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第8話

 第8話です。

植木の計らいにより、宗観の協力を取り付けたナミ。一方柊も、昔馴染みでボクシングジムの会長をしている片山 那智から見学に行く事を了承させられてしまうのだった。




 翌日、AM6:30。

「はぁ……」

明後日……いや、正確には明日、那智(なち)が練習を見に来る。そう思うだけで柊(しゅう)の口からは嫌な溜息が漏れた。

(なんで断れなかったんだ、オレ……)

どうにも昔からあの人の言う事には逆らえないんだよなぁ、と自分の優柔不断を思い返し、

「はぁ……」

再び溜息が漏れる。

「あ、柊おはよーー」

ナミは既に準備を終え、正門前で待っていたナミ。元気に挨拶してくるナミを見て、

「……お前は悩みとか少なそうでいいよな……」

ボソッと小声で呟いた。多分に皮肉混じりの一言だったのだが、

「なにか言った? とりあえず早く着替えてきなさいよ」

ナミには届かなかった。




 AM7:00までには全員が揃い……正直な所、越花(えつか)は初日で脱落するのではないか? とナミは思っていたのだが……朝練を開始した。
約1時間を筋力トレーニングやダッシュ等の基礎練習のみに費やし、放課後また再開する旨を伝えるとナミは解散を促した。


 授業中、ナミはナミの後ろに座る越花は全身筋肉痛の為かうんうん唸っていた。

「ねぇ、大丈夫?」

とナミが声を掛けると

「うん、大丈夫……」

と、苦痛の表情を見せながらも越花は返答してきた。

「そう、だったらいいわ」

本人が大丈夫だと言うなら……と、また前を向き授業を受けるナミ。

(この娘、意外と根性あるじゃない)

相変わらずうんうん唸る越花を、ナミは少しだけ見直すのだった。





 放課後。練習を始める前に、マネージャーの由起(ゆき)から

「今日から部室を借りられる事になったから」

さり気ない重大発表を聞かされた。

どういう事なのか経緯を聞くと、練習環境が不平等であると、由起が今日桃生(ものう)に申し立てたらしい。すると、桃生からPM6:00以降ならキックボクシング部の部室を使っても良い、との許可を貰ったのだという。
場所を聞いて、久美子(くみこ)と順子(じゅんこ)は複雑な表情を見せたが、時間限定とはいえ部室が使えるのは大きな前進といえた。


 キックボクシング部の部室には、万全とはいえないまでもある程度の設備は整っている。外でも基礎練習は充分出来るが、リングがない。これから先、スパーリング等もする事になってくる。キックのリングがボクシングのリングと同じなのかは詳しく知らないが、距離感覚と四方を囲まれる雰囲気を掴むには絶対に必要だと思っていた。
由起の行動に感謝しながらも、まずは基礎体力を付けるのが先決なので、部室が空くまでの間はただひたすらに走り続けた。途中、越花に引き続き順子も嘔吐してしまう程休みなく走り続ける。
何度か筋肉が冷えない程度に小休止をしながら、基礎練習を繰り返す。ただただ、基礎練習を反復した。

「ハァハァ、ハァハァ………」

PM5:50。この頃には、さすがに久美子や柊、アンナも息を切らせ疲労感が出てきていた。1番この手の練習に慣れているナミも、息を切らせ始めている。越花や順子、由起はもう付いて来るのも辛そうな状態だった。

キックボクシング部の部室が使用できる時間になり、ナミを除く女子ボクシング部員たちは足取りの重いまま目的地に向かった。そして、キックボクシング部室のドアの前では、

「遅いぞ、お前ら! ダッシュだダッシュ!!」

何故か植木(うえき)が立っており、開口一番怒声を上げた。

「四五……じゃない、植木先生!? なんでここに……」

全員がダッシュをさせられ部室前に並んだ後、ナミは疑問を投げ掛ける。

「なんでもなにもあるか。俺は今日からこの女子ボクシング部の顧問になったんだよ」


 これには、ナミを含め全員が言葉を失った。男子ボクシング部顧問が、いきなり現れて「女子ボクシング部の顧問になった」である。何故いきなりそんな話になったのか、ナミでなくとも聞きたくて仕方がない筈である。

