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第47話 【vs服根崎高校(下) 練習試合終了】

 I・H編、第47話です。


服根崎高校との練習試合も残り僅か。予想外の強敵と当たった心は、だが冷静な試合運びに終始し見事クロスカウンターで切って落とした。後は、最終戦のアンナを残すのみ……その結果や如何に?









 服根崎高校との練習試合も、3勝1敗1分けと順調に勝ち星を上げ残す所1試合のみとなった。
唯一ライト級でエントリーの城之内 アンナは、ヘッドギアを着ける為その豪奢な金髪を結っている赤いリボンを解く。
服根崎の部員たちから奇異の眼差しを注がれ、どうにも落ち着かない雰囲気のアンナを由起が呼びつけた。

「なんだかものすごくジロジロ見られてるんですけど……」

イタリアンハーフで白人そのものといった、白い肌に金髪碧眼という容貌はどうしても目につくらしい。

「そうね。ウチの学校ではみんなあまり気にしてない素振りだものね。あれが普通の反応なんでしょう」

キツくない? とヘッドギアを固定する為、後頭部の紐を引っ張る由起に大丈夫と答えると、アンナは気持ちを入れ替えリングに上がる。
既に対角で待機していた対戦相手……高原 すみれの方をギラギラした目で見つめ、戦闘意欲を徐々に漲らせていった。

対戦相手、高原 すみれは服根崎高校女子ボクシング部の主将で、去年のI・Hでは県予選の決勝まで残った実力者である。
素早いフットワークを武器とした、典型的なアウトボクサー。接近戦を得手とするインファイターのアンナにとって、やりにくいタイプの相手である事はまず間違いなかった。

「城之内さん、高原さんは典型的アウトボクサーだけにインファイターのいなし方は心得てる筈よ。闇雲に突っ込んでも的になるだけだから気をつけて」

青コーナーに控えるアンナへ、由起がアドバイスを伝えていく。

(闇雲に突っ込んだらいい的かぁ)

由起のアドバイスを聞きつつ、アンナは熟考する。身長差を鑑みるに、恐らくリーチはアンナの方に分があろう。
だが、相手の得意な土俵でほんの少し有利なだけのリーチ差など、一体どれ程のアドバンテージ足り得るのか?

遠距離戦という選択肢は、早々に切り捨てられた。

中距離での刺し合いも恐らく同じ結果にしかならないだろう。やはり、接近戦に賭けるしかなさそうとアンナは決断した。


死中に活を見出す、の心境といった所か。



カァァァンッ!



 練習試合最後の対戦、その火蓋が切って落とされた。チョンとグローブを合わせ、アンナとすみれはリング中央で対峙する。
双方とも右のオーソドックススタイル。ミュージックに合わせたような、軽快なステップを見せるすみれに比べてアンナのそれは鈍重に見える。

「シュッ」

軽快なフットワークで、衛星よろしくアンナの周囲をサークリングしつつすみれは左ジャブを数発打ち込んできた。



パンッ、パパァンッ!



「くッ」

見えづらい死角を計算しての事か、単に速いからなのか。いずれにせよ、アンナはこのジャブに対し防御手段を取れず、木偶の如く被弾してしまった。
1発1発に威力は感じないものの、一方的に打たれてはRSCで負けを宣告されてしまうかも知れない。
互いにライバルと認め合った、白鷺 美智子とはまた違ったジャブ。威力は雲泥の差だが、彼女のと比べてすみれのジャブは間合いが遠く感じられてしまう。

アンナは、生粋のアウトボクサーとの試合経験がない。戦法自体は、都和泉(みやこいずみ)高校の中国人留学生、かつて柊と闘った曹 麗美(ツァオ リーメイ)と同じヒット・アンド・アウェイである。

ここに来て未知の強敵との遭遇、
速い動き、
遠く感じられる懐……

それらを感じた時、アンナの中のスイッチがカチリと音を立てた。

ゾクゾクする。こんな強い人と思い切り殴り合いたい。叩きのめしたい。グッと拳を強く握り締め、眉と口元が徐々に吊り上がっていく。
アンナの中に潜むもう1つの面……バトルジャンキーとしての顔が現れたのである。



ビシッ!



