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光陵高校女子ボクシング部・別話 【星の墜ちた日】 後編、星の墜ちた日

 【星の墜ちた日】後編をお送りします。アマチュア時代からライバル且つ犬猿の仲な2人の決着は、どういう形でつけられるのか? よろしくお付き合い下さい。



リリィ・クリスティンと新田 祐希子。互いに認めたライバル同士は最高の舞台、世界タイトルマッチで拳を交える。
絶対に負けられない! という意地を胸に、2010年最後の夜は次第に加熱していくのだった。









ズバンッ!



「ぶッ」
「ぐはぁッ」



 重い右ストレートが、アメリカ人と日本人の女性ボクサー双方の顔面にめり込み、後方へ弾かれていく。グラつく身体を踏ん張り、2人はまたも同時にパンチを繰り出し、相打ちの形でお互い頬を抉った。

2010年、大晦日。WBA女子ライト級世界タイトルマッチ、王者リリィ・クリスティンvs挑戦者新田 祐希子の試合は第5Rを終え、第6Rの終わりまで差し掛かっていた。
それまでの間、両者とも1度もダウンする事なく全く互角の展開。攻撃力に富んだライバル同士だけに被弾は多く、祐希子は右瞼が腫れてしまっており、一方のリリィも顔全体や腹に赤く殴られ痕が見て取れる。

だが、そんなものをものともせず祐希子とリリィは拳を振るい殴り合う。祐希子の左フックが、リリィの右ボディーアッパーが、またも同時に炸裂。
威力のあるパンチの応酬に祐希子は身体をくの字に折り、リリィはマウスピースが半ば口からはみ出ていた。



カァァァンッ!



ここで、第6Rが終了し試合は後半戦へと雪崩れ込む。
共にKO率の高いボクサーだけに判定決着はないのではないか? との前予想だったが、反して高水準な技術の応酬、意地のぶつかり合いの様相を呈していた。

「よーし、打ち合いはほぼ互角だ! 腹はまだ大丈夫か?」

セコンドの質問に小さくうなずいてみせ、マウスピースを引き抜いてもらいうがいをする。

(ほぼ互角……他人の目にはそう映ってるのか)

うがい水を吐き出し、深呼吸をひとつしてから対角に陣取る王者へ視線を向ける。もはや腐れ縁ともいえる相手だけに、その長所短所は分かっているつもりだった。のだが……

(昔は攻撃一辺倒の猪だったのに。ずいぶんとお利口なボクシングするようになっちゃってさ)

祐希子なりの悪態を心の中で呟き、思わず歯軋りしてしまう。そして、つい口から「いっそ猪だったらこんな苦労はなかったのに」と漏らしてしまっていた。
今のリリィは、抜群の火力に加え見事な戦術眼も搭載されているらしい。
打ち合いを仕掛けるタイミングが実に巧妙で、祐希子が十全の状態で応じられない状況を上手く作ってから仕掛けてくるのだ。
更に間合いの取り方も絶妙で、祐希子が最も力を発揮出来る中距離戦では絶対に長く打ち合わない。
おかげで、彼女のKOパンチである右ストレート……コークスクリューブローが全く機能していなかった。

逆に祐希子の方から仕掛けても、のらりくらりと捌かれ抱きつかれ、いなされてしまう。
ボクサーとしての防御法、その状況設定の巧みさは数々の激戦を制してきたという事を、まるで如実に語っているかのようにすら思える。

(仕方ない、身体に無理な負担かかるだろうけど……もっとギア上げてくか!)

このまま何R続けた所で、恐らく試合は好転しないだろう。下手をすれば、ズルズルと最終Rが終わるまで煮え切らない展開が続く事になりかねない。
祐希子には、そんな惰性的な展開は到底耐えられそうにもなかった。そして、多分リリィも……

「セコンドアウト!」

インターバル終了を告げるアナウンスが響き、セコンドは集中力を切らすな! と喝を入れリングを下りる。
祐希子はそれにすら反応を見せる事なく、その視線はただ一点へ。

「ラウンド7んん……」



カァァァンッ!



