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第3話 『新学年、そして後輩たち』

 プロボクシング編、第3話です。



秋奈を救う為、部を守る為、不良たちを相手に孤独な闘いを強いられるナミ。そこへ駆け付けた植木、怒りに身を任せてその拳を振るうのであった。









 4月。白いカッターシャツの上に濃紺のブレザーを羽織り、緑地に赤の網目状のストライプの入った膝丈より少し短いスカートを翻しながら、光陵高校に入学したばかりの女生徒たちが桜の淡いピンクの下を歩いていく。
気持ちのいい陽光に照らされ、初々しさの塊のような新入生たちが進む先……光陵高校の敷地内のある場所では、汗にまみれた少女たちがその肢体を躍動させていた。

「ラスト10秒ォーッ」

タンタンタン! と床を叩く縄跳びの音や、バスドス! と天井から吊り下げられた革の袋を叩く音をかき消すかの如き大声が、敷地内に建てられた部屋の隅々まで響き渡る。
その声を聞くや、室内にいた全ての少女たちがラストスパートを掛け……

「よおし、今日の朝練終了ォ!」

終了を告げるブザーと声の二重奏と同時に、ずるずると床へと這っていった。

「あ、ありがとうございましたぁ」

主将が礼を述べ、顧問は聞き終えると室内を出ていった。


1月の、植木 四五郎が起こした事件から2ヵ月少し。ここ、光陵女子ボクシング部は未だ健在であった。


以前から何かと目をつけられていた不良グループ相手とはいえ、植木は奇跡ともいえるお咎めなし。
もしかしたら、事情を聞いた男子ボクシング部主将、兼生徒会長の桃生から何かしらの口添えもあったのかも知れない。
いや、下手な教師や役員よりも権限を持つと噂されてきた人物である。何かしらの影響を与えたのは、ほぼ確定といっていいだろう。
そして何よりも決定的だったのは、事件後すぐに学校外の所で恐喝及び暴力事件を起こし警察の厄介になった事であろうか。
勿論不良グループは即刻退学に処せられた。

色々な要素が絡んだ結果、植木はこれまで同様女子ボクシング部の顧問として活動する事となったのである。



 ここで、4月に入るまでに起こった主だった出来事を挙げておこう。まず、11月の全日本アマチュアボクシング選手権大会に高頭 柊が出場、見事優勝に輝いた。
また、これにより非公開ながら正式にロンドンオリンピック・強化選手として招聘される事が決定。
ただ、この時点ではまだ話題作りの為のプロパガンダ、といった意味合いの方が強い。

そして、日本女子ボクシング界にとってあまりにも深い爪痕を残す事となってしまったのが、年の暮れ12/31。
この日行われた、女子ライト級世界タイトルマッチがそれである。


女子ライト級世界チャンピオン、リリィ・クリスティン
同級1位、新田 祐希子(にった ゆきこ)


日本女子ボクシング界の期待を背負った祐希子は、この世界チャンプを相手に互角以上の勝負を展開。
しかし、運命の第7R……祐希子の右ストレートをかわしたリリィが、身体ごと叩きつけるような豪快な右フックを見舞い、最強の挑戦者からKO勝利をもぎ取った。
タイトル奪取に失敗してしまった祐希子、この試合で下アゴと右拳を複雑骨折、さらに意識不明のまま病院へ救急搬送。
辛うじて一命は取り留めたものの、年の暮れにリング渦(か)が起こってしまったのである。

