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第48話 【柊vsカスミ、ハイレベルな攻防】

 I・H編、第48話です。


服根崎高校との練習試合が無事終わった一方で、これから闘いに挑む柊。相手はオリンピック候補のアメリカ人、カスミ・アンダーソン。かつてない強敵を前に、柊の天才性は通用するのか?









 10月最初の日曜日。服根崎高校との練習試合も無事に終了し、神奈川県残留メンバーはしっかりと成長の足跡を残した。
ともかくも皆の闘いはひとまずの終結を見た。が、終わる者たちの一方で、これから始まる者も存在する。

高頭 柊は、これから戦場となる羽翔(うしょう)大学、ボクシング部の前に立ち尽くしていた。そしてその隣には、自らセコンドを買って出た大内山 由起の姿。
これから、この部室で柊はかつてない高みにいるであろう相手との、スパーリングの名を借りた真剣勝負に挑もうとしていた。


ロンドンオリンピック・アメリカ代表候補、カスミ・アンダーソン。


候補とはいえ、仮にも国の代表を担うかも知れないだけに、その実力の程は間違いなく一級品といえよう。そんな相手に、今の自分はどこまで闘う事が出来るのか?

柊の興味は、今その一点のみに注がれていた。

「さあ、行きましょう」

由起に促され、ボクシング部のドアを開け放つ。そこには、当のカスミと若い白人男性、そして今回の勝負を持ち掛けてきた張本人であるライト級1位のプロボクサー、新田 祐希子(にった ゆきこ)の3人だけが待っていた。

「いらっしゃい。時間通りね」

祐希子は柊と由起を室内へ迎え入れ、初顔となる白人男性に引き合わせる。

「はじめまシテ。ボク、スティーブン・アンダーソンといいマス。キョウはヨロシクおねがいしマス」

あまり慣れていないであろう日本語で、スティーブンは柊と由起にそれぞれ握手を求める。祐希子曰く、カスミの兄で妹のトレーナーとして二人三脚を歩んできたベストパートナーであるらしい。
何となく加藤の所に似てるな……などと考えながら、柊はスティーブンの握手に応じる。その後、早速ロッカールームへ入り然るべき服装へと手早く着替えた。

備え付けの長椅子に腰掛け、由起に両拳をバンデージで固定してもらう。

「キツくない?」

静寂が支配するロッカールーム、シュルシュルとバンデージの擦れる音と共に由起の確認が響く。それに対し、柊はただ静かに頷いてみせた。

(なんだ、この感じ……もうすぐメチャクチャ強ぇヤツと闘うってーのに。なんでこんなにリラックスしてるんだ? オレ)

不思議と、恐怖や気負いといった感情は沸いてこない。これから、恐らくは柊が今まで対戦してきた誰よりも強い相手と闘うというのに。
バンテージを巻かれている間、柊は極度のリラックス状態にあり、落ち着いていた。I・H本戦の時には、ついぞ達する事のなかった境地。

実は、これが身1つで挑める気楽さからくるものである、という事をこの時点で彼女は気づいていなかった。
I・H本戦出場に際して、予選で倒してきた選手たち……獅堂 きららや佐山 光子らから託されたバトン。
それは、柊にとっていざという時の心の拠り所になったと同時に、見えざるプレッシャー・足枷という負の部分も同居していたのである。
だが、この闘いに関してはそのような枷は一切ない。あるのは、裸一貫己の実力のみ。
続行にせよ引退にせよ、とりあえず今の自分はどの辺りにいるのか? それだけは、今日はっきりさせておきたかった。



 着替えを終え、2人がロッカールームから練習場へ出ると、カスミはサンドバッグを叩いていた。柊とそう対して変わらない華奢な身体から、バスン! バスン! と重そうな打撃音が響き渡る。
一途なまでにサンドバッグへ向き合い殴りつける姿は、やはりどことなく夕貴を連想してしまう。

(アイツもボクシングバカなんだろうな)