ゴングの音と同時に、祐希子は覚悟を決めその肢体をリリィ目掛けて疾走させた。運命の第7Rが、今始まる。



 開始早々、祐希子はリリィがまだ出撃体勢の整いきらぬ間に怒涛のスピードで間合いを詰めるや、有無を言わせずワン・ツーを叩き込んだ。
これが見事に決まり、祐希子優勢の展開に。

「ぐッ」

ワン・ツーをまともに貰ってしまったリリィだが、これに負けじと右ショートフックで巻き返しを図る。
しかし、流れを掴んだ祐希子はバックステップであっさりかわし、リリィの反撃を許さない。それどころか、



ズガッ!



フックの打ち終わりを狙いすましたように祐希子の右ストレートがカウンター気味にヒットした。更に左、右と3連打を浴びせる。

「うぶッ」

立て続けに襲ってきた強烈な痛打に、平衡感覚を失いカクンと腰を落とすリリィ。並のボクサーであったなら、ダウン必死であっただろうこの連打。
だが、リリィは膝に力を込めて踏ん張り、祐希子へと身体を押し込む事で倒れるのを拒んだ。驚異的な粘り強さとプライドというべきか。
ドン、と左肩を押し込み凭れ掛かるリリィから離れようと、祐希子は後ろへ後退する。
瞬間、まるでその後退を予期していたかのようにリリィは前へと踏み出し、右ストレートを繰り出した。



ブゥンッ!



しかし、3連打のダメージが抜け切っていないのか身体がブレ、若干軌道が逸れてしまう。

「チッ」

舌打ちしつつ、リリィは祐希子を見据え更に左ストレートの体勢へ。しかし、それは祐希子にとって絶好のカウンターチャンスである事を意味していた。

(チャンス!)

祐希子は後退を止め、右脚を下げて左肩を前へ半身に構える。次いで右腕に力を込め、一瞬のタメの後右拳から肘までを固定。
リリィの左ストレートに合わせ、祐希子は捻りを加えた必殺の右……コークスクリューブローを打ち込んだ。
大気を裂き放たれるコークスクリューブローが、リリィの左ストレートと交差し迫っていく。そして……



ズギャアアッ!



リリィの拳が祐希子の口元へ。
祐希子の拳がリリィの左頬へ。

またも同時に突き刺さった。

「ごッ」
「ぶふぉッ」

鈍く肉を潰す打撃音。一見互角のぶつかり合いに見えたこの相打ち。だが、その差は次の瞬間誰の目にも明白に現れた。
青のグローブを受けた王者が、その口から唾液と血の滲んだマウスピースを吐き出し、脱力した身体を前のめりにキャンバスへダイブさせたのである。
ドサァッ! という音が会場内に響き、「ダウン!」とのレフェリーの掛け声の後、



ワアアァァーーッ!



観客席の方々から興奮の坩堝を象徴する大歓声が駆け巡った。

「ニュートラルコーナーへ!」

レフェリーに促され、うつ伏せで倒れ伏したままのリリィを一瞥すると祐希子は指示に従う。

(はぁ、はぁ、やった! 上手くなったって言っても、根が猪のまんまで助かったわ)

ニュートラルコーナーに凭れ掛かり、祐希子は口元から垂れてくる血に気付き右腕で拭おうとする。そこで、祐希子はある違和感を感じた。

恐らく、この後招かれる惨劇……その第一歩となる違和感を。

(アゴの感覚が……ない!?)

腕に付着する血を眺めつつ、祐希子はこの状況に青ざめる思いであった。

(さっきの1発でアゴが砕けたかな、多分。やっばいなあ、アイツが立ってきたらキツいかも)

このまま倒れてなさい、と願掛けの如く心の中で呟く祐希子。だが、そう上手く行かないのもまた現実。
身体を震わせ、金髪の王者はゆっくりと身体を起こし立ち上がってきた。ファイティングポーズを構え、あからさまに執念に燃え盛る双眸を祐希子へ向けながら。



「ボックス!」

 この試合初めてのダウンで俄然活気づく会場内、リリィは前のめりの危険な倒れ方だったにも関わらず果敢に攻めてきた。
普通ならこの展開、祐希子にとってはKOチャンスともいえる絶好の機会。コークスクリューをカウンターで貰ったリリィに、ダメージがない訳はないのだから。
だが、大方の予想に反して祐希子は防戦一方。それどころか、必要以上に顔を覆いボディーブローを多めに貰ってしまっていた。

