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第5話

 第5話です。

第1の目標である規定人数まで後半数となった、女子ボクシング部。ナミは更なる部員確保の為、他クラブからの引き抜きを画策。
その途中、キックボクシング部内でのやり取りに腹を立てたナミは、部員と勝負するという流れになっていく。




 妙な事になってきた、と思いながらも、ナミは逆にこれを利用してやろうと考えていた。
一方、釈然としない顔の順子はナミにグローブとヘッドギアを着けようと持ってくる。

「ねぇ、えっと……」

 ナミは眼前の少女をどう呼んでいいのか分からない、といった風な困惑の表情をする。

「順子よ。桜 順子(さくら じゅんこ)」

ナミの考えを読んだのか、名前を名乗る順子。

「わたしは下司(しもつかさ)ナミ。桜さん、悪いんだけど、バンテージとテーピング持ってない?」

ナミは自分も名乗ってから、先に必要な物を指定する。順子がバンテージを持ってくる。が、

「わ、私、その……あの……まだ」

恥ずかしそうな、また情けなさそうな、そんな赤面顔を見せながら口ごもる。そんな表情を目にし、なんとなく言いたい事が分かってしまったナミは、

「いいよ、自分で巻けるから。貸して」

と苦笑しながらバンテージを取り上げる。そして、慣れた手つきで両の拳にそれを巻き付けていった。

「あんた、一体……」

無駄のない鮮やかな手つきでバンテージを巻いていくナミを見て、順子は呟かずにはいられなかった。

「ん?ああ、こう見えてもわたし、ボクサーだから」



 一通りの準備を終えたナミは、あまりキチンと整備のされていないリングの上に上がった。元々トレーニングウェアも体操着も持ち合わせてはいなかったので、上下は制服のまま。靴下と靴は、一応キックのリングという事を考慮に入れて脱いだ。
普段はボクシングシューズを履く為に違和感は感じたものの、敢えて気にしない事にした。

「ねぇ、ひとつ賭けをしない?」

対角コーナーに踏ん反り返っている男子部員に対し、ナミはある提案を持ち出す。

「賭け?」

「そ。もしアンタが勝ったら、ちゃんと謝った上でわたしを好きにさせてあげる」

その言葉に、男子部員たちから軽い歓声が上がる。柊(しゅう)や越花(えつか)とまではいかないが、ナミも充分に美少女の範疇である。

「逆に、わたしが勝ったらあの2人をもらうわ!」

ナミはそう言い、順子と久美子(くみこ)をグローブで指した。

「ああ、いいぜ。万が一にもお前が勝ったらアイツらはやるよ。でも、もし俺に負けたら……分かってるよな?」

「誓うわ。奴隷でもなんでも好きにしなさい」



 賭けも成立し、両者とも自コーナーでゴングを待つ。

「下司……」

コーナーサイドに控える順子が、心配そうにナミを見つめていた。

「任せて。久美子さんのカタキは取ってあげるから」

ナミは軽口を叩きながらも、視線は順子ではなく相手の方に向けて離さない。その表情は、まさに“ボクサー”の顔であった。



カァァァンッ!



 自動設定されたゴングが部室内に鳴り響き、両者はコーナーを出る。
ナミは右構えのオーソドックススタイルを取り、相手との間合いを取る。そして、相手の蹴りが届くかどうか……という距離に詰めた瞬間、



ギュンッ!



身を屈め、姿勢を低く保ったまま僅か一足で相手の懐に潜り込んだ。

「なッ!?」

その場にいた誰もが驚きの声を上げる。予想以上に速い踏み込みで、相手の懐に飛び込む。相手は対応に遅れ、腹がガラ空きになっていた。

「フッ!」



ドスゥッ!



「ぐッ」

 女子とは思えない強烈なボディー打ちに、思わず呻き声が漏れる。ナミのボディーブローは正確に相手にヒットしたものの、さすがに男女差・体格差のせいで1発ではアゴを上げない。
ナミは打ち込んだ左を引き、もう一度同じ箇所に拳を叩きつけた。さらにもう1回拳を引く。

「がぁッ!」

さすがに3度も打たれてはマズいと考えたのか、右腕でガードの体勢を取る。が、



ズドォッ!



途中まで来ていた左がピタッ、と止まったかと思うと、今度は右のボディーアッパーが腹を打ち抜いていた。

「ぐえぇッ」

フェイントに掛かり、空いた鳩尾に右拳を打ち込まれては効かないハズはない。相手の膝がガクッ! と折れアゴをナミの前に曝け出す。ナミは右寄りにシフトし、渾身の右フックを放った。



グシャアッ!



 ナミの右フックが相手のアゴを完璧に打ち抜き、さらに無防備になった顔面にパンチを叩き込む。
右、左、右、左……休まる事のないナミのラッシュに、相手は逃げる事も出来ずにいた。
途中、ナミの顔に相手の返り血がポッ、ポッ、と数滴付着する。が、一向に気にした風もなくナミはラッシュを止めない。

 ナミのラッシュが始まって30秒もした頃、ようやく嵐は台風の目に入ったのか徐々に治まってきた。と同時に……



ドォンッ!



