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第7話 『狂気の本性』

 プロボクシング編、第7話です。



無事に、新人戦の1回戦を勝ち上がった詩織。スピード重視で丁寧なボクシングをする詩織に対し、晶はどのように闘うのだろうか? フェザー級の1回戦が、今始まろうとしていた。









「ス、ストーップ! ドクター、ドクターを早く!!」


 2011年、5月。神奈川県、新人戦フェザー級の1回戦に於いて、光陵高校の室町 晶は1R、1:13という早期タイムで勝利をもぎ取った。
左ボディーアッパーでガードを下げさせ、アゴががら空きになった所へ間髪入れず右アッパーを叩き込むや、相手は大きく吹き飛び大の字に倒れ失神してしまうという、豪快過ぎるKO劇を披露したのである。

この試合の一部始終を観ていた観客席から沸き上がる、晶を称える大歓声。

意識が回復しないまま、セコンド陣の心配そうな顔に囲まれ担架に乗せられる対戦相手には目もくれず、晶はマウスピースを引き抜かれるなり観客席の一部分に手を振っていた。

「アンナお姉さま~~! 見ててくれました~?」

しきりに手を振られ、部の先輩たる金髪碧眼のイタリアンハーフ、城之内 アンナは僅かに辟易した表情で手を振り返す。
どういう訳か、晶はアンナの事を“お姉さま”と呼ぶ。勝つにせよ負けるにせよ、KOの絡むそのファイトぶりに尊敬の念を抱いての事なのか。
それとも、仲の良い知念 心に対する当てつけのつもりなのだろうか。

案外両方なのかも知れない。

いずれにせよ、光陵の新一年生コンビは無事に2回戦へとコマを進める事が出来た。観客席で応援していた女子ボクシング部員たちも、ひとまず安堵のため息といった所であろうか。
そんな中で、会場の熱気に充てられ興奮の収まらない新入部員、比我 秋奈(ひが あきな)とやや暗い影を落とす杉山 都亀。
この反応の異なる2人にいち早く気付いたのは、すっかり実力も上級生としての風格も付いてきた桜 順子であった。

「比我ちゃん、少しは落ち着いたら? あんたが試合やってんじゃないんだからさ」

まあ気持ちは分かるけど、と初めて生の大会・試合を観た時の自分と照らし合わせつつ落ち着かせる。

「あ、はい! すみません。駄目ですね、私ったら……」

熱中のあまり握り拳に汗が滲んでいたのに気付き、赤面顔で謝る秋奈。一方、都亀が影を落とす理由も順子には十分理解出来た。

(杉山……やっぱり気にしてるんだね)

去年の新人戦の前に中途入部して以来、I・Hの県予選や幾つかの練習試合に出た都亀は、未だに勝利の味を知らない。
順子も初勝利を味わったのは3戦目であり、前の2戦では負けと引き分けだっただけに都亀の気持ちも良く分かるのだ。
一生懸命に練習して、苦しい思いをするのは、やはり試合で勝つ為に他ならない。選手として在籍している以上、それは当然の欲求。

だが、都亀はまだその欲求が満たされていない。

スタートラインが違うにしても、後輩たちに出し抜かれたという悔しさと、そう思ってしまう後ろめたさが、否応なく彼女に影を落とさせているのだろう。

「杉山。気持ちはよく分かるけど、とりあえず祝福してあげなよ」

制服のスカートを握り込み俯く都亀に、本人にしか聞こえない程度の声量で順子が囁く。それに対し、都亀は「うん。そう、だね」と微かに震えた声で返してくるのみであった。

(……近いうちに爆発するかも…知れないな)

今の自分ではどうしようもないと諦めた順子は、とにかくも大会の経過に目を運ばせていくのだった。





 色々な感情が交錯しながらも大会は進み、いよいよ各階級2回戦へと進む。ライト・フライ級の桃生 詩織は1回戦の勝利で自信なりコツなりを掴んだのか、1度尻もちを着いてダウンさせられたものの終始冷静な試合運びを徹底、大差のポイント勝ちにより準決勝へと辿り着いた。

数試合を挟んだ後、次なるは晶の2回戦。意気揚々とグローブを打ち鳴らす晶と、両目を閉じ落ち着いた様子の対戦相手。
会場の空気と晶を前にしても動揺しないその胆力は、かなりの場数を踏んでいる事の証明。かなりの強敵であろう事は間違いない。

「相手落ち着いてるね、心ぉ。晶ちゃん、大丈夫かな」

秋奈と同じく落ち着かない様子のアンナが、隣の心に訊ねる。

「さあ、どうかしら。アタシはアイツじゃないし、相手も強そうだし」

あたふたするアンナに、視線を晶に集中しつつ心は一蹴。実際、対戦相手は落ち着いているどころかその表情には余裕のようなものすら感じさせる。

(やけに自信ありますってツラじゃないか。でもね、晶だって弱くはないんだよ)

心配4割、信頼6割の面持ちで、心は晶にエールを送っていた。



カァァァァンッ!



