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第43話 【新たなる道標】

 I・H編、第43話です。随分と期間が空いてしまい申し訳ありませんでした。これからはなるべくペースを上げて行きたいと思いますので、よろしくお付き合い下さい。


I・Hが終わり、学生たちは二学期へと舞台を変えていく。練習試合へ向けてトレーニングに励む部員たちの中、ただ1人柊だけはこれ以上続ける事の意味を失いかけていた……










 夏のI・Hが終わり、学生たちの舞台は二学期へと移行。それぞれ思い思いの時間を過ごしていった。勿論、ナミら光陵女子ボクシング部の面々も例外ではなく、

「先輩。練習試合って、どことするんですか?」

10月初めに行うという練習試合へ向けて歩み出していた。

「服根崎(ふくねざき)高校よ。レベルは正直今ひとつなんだけど、だからって気は抜かないでね」

訊ねてきた順子に対し、由起が今度の相手校たる服根崎高校の大まかなデータを伝える。今回の練習試合は居残り組をメインで行うとの意向により、ナミと柊はメンバーから外されていた。
ナミは先の右瞼の負傷がある為スパーリングや試合の類は厳禁されているし、柊も輪島 凛との試合でKO負けを喫した以上仕方のない事だろう。

寧ろ、今回の練習試合は空手部主将兼女子ボクシング部員、東 久野による特訓の総仕上げ……といった意味合いが強い。
実際の所ナミとしても、皆の成長度合いが楽しみではあったのだ。

「ふっふっふ、今回の私は少し違うよぉ。なんてったって、あの“技”を実戦で使っていいって裕くんの許可をもらったんだから」

いきなり横合いから現れ、強気に豪語するのは越花。その自信を裏付けするかのように、両手を腰に当て胸を反らすその姿は、実に様になっておらず威厳の欠片も見出せなかった。

ちなみに裕くんとは同級生の男子ボクシング部員、前野 裕也(まえの ゆうや)の事である。ある事をきっかけに彼が越花に対し個人的なレッスンを施している、というのは今や周知の事実。
仮にも全国クラスの強豪校たる光陵男子ボクシング部員に名を連ねる裕也がようやく許可したという“技”、その存在は部員たちの興味を惹くに充分な効果があった。



 そんな輪の中へ、柊は今飛び込むのを躊躇していた。I・Hという目標を失い、ボクシングに対するモチベーションの下がった彼女には、女子ボクシング部員たちの輪がどこか遠いもののように思えたからである。
気の入り切らない、中途半端な気持ちのまま練習を続け、月日は流れていく。そして、服根崎との練習試合も間近に控えた9月の末。柊は1人、ある大学の正門の前に立っていた。


羽翔(うしょう)体育大学


柊の従兄妹、高桑 俊作(たかくわ しゅんさく)の在籍する大学である。今日、彼女はこの大学の体育館で行われるバスケットボールの練習試合の見学に誘われ、足を運んだのである。
俊作はこのバスケット部のエースで、柊も彼とその父親にバスケットを仕込まれた。柊をして『化け物』と言わしめるセンスは一級品で、早くも有名実業団からのスカウトが幾つか来ている程の実力を有していた。

「ふーん。結構人来てんだな」

館内を見回し、柊は1人ごちた。全国制覇の経験もある大学だけに、その実力は県内でも群を抜いていたし、人気のあるチームというのも頷ける。
ただ、やけに俊作への応援……しかも大半が女性の声……が多いのが、何となく気に入らなかった。

得体の知れない不満を抱きつつ、柊はなるべく人の密集していない端の方へ陣取る。雑多な人ごみの中を嫌う柊のこの行動はごく自然の流れであり、それが為に孤高の花一輪という構図を作ってしまう事に全く気付いていなかった。

各チーム共にアップしているのをぼんやり眺めていた柊は、「高頭さん?」と聞き覚えのある声に呼び掛けられた事で声の方へと振り向く。
前髪を押さえつけるように巻かれた布地のヘアバンドに、肩に掛からない程度に切り揃えられた後ろ髪を微かに揺らすその声の主を視認、柊は確認するように呟いた。

「大内山先輩?」

柊に声を掛けたのは、誰あろう光陵女子ボクシング部唯一の二年生、由起であった。意外な場所で意外な人物と邂逅した柊は、小首を傾げ「なんでこんな所に?」とストレートな疑問を投げ掛ける。
後輩の、その飾り気の欠片もない疑問に対し、由起は1人の女生徒と引き合わせる事で根本的な解決を提示してみせた。

「はじめまして。光陵高校二年、山本 未来(やまもと みらい)といいます。女子バスケット部に所属してます」

丁寧な挨拶からぺこりと頭を下げる少女に、柊も釣られて頭を下げる。


この山本という先輩には、どうやら周りを穏やかな空気で包む柔和さがあるらしい


それが、初見での未来に対する柊の認識であった。一学年だけ上とはとても思えない落ち着いた態度に、バスケット部というだけあってキュッと締まった肢体。
アンナや夕貴とはまた違った小さなポニーテールは、これがまた未来によく似合っている。由起を介して自分も軽く自己紹介した柊は、

