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第7話

 第7話です。

来たるべき男子部との試合に備え、練習を開始する女子ボクシング部。まずは軽くロードワークから始めるのだが……




   
 自分の他にもう1勝を上げられそうな部員……順当に考えるなら、キックボクシング部に在籍していた久美子(くみこ)と順子(じゅんこ)の2人である。が、ナミが下したキックボクシング部員にKOされていた久美子と、まだロクにバンテージの巻き方も覚えていない順子。
実際、強豪校と言われている男子部を相手にするにはまだ荷が重い気がする。

 次にアンナだが……母親から何かしらの武術を習っていただけに、そこそこの身体付きをしている。技術を教えれば案外いい勝負をするような気がする。

 次に柊(しゅう)。バスケットコートで見せた動き、特にナミを魅了した左右のステップワークはボクシングに転用出来れば充分武器になる。スピードも相当速かったので、ポイント狙いの戦法を徹底させれば勝機はあるだろう。

 最後に越花(えつか)だが……現段階で彼女に期待をするのは、正直酷な話というものであろう。





 期待出来そうなのはアンナと柊……という結論に達したナミは、これからの練習について説明するのだった。
まずはとにかくも体力・持久力である。いつ試合の日を指定してくるかは分からないが、恐らく2ヵ月も猶予はないだろう、と思う。
その間、とりあえず走りに走らせ、それぞれの長所を活かせる最低限の技術を教える。
素人を教えるにはあまりにも時間がない、という事を考慮に入れた方針をナミは打ち出し、トレーナーの経験もあるという由起(ゆき)の方を見た。
そのメニューに目を通し、いくつか細かい変更・修正を加えつつ由起はナミの方針に従った。



「それじゃ早速始めましょうか」

 予めいつ練習が始まってもいいように、体操着なりトレーニングウェアなりを持参するよう伝えていたナミは、今日から練習を開始する旨を宣言した。
体操着や学校指定のジャージ、個人持ちのトレーニングウェア等といった雑多な恰好をした女子ボクシング部員たちは、早速練習を開始した。

「まずは軽く5kmぐらい流すわよ」

と伝え、ロードワークを開始する。ナミは1番前に位置し、先導を務めていく。
慣れていない人の事を考慮し、かなり遅めに走っていたのだが……

3kmも走った時点で後ろを振り向くと、付いてきているのは由起とアンナ、柊の3人だけ。
久美子は少し遅れ気味の順子と越花を励ましながら最後尾を走っていた。

(まだ全然慣らしですらないってのに……)

想定内だったとはいえ、ナミは先行きが不安になってきていた。


 5kmのロードワークを終えた時点で、順子と越花は早くもリタイヤ寸前のように見えた。
休憩を取りつつ、まだ余裕のある久美子、アンナ、柊に腕立て伏せを指示する。腕立て組を由起に任せ、ナミは休憩組の方へ近寄っていった。

「2人とも大丈夫?」

一応確認の声を掛けてみる。が、全身で息をしている姿を見れば大丈夫でない事は一目瞭然である。

「お願いだからこんな程度で音を上げないでね」

返答のない2人を一瞥し、ナミは休憩終了を告げ2人にも腕立て伏せに参加するよう指示していく。
その後も筋力トレーニングやボクシングの構え、100mダッシュなど、基礎的な練習を部員たちに課していった。


 そして、クールダウンのロードワーク5kmを走っている途中……

「葉月さん!?」

という声が後ろからした為振り返ると、

「う……うぶぅ、おぇぇ………」

越花がしゃがみ込み、道端に嘔吐していた。ナミは先導を久美子に頼み、越花の元へ向かうとその背中を擦ってやる。

「うぇ、げぼぉ……ごぼッ!」

ナミの手が越花の背中を上下に擦る度、越花は涙や鼻水と共に胃の中の物を吐き出していった。胃の中の物を全て吐き出すと、身体を小刻みに震わせハァハァと肩で息をし始める。

「全部出た?」

ナミは優しく一言だけ声を掛ける。越花は弱々しく、コクッと頷くのみであった。
それを確認したナミはスッと背中から手を離すと、それを越花に差し延べ、

「さあ立って。泣き言を言っても聞かない、って最初に言ったでしょ?」

厳しい表情でそう言い放った。

「うん。ごめんね……」

口元を手の甲で拭き、越花は差し出されるナミの手を取った。

「こんなのはまだまだ序の口なんだからね」

そう言いながら、2人はまた道を走り出した。




 初日の練習を終え、ナミは皆に明日AM7:00に正門に集合の旨を伝え解散を促すと、部員たちは口数も少ない状態で帰っていった。


ただ1人、アンナだけを除いては……


 これから家まで走って帰ると言うアンナの、尋常とは思えないスタミナに苦笑しながら帰路に着いていたナミ。一旦家に帰り一息ついてからスポーツバッグに新しいオレーニングウェアやタオル、シューズなどを入れ、また出掛けていく。