リング渦とは、大まかに試合を経て選手が死亡、また意識不明等の大事故となってしまう現象の事を指す。

今は意識も取り戻しリハビリに精を出してはいるものの、プロボクサー・新田 祐希子はあの日を最後に現役から引退。
今後の身の振り方はまだ未定だという。



 そんな重い年越しを味わった日本女子ボクシング界だが、新年早々新たな話題が業界内を駆け巡った。

祐希子を師と仰ぐ『格闘令嬢』、新堂 早弥香(しんどう さやか)のプロ入りである。

期待の星の消滅に落ち込んでいた日本女子ボクシング界は、まるで傷痕から目を逸らすかの如く『格闘令嬢』を連日のように追いかけ回していた。

そして、暦は4月……新年度を迎え、ナミたちは晴れて二年生となったのであった。

朝練を終え部室内の清掃後、部員たちは汗を流すべくシャワールームへ。コックを捻り、温度を確認すると数人がまず先に全身の汗を洗い落とす。
そんなひと時の中、「ねえ越花、今日の準備ってもう出来てる?」とナミが越花に訊ねてみた。

それに対し、肯定の旨を告げる副主将。

「準備?」

頭からシャワーを浴びていた柊が、何の事かと小首を傾げる。

「今日は4月最初の登校日……つまり入学式よ。入学式にやる事といえば?」

「なるほど、新入部員の勧誘か」

その通り! と息を弾ませ、ナミが爛々とした目つきで答えた。現実問題、相手と殴り合うボクシングという競技に惹かれる女生徒は、極めて少ないだろう。
だが、たとえ入部に結び付かなくとも、興味を持ってくれるだけで1歩前進出来るのではないか。ナミは、そう考えている。
勿論、ちゃんと覚悟を持って入部してくれるに越した事はないのだが。

可愛らしくデフォルメされた、2等身の女子ボクサー(髪型から察するにナミと思われる)が描かれたA4用紙。
絵心のある陽子の作だろう。そこには上の方に大きな字で、

『来たれ! 女子ボクシング部!!』

と書かれてあった。ちなみに、これには部随一の達筆を誇る由起が起用されたそうだ。

「ふう……」

勧誘用のコピー紙を片手に、シャワー待ちの心が長椅子に座りつつ溜息をひとつ。それを見たアンナは、「どうしたの?」とその碧い瞳を親友の方へと向けた。

「いや、大した事はないんだけど……」

明らかに何かあると顔に書いておきながら、大した事ないと言われた所で誰も納得する筈もなく。
アンナはさらに突っ込んだ質問を心に突きつける。するとさすがに自覚があったのだろう、心は抵抗するでもなく、

「ちょっと面倒なのが来るんだよ」

と簡素に答えた。

「面倒?」

「そ。ウチの父親って、ヤクザ屋のてっぺんなんだけどさ……」

ヤクザという単語が紡がれた瞬間、周囲の空気がざわざわと波を立てる。さらりと衝撃的事実を告げられ、動揺を隠し切れない。
それに感づいた心、両手をぴらぴら振りつつ「今はもうなんの関係もないから安心して」と彼女なりのフォローを入れた。

「で、ソイツにはアタシと腹の違う娘……一応姉貴がいるんだけど、その舎弟がウチの部に来るって言ってるんだよ」

ヤクザ屋の次はその娘の舎弟。気の弱い秋奈などはその単語だけで卒倒しそうなものだろう。ちなみに女だからね、と前振りをしておきつつ、心はその後輩の名前を告げた。

室町 晶(むろまち あきら)

アタシと同じぐらいの身長に同じぐらいの長さの髪の一年が来たらソイツだから、と室町 晶の容姿を大まかに伝えると、入れ替え二陣目としてシャワーを浴び始めるのだった。



「あ、新入部員といえば、ウチの妹も来るみたいだからよろしくね」

 シャワーを浴び終え、身体を拭きつつナミがさらりと告げる。妹なんていたのかよ、と知らなかった柊が訊ねる傍ら、「ああ、サラちゃん来るんだぁ」と越花が嬉しそうに両手をポムッと叩く。
I・H県予選の応援席で、越花は下司一家と知り合っていた為、サラの事も知っていたとの事であった。その試合会場で姉の闘いぶりを真摯な眼差しで見つめていたサラ。
それを横目に見ていた越花は、ボクシングに興味津々の様子だったのを記憶している。
今にして思えば、彼女がこの女子ボクシング部に入部するという話も、必然といえたのかも知れない。

