだったが、ここはどちらかといえばフィットネスクラブを連想させる。
従来のボクシングジムでは敷居の高さを感じてしまう女性の足を運ばせるに、これ以上の環境はないと言わんばかりであろうか。
他では出せない気軽な環境を、この緒原ナックルジムは体現していた。

(うん、悪くねぇ)

この、女性にフリーな感じは柊に好印象を与えた。受付で見学の旨を伝え、4人は練習場へと足を踏み入れていく。
このジムでは、何とフロアー毎に男女別でトレーニングしているのだという。
プロを視野に入れた、もしくはそのさらに上を目指した本格的なものは勿論の事、美容やダイエットを目的としたボクササイズにもより力を入れている辺り、いかに女性をシェアの根幹に置いているかが窺える。

基本的に目立つような事を好まない柊。
人数が少ないと、どうしても奇異の目に晒されるのは仕方のない事。
だが、女性が多い中なら自分1人紛れ込んでいたとしても目立たないだろう……そう思っているだけに、このジムは彼女の望む環境により近いと感じた。
とはいえ、自分がどれだけ容姿に優れているかなど全く念頭にない為、いざ紛れ込んでみたら逆に目を惹く存在となる事を理解してはいなかったのだが。

例によって見学スペースの一角を陣取り、4人はそれぞれ練習生の見学を始める。そして、10分と経たない内に全員がある違和感を覚えた。

「ねえ、これって……」

アンナが小首を傾げながら、隣の柊に疑問を投げつける。アンナの言いたい事を理解していた柊は、眉間に皺を寄せ不快感を露わにしながら疑問に答えた。

「ああ。真剣にやってねーヤツらがいるな」

ジムの出入口側、ちょうど外を眺められるガラス張りのスペースに、何人かの女性たちが明らかにダラダラした雰囲気で練習している。
そればかりか、不真面目に話し合いさらには時折笑い声まで聞こえてきていた。
不必要に煌びやかなトレーニングウェア、事ある毎に自慢気に巻いた髪を整え、他の練習生に邪魔になっているのも意に介しない笑い声。
これには、4人とも開いた口が塞がらないといった心境だった。
さすがにこれは酷いと順子辺りが憤慨しそうになったその時、1人の女性が元凶へと近付いていった。

白のタンクトップに黒のスポーツブラ、灰色のジャージズボン姿の、あまり長くない髪をポニーテールに纏めた女性は不真面目な練習生たちの前へ立つや、軽く息を吸い込み

「うるせえぞてめえら! くだらねえ話してえんだったら余所へ行け!! 他の連中の邪魔になってるのがわからねえのか!?」

大きな声で一喝した。これには、さすがに無視していた他の練習生たちも振り返り騒動の中心へ視線を集めていく。

(お、言った言った)

柊は、この状況下でズバリと一喝したこの女性に、いいぞもっとやれと内心でエールを送った。
ポニーテールの女性は、一見して身体全体が綺麗に引き締まっておりいかにも鍛えてます、といった風。やや吊り上がった細い眉や目尻、への字に結ばれた口などの容貌からは強気そうな雰囲気が見て取れる。

「夏井(なつい)さんが動いてくれたわよ」
「さすが風紀委員!」

比較的近くにいた練習生数人から、ヒソヒソ声が漏れ柊たちの耳に届く。
その会話から、どうやらあのポニーテールの女性……夏井と呼ばれた人が不真面目な練習生に注意をしたのは、これが初めてではないらしい。
夏井の注意に居心地が悪くなったのか、不真面目組たちは一目散に練習場を出ていく。後に残った練習生たちは夏井に礼を述べると、自分たちの練習へと移っていった。



 ある程度で切り上げた4人は、その後向かいの聖ヘレナボクシングジムも一応見回ってみようと思ったのだが、あいにくとドアが開かなかった為断念。
他に見る所もないとの事で、その日は帰路へ着いた。

「割と多いんだな、ボクシングジムって」

皆と別れての帰り道、柊は歩道をトボトボ歩きながら1人ごちてみる。オリンピック強化選手に選ばれ、7月に行われる合宿に先駆けて企画した今回のボクシングジム巡り。
とりあえず一通り見た感想は、『部活とは違う熱意・真剣さ』に満ちているという事。やはりプロの世界は予想以上に厳しいのだろう。
それは柊にとって新鮮に移り、また好ましい環境と思えた。

(真剣じゃねー連中もいたが、入るなら緒原ナックルジムだな。1番良さそうだ)

女子練習生に対する配慮が1番行き届いていたし、何より練習生の数が他の追随を許さない。家に着くや、バッグをソファーに投げ捨てた柊は早速ペンと入会申請書を取り出し、手早く書き殴り始めた。

(後はオリンピックの方の話か。多分明日ぐらいセンセーからみんなに話してくれるだろうけど……下司あたりが妙な反応しそうだな)

まあなるようになるか、とあまり気にしても仕方ないとその日は休む事にした。まさか、全く予想していなかった人物が反応し、しかもさらに予想外の出来事に発展するなどと知る由もなく……



 翌日、部活後のミーティングで植木から柊がオリンピック強化選手に選ばれた事、そして7月に沖縄県で行われる強化合宿に参加する旨が説明された。

「……という訳だから、今年の夏合宿には参加しないし、I・Hも高頭は出場しない。各自理解しておいてくれ」

植木はそう締め括ると、皆に解散を促す。

「ふぅん、オリンピックねえ。アンタいつの間にそんな事になってたの?」

特に深く興味を抱いた風でもなく、ナミが訊ねる。彼女にとって、ボクサーとしての柊が特別脅威に感じる内の1人なのは疑いない。

が、それは仮想敵としての場合。オリンピック……アマチュアの道を進む以上、あの目つきの鋭い日本人形は脅威たり得なかった。

ナミが目指すものは、あくまでプロの頂点なのだから。故に嫉妬などといった感情とは程遠かったし、むしろ応援してやりたいぐらいであった。

そんな中、越花の隣でパイプ椅子に座っていた雪菜はおもむろに立ち上がるや、部室の壁に掛けてあった試合用のグローブをひっ掴み、話題の中心人物へと突き付けた。

「高頭さん。私とスパーして!」





to be continued……
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Author:チャパロット
基本的に携帯サイトで書かせて頂いているもののリメイク(?)ですが、ちょくちょく文を変更してたりします(あと拙いですが自作絵なども)。
何かある方は、ckcwb305あっとまーくsutv.zaq.ne.jpにご連絡下さい。

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