 試合開始のゴングが鳴り、両者ともリング中央でグローブを合わせる。共に右のオーソドックススタイルで、向かい合う2人は小刻みに身体を振りながら様子を窺う。
所謂ケンカボクシングで攻め気の強い晶にしては、慎重な立ち上がり。相手が強いと肌で感じたのだろう。
そんな静かな流れが続くと思っていた矢先、響く轟音と共に試合は一気に加速度を増した。



ズバンッ!



ほぼ同時に放たれた2人の右ストレートが、互いの顔面を抉ったのだ。まるで申し合わせたかのようなタイミングで打ち込まれ、両者は同時に頭を弾かれていく。
左ジャブで牽制、などといったセオリーは、どうやら忘却の彼方であったらしい。

「ぶはッ」
「うぶッ」

弾かれた勢いでつい呻き声を上げ、だがすぐに体勢を立て直す。そこからは様子見などない、ガチャガチャの殴り合いが始まった。
ペース配分やスタミナのロスといった、後の事を考えない全弾フルスイングなパンチの応酬。アマチュアでは珍しいパワフルな打ち合いに、観客席は大いに沸き返った。
ただ、迫力ある打ち合いに喜ぶのは観客ばかりで、その攻防をハラハラした面持ちで観る者たちも存在する。

「ああッ、また打たれたぁ! もっとガード固めて!!」
「相手の動きをよく見て! ケンカじゃないんだからぁ」

瓜二つの顔を並べ、越花と雪菜が揃って似たような間延び声を吐く。観客席からでは、勿論2人のアドバイスなど届く筈もなく、晶は思い切りパンチを打ち込み、或いは打ち込まれていく。
革のぶつかり合う乾いた音と肉を殴打する鈍い音、空を裂く風切り音が三重奏を奏で、飛散する汗や唾液が場を彩る。
やがて左ショートアッパーがアゴをしゃくり上げ、対戦相手が膝を折った所で、



カァァァァンッ!



第1R終了のゴングが響いた。すかさずレフェリーが2人の間に割って入り、コーナーへと戻らせる。2分間をほぼ休みなしで打ち合った2人は、肩で息を吐きつつ指示に従う。

「ッはあ! はあッ! ふはぁッ!」

スツールに座り息を整えようとする晶。その全身から噴き出す大量の汗が、スタミナの消耗ぶりを如実に現しているよう。

「バカたれ、元々スタミナねえ癖にあんな無茶やらかすからだ!」

正面で向かい合う植木に叱られ、頬を膨らます晶。だが、残念ながら植木が正論と由起も陽子も同意した。
練習嫌いで、とかくサボリがちの晶はスタミナ面に大きく不安を残す。
筋力やパンチ力などは一年生の中でも突出しているのだが、ことスタミナに関して言えば素人同然の下司 サラと同等……下手をすれば下回るかも知れない。
地道な反復練習、そして地味な日々の走り込みがいざという時の起爆剤たり得るのだ。

「とにかく、このまま真っ正面から打ち合ったら間違いなくお前の方が先にガス欠だ。2Rは無理に付き合うな、距離を取ってジャブを撒いていけ」

「はーい」とあまり真面目とはいえない返事を返し、晶はマウスピースを銜えスツールから立ち上がる。
そして第2R開始のゴングと同時に、一足飛びにコーナーから飛び出していった。



「高頭先輩、さっきと違ってなんだか静かになりましたね」

 観客席で応援していたサラが、隣で沈黙を守っている柊へ状況を確認する。いいから黙って観てろ、と取り付く島もない柊の一言に、サラは小さく項垂れ観戦に集中する事にした。
第2Rが始まってから早1分。先程までのケンカじみた殴り合いから一転、今度はお互いジャブを中心とした小技の応酬を繰り広げていく。

どうも、ラフファイトを注意されたのは晶だけではなかったらしい。

ダイナミックな殴り合いから一転、この小技のつつき合いにあたかも熱した頭に冷水を掛けられたかの如く、観客たちは冷めた視線でリング上の2人を追っていた。だが、それも仕方ないのかも知れない。

何せ、当の本人たちですら冷めてしまっているのだから。

血の気の多い彼女たちの目指す所は、つまり肉を穿ち骨を砕かんばかりの肉弾戦であって、こんな小手先の技を交わす事ではない。
困った事に、今リング上で闘っている2人は全く同じ思考、同じ不満を持っていたのだ。そうなると、次第に苛烈な打ち合いの様相を見せていくのは寧ろ自然の流れというべきであろう。

ピシパシといった打撃音は、段々とドスバスといった重いものへと変化を遂げていく。

結局、2Rも終盤の方になると1Rの再現ともいうべき乱打戦となっていた。



 2人汗を飛ばし唾液を散らし、プライドを掛けた猛烈な殴り合いが続く。そして、1:40秒頃……それは起こった。



ガッ!



