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第4話 『詩織、初めてのスパーリング』

 プロボクシング編、第4話です。

4月を迎え、新たに新入部員の勧誘を始めるナミたち女子ボクシング部。ナミの妹サラ、心の腹違いの姉を慕い心を毛嫌いする晶、そして数人の新入部員を獲得したその時、桃生の姓を名乗る少女が現れるのであった。









 4月に入り、各クラブが精力的な新入部員勧誘を始めて1週間が過ぎようとしていた。その間、女子ボクシング部も他に負けず勧誘に力を注いでいたのだが、この時点で入部が6名。
うち3名が早くも脱落してしまい、今残っているのは

下司 サラ
室町 晶(むろまち あきら)

そして、

桃生 詩織(ものう しおり)

の3人。

「ラスト1本!」

ロードワーク先のいつもの広場で行う基礎トレーニング。その中のひとつ、100mダッシュ10本のラスト1本を、新入生トリオと比我 秋奈が敢行した。
ザッザッザッと大地を蹴る8つの足音。100mラインに立つ由起と陽子を秋奈、詩織、サラ、晶の順に通り過ぎていく。

「ハァッ、ハァッ、ハァッ」

荒い息を吐き肩を上下させる新入生たち。秋奈も同様ながら、まだ若干の余裕が感じられたのは以前より培ってきたランニングの賜物か。
ナミの感じた通り、秋奈の基礎体力はかなり高いようであった。特にこれといって運動をしていなかったサラは論外として、残る2人にはそれなりの下積みがあるのだろう。
詩織はさすがあの桃生 誠の妹だけあり基礎練習は卒なくこなしているし、晶にも余裕が感じられた。
もっとも、晶はどうやら手を抜いているようではあったが。

心曰く、中学の頃からボクシングをしているものの練習嫌いで有名だったらしい。ただ、試合となると自慢のハードパンチで結果を出すものだから、余計に調子に乗るような、一種の問題児であったようだ。

一方の詩織はというと、練習は真面目に取り組むし先輩に対する態度も上々。ただ、寡黙で気持ちに余裕が感じられない。
経歴に関しても中学の時からボクシングを始めたという以外、多くを語ろうとしないのだ。
ナミたちと比べても遜色ない個性を放つ新一年生たちではあるが、しっかりと練習についてこられる辺り去年の越花や順子よりは期待が持てそうであった。

だが、そんな寡黙な詩織が騒動の火種となるひとつの出来事が生じた。4月も下旬に差し掛かり、晶と詩織が新人戦のエントリーを申し込んだ矢先の事である。

サラはさすがに自粛……というよりは、顧問と姉から了承が得られなかった為やむなく辞退。そんな情勢下、詩織が植木へある提案を申し入れたのが事の発端となった。



「植木先生、高頭先輩とスパーリングをさせて下さい」

「………は?」

 顧問用にあつらえられた机に片肘を着いていた植木は、思わずその肘が落ちそうになる程驚き、呆然とした顔でその一年生を見上げた。

「スパー……だと?」

辛うじて絞り出した顧問の問いに、詩織は口を引き締めコクンと無言で頷く。

「いや、お前まだ入って1ヵ月になるかどうかってぐらいだろうが。さすがにスパーは…」

「でも、新人戦に向けて実戦感覚を養うのも必要だと思うんです。お願いします、先生!」

結局、優等生然とした外見に似合わない詩織の、熱心かつ粘り強い頼み込みに折れ、1Rだけという条件付きでスパーリングに承諾。柊に詳細を話した所……

「ヤだよ、めんどくせー」

とのありがたいお言葉を賜る事となった。

「そう言ってやるなよ。可愛い後輩への指導だと思って……」
「ヤなモンはヤだ」

植木がやんわりと諭そうと手を尽くすものの、柊は頑として首を縦に振らない。1年間付き合ってきてその性格は知っているつもりだが、こういった扱い辛さは相変わらずであった。

