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第45話 【vs服根崎高校(上) 成長の跡】

 I・H編、第45話です。



自分を試したいという理由から、カスミとのスパーリングを承諾した柊。約束の刻が迫る中、光陵高校女子ボクシング部は服根崎高校との練習試合に臨もうとしていた。









 10月最初の日曜。服根崎高校との練習試合、その第1試合が始まろうとしていた。

青コーナーには光陵・桜 順子。
対する赤コーナーには服根崎・西岡 まなみ。

お互い、蒼白い視線を絡ませ合いながらセコンドにマウスピースを銜えさせられ……



カァァァンッ!



少し古い型のゴングが鳴ると同時に、両者はリング中央へと走り出した。順子とまなみの2人は、互いに右のオーソドックススタイルで向き合い、円を描くようにサークリングしながら主導権を握るべく左ジャブを放つ。
ガードを固めパンチを貰うまいと、必死に動く。そんな攻防が1分程続いた時、



ズンッ!



一瞬の隙を突いて、順子が右ストレートをまなみの腹へと突き立てていた。

「うッ」

鈍い衝撃が腹に伝わり、まなみは息を詰まらせる。ようやくクリーンヒットを決めた順子は、だが一気に雪崩れ込むような攻めはせずじわりじわりとジャブを起点に攻め立てた。

以前の順子なら、間違いなく突っ込んでいただろう。リーチの長くない順子は、いつも接近戦に望みを賭け突進する傾向にあった。
動きの鈍った相手にならその突進も効果が大きいかも知れないが、順子の場合はスタミナ充分の相手にも構わず突っ込むのである。
フックを主軸とした小回りの効く乱打は確かに順子の武器だが、使い所を間違えれば返り討ちに遭う可能性が高い。

現にI・H予選では使い所を誤り、まさに返り討ちに遭ったのだ。

順子は順子なりに、試合の組み立てというものを意識するようになったのだろう。それだけでも、大きな進歩だと感心するナミであった。



 第1Rは終始順子のペースで進み、続く第2R。ボディーブローを細かく当て、徐々にスタミナの削れた所でようやく順子は得意の乱打戦を仕掛けた。
腹を叩かれ続け呼吸の苦しくなったまなみに、順子の突進を防ぐ手立てなどない。あっさりと懐へ割り込まれるや、順子のショートフックの餌食となってしまった。
ガードの上からでも容赦なく打ちつけられる拳の痛みに、まなみの腕が痺れを伴う。肩も使って何とか被弾を最小限に抑えてはいるものの、反撃に移る程の隙も見出せなければ余裕もなかった。

レフェリーを務める服根崎高校の顧問が止めるべきか迷っている時、順子は不意に半歩バックステップで距離を開ける。
そして一瞬タメを作ったかと思うと、



ズジャッ!



鋭角的な弧を描く、右のロングフックを叩きつけた。

「ぶぇッ」

頬を抉る凶弾により、まなみは口から唾液を撒きつつキャンバスに尻もちを着く。見事なノックダウンであった。

その様子をベンチで見守っていたナミと柊は、お互いに顔を見合わせる。順子の放ったロングフック……その打ち方に、妙な違和感があったからだ。

「アイツ……今拳捻ってなかったか?」

「捻ってた……わよね。なに、コークスクリューの真似事でもしようっていうの!?」

2人の感じた違和感の正体……それは、インパクトの瞬間拳を捻る事で貫通力を倍化させる高等技術。コークスクリューブローの打ち方だったのである。
とはいえ打った時に身体がブレていたし、シャープさにも欠ける。ジャストミートに程遠い当たりでは、威力の程も知れているだろう。
だが、確かに1歩でも前へ進んでいこう、という意志を汲み取る事は出来た。


結局順子はフルラウンド優勢に試合を運び、大差のポイント勝ちとなった。まだまだディフェンスに穴があるのかよく殴られていたが、それに勝る数のパンチを浴びせていたので結果オーライといえよう。



 続いて第2試合、フライ級・都亀の出番となる。ロープを掴んでしきりに屈伸するその姿からは、一見して緊張感で固くなっている風は感じさせない。
だが、実は内心ガチガチに固まってしまっていた。それは、試合開始の立ち上がりで露骨に影響する結果となった。
試合開始のゴングが鳴り、挨拶を交わした途端相手選手……長浜 美保のワン・ツーをモロに貰ってしまい、背中からもんどり打ってしまったのである。

(あ……あれ?)

