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第6話 『初めてのリングイン』

 プロボクシング編、第6話です。


光陵女子ボクシング部にとって、2度目の新人戦がやってきた。ライト・フライ級の詩織とフェザー級の晶、新人とは名ばかりのこの大会で、2人はどこまで闘えるのだろうか?









 2011年、5月。高校・新一年生を対象とした神奈川県独特の小大会、新人戦当日。無事計量をパスした桃生 詩織、室町 晶の両名は選手用にあてがわれた控え室で待機していた。
今回セコンドに入るのは、顧問の植木 四五郎、サブの大内山 由起、荷物持ちの中森 陽子の3名。更に、念を押して控え室に主将の下司 ナミが詰める。
思えば1年前、減量に失敗して新人戦を棄権せざるを得なくなったのも、今となっては恥ずかしくも懐かしい思い出と1人頬を掻く。
自分が辛酸を舐めた分、可愛い後輩の2人にはせめて悔いのない試合をして欲しいと、心底願う所であった。

試合用の赤地に白ラインのランニングシャツ、同様の柄のトランクス、白に赤いラインの入ったリングシューズを履いた詩織と晶。
長椅子に座り物静かな詩織と、せわしなくシャドーボクシングを繰り返す晶は、両極端ながら緊張感に潰されまいと必死の抵抗をしているようにも見える。

「とりあえず今大会の要注意選手をピックアップしてみたから、試合までに目を通しておいてね」

そう言って、由起は2人の為に作成した資料を手渡す。例の如く数日間全く音沙汰なしで作り上げた資料。ただ、これが非常に役に立つ。
新設2年目の光陵女子ボクシング部が、早くも他の高校と肩を並べ神奈川県の強豪校となっている一因は、間違いなくこの由起のデータによるものであったろう。
それぞれ資料を手に取り、氏名と学校名、写真や詳細に目を通していく。

「おお!? こいつおっぱいでけーーッ」
「なんでこんな可愛い顔してるのにボクシングやってるんだか……さては、とんでもない性格ブスに違いない」

詳細そっちのけで掲載写真に逐一反応を示す晶。それとは対照的に、詩織はただ1人の選手のページをただジッと見つめ続けていた。


天命館高校、猿渡 巫女(さるわたり みこ)


ページには、そう記されている。光陵高校から割と近い場所にある猿渡神社の1人娘らしく、穏やかな表情に背中近くまである髪を先の方で縛っている辺り、いかにも巫女さん然としていた。

「あー、あの神社の。そういえば初詣の時なんかに見かけた気が……」

「中学の時の友達、なんです」

後ろから覗き込み呟くナミに、詩織は資料から視線を外す事なく答える。ここに記載されている戦績の程は今ひとつパッとしないものの、わざわざ由起がピックアップするからには実力も相当あるのだろう。
何より、天命館といえば一昨年のライト・フライ級I・H全国大会覇者、佐山 光子(さやま みつこ)のいた高校。
どちらにせよ、詩織にとって厳しい公式戦になりそうだった。



 ちょっと外の様子見てくるね、とナミは控え室を出て試合会場の方へ向かう。通路を抜け花道へ至る出入口に出ると、ちょうど1年前と同様四角形の配置に並べられた4つのリングが見えてくる。
その内の1つ、第1リングでピン級の試合が終わったようであった。判定だかで赤コーナーの少女が腕を上げられているのが見て取れる。
それをぼんやり眺めていた時、

「どうやらピン級はウチの勝ちですね、弥栄さん。ご愁傷様」
「あ~、負けちゃったあ。でも、まだ次があります!」

ナミの位置から反対側を陣取った2人組がきゃいきゃいと湧き上がっていた。ふとそちらに目を向けると、見知った顔が2つ。

「麗美さん、弥栄さん?」

意外な顔ぶれに、思わず声を掛けるナミ。自分たちの名を呼ぶ声に反応し、2人は誰かと顔を向け……同時に破顔一笑した。

「「下司さん!」」

都和泉(みやこいずみ)高校、曹 麗美(ツァオ リーメイ)
品森高校、弥栄 千恵子(やさか ちえこ)

ナミと同学年のこの2人は、声をハモらせナミの方へと歩み寄る。久方ぶりの再会にそれぞれと握手を交わすと、ナミは何故2人が一緒にいたのかを訊ねてみた。
何でも、今年に入って早々に練習試合をした関係で親交を深め、更に家が近い事を知って、何かと一緒にいる機会が自然と増えたのだという。
ちなみに、同じライト・フライ級の2人の対戦はというと、麗美が2R序盤でRSC勝ちを収めたとの事。

去年の新人戦の時は、まだまだ緊張感でガチガチなド新人といった印象だった千恵子。だが、1年間頑張ってトレーニングを重ねてきたであろうその表情は、しっかりと先輩のそれになっていた。