困り果てていた植木の下へ、話を聞きつけたのだろう雪菜が近寄る。

「私で良かったら手伝いましょうか?」

トンッと拳で自分の胸を叩き、ここぞとばかりアピールする雪菜。その一方で、柊は由起に連れられ部室の片隅へ。

言葉短めに何事かを話し合った結果、「しょーがねーな。可愛い後輩の為だ、一肌脱いでやるよ」と、どことなく嬉しそうな柊はそう告げるや、いそいそと準備を始めた。
良かれと思って出張ってはみたもののタイミングを外してしまい、ぶつぶつ愚痴を言いながら1人サンドバッグを叩く雪菜を余所に、柊と詩織はリングに上がる。

柊は白地のTシャツの上に青のタンクトップ、青地のショートトランクスという出で立ち。
対する詩織はまだ専用の服を持っていない為、上下体操着で臨む。

「とりあえず1Rだけ、なにかあったらすぐに止めるからね~」

意気揚々と2人を中央に呼び、簡単な注意事項を説明していくのは、何と葉月 越花。以前からレフェリーに興味があったらしく、話が出た途端自ら立候補してきたのだ。

柊は青コーナー、詩織は赤コーナーへとそれぞれ散り、マウスピースを嵌めてもらう。
本来なら格上の柊が赤コーナーへ入るのが普通なのだが、彼女は「赤コーナーは縁起が悪い」と拒否。
I・H本戦での、初めての敗北が赤コーナーだっただけに、柊としては験を担ぐといった心境が大きいのかも知れない。



ビーーーーーッ!



 時間を計りセットされた自動タイマーが鳴り、皆が見守るリングを柊と詩織は中央へ歩き出す。ポンッと互いに左拳を合わせると、「ふぁいと!」という越花の間延び声が響いた。

(さーて、あの桃生センパイの妹ってのがどれだけのモンか……見せてもらうか)

柊は普段通り左のサウスポースタイル、対する詩織は右のオーソドックススタイル。実に型をなぞったような、基本に忠実な右構えである。
スピードを武器とする柊、本来なら早速その武器を以て攪乱する所ではあるが、このスパーリングはあくまで詩織の実力を見る為のもの。
敢えてステップワークは封印し、後輩の出方を待つ事にした。

「シュッ」

果たして、詩織の左ジャブが柊の顔面目掛け襲い掛かる。それを、上体を振るだけで難なくかわす。ただ、この時柊の脳裏に疑問符が浮かび上がっていた。

(なんだ? スピードは問題ねーけど、距離が足りてねーぞ。当てる気あんのか?)

ただの目測ミスか? と今少し様子見を決め込む柊。緊張のあまり動きが硬くなっているだけかも知れない。
だが、その後放たれた左ジャブ、右ストレート、その他いずれのパンチも距離感がてんでバラバラ。
至近距離で打とうとした右アッパーに至っては、あまりにも密着し過ぎた為に腕を振り上げられないという有様だった。

「ストーップ、中止中止!」

この惨状を見兼ねたナミが、まだ途中であるにも関わらず中止を促す。どうやら柊も同意見であったようで、あっさりファイティングポーズを解除。
ただ1人詩織だけが、刻に取り残されたかの如くリングに立っていた。

「……え? 終わ、り…な、なんでストップなんですか!? 私まだ……」

やや時間を要し、詩織はようやく抗議の声を上げる。ロープにしがみつき、中止させたナミへ食いつこうとするのを諭すかのように、背後から柊の静かな声が突き刺さった。

「お前、実戦経験ねーだろ。いや、あの様子だとスパーもやった事ねーんじゃねえか?」

柊の指摘に、詩織の表情が瞬時に強張る。図星を突かれた! 顔にそう書いてあるかのようであった。

「な……なんでそう、思うん…ですか?」

焦りを隠し切れず、所々詰まりながら詩織は聞き返す。

「あんだけ距離感バラバラだったらイヤでも分かるっての。ミットやサンドバッグ相手だったら、ただそこにあるのを叩きゃいいだろうけどな。お前が今相手にしてたのは、絶えず動き回る人間なんだぜ?」