試合が始まり、挨拶を交わしたかと思えば顔に衝撃が来て、気付けば天井を見上げている。視界の正面には自分に向かって何度も手を振る男の人。
手を振る度、その指が数字を形作っているのか見て取れる。

都亀は、完全にパニックに陥っていた。ワーワーと雑音が酷く、それはパニックを助長させる効果があるようにも思える。

(え…なに? なに? どうしたの、ボク)

固定された風景の中で、男の人の腕だけが規則的に振り下ろされていく。呆然と天井を見上げる都亀の耳に伝わってくる音の塊の中、ある声が彼女の鼓膜を叩いた。

「立って、都亀! しっかりして!!」

それは、無二の親友の悲痛な叫び。中森 陽子が、青コーナーサイドから大声を発していたのである。
普段は物静かで、決してこのような大声を発するような娘じゃない……少なくとも、都亀の知り得る陽子はそういうイメージだった。

(そっか。ボク、ダウンしてるのか)

陽子の叫びで冷静さを取り戻した都亀は、ゆっくりと立ち上がる。カウント8までには余裕を持ってファイティングポーズを構え、続行の意思表示をしてみせた。

「ボックス!」

レフェリーの合図を受け、2人はリング中央を陣取りパンチの応酬を始める。元々バンタム級の体格だけあり、2階級下のフライ級の選手とジャブの刺し合いをした場合、リーチの長い都亀の方が有利。
出会い頭にワン・ツーを貰いダウンを喫した都亀だが、それ以後は相手に勝る長身を活かしての長距離戦を展開していった。



カァァァンッ!



第1R終了のゴングが鳴る。長身から繰り出される都亀のパンチは、美保にとって予想以上のプレッシャーだったらしい。
出鼻を挫かれた以外では、ほぼ互角に近い試合展開を見せていた。確かな都亀の成長を目の当たりにし、少しずつ湧き上がる光陵部員たち。
そんな中、数人かは都亀の動きに違和感を感じていた。遠くからリング内を観戦していたナミも、その1人である。

(う~ん、もっとガンガン踏み込める場面がいっぱいあったってのに。アウトボックスが目的……にしては中途半端だし、どうしたの? 杉山さん)

そう、都亀のファイトスタイルがどうにも中途半端なのだ。リーチを活かしてのアウトボクシングを狙うにしては、足が動いていない。
つまり、美保が強引に潜り込んできても退く事なく、被弾の確率の上がる中距離戦に付き合ってしまっているのだ。
これでは、到底アウトボクシングとは呼べない。しかも、中距離戦ではまだまだテクニックに難のある都亀だけに、リーチの差を加えても美保に分があるようにナミには思えた。
何かに躊躇しているような、或いは怯えているような、そんなもどかしさを都亀から感じるナミであった。



 第2Rが始まっても、都亀の動きは変わらない。遠距離で刺し合う分には都亀の有利に変わりないが、踏み込んで更なる攻勢に持ち込めそうな局面でも、どこか躊躇った風で消極的に見える。
それに、フットワークも妙にぎこちない。そこが気になったナミは、都亀の動きをつぶさに観察してみた。
すると……



スー…ズズッ!



時折、都亀が左足を僅かに引き摺るような素振りを見せたのである。

中学一年の時、左アキレス腱断裂というアクシデントにより当時打ち込んでいた陸上を諦め、大変なリハビリの結果現在では完治したとナミは聞く。
事実、練習の際にはそれを感じさせない動きを見せてもいたのだ。部のスパーリングに於いてさえ、左足を引き摺るなどといった場面は記憶にない。
もしや、アキレス腱の痛みが今になって再発したのでは? と危惧したその瞬間……



バシィンッ!