実力はともかくとして……

麗美も、都和泉との練習試合で見た時よりしなやかな筋肉が付いているのが窺える。特に下半身の筋肉は俊敏な野生動物を彷彿とさせた。
さぞスピードにも磨きがかかった事だろう。

(ま、成長してるのはなにもわたしたちだけじゃないって事か)

この様子だと他の連中も油断出来ないわね、などと実感しつつ詩織の順番が近付いてきた事を確認すると、ナミは2人に一声かけて控え室へと戻る。
その途上、後ろから千恵子に呼び止められた為振り返るナミ。

「あ! よければ今度、I・Hまでの間に一度ウチと練習試合してもらえませんかー?」

このような場所でまさかの練習試合の誘い。一瞬茫然とした表情を見せたが、特に断るべき理由も見出せなかったので、

「うん、いいわよ。日取りとか細かい事はまた話し合いましょ」

と一応の受諾をして見せ、今度こそ控え室へ戻るのだった。



 既にグローブとヘッドギアを着け、後は開始のゴングを待つばかりの詩織に係員からの要請が入ったのは、ナミが控え室に戻ってから程なくの事。
神妙な面持ちで両拳をポスポス打ち合わせると、長椅子から立ち上がり「行ってきます」と静かな声で戦場へと歩いていく。
その後ろ姿を見送りながら、ナミはただ勝利を願うばかりであった。

カツンカツンと廊下を歩く足音の甲高さに言いようもない苛立ちを覚えながらも、詩織は植木、由起に付き従う形で進む。
後ろから「落ち着いていこうね」と陽子が気遣いを見せたものの、半ば上の空。

何にせよ、一刻も早くリングに立ちたい
早く自分の力が通用するのかが知りたい

といった心境であった。かつて柊や順子、アンナなどの先輩たちが通った廊下を経て、詩織は今リングに向かう。

自分にとって、初めての舞台。客席を見れば、手を振って応援のエールを送ってくれる部の仲間や同級生たちの姿が視界に映る。
改めて恥ずかしい試合は出来ないと自身に言い聞かせ、詩織は植木に広げられたロープを潜りリング上へと躍り出た。



 試合前の注意事項をレフェリーから伝えられる間、詩織も対戦相手も互いに視線を外さない。青コーナーの相手はいかにも自信満々といった面持ちで、どことなく詩織の事を舐めてかかっているように見受けられる。
ともすれば挑発的な視線を、だが詩織は静かに受け流しグローブタッチだけを交わすと、流れるような仕草で赤コーナーへと引き揚げていく。

「とりあえず最初は相手をよく見るんだ。練習を思い出してやれば、まあ最悪の結果にはならん」

コーナーマットを挟んで、外の植木は内の詩織へ作戦を指示。はい、と頷きマウスピースを銜え、右手で位置を直しつつ相手側へと振り向き……



カァァァンッ!



新人戦、その初戦の火蓋が切って落とされた。



 挨拶代わりのグローブタッチを交わし、一旦距離を離す両者。右構えのオーソドックススタイルの相手に対し、詩織は何と左のサウスポースタイル!
山之井ジムで彼女が元来左利きと気づいたナミは、宗観や同じ左利きである柊の助力を借りて詩織をサウスポーに仕立て上げたのである。
元々が左利きの彼女にとって、急造とはいえやはりしっくりくるらしい。そんな詩織は植木の指示を愚直に実行、右ジャブで様子を見る。
対して相手は被弾しても怯まず、だがサウスポーを相手にするのは初めてなのか戸惑いが隠せない。

右構えのボクサーにとって、サウスポーの右は距離感が掴み辛く非常に厄介な代物となる。今、まさにそれが絶妙に噛み合う形を成していた。
即ち、攻め倦(あぐ)む相手の顔面へ面白いように詩織の右ジャブがヒットする状況。偶然の産物以外の何物でもなかっただろう。

「ぐッ、ぁぶッ、ぷあッ!」

パン! パン! とリズミカルに響く殴打の音と共に、相手選手の呻き声が聞こえてくる。
しかしさすがに相手も殴られ続けという訳もなく、闇雲にパンチを放ってはいくものの散々サウスポーの距離感に狂わされ、まともに有効打は望めない。
逆に、間合いを完全に制した詩織のパンチは確実に相手を刻み、スナップを効かせた右は次第に左瞼を腫れさせていく。
馬鹿の一つ覚えに右ジャブばかり打っている為、腕の筋肉が張っていく感覚に眉をしかめる詩織。
だが止めない。右ジャブが効力を持ち続けている限り、ただひたすらに右を繰り出す腹積もりだった。
そして1R終了間近、「ストップ!」とレフェリーはワンサイドの展開になってきたと見て両者の間に割って入る。

スタンディングダウンを宣告、詩織にニュートラルコーナーへ下がるよう指示しカウントを数え始めた。

(や、やった! ダウンを取ったんだ、私!!)