不思議と軽く笑みを浮かべ、柊は未だサンドバッグに向き合うカスミを見つめるのだった。



 お互い試合準備は万端、後はゴングを待つばかり。柊は青コーナー、対してカスミは赤コーナーに佇む。

「それじゃあ、そろそろ始めましょうか」

レフェリーとして、リング中央に陣取る祐希子が2人を呼び寄せる。今回の諸注意事項を説明する間、柊もカスミも無言で聞く。

「……以上。お互いクリーンなファイトを心掛けて」

祐希子の締め括りと共に柊とカスミはグローブを前に差し出し、お互いのそれに軽く押し付け合うと各コーナーへと引き返した。

「相手の情報は全くと言っていいぐらいないわ。とにかく先に1発当てるか、もしくはかわすかして身体の緊張をほぐして」

由起に肩を揉まれながら、柊は小さく頷く。情報がないのは相手とて同じ。同じ条件の中で、どれだけ闘えるのか? それをこそ、柊は知りたいのだ。

「この勝負、最初っから全力でやるから。センパイ、もしオレがぶっ倒れたら後はヨロシク」

覚悟の程を告げ、柊はマウスピースを銜えるとコーナーを出ていく。やけに頼もしく見えるその後ろ姿を、由起は信頼の眼差しを以て見送るのだった。



ビーーーーーッ!



 試合開始のブザー音と共に、両者はリング中央へと歩みグローブタッチ後睨み合う。柊は左構えのサウスポースタイル、対するカスミは教則本に掲載したくなる程綺麗な右構えのオーソドックススタイル。
基本に忠実……だが、だからこそ隙を見出すのは困難といえるだろう。相手がサウスポーといえど、驚いた風はない。
サウスポーとの実戦経験も、どうやら豊富にありそうな雰囲気だ。持ち前のスピードを感じさせる柊のフットワークに比べ、カスミのそれは決して遅くはないが見劣りしてしまう。
ただ、それは逆にカスミの持つ力強さを連想させるようであった。

(コイツ、インファイターか? とりあえず、まずは様子見…ッ!?)

カスミの周囲をサークリングしていた柊が、様子見と右ジャブを繰り出そうとした、まさにその瞬間……



ビュンッ!



今までに見た事のないスピードを纏う左ジャブが、柊へと襲い掛かった。吹き矢の如きカスミの左ジャブは、柊の顔の右横、ヘッドギアを掠り辛うじて外れる。
不意打ち気味のパンチ、これをかわせたのは間違いなく柊の動態視力と反射神経の賜物であったろう。しかし、彼女の類い稀なる防御本能を以てしても完全な回避は叶わなかった。


クリーンヒットはしなかった


ただ、それだけ。柊の全身に戦慄が走る。だが……

(面白ぇーッ)

このたった1発のやり取りで、柊は戦慄が走った後に得も知れぬ高揚感が湧き上がってくるのを感じていた。

お返しとばかり、今度は柊が右ジャブを返す。パァンッ! と軽快な革の音を上げ、カスミはそれをブロッキングで防ぐ。
ブロッキングで防いだ筈のカスミの表情は、少なからず驚愕の色を帯びていた。柊のハンドスピードの速さは、今までグローブを交えてきた様々な相手の中でも群を抜いていたからである。

(このコ、すごイ!)

カスミもまた、短い攻防の中に柊が持つポテンシャルの高さを感じ、油断ならない相手と判断したようだ。
一旦振り出しに戻り、両者は間合いを離す。柊は更にもう一段階スピードのギアを入れ、カスミはギュッと脇を絞め出方を窺う。



タン、タン……
キュキュッ……



キャンバスを蹴るリングシューズの音が、コーナーサイドの由起とスティーブンにはやけに大きく聞こえる。
すぐに打ち合いに行かず様子を探り合う両者から、張り詰めた空気が直に感じられるようであった。

「「シッ」」

仕掛けるタイミングは同時。柊の左ストレートとカスミの右ストレートは、お互い数瞬前まで顔面のあった場所を穿つ。
不意を突いたつもりの1発が不発に終わった事で、柊はまたも一旦間合いを離す。が、カスミはそれを許さず肉薄してきた。

「チッ」

ごく小さな悪態を吐きつつ、柊は距離を取るのを断念。逆に、至近距離(クロスレンジ)へとその身を詰めた。

「ッ!?」

この大胆不敵な選択に、カスミは訝しげな表情を見せる。

(な……シュウはアウトボクサーだったンじゃ? どっちにしテモ、それはムボウよ)

中間距離(ミドルレンジ)を最も得意とするカスミではあるが、だからといって接近戦が苦手という訳では決してない。


お上品なアウトボクシングを捨て、ガチャガチャのラフファイトを望むなら受けて立つまで!