「じゃ、今日から一週間は新入部員勧誘強化週刊とするから、みんなよろしくね!」

全員がシャワーを浴び終え、登校の準備が整った所でナミが一声掛けた後、皆はそれぞれ教室へと向かっていく。
クラス替えで越花や柊らとは別のクラスになったものの、今度は比我 秋奈と同じクラス。
誰も知らない者ばかりではなかった事に安堵の息を漏らしつつ、彼女は放課後から始まる勧誘ラッシュに心を弾ませていた。



 二年生になり、そのHRでまたも軽い自己紹介をする羽目になったナミであったが、一年生の時と違い既に多くの生徒が彼女の事を知っていた。
やはり、I・Hで実績を立てたのが大きいらしい。結構な期待を掛けられ、逆に気恥ずかしさを覚えつつ席に着く。
それから幾らか流れ、次は秋奈の番となった。

「あ、あの……比我 秋奈といいます。私は、その…気が弱くておっちょこちょいで、勉強もイマイチだし……その、あんまり誉められた所のない人間なんですけど」

席を立ち、俯き加減のその口から紡がれる一言一言は、実に否定的なものばかり。それを聞き兼ねたナミ、思わず

「なに言ってんのよ。基礎体力は相当なものだし、足も結構速いじゃない。それに、とても真面目よ」

とフォローを入れてしまう。「ナミさん……」と思わずフォローを入れてくれた恩人の方を向く秋奈。
その顔を見やり、ナミが小さく頷くと、秋奈もそれに倣い頷き返し、

「今、私は縁あって女子ボクシング部に入部…してます。とてもいい雰囲気のクラブなので、良かったら1度観に来て下さい」

言い終えるや恥ずかしそうに着席してしまった。あまりに弱気な事ばかり言うので思わずフォローを入れたナミであったが、その言葉に偽りはなかった。
事実、秋奈の基礎体力は高かったし、足も平均よりは速い。何でも、中学の頃から朝晩3kmのランニングをしていたらしく、それは今でも継続しているのだという。
もし何かスポーツなどをする事になった時に備えて、との事らしい。

それが今、ちょうど活きているのだ。

1月に入部して以来左ジャブ、右ストレート、ワン・ツーを習ったものの、生来の気弱な性格からかサンドバッグやミットを叩くのも躊躇する有様。
ただ、それは仕方のない部分でもあるしじっくり改善していくしかないだろう。それに、顧問の植木曰く「筋は悪くない。いや、或いはそれ以上かも」という。
至って素直で真面目な性格の為、先が楽しみな選手とナミは思っていた。



 やがて新一年生の入学式も終わり、いよいよ各クラブ勧誘の時間がやってきた。

「我が剣道部は若人の入部を心から歓迎している!」
「バレーボール部はどう? 見学大歓迎よ!!」
「光陵高校の空手部といえば強豪中の強豪! どうだ、我々と共にアツい汗を流そうではないか!」
「我々男子ボクシング部は、前途有望な諸君らの入部を期待している。なにも殴り合うだけがボクシングではない。身体作りにも最適、ダイエット目的でも問題はない」

案の定、いや予想以上に苛烈な新入部員争奪戦が各所で繰り広げられていく。中でも男子ボクシング部は桃生自らが陣頭に立ち、長々と演説めいた勧誘を展開。
これも、予想以上の長さで近くにいた他クラブのメンバーもうんざりする程であった……と後に述懐するのは、運悪く隣で勧誘に励むも全く成果の上がらなかった桜 順子であった。

そんな一方、女子ボクシング部室には未だ一年生が1人たりとして現れない。やはり先日まで中学生だった女の子には、ボクシングは敷居が高いか? と思ったその矢先……

「こんにちはー」

ドアの前に、頭の右側に纏めたサイドテールを揺らし若干タレ目気味の、1人の女子生徒が大きな声と共に現れた。
遂に来た! と座っていたパイプ椅子を思わずひっくり返す程勢い良くナミは立ち上がり、意気揚々と女子生徒に近付く。
だが、そのキラキラした好奇の目は女子生徒の顔を見た途端あっさりと霧散。本人も一気にトーンダウンしてしまった。