「ん? ああ、元々育成方針とかで桃生とは噛み合わなくてな。あの野郎、権限を使って俺を辞任させるよう校長に働きかけやがったみてぇでよ……」





とんでもない話である。




 ただの一クラブの主将が自己の権限を以て顧問を辞任に追い込む、などという話は普通なら絶対にあり得ない話だ。しかも、育成方針が合わないから……という理由である。ただそれだけの理由で顧問を辞任に追いやった桃生という男が、ナミには理解出来なかった。
己の育成方針によほど自信があるのか、それとも単にわがままで自己陶酔しているだけの男なのか……どちらにせよ、やはり今度の男子対女子の試合は絶対に負けるわけにはいかない。
男子を負かして桃生の鼻をあかしてやる為。
植木の受けた屈辱を晴らす為。
そして何より、女子ボクシング部の正式な設立の為に。


 植木に促され、部室に入った部員たちは早速練習に入った。まずは植木とナミ、由起がボクシングに於ける基本姿勢をしてみせ、次に手取り足取り説明し、

「試合中相手と対峙してる間は、絶対この姿勢を崩さない事。これが崩れるって事は、相手にとって絶好のKOチャンスを与えてる、って思って」

と念を押した。


「それじゃこれから2分間、そのポーズのまま動かないでね。よーい、スタート!」

 合図と同時に部員たちが一斉に構える。最初は皆言われた通り構えを崩さないまま時間が経過するのだが……1分も過ぎると、徐々に姿勢が維持出来なくなる者が現れ、目標の2分が終了した時点で最初の姿勢を保てた者は……皆無であった。腕が下がり、逆にアゴが上がって相手に曝け出す恰好になった者が殆どである。

ナミは一旦姿勢を崩すよう伝えながら、

「どう? 構えてるだけでも結構キツいでしょ?」

皆に感想を聞いてみた。

「ハァハァ、腕を固定してアゴを引く……それだけでもこんなに疲れるなんて………ハァハァ、思わなかったわ……」

息を切らせながら、最初にそう答えたのは順子。他にも色々な声が上がる中、

「とりあえず、部室を使う時間はこれだけを行う。この基本姿勢は、言葉通り基本中の基本だからな。しっかり身体に覚え込ませろよ」

植木による部室内での練習メニューを告げられる事となった。


「センセー、ちょっといい?」

 練習を再開しようとした矢先、柊が手を挙げて植木に質問する。

「ん? どうした高頭」

「いや、オレ実は左利きなんだけど……これって、利き腕関係なしで身体の向きは一緒なの?」

柊は構えを取りながらも違和感を感じている仕草を取る。

「お前、サウスポーか!? また珍しいな」

植木は少し感心したような顔で、柊の構えをサウスポースタイルに矯正する。足のスタンスや腕の位置などを、直接触れながら指導していく。

「うわ、どこ触ってんだよ! セクハラだぞセクハラ」

柊の身体に直接触り、セクハラ発言されながらも、植木はある違和感を感じ取っていた。

(この筋肉の付き方……こいつ、まさか………)

ナミから柊がバスケットをしている、という話は聞いている。が、柊の筋肉の付き方は球技をしている者のそれではなく、むしろボクサーのような筋肉の付き方なのである。
ただ、これ以上は本当にセクハラになりそうなので、植木は触っていた太ももから手を離した。


 部室での練習を終え、くたくたになっている部員たちにナミは連絡事項を伝える。

「明日の予定なんだけど、わたしが世話になってるプロのトレーナーが来てくれる事になってるから。本格的な練習になるから覚悟してね」

プロのトレーナーによる本格的な練習、という言葉に部員たちの疲れが一層増す感じがした。そんな中、柊がまたも軽く手を挙げ、

「あ、オレからもひとつ。明日ぐらい、東京でボクシングジムの会長やってる知り合いが見学に来るかも知れねーから」

と皆に伝えた。

「高頭さんにそんな知り合いがいたなんて……ちょっと意外」

スポーツタオルで汗を拭き取っていた久美子が、本当に意外そうな顔で口を挟む。

「昔馴染みなんだよ。中学一年が終わるぐらいまでの」

同じく汗を拭きながら柊は答えた。

「ねぇ柊。それってどこのジム?」

プロのボクシングジムと聞いて興味がそそられたのか、ナミが詳しく聞いてくる。

「加藤ジム、って小さいジムだよ」

「加藤ジム?」

知ってる? といった顔のナミは植木の方を見るが、植木も知らないらしく首を傾げお手上げのジェスチャーをしてみせた。

「ま、そんな無名のジムの会長だから固くなる必要はねーよ」

柊にしてみれば、ナミや植木が加藤ジムを知らなかった事に関しては大した興味もないらしく、さっさと部室を後にした。部室から出て、1人で自宅へ帰る道すがら、

「しっかし……」

柊は物思いに耽る。

(那智さんが来るって事は……“アイツ”も来るんだろうなぁ)