1発の殴打音と共に、都亀の身体が大きく後退していた。

「ぐはぅッ」

左頬に感じる確かな痛みに、都亀は2歩3歩と下がってしまう。一瞬の不意を突かれた形で、美保の右ストレートが突き刺さったのだ。
都亀の方も右ストレートを放っていたのだが、どうやら左のガードが下がってしまっていて、偶然ヒットしたらしい。
この1発で、危うい均衡を保っていた両者のバランスは美保の方へと一気に傾いていく事となる。



バンッ! ガスッ、バシッ、バシッ!!



アマチュアの、自分より下の階級の選手のものとは思えない、力強いパンチが都亀を押し込めていく。
遠くからチクチクとジャブであしらわれていた鬱憤が爆発したのか、それとも数少ないチャンスを絶対モノにしたいのか。
美保のパンチは、この際やや大振り気味なものになっていた。普通練習を積んだボクサーに、大振り気味なパンチはまず当たらない。
しかし、都亀はまだ経験も練習量も不足しており、ボクサーとしての練度は光陵部員中最も浅かったと言わざるを得ないだろう。
しかも、都亀はアキレス腱を断裂した時のトラウマを克服し切れずにいた。それが深層意識の中で『全力でダッシュしてはいけない』と、自身にリミッターを掛けてしまっていたのである。

美保のパンチの雨でコーナーを背負ってしまった都亀は、必死にガードを固め亀の如く上半身を丸める。そんな中、



ドスッ!



美保の右ボディーアッパーが、都亀の腹に深々と打ち込まれた。

「う゛ッ」

くぐもった声と共に肺の中の酸素が吐き出され、身体の中の力も一緒に抜ける感覚が全身を突き抜けていく。腕を上げているのも辛くなり、クンッと脱力し下げてしまった瞬間、



ゴッ!



左フックと思わしき、めちゃくちゃなフォームのパンチが都亀のアゴを横殴りした。一瞬アゴ先に鈍い衝撃が走り、都亀は棒立ちの状態になる。次いで、



ドォンッ!



その肢体は精神という見えざる支えを失い、重力に導かれるようにキャンバスへと崩れ落ちるのだった。










「…亀………ッ! ………り…て!!」

 上から、何か大きな声が自分を呼んでいる気がする。うるさいな、と思った途端、辺り一面の暗闇から一筋の光が差し込み……

「都亀ッ! 都亀ぃッ!!」

光の先に、必死に呼び掛けてくる淡い栗色の髪をした親友の姿が映し出された。

「よう、こ……?」

まだ若干ぼやける視界に映ったのは、紛れもなく親友のもの。だが、何故今自分を見下ろしているのか?
まだ試合中……そう思い周辺を見回すと、たった今まで闘っていた筈の美保がガッツポーズを作り相手方のセコンドと喜びを分かち合っている姿が視界の隅に入った。

「ダメよ都亀。あんまり頭を動かしちゃ」

陽子に窘められ、都亀は頭を固定されてしまう。

(ああ、負けたのか。ボク)

ひんやりとしたリングに寝そべっている事に気付き、彼女がそう理解するまでにさほど時間は要さなかった。
植木に幾つか質問され、それらを正常に答えると、処置を受け都亀は陽子、服根崎の部員と共に保健室へと向かっていった。
アゴ先を打たれ、軽い脳震盪を起こしてしまった為、念の為安静にするように……との指示であった。



 気を取り直し、続く第3試合はバンタム級の越花。今までとひと味違う所を見せると息巻く越花は、温和な彼女にしては珍しくバンッと両のグローブを大きく打ち鳴らす。
普段あまり見せない気合いの入りように、逆に空回りしなきゃいいけど、と心配してしまうナミであった。
それぞれ準備が整い、高い鐘の音と共に両者はリング中央へと進んでいった。

挨拶を交わし、越花と対戦相手……福永 ちはるはお互い右のオーソドックススタイルで様子を窺う。
越花の試合を見るのは、I・H予選が始まる前、入部を賭けて心とアンナが勝負する事になった際に乱入してきた時以来であろうか。
あれから2ヶ月、リング上で展開される彼女の動きは、なるほど言うだけの事はあった。
攻守のバランスが以前よりも安定している。
また、フェイントとジャブの織り交ぜ方もシャープなものになっていた。

男子ボクシング部員、前野 裕也との個人練習は着実にその成果を上げているようだ。



パンッ!