そうして、まだ1R目であるにも関わらず、またお互いのファイトスタイルには見合わない密着距離でのせめぎ合いが開始された。
2人とも、とにかく先制して有効打を上げようと考えているらしい。自然とパンチがコンパクトになっていく。
柊はひたすら1発1発に集中力を高め、対するカスミは一心にガードを固め、どちらもクリーンヒットだけは貰うまいと神経を研ぎ澄ませる。



ブンッ!



柊の左フックとカスミの右アッパーが、それぞれの軌道を描き相手から逸れた。その軌跡は、まるで中空に十字を形作るように交差し……



ビーーーーーッ!



第1R終了のブザーが鳴った。

「ハァ、ハァ、ハァ……」

ゴングと共に構えを解き、2人は軽く拳を相手のグローブに付けると各コーナーへと戻る。

「オリンピック候補を相手に、よく1R持ったと……ううん、まともなクリーンヒットをもらわなかったって、感心するわ」

スツールに座らせ、マウスピースを引き抜きながら由起は柊に声を掛ける。現時点に於いて、柊のディフェンステクニックはオリンピック候補を相手にしても充分に通用するのだ。
高揚の1つもしようというものである。一方、ウォーターボトルで口腔内をうがいした後、

「なんとかこのRは、ですけど……なんせ、アイツはまだ“アレ”を出してませんから」

当の柊の口からはやや悲観的な感想が漏れる。

柊の言う“アレ”……初めてカスミのスパーリングを見た時に使っていた、柊の神懸かった動態視力を以てしても完全に捉える事の叶わなかったという、超速の右ストレート。
では実際に打たれたとして、完全に防御し切れるかと問われれば……正直分の悪い賭けと知りつつ敢えて投じる、博打打ちの心境と答えざるを得ない。
だが、一方で直に見てみたいという欲求も確かにあった。せっかくこんな所まで出向いて、世界クラスの実力者と闘っているのだ。
どうせなら、出来うる限りの全てを見たいではないか!

「“アレ”ね……私もただ突っ立ってるだけって訳にはいかないから、一応アドバイスを。正直言って、“アレ”をかわすのはとても困難よ。だから、とにかくキッチリとガードを固めてブロッキング」

ガードの構えをしてみせ、由起は柊に身振り手振りでカスミの右ストレート対策を与える。

「“アレ”は筋肉に極度の緊張を持たせて打つ、ノーモーションブローの一種だと見たわ。あの類のパンチは防ぎにくい反面、連発はきっと難しいはず。つまり、彼女にとって最大の武器こそ最大の隙になるのよ」

どうにも抽象的な由起のアドバイス。だが、柊にはひとつ上の上級生の伝えたい所を正確に把握出来ていた。

(つまり、“アレ”をどうにかして防いだ後にこそ、反撃のチャンスがあるって事か)

1分間のインターバルが終わり、柊はマウスピースを受け取ると口の中に放り込みスッと立ち上がる。



ビーーーーーッ!



程なくして第2R開始のブザーが鳴り、柊とカスミは勢いよくコーナーから飛び出していった。



 2Rが開始されて約40秒間、互いに牽制やフェイントに終始しクリーンヒットはない。これはまた膠着状態に陥るかと思われた矢先、先に動きを見せたのはカスミの方であった。
教則本に出てくるような基本的構えから、より前傾姿勢にシフト。そして、身体を半歩前に踏み出したかと思った、その瞬間……



ジャッ!