行き先は、ナミが小学生の頃から通っているボクシングジムである。
家から約3km程の距離を走りながら、

(アンナの事は笑えないわね)

またも苦笑を漏らしてしまうのであった。



『山之井(やまのい)ボクシングジム』



 2階建てのドアの上、立て掛けてある大きな看板にジムの名前が記載されている。もう通い慣れたジムのドアを開け、

「ちわーす」

くだけた挨拶をしながら足を踏み入れると、汗やワセリンなどの混ざった独特の臭いと数人の練習生の放つ熱気とが、ナミを瞬く間に包み込んだ。


「おう、来たかナミ坊! 今日はエラく遅かったじゃねぇか」

 ナミがジム内に歩を進め女性専用のロッカールームへ向かう途中、白髪混じりの初老の男がカラカラと快活な笑い声と共にナミに話し掛けてきた。

「こんばんは会長(おや)っさん。今日から高校の部活も始めたから、これからは大体これぐらいの時間に来る事になると思う」

あろう事か会長相手にタメ口で話すナミ。普通なら失礼にも程があるのだが、

「おう、そういやそんな事言っとったな。こないだ」

ナミのタメ口に全く気にした様子も見せず、山之井会長は気さくに、まるで娘と話すかのような雰囲気で会話を続けていた。

「それじゃ会長っさん、また後でね」

ナミは一旦話を切り、ロッカールームへと入って服を着替えると担当を受け持ってくれているトレーナーの所へ向かった。



 彼女がこのジムに所属した頃から担当を受け持っている1人のトレーナがいる。

名は吉川 宗観(よしかわ そうかん)。

ライト級・東洋太平洋元チャンピオンである。そして、植木 四五郎(うえき しごろう)の学生時代の後輩でもあった。
宗観は、敷地内の中央に陣取っているリングのトップロープに両腕を預けながら、スパーリングをしている練習生に指示を飛ばしていた。

「こんばんは、吉川コーチ。今日もよろしくお願いします」

ナミは宗観に挨拶し、宗観はナミの方を見る事もなく、「ああ」とだけ返すとまたリング内に指示を飛ばす。
その仕草を見たナミはクスッと笑い、指示される事もなく1人ストレッチを始めた。
一見無愛想に見える宗観だが、実はすごく選手を大事にし気に掛ける人だという事をナミは3年の付き合いから心得ていたし、そんな宗観が嫌ではなかった。
入念にストレッチを行い、身体がほぐれてきた頃、

「では始めよう」

と宗観がナミに対峙していた。





 宗観のコーチングによる2時間程のジムワークを終え、クールダウンの為備え付けのサイクリングをしていた頃、

「ちわーす」

植木がジムに顔を出してきた。

「四五兄ィ」
「植木先輩」

ナミと宗観が共に挨拶をする。植木はかつてこの山之井ジムからプロボクサーとなり、試合をし、引退している。
ナミや宗観にこのジムを勧めたのも植木であり、もはや第2の家となりつつある感じだった。

「なんだ四五郎、またストレス発散しに来やがったのか?」

会長は植木を見るなり怒鳴り散らす。が、顔には笑顔が浮かんでいた。

「固い事言うなって会長っさん。教師ってのは何かとストレスが溜まるんだよ」

植木も怒鳴られた事など微塵も気にしていない。傍から見ていると、息の合った漫才か、仲の良い親子、みたいな雰囲気だった。

引退後も、植木は他の練習生の邪魔をしないように時間をずらし、週に1~2日ストレス解消と運動不足を兼ねて汗を流しに来るのである。

クールダウンを終え、今日のメニューを全て終了すると、

「コーチ、少しお話があるんですけど……」

ナミは宗観に相談するべく話を切り出した。

「ん。どうした? 改まって」

使用した器具の片付けをしたまま、宗観はナミの話に耳を傾ける。

「実は……」と、ナミは女子ボクシング部の現状と部員の特徴、練習メニューなどを説明した後、なにか適切な指導法を伝授して貰えないかを聞いてみた。

「………」

腕を組み左手をアゴに添えたポーズを取りながら、宗観は何事かを考える仕草を取る。険しい顔をしている所を見る限り、良い返事は期待出来そうにないかな? とナミは半分諦めかけていたが……

「お前、明後日休みだろ? ちょっと見てやれよ」

と、後ろから練習前のストレッチに取り掛かろうとしていた植木がナミに助け舟を出してくれた。

「植木先輩!?」

思案中の宗観だったが、植木の一言で我に返ったかのように驚きの表情を見せていた。一方の植木はナミの方を見ながら、

(任せとけ)