アンナの変化など露知らず、すみれは軽快に左ジャブを走らせる。

(所詮は一年生。私のスピードについてくるのは無理みたいね)

打てば打つ分だけ綺麗に決まるジャブが、すみれの気分を甘美なものへと変えていく。自分の動きに手も足も出せず、ただひたすらに弄ばれるだけの生きた人形が、今目の前にある。
パンチが当たる度、この上級生のサディスティックな感情は満たされていくようであった。何発目かのジャブが鼻に直撃し、生きた人形は朱に彩られた液体を器用にも垂れ流す。
精巧且つ最高の遊び道具を手に入れた……そう錯覚した時、すみれは突如として現実に引き戻された。

鳩尾に伝わってくる、熱く鈍い痛みによって。

「ごはッ?」

痛みの元を辿ると、何と青と白のグローブが自分の腹に深々とめり込んでいるではないか! 知らない間に不用意に近付き過ぎたかと、痛みを残しながらも一旦後退する。
思わぬ油断で無駄な1発を貰ってしまったが、間合いさえ離しておけば大丈夫。そう冷静に判断する反面、すみれは怒りに似た感情も同居させていた。

(人形のクセによくも1発いいのを入れてくれたわね! どうせ反応出来ないんだから、大人しく殴られてればいいのよ!!)

打つパンチは、その悉くが決まっている。この金髪の下級生は、自分の攻撃に全く対処が出来ていない。
あまりにも最初のパンチが上手く入り過ぎた結果、すみれはアンナを完全に格下と判断した。判断してしまった。
この時、すみれは“対戦相手を圧倒したい”という欲求の虜となってしまったのかも知れない。



カァァァンッ!



 1R終了のゴングが鳴る。結局アンナはすみれのパンチをいいように浴び、2発とクリーンヒットを返せなかった。
だが、そこに悲壮感や焦燥感といったものは見られない。今アンナの頭の中は、あの相手にどうやって食いついてパンチを叩きつけてやろうか? という思いで一杯だった。
由起の指示も馬耳東風で、唯一「腹を狙え」とだけ記憶したアンナは、第2R開始のゴングと共にコーナーを飛び出した。

リング中央で挨拶を交わすなり、アンナはすみれ目掛けて突進する。だが、それはすみれのジャブにより阻害されてしまった。
しかし、それでもアンナは諦めない。今度は左ジャブを織り交ぜたり、仕掛けると思わせぶりなフェイントですみれの隙を誘発したりといった行動を取っていく。
大半は迎撃されてしまうものの、数少ないチャンスは取りこぼす事なく、ひたすらに腹へと火線を集中させていった。



パァンッ!



「ぐはぅッ」

すみれの右ストレートがアンナの頬を殴打し、少量の唾液が宙に舞う。打たれ過ぎた代償か、アンナの右瞼は少しずつ腫れの度合いを増していた。
それでも、相打ち覚悟で放ったアンナの左ボディーストレートがすみれの腹を叩く。

「ぐほッ」

こちらも少量の唾液を煌めかせ、前屈みに身体を折る。アウトボクサーの大半がそうであるように、すみれもまた打たれ強い方ではないらしい。

2Rも残り約20秒。微弱ながらも、流れは確実に変わってきていた。一定の間合いを取ろうと退くすみれ、執拗に追い縋るアンナ。
残り5秒、僅かにアンナの突進の方がすみれの後退速度を上回り……



ドスゥッ!
カァァァンッ!



アンナの右拳がすみれの腹を打ち抜いたと同時に2R終了のゴングが鳴り響いた。



 身を屈めた状態で放たれた渾身の右ストレートは、すみれの腹筋を粉砕し、貫通し、致命傷ともいえるダメージを刻む。
ダッシュの加速も加わったこの一撃は、慢心し他者を見下したすみれへの、まるで天罰であるかのようにも思えた。
強烈に過ぎる一撃をその身に受けたすみれは、声にならない呻き声を発しつつ両手で腹を抱え身体をくの字に折り曲げる。
次いでぷるぷると小刻みに震え、多量の脂汗を流すと同時に両膝をキャンバスへと落とした。