顔の前に置いていた筈の右拳が突如として歪んだ。それを目で追おうとした柊は、急に重い衝撃を受ける。
歪んだカスミの右拳が、寸分違わず柊の顔の位置を穿つ。由起のアドバイス通り普段より若干高めに構えた両腕のおかげで、幸い直撃だけは免れた。
だが、柊の驚愕は確かなものであった。集中していた筈なのに、カスミがパンチを打つ、その予備動作を視認出来なかったのである。

ノーモーションとはよく言ったものと感心すると同時に、厄介なパンチと内心悪態を吐きたい気分を覚えていた。
予備動作も極めて把握しにくい上に、どういう原理で乗せているのか威力も申し分ない。

(助かった。たまたまガードの上に飛んできたのか……しっかし、コイツをどうにかしない事には状況も変わんねーし)

とにかくもその場でジッと止まっていたのでは、ただ目前の相手に蹂躙されるを待つのみである。
正面から飛んでくるものを完全にかわすのが困難なのであれば、この身を捉えられないよう前後左右に動き回り的を散らすまで。
柊は先程までのインファイトから、トントンと軽快なフットワークを取りつつ変幻自在な動きへとスタイルを戻す。
ナミや夕貴といった、身近な者から絶大なる評価を得ている左右のステップの切り替え、その速さを活用しカスミを攪乱にかかった。

柊の、長所を活かしたスピーディーなボクシングを前に、カスミの放つジャブは全て空を切る。対して柊は左右にステップを踏みつつ、体重移動(シフトウェイト)で力の入ったショートフックをカスミのガード越しから叩きつけていく。
容易にガードを崩されるような弱さこそ見せないものの、ここにきて更にギアの上がった柊のスピードに、カスミは舌を巻く思いであった。

(こうもハヤくうごかれタラ、あのストレートはつかえナイ。ボディーをたたいテうごきをとめルカ)

フックの衝撃に筋肉を軋ませながら、カスミは瞬時に方針を固め柊に詰め寄った。2人の闘いは、ここから更に激化の一途を辿っていく事になる……





to be continued……
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コメント

さすが柊ちゃん!相変わらずクラブボクシングを軽く越えてるわネ!

ところで階級無視してメインキャラクターの戦闘能力だけで格付けをしたらこんな感じかしら?

新田、先生
プロの壁
SSS
カスミ、IH優勝クラス
SS+

SS
ナミ、きらら、加藤、新堂
S
白鷺、東、葉月雪菜、IH他敵キャラ
A+
畑山、知念、曹、馬剃
A
アンナ、桜、葉月越花
B
杉山

ゲストボクサーは対戦する主役の1ランク下か主役ランクの+-と言った感じだと思うわ!

いつもコメントありがとうございます。ランク付け、ですか……戦闘能力は作中で逐一変わっていくと思いますので、ここでは一応ポテンシャルだけでのランク付けをさせてもらいたいと思います。


高頭 柊、新田 裕希子、片山 那智


下司 ナミ、加藤 夕貴、城之内 アンナ、新堂 早弥香、葉月 雪菜、白鷺 美智子、植木 四五郎、


曹 麗美、獅堂 きらら、知念 心、馬剃 佐羽、東 久野、桃生 誠、我聞 鉄平


桜 順子、畑山 久美子、葉月 越花、杉山 都亀、前野 裕也


弥栄 千恵子


こんな感じでしょうか。あくまで参考程度にお考え下さい。

キャア!詳細な戦闘能力ランキングありがとう!うれしいワ!!!
公式なこういうランク分けって見ていてワクワクするわよネ!
畑山先輩が思ったより低いとこにいて意外ね、気を失っててのキックのインパクトがつよすぎたワww
あと…弥栄…?っていたわネww
柊ちゃんと戦った娘ねw明らかにランク外といった感じの扱いが可愛いわwww
Secre

プロフィール

チャパロット

Author:チャパロット
基本的に携帯サイトで書かせて頂いているもののリメイク(?)ですが、ちょくちょく文を変更してたりします(あと拙いですが自作絵なども)。
何かある方は、ckcwb305あっとまーくsutv.zaq.ne.jpにご連絡下さい。

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