「山本先輩も、やっぱこの試合目当てで?」

とこの場にいる理由を訊ねてみた。

「はい。わたし、高桑選手の大ファンでして……ですから、試合の時はいつもこうして観に来るんです」

周りの女性応援団に負けず劣らず、その目をキラキラさせながら未来は柊の問いに肯定する。

「ちなみに私は元々別件の用事だったんだけど、まだ時間があったから付き合いで、ね」

未来の隣で、聞いてもいないのに由起が連れ立っていた理由を告げる。どうやら、バスケットに興味があって来た訳ではないらしい。

そんなやり取りをしている内に、コートでは練習試合が開始されていた。最初のジャンプボールの時点から、羽翔大学チームは相手チームを圧倒。
何せ、“自称”190cmの俊作を差し置いて頭1つ抜き出ている巨人が、2人も配置されているのだ。個人力もさることながら、チーム力でも羽翔は相手チームより遥か上に位置している。

そんな中でも、俊作はよく動いた。オフェンス、ディフェンス、はたまた試合の組み立てに至るまで、どの局面にも彼は食い込んでくるのである。

(テクニックが群を抜いてるのは勿論だけど、なにより攻守の切り替えが抜群にうめえ!)

俊作の動きに飲み込まれるように、柊はその一挙手一投足に目を凝らす。そして、ふと思った。

(この切り替えの早さ、ボクシングにも応用……出来んじゃねーか?)

今まで自分がしてきた試合の数々を、覚えている限り脳内で再生してみる。どちらかといえばディフェンスに傾倒しており、積極的にオフェンスに出た事はあまりなかったように思う。
心情的には攻めに傾倒しているつもりなのだが……柊は、もはや目の前で行われている練習試合などそっちのけで模索を繰り返していた。


どうすれば積極的に攻めながらも、相手からの被弾を許さない闘い方が出来るか? そんな、ある種理想論に近いファイトスタイルを……










ビーーーーーーッ!



 試合終了のブザーが鳴り、コート内のプレイヤーたちはそれぞれの監督の下へと引き揚げていく。勝負は、107対44という大差で羽翔大学の勝利であった。
結局試合を殆ど観る事なく模索に没頭していた柊は、点差だけ分かれば何とでも話は合わせられると半ば諦め、その場を離れる事にした。

「高頭さん」

体育館を出て、1人帰ろうとする柊を由起が呼び止める。

「ん? なに、大内山先輩」

「貴女、これから暇? もしなにもやる事ないんだったら、少し付き合わない?」

珍しく由起が何事か誘いを掛けてきた事に少し戸惑いを覚えつつ、若干の思考の後了承した。



 柊は由起に連れられ羽翔大学のキャンパス内を歩く。ちょっと時間オーバーしたかも、と呟く由起が柊を連れ立って赴いた場所は、先程の体育館から程近い建物……ボクシング部の部室であった。

窓から中を覗くと、肌の白い1人の女性と男性がリング上でスパーリングをしているのが見える。
体格は柊とほぼ同程度。ヘッドギアの隙間から流れる髪の色は少しくすんだ金色をしており、海外の人のようだ。
留学生か何かかと見ていると、その女性が素速いスピードと威力のありそうなパンチを以て男性を圧倒、あっさりとキャンバスに沈めてしまった。
瞬殺、といって良かったかも知れない。

(なんだ!? アイツ……)

窓越しから、柊は白人の女性に対し驚愕していた。全てに於いてレベルが高く、強い。特にパンチスピードは桁違いに速かった。
中でも左右のストレートに至っては、柊の動態視力を以てしてもグラブの先がブレて完全には把握し切れなかった程。

窓越しに見る白人の女の子は次に控えた男性をリングに招き入れ、再びスパーリングを行おうとする。どんな立ち回りを見せてくれるのか……と注視していく中、

「良かったら中で見ない?」

2人の後ろから突然入室を催促する声があった。

「!?」

驚いた2人はすぐさま後ろへと振り向き、声を失ってしまう。

肩口程度で自然に揃えられた髪。キリッとした眉や強い光を宿す眼、スラリと伸びた鼻は顔の造形を損なう事なくそれぞれが美人であると主張しているかのよう。
微かに笑みを浮かべるその表情は、品性の中に悪戯好きな小悪魔の一面を覗かせるようで……そんな女性を眼前に見据え、由起は小さく呟いた。

「新田(にった)…祐希子(ゆきこ)選手……」

どこか上擦った声を出す由起に、祐希子はパァッと笑みを浮かべる。

新田 祐希子……プロボクシング女子ライト級・世界1位のプロボクサーで、『女子中量級で最も世界のベルトに近い』との呼び声高い実力者。
恐らく、日本で1番認知度の高い女子ボクサーと言っても過言ではないだろう。