 青ざめた顔のままセコンドに肩を担がれ、すみれは赤コーナーへ引き返す。これはもう試合を棄権するだろうか? と推理する由起。
だが、それに反して赤コーナーから棄権の旨は告げられなかった。主将として、上級生として、またボクサーとして棄権という選択肢は、その矜持が許さなかったのだろう。
明らかに死に体の状態ながら、すみれは試合続行の意志を示していた。

第3Rのゴングと共に、両者はコーナーから飛び出す。だが、すみれから先の2Rまでの機敏さは完全に消し飛んでいた。
挨拶を交わし、アンナのボディーブローによって悶絶、チアノーゼ状態でダウンに到るまで30秒も必要としなかった。
両手で腹を抑え、痛みと呼吸困難に身体をよじらせるすみれに、レフェリーは静かに試合終了を宣言する。
マウスピースを引き抜かれ、安静な状態にされた服根崎主将を尻目に、アンナは腫れた顔に満面の笑みを浮かべ青コーナーに戻った。

一応は格上の相手に勝利を収めた事を褒める由起。だが、まだまだ改善・反省の余地があると痛感するのであった。










 夏休みの練習の集大成という意味合いを持つ、服根崎高校との練習試合の全過程が終了した。結果だけ見れば4勝1敗1分けと、まず文句のないものといって良い。
が、唯一敗れた都亀を始めとして各部員とも紙一重な部分があったのは確かで、まだまだ満足してもらう訳にはいかなかった。

「今日はわざわざ遠くまでご苦労さま。こんな機会は中々ないから、いい勉強になったわ」

服根崎女子ボクシング部を代表して、高原 すみれが礼を述べる。アンナの執拗なボディー打ちで悶絶してしまった彼女だが、何とか落ち着いたようだ。

「いえ、こちらこそ貴重な勉強をさせてもらいました」

光陵からは、やはり主将のナミが代表としてすみれに返礼する。また機会があったら交流しましょう、とすみれが締め括り光陵女子ボクシング部の面々は帰路へと着いた。





 思い思いに今日の試合内容を思い返し、部員たちは学校へ戻った。

「今日はお疲れさま、みんな。ゆっくり休んで。で、後日反省会をやるからまたその時に集まって」

部室に入り、ひと息つく部員たちにナミが伝える。唯一敗北を喫した都亀だけは沈んだ表情をしていたが、それ以外の部員は皆それなりに感触を掴んでいる。
成長を感じている今、反省点も糧にしたい心境の部員たちはむしろ望む所であった。

一同に解散を促し、ナミは1人部室に残る。トレーニングウェアに着替え、夕日の差し込む練習場の電気のスイッチを入れ、明かりの灯った所でナミはストレッチを始めた。

どうにも身体が疼いて仕方がない。私も早くリングに立ちたい!

右瞼の傷がまだ完治していない為、実戦練習の許可は下りていない。今は雌伏の時だと理屈では分かっていても、若者の血と身体は静より動をこそ欲していたのだ。

ストレッチを終え身体の温まったナミは、練習用の薄めのグローブを着けるとサンドバッグの前に立ち、



バスッ!



右ストレートを打ちつけた。それを皮切りに、ナミは一心不乱にサンドバッグ目掛けて両拳を叩きつけていく。
革の殴打する音と吊した鎖の軋む音だけが、静かな部室内に響き渡る。タイマーをセットしていなかった為、2分を過ぎてもナミは打ち続けた。
肺に酸素を溜め込み、流れ落ちる汗も気にせず、ナミはただひたすらにサンドバッグを殴り続けていく。
右目に眼帯をしているせいで遠近感が取り難いものの、それすらも今のナミには気にならない。
集中力が途切れ、酸素不足も相まってナミがサンドバッグ打ちを止めて凭れ掛かったのは、打ち始めてから優に5分を経過していた。

「ハァッ、ハァッ! ッハ、ァ……」

無心に拳を振るい、無酸素運動を続けた疲労感がナミにのし掛かってくる。が、それはむしろ心地良い疲労感といえた。
その後もキリの良い所までトレーニングを続け、ナミはシャワーを浴びて着替え始めた。そこで、ポケットの中にジャラ、と何かの手応え。
引きずり出して正体を確認した所……ナミは軽く冷や汗をかいてしまう。