間合いを詰めた相手の右足が偶然晶の左足を踏みつけ、更につんのめった晶のアゴに頭がかち合ったのである。
これにはレフェリーも一旦試合を中断し、反則行為に当たると注意するよう指示。決して故意で行った訳ではなかったのだろう、申し訳なさそうに頭を下げる相手。

「やばッ」

試合再開の合図が出た前後、アンナの耳元に短く心の呟きが聞こえた。心が珍しく焦りの表情を浮かべているのを見て、何事かと訊こうとした時……急に観客席の方々から沸き立つざわめき声。

「え? え? なに?」

ほんの一瞬目を離した隙に試合が動いた事を察したアンナがリングへと視線を向けると、そこにはグローブで鼻を押さえコーナーに凭れ掛かる相手と、襲い掛かる晶の姿があった。

「ストップ! 室町、ストップだ!!」

レフェリーが慌てて晶の行く手を遮る。だが、鬼のような形相の晶はレフェリーを強引に撥ね退け相手へと迫る。

「やりやがった……あのバカ!」

憎々しげに心が吐き捨てると、アンナは何がどうなったのか確認してみた。

「バッティング(頭突き)だよ。あいつ、相手の鼻っ柱に思いっきり頭入れやがった」

やられた事を同じ方法でやり返さないと気が済まないのさ、あいつは、と毒を吐く心。その間、リング上は凄惨な状況となっていた。
まず、鼻から結構な出血で半ば戦意の喪失した相手の顔面に、何発もフルスイングのパンチを叩き込む。
もうこれ以上顔を打たれたくないという本能から、相手は必死にガードを上げる。

そして、運良く第2R終了のゴング。とにかくもこれで殴られずに済むと安堵した、その瞬間……



ドカァッ!



下腹部に、晶の拳がめり込んでいた。

「ぎゃひぐうぅッ!!」

トランクスとファウルカップ越しに響く鈍痛で、思わず悲鳴にならない悲鳴を上げてしまう。今度はローブロー(トランクスのベルトラインより下を叩く反則)である。
味わった事のない衝撃と痛みに、上げた両拳を股間にあてがい涙を零す。そこへ、晶の無慈悲な右拳が頬を穿っていった。
汗や唾液や血や涙が、パシャッとキャンバスに付着していく。レフェリーの制止もまるで意に介さず、その後も狂気の表情で拳を振るい続けた晶は、駆け寄ってきた植木に抱きかかえられた事でようやく鎮静。

ズルズルとコーナーに背を付けへたり込んだ相手は、恐怖に怯えた表情を貼り付け「ひぃ、ひッ」と大粒の涙を零すのみ。



カンカンカンカンカンカーン!



試合……いや、惨劇の幕を閉じるゴングの音が何度も何度も鳴り響く。顔やグローブに返り血を付け、立ち尽くす敗者は座り込んだまま動かずすすり泣く勝者を、息を切らせながら悠然と見下ろしていた。





to be continued……
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コメント

No title

ゴングが鳴っても打ち続けるバーサークっぷりが大好きだワ!!!w
ナニこの子、なかなか面白い子じゃないの!
残虐ラフファイトのバーサークボクサー!結構良いわね!!!w

後、相変わらずリング外だと何気にヘタレなアンナちゃんwww
アンナお姉さま~の所が何故か白井黒子の声で再生されたわw

晶は新一年生トリオの中では1番の困ったちゃんですね。キレたら手に負えないタイプです。普段は割かし可愛らしい性格なのですが、やられた事はやり返さないと気が済まない所があります。

アンナは確かにリング外ではややヘタレの傾向はあるかも……
晶のCVイメージは新井 里美さんですかw
Secre

プロフィール

チャパロット

Author:チャパロット
基本的に携帯サイトで書かせて頂いているもののリメイク(?)ですが、ちょくちょく文を変更してたりします(あと拙いですが自作絵なども)。
何かある方は、ckcwb305あっとまーくsutv.zaq.ne.jpにご連絡下さい。

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