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光陵高校女子ボクシング部・別話 【星の墜ちた日】 前編、頂上決戦

 光陵高校女子ボクシング部・別話【星の墜ちた日】をお送りします。これは【I・H編】で出てきた女子プロボクサー、新田 裕希子が世界タイトルマッチに挑む話。前、後編で彼女の闘いをご覧下さい。


生き残る者、去りゆく者。これは、同じスタートラインから始まって紆余曲折を経て再び交わり、ただひとつの座を賭けて闘う、ある2人の物語……









 2010年、大晦日。この日、日本女子プロボクシング界は大きな期待に胸を膨らませていた。
即ち、日本女子期待の星……新田 祐希子(にった ゆきこ)のライト級世界初挑戦である。
日本女子プロボクシング界は創設以来、長らく不遇の時代を歩んできていた。欧米やヨーロッパは勿論の事、同じアジア圏内でも韓国やインドなどに比べてそのレベルは目に見えて低い。
そんな中、祐希子は厚く覆われた暗闇を切り裂くが如く現れた、さながら流星ともいえる存在といえた。

18歳の時アメリカでプロデビュー、初勝利してから白星を重ねていく。20歳の時、無敗のまま日本へ戻り京都・新堂(しんどう)スポーツクラブとプロ契約。
以後も連戦連勝の快進撃を見せ、22歳にしてようやく世界への挑戦権を獲得したのであった。



 敵なしの挑戦者を迎え撃つは、ライト級女子世界チャンピオン、リリィ・クリスティン。祐希子と同年のこの白人女性、実は彼女と因縁浅からぬ関係であった。
まず、アメリカのハイスクールでクラスメイトとなり、共にボクシング部へ入部。
アマチュアでの対戦はなく、2人が本気でグローブを合わせたのはプロのデビュー戦の場であった。
野外での試合で、デビュー戦とは思えない好勝負を繰り広げた両者であったが、最終第4Rも終盤で祐希子の右フックがカウンターで入り、リリィは生涯初めての10カウントを聞く事となる。
この結果に不満なリリィであったが再戦は実現せず、2人は独自の道を歩んでいく。

そんな2人の道が再び交わったのは、あまりにも意外な場所であった。

兄、雅敏(まさとし)の結婚式会場である。

少々ブラコンの気がある祐希子としては、どんな女が兄を射止めたのか気になって仕方ない。
改めて招待状が届き、相手の名を見た瞬間、祐希子は絶句し恋愛の神にありったけの呪詛を吐き付けたい気分に陥った。



夫 新田 正敏
嫁 リリィ・クリスティン



これが、招待状に書かれていた名前である。はっきりいって犬猿の仲の祐希子とリリィ。よりによって、そんな相手が義理の姉になろうとは!
正直欠席したい心境が大きく天秤を傾けていたのだが、兄の手前そういう訳にはいかない。
仕方なく形式だけの祝福をするや大急ぎでジムへ走り、憤慨をサンドバッグへと叩きつけるのであった。



 そんな一連の流れを経て正敏とリリィ夫妻はアメリカへ移り、リリィはひたすらチャンピオンロードを駆け新婚1年半、見事世界の頂点へと登り詰める。
そして、今回リリィの初防衛の相手として義妹がリングへ立つ。
大晦日に先だっての調印式の場で、祐希子とリリィは早速角を突き合わせる一幕があったのだが、詳細は以下の通り。

カメラのフラッシュが止まない中、調印式は順調に進行。そして、カメラマンがお互いアゴへアッパーのポーズを要求。
快く応じたチャンピオンと挑戦者だったが……



コツッ!