「ぐぶッ」

何発目かのボディーアッパーを腹に打たれ、祐希子は呻き声を上げる。祐希子の思った通り、相打ちのカウンターでそのアゴは折れてしまったようで絶えず喉元へ血が流れ込んでいく。
ガード越しから伝わる衝撃程度で、容易く口の端から血の筋が垂れる始末なのだ。
ダウンを奪い士気の上がる挑戦者陣営であったが、その実窮地に立たされたのは自分たちの選手の方であった。
まさか、先の相打ちでアゴを折られていようなど夢にも思わなかったであろう。



 7Rも中盤に差し掛かった。リリィは猪突猛進の本性を剥き出しに攻めかかる。
本来ならこれをこそ待っていた筈の祐希子は、だがアゴの骨折という致命的なアクシデントにより攻めへ転じる機会を掴めないでいた。
とりあえずボディーブローを多めに貰うのは、この際必要経費と割り切る。それより、これ以上アゴにあの強打を貰う訳にはいかない。
さらに、彼女に残された時間も多いとは、お世辞にもいえなかった。今は麻痺していて感覚がない為無視出来るが、いずれ鈍痛を伴って感覚が戻ってくる。
その後どうなるかなど、想像したくもなかった。

(くっそぉ、こうなったらまた大きい1発を狙う以外、勝つ方法はないか)

リリィの左ジャブをブロッキングし、右フックをダッキングでかわし、突き上げてくる右アッパーを仰け反って避ける。
時折ジャブを中心に小さなパンチを当てていくが、祐希子の行動はあくまで防戦一方。所が、この祐希子の消極的に見える戦法はリリィの自尊心を傷付けるには絶好の効果があったらしい。

(ダウン取られただけでも癇に障りますのに、この状況で攻めてこないだなんて……余裕のつもり? バカにするのもたいがいになさいッ!)

怒り心頭のリリィ、更にムキとなって振りの大きい攻めを展開する。これが他の相手であったなら、或いはここまで激昂する事もなかっただろう。


しかし、この相手にだけは……終生のライバルと認めた祐希子にだけは負けられない。これ以上は負けたくない。
たとえどれだけ殴られ顔が腫れ上がろうと、腹を打たれ反吐を吐こうと、最後の最後立っているのは……このワタクシ!


その一念だけが、今の王者を突き動かす原動力といえた。

 一方、この試合最大の窮地に立たされた祐希子は、再三に渡るリリィの猛攻を前に紙一重のディフェンスに終始していた。
彼女が待つはたった1発……痺れを切らした所でのジョルトブロー! 数多く飛んでくる凶弾の中、ベストの1発を見極めるのは至難といえる。

だが、見極めなければ勝機はない。



ガツッ!



そんな中、リリィの左ショートフックが祐希子のテンプルに直撃。

「がッ」

遂に被弾を許してしまった祐希子は、身体を大きく流されてしまう。これで流れが変わるか? と観客席から歓声と悲鳴が同時に上がる。
頑なに固めていたガードも今の1発で中途半端な位置に下がり、血に濡れた顔が露わになった。

(チャンス!)

左拳に残る感触はジャストミートとはいい難いものの、祐希子はグラつきそのガードは門の役を成さない。
冷静な判断力の鈍っているリリィは、この好機に何の疑問もなく飛びついた。右拳を引き、左足を思い切り踏み込み腰を捻りながら溜めを作る。
その後、腰を入れて遠心力を加え、身体ごとぶつけるように右のロングフックを放った。

リリィの伝家の宝刀、『ジョルトフック』である。

豪腕が唸りを上げ、大気を切り裂き祐希子へと迫る。テンプルを打たれ、バランスを崩した祐希子はこれに対し……

(来たッ!)

すかさず右拳を引き迎撃体勢へと移行した。テンプルを打たれたのは、実は祐希子の仕掛けた巧妙な罠。
次なる大砲、このジョルトフックを打たせる為の撒き餌であった。
テンプルへ打たれるその瞬間、頭を僅かパンチの進行方向へずらす事で威力を受け流したのである。
更にガードを敢えて中途半端に下げてみせ、リリィへの食いつきを更に盤石のものへ。
結果、見事に祐希子はベストの1発を引き出す事に成功したのであった。



 リリィのジョルトフックに対し、祐希子はダウンを奪ったコークスクリューのカウンターで対抗。元々振りの大きなジョルトフックと比べ、予め予想していた祐希子の方が予備動作は速い。

(もらった、これで私の勝ちよッ!!)