右腕の張りにも目を瞑り、詩織は心の中で喜ぶ。完全にペースを掴んだ上、生まれて初めて奪ったノックダウン。
普段は冷静さを信条とする詩織も、さすがに浮わついた心持ちとなっていた。

カウント8で試合続行を促した直後、1R終了のゴングが鳴り2人は各コーナーへと引き揚げていく。嬉しさに自然と足取りの軽くなる詩織と、悔しさに震えながら退いていく相手選手。
それはあたかも、この試合を決定づけたかのような印象を観客に与えていた。

「よし、とりあえず今の所はいいペースだ」

スツールに腰掛けた詩織の口からマウスピースを引き抜き、うがいをさせながら植木は頷く。

「はあ、はあ……はい!」

頬を蒸気させ、詩織はつい大きめの声で返事してしまう。少々興奮気味なのは、自分のペースで試合を運べているからなのか、初めてダウンを奪ったからなのか。
勿論それらもあるだろうが、会場の持つ独特の熱気に充てられての事なのだろう、と植木は思う。

(いかんな、これは……)

1Rの間酷使し続けてきた右腕を丹念にマッサージしつつ、顧問は浮かれた選手の頭に冷や水の如き一言を浴びせた。

「調子に乗るんじゃない! 奴さんが偶然サウスポー慣れしてなかっただけだ。お前の実力勝ちなんかじゃないんだぞ」

やや怒気を帯びた静かな一言。熱気に浮かされ、しかも上手くいき過ぎている試合展開で詩織が図に乗ってしまうと、後のラウンドで手痛いしっぺ返しを喰らい兼ねない。
試合で熱くなっても頭は冷静でなければ、無駄な力みが入って練習してきた事の半分も発揮出来ないだろう。
キャリアで劣り、恐らくスタミナ面でも叶わないであろう詩織が今また冷静さすら失っては、万に一つも勝ち目はない。
それを危惧したからこそ、植木は敢えて詩織に冷や水を浴びせたのである。

「え…?あ、はい。す、すみません……こういった所での試合、初めてで……」

初めてづくしの彼女に、舞い上がるなというのも酷な話。だから、そこを修正していくのは自分の役目と知る植木は、改めて戦法を指示していく。

「いや、分かればいい。とにかく、お前の最大の利点はこの右。まず右ジャブでペースと距離を掴んで、チャンスとみたら左ストレートを叩き込んでいけ!」

部活やジムでも徹底的にジャブとストレートのみを練習したんだ、自信を持て! と元プロボクサーに活を入れられ、詩織はマウスピースを受け取りつつコクンと頷く。
元々急造な矯正だった為に、右ジャブと左ストレートぐらいしかまともに機能しない。故に、今はそれを頼りにせざるを得なかった。



 第2Rのゴングが鳴り、両者改めて打ち合いを展開していく。ただ、この時点で植木らの危惧はどうやら杞憂に終わったらしい。
相手は緒戦でペースを狂わされて以降、未だに右ジャブへの対応が出来ずに攻め倦んでいた。時折強引に懐へ潜り込み相打ちでパンチを当てる事はあっても、ただそれだけ。

この試合は、もう完全に詩織のものであった。
2Rが終わり、最終第3Rも終始詩織のペースのまま展開し……



カンカンカンカンカンカーン!



距離を測られた上で打ち込まれた左ストレートにより大きく身体をグラつかせた所で、試合終了のゴングが鳴り響いた。
フルラウンドを戦い抜き、勝敗は判定へと移る。
が、ステップも軽やかに満面の笑みの詩織とガックリ肩を落とし沈痛な表情の相手、どちらが勝者であるかは改めて問うまでもなかっただろう。

詩織の公式戦初試合は、文句なしの大差判定勝ちにより白星で飾り、2回戦へと駒を進める事となった。





to be continued……
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コメント

No title

巫女ボクサー!w
清楚なイメージの巫女さんがボクシング!?
これはかなりのギャップ萌えだわネ!
>弥栄さん 実力はともかくとしてwww
これは酷いww
しかもツァオさんと試合!?今回だけでいじめられすぎwww

ギャップ萌え、最高ですw
創作世界だからこそ巫女がボクサーになるのも許されるというものですよ。
弥栄さんは負けてもへこたれないのが最大の長所、と作者的に思ってる訳ですよw
Secre

プロフィール

チャパロット

Author:チャパロット
基本的に携帯サイトで書かせて頂いているもののリメイク(?)ですが、ちょくちょく文を変更してたりします(あと拙いですが自作絵なども)。
何かある方は、ckcwb305あっとまーくsutv.zaq.ne.jpにご連絡下さい。

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