2人して、お互いのアゴにアッパーを当てたのである。

「ちょっと、痛いじゃないのリリィ」

リリィが自分より先に世界チャンピオンになった事だけでも苛立たしいのに、兄の事も相まって語気が荒くなる祐希子。
一方のリリィも、

「あら、ごめんあそばせ。この拳が早くアナタの顔をグッチャグチャに叩き潰したいらしくて、言う事を聞きませんでしたわ」

余計な一言を添えて反撃。ここに、危うい均衡で保たれていた平和は脆くも崩壊、大混乱の様相を呈していった。

「ジムの力で世界チャンピオンになったんじゃないの!? あっさりその砂の王座から引きずりおろしてやるから覚悟しとくのね!!」

「大口と生意気なへらず口だけならとっくに世界チャンピオンですわね、ユキコ! アナタこそ、2度とリングに立てないぐらいボコボコにしてワタクシの実力を見せつけて差し上げますわ。後、もういい加減義姉さんとお呼びなさいな!」

「誰が呼ぶかッ!」

今にも取っ組み合いが始まりそうな所を関係者が総出で止めに入る有様であった。



 そして、決戦当日。男女入り混じっての興行、そのメインイベンターを務める祐希子は専用の控え室で入念に身体を温めていた。
口では散々言ったが、必要以上に気負ってはいない。そんな余計なものが混じって勝てる程、リリィは凡百のボクサーなどでない事は自分が1番よく知っているのだから。
リリィは生粋のインファイターで、その強打ぶりは前の世界チャンピオンを病院送りにした程。
特に要所要所で打ってくる一撃必倒のパンチ……『ジョルト』は、1発貰ったらその時点で勝敗が決するだろう。

『ジョルト』とは、拳に全体重を乗せ身体ごとぶつかるように放つ、いわば捨て身の如きパンチの事を指す。彼女のKOのほぼ全てが、このジョルトブローで占められている。
全体重を乗せて振り抜くこのジョルトブロー、決まれば致命傷になりかねないが反面かわされると致命的な隙となる。
ましてやカウンターなど貰った日には、想像するだに恐ろしい。

祐希子は、この試合最初からフルスロットルで動くつもりでいた。それだけのスタミナは付けてきたつもりだし、何より一瞬でも気を抜けばリリィの容赦ない強打を貰いKOされ兼ねない。

(集中集中……この試合、絶対に負けられない!)

「新田選手、そろそろ準備の方よろしくお願いします」

ドアの向こうから係員の合図が聞こえる。あ、はい! と返事を返すと、祐希子は深呼吸をひとつ。次いで両のグローブを思い切り打ちつけ、

「さあ! 獲るわよ世界ッ」

腹の底から叫ぶと控え室を後にした。




 東京・後楽園の仄暗い通用路を通り、扉を越えた先には眩いばかりの照明と割れんばかりの大歓声。そして、会場全体を包む異様なまでの熱気が、祐希子たちを包み込む。
或いはこの瞬間を味わいたいが為に、ボクサーは苦しい減量に耐え過酷なトレーニングに励むのかも知れないな、と一世一代の勝負にも関わらず呑気な感想を抱く祐希子であった。
無事リングインを果たし、鮮やかな空色のスポーツブラに白を基調として黒のサイドラインの入ったロングトランクス、青グローブという出で立ちの祐希子は、周りの観客へアピール。

やや置いて、一層大きな歓声が赤コーナー側花道へと向けられ、祐希子も自然とそちらへと視線を向ける。
豪奢な金色のロングヘアーを揺らし、同じく金色のスポーツブラと同色に赤いサイドラインのショートトランクス、赤グローブを身に着けたリリィがセコンド陣に伴われ姿を現した。
コスチュームに見られる通り派手好きな彼女だが、意外な事にガウンは着込まない。
或いは、態度に見合ったその豊満な肢体を存分に見せつける為に着ていないだけなのかも知れなかったが……

何にせよ、王者がリングインした事により役者は揃った。後は、試合上の諸注意や国家斉唱などの儀式を済ませると両者とも自コーナーへと引き揚げていく。
誰もが固唾を飲んで試合開始を待つ中、リングアナウンサーのコールが響いた。

「ただ今より、WBA女子・世界ライト級タイトルマッチ12回戦を行います」

コールが始まると、喧騒に包まれていた観客席が一気に静まり、否応なしに緊張感が高まっていく。


未だ負けを知らない日本の期待の星が、このまま駆け抜けるのか?
それとも、初防衛ながら風格を漂わせるこの女王が暴虐の限りを尽くすのか?