17歳でプロデビューして以降、13戦13勝7KOと、未だ負け知らず。TVや雑誌などにも多数出演、その人為とキャラクターで一躍人気者となった、日本女子ボクシング界のカリスマともいわれる傑物。
そんな天上人ともいうべき祐希子にいきなり声を掛けられれば、上がるなという方が酷というものであろう。

「あ、あのッ……」

有名過ぎる人物を前に、さしもの由起も緊張の色が隠せないようだ。そんな先輩を尻目に、「部外者でもいいんですか?」といつもの素っ気ない口調で柊が訊ねた。

「勿論いいわよ。それに、全くの部外者って訳でもないし……ね、早弥香」

気後れする事なく自分を見る柊に笑顔を覗かせつつ、祐希子は後ろについていた女性に振り返る。そこには、柊と由起2人の見知った顔があった。

I・Hライト・フライ級準優勝者、“格闘令嬢”こと新堂 早弥香(しんどう さやか)である。

「はい、祐希子先輩。もしかすると、これこそ運命の導きと言うもの……なのかも知れませんねぇ」

ややもすると越花を超え兼ねない程の間延び口調で、柔らかい笑顔を湛え柊を見やる早弥香。一応年上だからと柊は軽く頭を下げると、

「まぁ! これはご丁寧にどうも~。そういえば、沖縄では挨拶が出来ませんでしたので、この場を以て改めて……新堂 早弥香と申します。以後お見知り置きを~」

ふかぶか~、と擬音でも聞こえてきそうなお辞儀と共に、早弥香の自己紹介が返ってきた。無論、柊がどこか鬱陶しそうにしていたのは言うまでもない。
せっかくだったら近くで見た方がいいでしょ? と急かされる形で部室へと雪崩れ込む4人。

「お待たせ。彼女の実力はどう?」

柊、由起、早弥香を適当なパイプ椅子に座らせ、祐希子は主将らしきスポーツ刈りの男にリング上の白人女性について色々と訊ねていく。

「新田先輩……いや、どうもこうもないですよ。ハッキリ言って、ウチの部員じゃ相手になりませんね」

お手上げのジェスチャーを取りつつ、主将は首を振った。



 それからもリング上では数人を相手にスパーリングを行い、白人女性は終始優勢を渡さなかった。スパーリングを終えリングから下りた所を、「カスミ!」と祐希子が呼びつける。
ヘッドギアを外した女性の肌は、白い中に赤みがさしている事から蒸気しているのが窺える。だが、殆ど殴られた形跡は見受けられなかった。

「紹介するわ。彼女はカスミ・アンダーソン。2年後のロンドンオリンピック、アメリカ代表候補よ」

祐希子に紹介された白人女性……カスミはショートに切り揃えた金色の髪を揺らしつつ会釈する。

「カスミ・アンダーソンでス。よろしくお願いシマス」

たどたどしい日本語で話すカスミ。

数年間沖縄に住んでいた事があるらしく、一応日本語を話せるのだという。カスミの会釈に合わせ、3人もそれぞれの挨拶を交わす。
挨拶の後、カスミは会話も程々にすぐさまロードワークへと出てしまった。それに合わせボクシング部も通常の練習へと入っていく。

どことなく下司に雰囲気が似てるな……と柊が考えていた所へ、祐希子が呼び掛けてきた。

「高頭さん、ちょっといいかしら?」

「なんですか?」

「実はね。こないだのI・Hの試合、現地で観させてもらってたのよ……貴女のも含めて」

「はぁ」

「ちょっと確認したい事があるの。決勝トーナメントの時、体調を崩してたんじゃない? 貴女……」

「ッ!?」

いきなりの質問に、柊は冷や汗をかく思いであった。顧問や主将、勘の鋭い隣のマネージャーにすら隠し通せた異変を、遠くから観ていただけのこの女性は見抜いていたからである。
今更知れた所で仕方ないと、柊はコクンと小さく頷く。やっぱり、と呟く祐希子はそれっきり暫くの間沈黙する。形の良いアゴに指を添えてうんうん唸っている辺り、何事かを思案しているようだ。
そして思案を終了したと同時に、この世界1位はイタズラを思いついた悪童の如き表情で、とんでもない提案を柊に突きつけてくるのだった。

「高頭さん、貴女の本調子の力が見たいの。と言う訳で、さっきのカスミと勝負してみる気……ない?」





to be continued……
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Author:チャパロット
基本的に携帯サイトで書かせて頂いているもののリメイク(?)ですが、ちょくちょく文を変更してたりします(あと拙いですが自作絵なども)。
何かある方は、ckcwb305あっとまーくsutv.zaq.ne.jpにご連絡下さい。

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