「なんだサラかぁ……思いっきり喜んで損したわ」

来た途端哀れにも姉のガッカリ顔に迎えられた妹・サラ。

「なにその言いぐさ。行くって言ったじゃんかー!」

理不尽な姉の態度にぶーぶー言いつつ、サラはメゲる事なく他の部員たちに挨拶した。

「これからお世話になります、そこの姉の妹、サラです。中学の時は特になにもクラブに入ってませんでした。夢……というか目標は、姉をボクシングで越える事です」

よろしくお願いします、と頭を下げるサラに、呆れや苦笑を以て他の部員たちは答えた。
ナミとしては聞き捨てならない台詞だったものの、可愛い妹の戯言と笑って姉の度量を示してやろうと作り笑いをひとつ。



 サラが来て約30分後、更に1人の女子生徒が登場。背丈は160cm台後半くらいで、茶色のロングヘアー。目はクリッとして可愛らしく、愛嬌のありそうな面立ち。
また、15歳とは思えない程自己主張する胸、腰、尻。

「こんにちは~! 室町 晶(むろまち あきら)といいます。ココに入部希望なんですけど~、いいですか?」

越花や雪菜とはまた違った感じの間延び口調で、晶は入部の希望を告げる。手続きをするべく由起に室内へ通される最中、顔見知りを見つけたのか晶はその目を細める。

「あ~、そういやココにいたんだっけね、心」

愛嬌の仮面は完全に剥がれ、敵意しか感じさせない視線を心に向ける。心が面倒臭そうにそっぽを向くと、鼻を鳴らし晶は奥の方へと連れられていった。

「ねえ、あのコとなにかあったの? 心」

2人のやり取りがどうにも気になったらしく、アンナが碧い瞳を向ける。

「別に。アイツはアタシにはいつもあんな調子だよ」

敵愾心を持たれる理由に思い至らないまま、心は晶とこのようなやり取りを続けてきたのだという。今はあまり余計な首は突っ込まない方がいいかな? とアンナは好奇心を抑えその場を離れた。



 その後も2~3人程の来訪はあったものの、これは今ひとつ感触が良くない。長続きしないだろうな、と推測を立てるナミを尻目に、サラと晶は早速会話に花を咲かせていた。
そして、晶が現れてから約1時間。今日はそろそろ打ち切って練習を開始しようかといった時、少女はやってきた。

肩に掛かるかどうかといった長さの黒い髪、後ろ髪の先の方が外側へと軽く跳ねている。目は細く窄められ、緊張しているのが見て取れた。

「い……一年一組、桃生 詩織(ものう しおり)です。入部希望で来ました!」





to be continued……
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コメント

No title

植木先生、お咎めなし!?
まぁ、警察沙汰になるような不良相手だし妥当だわね、でも桃生先輩の発言力最強ねw

新入部員も面白そうな子達が入ってきたわね!
桃生の名字の娘が気になるわネ!w

後893の娘の舎弟www
超バイオレンスな展開の予感www
普通にいい子っぽいけどどことなくツンデレの匂いに萌えるわねw

植木は本編をご覧の通りの結果に落ち着きました。ご都合主義といえばそうなのかもですけど、まあそんなモンだと軽く流して頂ければ幸いですw

ナミたちも新学年に入り、一気に後輩キャラが増えました。没個性になって埋もれていく……という事態だけは避けたい所ですね。
Secre

プロフィール

チャパロット

Author:チャパロット
基本的に携帯サイトで書かせて頂いているもののリメイク(?)ですが、ちょくちょく文を変更してたりします(あと拙いですが自作絵なども)。
何かある方は、ckcwb305あっとまーくsutv.zaq.ne.jpにご連絡下さい。

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