観客一同、これから始まるであろう激闘に思いを馳せ、ただただ静かにリングを注視する。

「赤コーナー、135パウンドォ。WBA女子ライト級世界チャンピオンんーッ! リリィぃ……クリスティンんんーッ!!」

コールと同時に赤コーナーで王者が両腕を上げると、それに呼応するような大歓声が会場全体を駆け巡っていく。

「青コーナー、134パウンド3/4ん。WBA女子ライト級1位ぃッ! 新田ぁぁ……祐希子ぉぉーッ!!」



ワァァァーーッ!!



コールに合わせ左拳を天へ突き上げアピールする祐希子に、リリィに勝るとも劣らない大声援が会場内に木霊した。
まさに人気ぶりを反映したような歓声の渦を背に、祐希子はセコンドの指示を聞く。

「チャンピオンは1Rの間だけはガードをしない。妙なポリシーだが、付け入るのはここだ。最初から全開でいけ!」

ただし、ジョルトブローには充分に注意するんだぞ、と念を押されマウスピースを口に入れられる。祐希子にとっては正直今更な注意だが、黙って頷きつつマウスピースの位置を直す。
誰もが最初の1R目に勝機を見出そうとする。当然だろう。何せ相手はろくにガードを固めていないのだから。

だがこのセコンドは分かっていない。それはリリィなりのギアの上げ方なのだ。アメリカでのデビュー戦から、それは一貫して変わらない。

豪快なKOの多い事からパンチ力・オフェンス面に注目されがちだが、ディフェンスも上手いのがリリィの女王たる所以といえた。

(どっちにしても、今日は最初っから全力で飛ばす!)

首を軽くコキコキ鳴らし、気迫の籠もった表情で身体をコーナーからリング中央へと翻す。そして……



カァァァァンッ!



2010年最後の夜、最後の大一番の火蓋が切って落とされた。



 王者と挑戦者がリング中央へ歩み寄り、お互い左拳を突き出す。差し出されたそれをバンッ! とやや乱暴に下へ叩き落とし、獲物の喉元へ噛み付かんと赤のグローブ……リリィが先手を仕掛けてきた。
最初から全力で倒しにかかるつもりだったのは、何も祐希子だけではなかったらしい。シッ、という声と共にリリィの右ストレートが唸りを上げ祐希子に襲いかかる。
ノーモーションで繰り出されるその凶器を、左拳を下にはたき落とされバランスを崩しながらも、祐希子は素早くバックステップし回避。
そのまま一定の距離を保った。右のオーソドックススタイルの祐希子に対し、リリィは普段通りガードを下げたまま。
忌々しげに祐希子を睨みつけ、リリィは開いた距離を一気に詰めるべくダッシュ。その加速たるや、俊敏な野生の猛獣を思わせる程。
だが、相手はただ襲われる事に震え怯える獲物ではなかった。



パァンッ!



間合いを詰めようと動きを見せた刹那、しなりの効いた鞭の如き左ジャブを叩き込み機先を制してみせた。

「くッ」

出鼻に鋭い1発を貰ってしまい、ダッシュにストップをかけられてしまうリリィ。この辺りの読みの鋭さが、祐希子の尋常ならざる部分といえよう。

(まるでこちらの動きを見透かしたかのような対応……相変わらず鬱陶しいですわね、ユキコ)

さらに拍車のかかる忌々しさとは裏腹に、頭の中では冷静に懐へ潜る算段を構築していくリリィ。冷静さを失えば、その時点で祐希子の術中に嵌ると彼女の本能が理解していたのだ。



 まるでそれが鉄の掟であるかのようにガードは固めないが、リリィは素早いフットワークとフェイントを以て祐希子へ迫る。
ガードを下げる事は、いざという時の壁を取り払う反面、相手のミスを誘発しやすい。
顔が晒されている以上、嫌でもそこを狙いたくなるという心理が働く為なのだが、リリィは今までそれを実に巧みに利用してきた。
上体を柔らかく使い、最小限の動きで祐希子の放つパンチをかわしていく。
よほど動態視力と反射神経に自信がなければ、一流のプロボクサーを相手にこのような真似は出来ないだろう。
そして、いつまでも当たらない相手は次第に焦燥感に刈られ……



ブンッ!