小学校、そして中学の1年間を共に過ごした幼馴染みの少女の事を思い浮かべ、「はぁ……」と溜息を吐いた。



「それじゃ失礼します」

 久美子と順子は植木に一礼し、部室を去る。越花は慣れない練習で疲れ果てたのか、まだベンチでぐったりしていた。由起とナミは手分けして部室の掃除を行っている。

「おい、大丈夫か? 葉月」

植木はぐったりとベンチに座る越花を気遣い声を掛けてみる。が、疲れ切った越花は返答も出来ない程に疲労していた。

「ったく、しょうがねえなぁ」

頭をポリポリと掻きながら、

「葉月、ちょっとうつ伏せになれ」

植木は越花に横になるよう促す。コクッと首だけで肯定し、気だるそうに身体をベンチに横たわらせる。そして、腕まくりをすると……



ギュッ!



植木の手が、いきなり越花のふくらはぎを握りだした。

「ぃッ!?」

ふくらはぎに激痛が走り、越花は目元に涙を浮かべ上半身をくねらせ声にならない声を出した。



ギュッ、ギュッ、ギュッ……

 痛みのあまりジタバタともがく越花を無視し、植木の手は越花の足から脚、尻、腰、背中、腕と全身を入念に揉みほぐしていく。すると、次第に険しかった越花の表情が穏やかなものへと変わっていった。

「ふぅ……これぐらいでいいか」

越花の全身の筋肉をほぐし終えた植木は、息を吐き額の汗を拭う仕草をしながら

「もういいぞ、葉月」

先程とは別の意味でぐったりしている越花に起き上がっていいぞ、と声を掛けるとブラッと外に出ていった。


 植木が部室から出ていき、掃除を終えた由起とナミは越花を起こし服を着替えると、部室を後にした。練習終了後はぐったりして動けなかった越花も、植木のマッサージのおかげか幾分か楽になった、といった表情で家に帰っていった。

(ホント明日から大丈夫なの? あの娘ってば……)

たった2日で動けなくなる程疲労していた越花を見送りながら、苦笑しながらも心配せずにはいられなかった。




 柊がいつもの日課であるシュート練習をするべく公園に向かうと、一組の男女がコートに備え付けのベンチに腰掛け楽しそうに談笑しているのが見えた。一見して、かなり背の高さが異なる一組である。その片方、長身の男性に視線を送ると……

(な、那智さん!?)

例の加藤ジム会長、片山 那智である事に驚きを隠し切れない柊。

(って事は、あっちのは……)

もう片方、セーラー服に身を包んだ少女の方を見ると、相手は柊に気付いたらしくお互いの顔を見合う形となった。


「げッ!」

 世の男性を幻滅させるような声が、柊の綺麗に整った口から漏れる。と同時に、視界に捕らえていた少女がポニーテールに結わえた長い髪を、膝丈より少し短いスカートを、そして制服の上からでもはっきりと分かる豊かに過ぎる胸を揺らしながら、柊に向かって一直線に走ってきた。
そして、あと一足で届く距離まで来ると……



タンッ!



両手を広げ、柊目掛けてジャンプしていた。

「柊ちゃあ~~ん!」

「うわッ」

飛びつかれた事に驚いた柊は、



スッ……



咄嗟に身を後ろに引いていた。ほとんど条件反射である。


 再会を祝し抱擁してくれるものと思い込んでいた少女は、その相手がいる筈の場所にいない事を確認し……



ベシャッ!



地面にダイブしていた。

「おーい、大丈夫かー?」

柊は地面にダイブしたままの少女に確認する。

「う~、柊ちゃんヒドい。避けなくてもいいじゃない」

ヨロッと軽くフラつきながら起き上がり、制服に付いた砂埃を手で払い落としていく。そんな後ろ、男性は柊に手を挙げ挨拶するのだった。





to be continued……
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チャパロット

Author:チャパロット
基本的に携帯サイトで書かせて頂いているもののリメイク(?)ですが、ちょくちょく文を変更してたりします(あと拙いですが自作絵なども)。
何かある方は、ckcwb305あっとまーくsutv.zaq.ne.jpにご連絡下さい。

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