「あ……東先輩のネックレス…返すの忘れてた」

さすがに貴重品を預かり続ける訳にもいかず、ナミは自腹を切って久野の家まで届ける事にした。



 部室に何故か置いてあった地図をひっ掴み、そのまま飛び出そうとした時、偶然隣合わせの男子ボクシング部室の中が明るい事に気づく。
窓の隙間から、サラリと流れる長く艶やかな黒髪を視認、次いでその主の顔も確認。それは、今まさに向かおうとしている家の住人その人であった。

(あ! 良かったぁ、東先輩まだ残ってたんだ)

越花程ではないにせよ、地図で住所を確認する限り久野の家も結構な道程である。それだけに、金銭的不安を拭い切れなかったナミとしては、神に感謝する思いであった。

助かった、という安堵感と共に男子ボクシング部室へと向かうナミ。この時、すっかり気を抜いてしまっていたナミは、ドアをノックせずに直接中へと躍り出る。
そして、次の瞬間……

「ッッ~!!?」

完全に思考が凍りついてしまった。

久野は一緒にいた1人の男子……ボクシング部主将・桃生 誠の首筋に両腕を回し、今まさに彼の吐息のかかる距離まで顔を近付けようとしていたからである。

そう、それはちょうどキスを迫っているような。

突然の乱入に、部室内にいた久野と誠は慌てふためきながらバッと擦り寄せていた身体を離す。そして、

「え…えっと、違うのよこれは……って、なにも違わないのだけれど………じゃなくて! い、い、一体どうしたの? 下司、さん」

見ているナミの方が恥ずかしくなる程、久野は狼狽しながら言い訳を始めた。よほど恥ずかしかったのだろう。
よく見れば、誠がいかにもバツの悪そうな表情でそっぽを向いている。
いつもの毅然たる空手部主将の姿はそこになく、ただ顔を真っ赤に染め必死に言い訳をしては咬みまくっている、ただの女の子だけが1人騒いでいた。
世にも稀な久野の狼狽を前に、同じく狼狽えてしまったナミは素早くネックレスを手渡すや、「し、失礼しましたぁ!」と脱兎の如く部室から出て行ってしまった。

全力で走った事と禁断のプライベートを覗いてしまった事、2つが合わさりナミの心臓はバクバクと悲鳴を上げる。
女子ボクシング部室に駆け込み荷物を回収後、慌てて鍵を閉め職員室へと返すとまたも疾走し正門前までノンストップの全力疾走であった。

荒い息を吐き出しながら、呼吸を整えるべく深呼吸をひとつ。

(あーびっくりした。まさかあんな所であんな事してたなんて……アレってやっぱり………)

そこから先を想像し、またも頬が蒸気するのを感じたナミはとにかくも深呼吸を繰り返しながら帰路へと着く。

(そっかぁ。つき合ってたんだ、あの2人)

意外のような、でも妥当のような。ただ、当分の間は口外すまいと決意するナミであった。










 ナミが帰宅の徒に着いた、ちょうどその頃。用事があると急いで一足早く切り上げてきていた柊は、由起と共に羽翔大学の前まで来ていた。
柊の人生を転換する運命の闘いが、もうじき始まる……





to be continued……
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コメント

金髪イタリアンお嬢様とは思えない、防御を捨てた泥臭いパワーファイトがたまらなく素敵だわネ!
フルボッコされてからの大砲パンチによる超逆転劇が最高のカタルシスを感じるワ!
ホント良い娘よネ、アンナちゃんw

鬼東先輩の鬼デレシーン是非アニメや漫画で見たいほど可愛いすぎるわwww
そして柊ちゃんの試合もいよいよ!!
主役も脇役もホント目が離せないワ!!!

ボコボコの打ち合いからパワーで盤を引っくり返すような展開がアンナの持ち味と化してきてますから、そういって頂けるとありがたいですね。
久野も一応女の子らしさがあったって事でひとつ。こういうギャップもキャラ付けにはいいかと思います。
やっぱり脇も固めてこその主役だと思ってますので、これからもよろしくお願いします。
Secre

プロフィール

チャパロット

Author:チャパロット
基本的に携帯サイトで書かせて頂いているもののリメイク(?)ですが、ちょくちょく文を変更してたりします(あと拙いですが自作絵なども)。
何かある方は、ckcwb305あっとまーくsutv.zaq.ne.jpにご連絡下さい。

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