振りの大きな一撃を放ってきた。

(来た!)

一般人から見れば区別などつかない程度のモーションの大小。だが、世界トップクラスのボクサーたるリリィにとっては、これこそ千載一遇ともいえるチャンスであった。


上手くハマれば、この攻防で決着がつく


振りの大きい右フックをダッキングでかわしつつ、その左腕は既にアッパーカットのモーションへ。



ズガッ!



伸び上がりながらの左アッパーが、フックを打った体勢のままの祐希子のアゴを痛打。ガツンとアゴをカチ上げられた祐希子は、口から唾液の飛沫を飛ばす。
間髪入れずリリィの右ショートフックが戻ってきた祐希子の顔を右へ捻れさせ、更に左のボディーフックが仇敵の腹へと突き刺さった。

「ぶッ、ぐはぁ!」

ほんの少しの力みが災いして3連打を浴びてしまい、祐希子はグラつきながらも必死にリリィへしがみついた。
腰の辺りに両腕を回し、顔を胸元に押し付けるようにしてダウンだけは回避する。

「くッこの! 離しなさいな、見苦しい!!」

ダウンに足る手応えはあっただけに、リリィにとってこのクリンチは面白くない。口汚く罵り脇腹をボスボス叩きながら、何とか振り払おうともがく。



 クリンチ状態が膠着し、レフェリーが2人を引き離すべく動こうとしたその時、ふと腰に回されていた腕の力が緩んだような感覚を肌越しに覚える。
そして倒れまいと必死だった筈の祐希子がチラッとリリィの顔を見上げ、

「なーんてね」

ペロッと小さく舌を出したかと思った瞬間、リリィの身体を押した。

「ッ!?」

いきなり突き飛ばされバランスを崩すリリィ。そこへ、左アッパーから右ショートフック、左ボディーフックを返し、更に右ストレートの4連打を一気に叩き込まれ、今度はリリィの方が大きく身体をグラつかせた。
これもあわやダウンか? と思われる強烈な連打であったが、リリィは近くにあったリングロープに身体を預ける事によりそれを回避。
一進一退のハイレベルな攻防に、早くも沸き立つ観客。すぐに体勢を立て直し、お互い間合いに入った瞬間、



ビシュッ!



同時に放った右ストレートが交差。首を逸らす事でお互い被弾を避け、腕に絡みついた汗が飛沫となってキャンバスへ舞い散っていく。
腕を引き、改めて攻防が開始されようとした瞬間、



カァァァァンッ!



第1R終了のゴングが鳴り響くのだった。





to be continued……
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コメント

嫌いな女と大好きなお兄ちゃんが結婚ww
いわゆる寝取られネ!(チガウ
でも、これで祐希子さんをボコボコにしちゃったら、リリィさんも夫と気まずくなるわネw
逆でもwww

色々と複雑な人間模様の中始まったタイトルマッチですが、次の後編で決着です。寝取られかどうかはともかく、本当にいい気はしないでしょうねきっと……
あと、試合後の本人たちの気持ちの整理はともかく、兄は何かと胃が痛い事になるかも知れませんw
Secre

プロフィール

チャパロット

Author:チャパロット
基本的に携帯サイトで書かせて頂いているもののリメイク(?)ですが、ちょくちょく文を変更してたりします(あと拙いですが自作絵なども)。
何かある方は、ckcwb305あっとまーくsutv.zaq.ne.jpにご連絡下さい。

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