と軽くウィンクし合図を送る。

「しかし……」

色々と思う所があるらしく、はっきりしない返事を返す宗観。植木はそんな宗観の顔を真面目な表情でコーティングしてから見つめ、

「まぁ確かに、お前も立派なプロのトレーナーだしな。言いたい事は分かる」

ズカズカと宗観に歩み寄りながら、植木は言葉を続けていく。

「だがな、ナミ坊はお前の教え子ってだけじゃなく、お前の学校の後輩にも当たるんだ。後輩を導いてやるのが、OBとしての責任……って奴じゃねぇのか?」

そう言い終えると、ポンッと肩を軽く叩いた。

「ふぅ……全く、先輩には敵いませんよ」

ひとつ溜息を就きながら、だが宗観は苦笑しながら

「分かった。明後日、光陵に顔を出そう。その時に具体的なメニューを立てよう」

ナミの要望を呑む事を受諾するのだった。


 宗観の協力を取り付け、上機嫌のナミは植木に礼を言うべく練習が終わるまで待つ事にした。
時刻もPM11:00を回り、周囲でトレーニングしていた練習生もその殆どが帰り、静寂の広がるジム内にキュッ、キュッ、と植木のシューズが床を踏む音が響く。
姿見の前でシャドーボクシングをしている植木は、基本に忠実で綺麗なフォームのまま動きに無駄がない感じだった。



ビーーーーッ!



 自動設定されたタイマーが鳴り、植木は動きを止めナミの方へ歩み寄ると、隣に腰を下ろした。

「今日桃生(ものう)から聞いたぞ。第一の条件はクリアしたんだってな?」

「うん。まぁ未経験者や、それに毛が生えた程度のメンバーばっかりなんだけどね」

ナミは苦笑しながら、宗観に話した内容をそのまま植木にも伝えた。

「ほう。でもまぁ規定人数集まっただけでも大したもんだ」

植木は僅か2~3日で部員を確保したナミを褒めてやる。が、

「ただ、今度の男子部との試合ってのが厄介だな……先輩命令で宗観の奴に面倒を見させるってのにも限度があるしな」

後片付けをしている宗観の耳に「先輩命令……」のくだりが聞こえた時、諦めに似た表情をしていた事など露にも知らない植木は、

「よし、俺も手伝ってやるよ」

名案でも思いついたかのように手をポンッと叩いた。


「でも、四五兄ィは男子部の顧問でしょ? さすがにマズいんじゃない?」

 ナミは植木の提案を素直には受諾しなかった。申し出自体は凄く嬉しいのだが、もし植木が女子ボクシング部に練習を教えるような事になれば、それは男子部に対する裏切り行為と取られても不思議ではない。

「そうですよ先輩。命令とはいえ、引き受けたからには自分が責任を持って面倒を見ますから」

グローブやミットに消臭剤を入れながら、宗観も横槍を入れる。その後も微妙に渋る植木だったが、ナミと宗観の説得により、“男子部の顧問が部外者である女子部の練習を見る”という事態は避けられたのである。





 一方、時間は少し遡りPM9:30……

学校に近い高級マンションの一室。部活での初めての練習を終えた柊は、部屋に入り軽くシャワーを浴びる。動きやすい服に着替えて一息つくと、一気に身体が重くなった気がした。
疲れてはいるが、これだけは休むわけにはいかない……とバスケットボールを抱えナミと会った公園に行き日課である100本のシュート練習を行う。

日課を終え、部屋に帰ってきたと同時に、



プルルルル……



携帯電話が鳴った。

(誰だよ………)

柊は鬱陶しく思いながら液晶画面を見ると、『片山 那智(かたやま なち)』と表示されている。

(え、那智さん!?)

その名前を見た瞬間、急いで通話ボタンを押し、

「はい、高頭です」

と普段とは少し違う声色で応答した。


『もしもし、片山だけど……』

 電話の向こうから落ち着いた男性の声が聞こえてくる。

「那智さん、ご無沙汰です」

『うん、久しぶり』

柊は、那智という名の男性に電話越しに高校に入ってからの近況を話していた。そんな中……

『ふぅん、ボクシングねぇ………』

柊の近況を聞き、女子ボクシング部に誘われたくだりの辺りから那智の声色が少し変わった……ような気がした。
無理もない。片山 那智という男、30代という若さながら実は東京でボクシングジムを経営している、いわば会長なのである。
彼の一家が東京に引っ越す前は、義理の妹が柊と同い年で幼馴染みだった事からお互い良く知る仲となったのだ。

『そういえば、週末ぐらいからしばらくの間そっちに行く用事があってね。もし邪魔がなければ、一度練習を覗いてもいいかな?』

と、那智は少し嬉しそうな声で柊に聞いてくるのだった。




to be continued……
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チャパロット

Author:チャパロット
基本的に携帯サイトで書かせて頂いているもののリメイク(?)ですが、ちょくちょく文を変更してたりします(あと拙いですが自作絵なども)。
何かある方は、ckcwb305あっとまーくsutv.zaq.ne.jpにご連絡下さい。

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