実戦経験があったらもっとマシな距離でパンチ打ってくるだろうよ、と辛辣な言葉を残し柊はリングから下りた。



 他の部員たちが帰り、その間ずっとうなだれていた詩織。単純に力試しをするには、柊は圧倒的に高みにいた事を痛感せずにはいられなかっただろう。
練習で優秀だからといって、それがそのまま実戦で通用するとは限らない事を、この日初めて思い知る詩織であった。

「詩織」

部室を出た所で、隣の部屋のドア前から呼び掛けられた詩織は、俯いていた顔を上げ声の方へ振り向く。静かに言っても、どこか威圧的な圧迫感を与える声。
1日として欠かさず聞くその声に、詩織は内なる感情を押し隠し答えた。

「兄さん」

と……

2つ上の兄、誠に呼び止められ自然と帰宅を共にする流れの中、兄妹は不自然なまでに無言。
元々あまり多くを語らない兄・誠。そんな彼の事を、詩織は物心ついた頃から苦手に感じていた。それは、何でも平均以上にこなす優秀な兄への劣等感に他ならない。
名ばかりのスパーリングで1発のパンチも放たれる事なく、実戦経験がないと看破されてしまった苦々しさは、更なる劣等感となって妹を無口にさせる。

そんな折、隣を歩く兄がふと口を開いた。

「何故ボクシングなんだ?」

端から聞けば意味の伝わりにくい一言。だが、詩織にはその意図が充分過ぎる程に理解出来た。


何故よりによってボクシングを選んだのか?


そう、問い掛けているのである。誠が、女性がボクシングをするのに好意的でない事は重々承知している。
確かに女性がするには、ボクシングはあまりに過酷といえるスポーツ。その危険性もよく知る兄が反対する立場なのも、分からないではない。
ただ、あの時……友人に付き添って春の新人戦を観に行った折、高頭 柊が見せた神懸かり的な試合を目の当たりにした時、詩織の中に形容し難い高揚が走った。

魅了された、といっても過言ではなかっただろう。

そして、気付けば近くにあるボクシングジムの門を叩いていた。

「兄さんには……関係ないでしょ…ほっといて」

どうにも兄の前で素直になれない詩織は、つんけんとした様子でそれだけ吐き捨てると、脱兎の如く走り出してしまった。
止めようとするも叶わず、前方を去っていく妹を見やりながら誠は溜息を漏らし1人ごちた。

「どうも嫌われてるな、俺は……昔から」



「失礼します」

 控え目な、だが通る声が職員室に響く。

「ああ、大内山か。ご苦労さん」

声の主に気付き、植木は由起の渡してきた部室の鍵を受け取る。仕事を終え帰宅につくべくその場を離れようとした由起に、「あ、ちょっといいか?」と植木が呼び止めた。
尊敬に足る顧問を前に、はい? と足を止める由起。

「実は気になってる事があるんだが……差し支えなければ教えてくれないか?」

神妙な面持ちの植木に、由起は言い知れぬ緊張感を覚える。とりあえず無言で頷くと、植木は静かにその口を開いた。

「今日、高頭になにか言ってスパーを承諾させたろ。どんなマジックを使ったんだ?」

しばしの沈黙。ややしてから由起がクスクス笑ったかと思うと、財布から一枚の紙を抜き植木へ差し出しながらウインクをひとつ。

「甘味処『べるちぇ』特製いちご大福1個、350円也。部費から落として下さいね、先生」





to be continued……
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コメント

No title

お兄ちゃんの事なんか全然好きじゃないんだからね!
兄へのデレなしツンデレ美味しいワw
何故か桃生先輩周辺っておいしい子が集まるし居るわねw

>いちご大福
柊ちゃんの甘味好きは異常だわwww

今の所全くいい所のないダメ妹な詩織ですが、そこは温かい目で見守って頂ければと思います(慈しむ目でも可)。
きっと誠にはハーレム主人公的なオーラが隠されているに違いない!w

そして柊の甘党は筋金入り! というお話でした……
Secre

プロフィール

チャパロット

Author:チャパロット
基本的に携帯サイトで書かせて頂いているもののリメイク(?)ですが、ちょくちょく文を変更してたりします(あと拙いですが自作絵なども)。
何かある方は、ckcwb305あっとまーくsutv.zaq.ne.jpにご連絡下さい。

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