第7R1:45、このタイトルマッチを決する一撃が2人から放たれた。僅か、ごく僅かの差だがこの打ち合い、祐希子のコークスクリューブローの方が分がある。
これさえ決まれば、祐希子の腰に栄光のチャンピオンベルトが巻かれる事だろう。

祐希子は、一世一代の賭けに勝った事、一片の疑いも持ち合わせていない。

だが、この時勝負の女神は彼女に微笑まなかった。栄光への道、その最後の最後にとんでもない落とし穴が待っていた事に、遂に祐希子は気付けなかったのである。



カクンッ!



急に膝が折れ、祐希子はパンチも打ち出せない体勢のままリリィの暴風の只中へ。アゴが折れてから以降、必要経費と甘受したボディー打ち。
そして何よりもテンプルへの一撃が、祐希子を予想外に蝕んでいたのだ。



ゴシャアアッ!



リリィのジョルトフックが祐希子の左頬へ叩き込まれ、鈍い打撃音が木霊していく。あまりの威力に祐希子の身体は激しく吹き飛ばされ、青コーナーの付近でようやく収まった。

「ダ…ダウーン!」

身体ごと叩きつけるジョルトフックが炸裂し、ぼろ雑巾のように吹き飛ばされた祐希子との間に割って入り、レフェリーは上擦った声を上げる。
青コーナー側を頭に大の字で倒れ伏す祐希子へダウンカウントを取るべく、レフェリーはその近くへ歩み寄り……言葉を失った。

黒目が瞼の方へ上擦り、完全に消し飛んだ表情。
ダウンの衝撃で飛び出したのだろう、顔の近くに転がっているマウスピースは形が歪み、主の血で真っ赤に染まっている。
そして、一目で分かる程に脱力し切った肢体。完全に失神し打ち壊された、“ボクサーだったもの”がそこにあった。
レフェリーは慌てて両腕を頭上で何度も交差、試合終了を促した。



カンカンカンカンカンカーン!



けたたましくゴングが乱打され、ライバル対決に終止符が打たれた。と同時に祐希子の身体が激しい痙攣を起こし、舌が突き出される。

「まずい! 舌を噛むぞ、早くタオルッ!!」

青コーナー陣営が青ざめた表情で失神した祐希子の口にタオルを詰め、リングドクターの到来を待つ。それを見たリリィが、勝ち名乗りの最中であったにも関わらず血相を変えて祐希子の下へ縋ろうとした。

「ユ、ユキコ……貴女、なにを寝てますの? ほら、悔しがりなさいな。目を開けてワタクシの姿をご覧なさい。ユキコ……ユキコ!?」

事態の深刻さを理解したのか、両目に涙を溜め叫ぶリリィを関係者たちが懸命に塞いでいく。



 結局、祐希子は担架に乗せられ会場を去るまでの間、一度たりとリリィの方へ視線を向ける事はなかった。2人の対戦成績は1対1。だが、本当の決着の機会は永遠に来ない。


2010年、大晦日。


1つの星が墜ちた瞬間であった……





~【星の墜ちた日】終~
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コメント

No title

ヒィィィ!
コレハ痛いワwww
アテクシ、実は顎関節症を診断されてまして微妙に外れるような違和感痛みあったりするもんだから途中までリアルにgkbrだったワwww顎イタイwww
終わって余計にヒィッwww
イタイ、コワイ、でもリョ○と思えば萌えてしまうワ!w
イラストになってほしいわネ!

プライドを賭けた2人の闘いは、読んで頂いた結果の通りとなりました。痛いし怖いとは勿論思いますけど、これもボクシングだと思っております。やっぱり危険はつきものだ、と……
Secre

プロフィール

チャパロット

Author:チャパロット
基本的に携帯サイトで書かせて頂いているもののリメイク(?)ですが、ちょくちょく文を変更してたりします(あと拙いですが自作絵なども)。
何かある方は、ckcwb305あっとまーくsutv.zaq.ne.jpにご連絡下さい。

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