力強さは感じないものの、キレのある左ジャブがちはるの鼻っ柱に決まった。手数重視のアマチュアルールでは、例え威力がなかろうとナックルパート(グローブの白く塗られた部分)で当てればポイントになる。
プロとは違い、必ずしも相手を転がす必要などないのだ。

(足を使って一ヵ所に停滞しない)

左右のサイドステップで、ちはるのパンチを大きく外す。

(身体を振って、的を絞らせない)

ガードを固めたまま上体を絶えず振り、クリーンヒットを許さない。

(パンチを怖がら、ない)

ガード越しに伝わる重い衝撃。ちはるのパンチが強い証拠である。が、越花は目を背けない。勇気を奮い起こし、上体を振りつつグングンとちはるに迫っていく。



パンッ、パァンッ!



頭のかち合う一歩手前の距離まで詰めるや、越花の左ジャブが見事にちはるの顔面を叩いた。

(試合のペースを変えるにはまずジャブから!)

裕也に教えられた事1つひとつを、繰り返し頭の中で呟きながら越花は試合を有利に展開していく。それは、立派にボクサーの動きとなっていた。
ナミを始め、光陵部員たちのほぼ全員が越花のこの目覚ましい動きに唖然として声が出ない。

ただ1人、『鬼東』こと東 久野を除いて。今回、全体の指導に当たった久野は越花の成長も当然把握している。

パワーやスピードに目を見張るものは感じられないが、テクニック1つひとつに丁寧さと緻密さがあった。



 第1Rは越花が優勢に試合を運び、続く第2R。ちはるもただやられるばかりではない。越花の動きに対応し、上手く反撃する場面が目立ち始める。
流れは徐々にちはるの方へ変わろうとしていた。ちはるは主に越花の右のパンチに焦点を絞り、隙あらばとカウンターを狙ってくる。
当たりの浅いカウンターを何発か貰い、越花は少しずつ後退。遂にロープを背負う体勢となってしまった。
荒い呼吸を繰り返す中、越花は苦し紛れのように右のショートアッパーを放つ。虎視眈々と右を待っていたちはるは、それにカウンターを合わせるべく自身も右ストレートの体勢に入った。


タイミングはもう掴んである。後はこの右を振り抜けば、この相手はリングに沈む


ちはるは勝利を確信していた。次の瞬間、自分のアゴが跳ね上げられるまでは……



ゴッ!



鈍い衝撃がアゴを起点に全身を駆け巡り、天地がひっくり返った。訳も分からぬまま尻もちを着いたちはるは、ふと眼前の相手を見やる。
すると、そこには『右足を前に出し左拳を引いた状態で半身に構える』越花の姿。
いつ変わったのか、彼女は左構え……サウスポースタイルへと変貌を遂げていたのであった。



to be continued……
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コメント

キャアァァ!!越花チャン強いw
ナニ、このパワーアップ。
しばらく出ていなかった子がパワーアップって熱い展開、嫌いじゃないワ!
両手が利き手の伏線回収含めて、良い意味で少年漫画の王道っぽくてステキ!

コメントありがとうございます。しばらく出番のなかったキャラがやけにパワーアップして帰ってきた、なんてのはやっぱり好きなシチュエーションでして。ようやく越花の伏線も回収出来たので、安堵ですよ。
Secre

プロフィール

チャパロット

Author:チャパロット
基本的に携帯サイトで書かせて頂いているもののリメイク(?)ですが、ちょくちょく文を変更してたりします(あと拙いですが自作絵なども)。
何かある方は、ckcwb305あっとまーくsutv.zaq.ne.jpにご連絡下さい。

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