暴風に見舞われた男子部員は、鼻や口から血を出しながらその場で崩れ落ちていく。ナミはそんな無惨な姿を晒す相手を一瞥すると、ニュートラルコーナーへ向かい両腕をトップロープに預けカウントを待った。
顔に付いた返り血を拭う事もせずコーナーに控えるナミの姿を見て、誰もが息を呑んだ。そんな中、ややゆっくり目のカウントが数え上げられる
が、それが意味のない事は、もはや誰の目にも明らかであった。





「テン!」

 最後のカウントが読み上げられ、ゴングが鳴り響く。その瞬間、

「ふぅッ」

とナミは息を吐き、スカートを翻らせながら順子の下へ向かっていく。そして、

「いっちょ上がりっと!」

ナミは微笑みながら順子を見下ろすと、ヘッドギアとグローブを取ってくれるよう頼んだ。



 数十分後……対戦した男子部員は哀れにも失神させられ、急いで保健室に連れて行かれる事となりナミは無事報酬を手にキックボクシング部を後にするのだった。





 その後、予め決めておいた集合場所に向かうと、既に他のメンバーは全員待機していた。

「あ、下司さん」

アンナがナミの方に手を振る。

「遅ぇぞバカ」

柊は相変わらずの口の悪さでナミを迎える。越花はそれを聞いてクスクスと笑っていた。ちなみに、越花もアンナも柊の外見と口の悪さとのギャップに対してあまり気にしていないようだ。

(わたしがまだまだ未熟なだけ?)

ナミは思わず我を忘れた時の事を思い出し、何故か負けた気分になっていた。


 久美子と順子を引き連れたナミは、他のメンバーに2人を引き合わせた後、改めて自己紹介を始めた。
女子ボクシング部メンバーが一通り紹介を終えた後、今度は久美子と順子が自己紹介を始める。

「2-3の畑山(はたけやま) 久美子です。ついさっきまでキックボクシング部所属でした」

痣を残したままの顔で微笑みながら自己紹介をする久美子。上級生らしい、面倒見の良さそうな雰囲気が漂っている。先程よりはダメージが抜けてきたのだろう、足取りはしっかりしている。
が、まだ少しフラつく場面が多々見られ、それを心配したアンナは備え付けのベンチに座るよう勧め、久美子もそれに応じた。


「あたしは桜(さくら) 順子。1-5よ。久美子さんと同じくキックボクシング部に入ってたわ」

 一方の順子は素っ気なく自己紹介を済ませると、またすぐにそっぽを向いてしまった。協調性に欠けるのか、それとも単に恥ずかしがり屋なのか、判断のつきにくい態度である。

 自己紹介を終え、ここからナミは2人に対し本題へと入る。即ち、女子ボクシング部への勧誘であった。ナミとしては、不遇な扱いとはいえキックボクシング部に在籍していた実績を持つ2人を、是非とも獲得したい所である。が、強制を強いるつもりもなかった。
本来なら、賭けに勝ったナミの好きなように強制する事も可能なのかも知れない。が、実の所彼女らと賭けをした訳ではないし、物として扱うようなら、あのキックボクシング部の連中と何ら変わらないではないか。
それはナミの望む所ではないので、あくまで本人たちの意思で決めてもらおうと思ったのである。

 久美子はしばらく考えた末に、

「ご厄介になるわね」

と入部に承諾した。一方の順子も、

「仕方ないわね、あたしも入部するわよ。あんな事があった以上、もうキックボクシング部には戻れないだろうし」

腕を組みツンとした表情で入部をする。その順子の仕草に皆が苦笑する中、ナミはなんとか5人揃った事に安堵していた。
そんな中、「そういえば……」とアンナがふと思った疑問をナミに投げかける。

「下司さん、この2人とどういった経緯で知り合ったの?」

ナミと久美子、そして順子は互いの顔を見合い……お互いが知り合った詳細を話し始めた。朝会ってからから今に至るまでの経緯を一通り話すと、

「なるほど。うん大体分かったよ」

アンナは得心がいったようにコクココウと頷き、

「先輩もナミちゃんも大丈夫?」

越花は2人を心配し今更ながらオロオロし始め、

「バカかテメーは!」



パカーーンッ!



柊には頭をはたかれた。頭は痛かったが、今にして思えばかなり軽率な行動だったと思い率直に謝る。


「でも貴女本当に強いわね、下司さん」

 そんな中、男子部員との勝負を見ていた久美子は、その時の光景を思い出し頬を紅く蒸気させながらナミを賞賛する。

「ああ、あれは相手がわたしの事を舐めてくれたから上手くいったんですよ」

そう言うと、ナミはあの勝負の際の戦法について語り始めた。

 ナミが言うには、



1.相手は男であり自分との体格差もあった為、懐に潜り込む必要があった事
2.身体つきを見た限り、腹筋が弱そうに見えた為、ボディー打ちで崩そうと考えた事
3.相手が、キックの間合い外から一気に詰めてくる事を予測していないであろう事



以上の3点を主軸に戦法を立て、短期決戦を挑んだ結果なのだという。元々リーチで劣る上に、相手にはキック技がある。
スタミナや打たれ強さに多少の自信はあるとはいえ、ローキックを中心とした長期戦法を取られればキックに対する防御など詳しく知らないナミの敗北は確実だっただろう。
ならばいっそインファイトを仕掛けて間合いを殺し、ラッシュで一気に勝負する……そう考えたのである。
結果、相手はキック技を使う暇もなく、それどころか1発のパンチを放つ事も叶わずナミに倒される事となったのだ。

 解説を聞き、皆が感心している中、「やっぱり相手が舐めてくれたおかげね」と考えるナミであった。





 皆と学校で別れ、ナミは帰路に着くべく玄関のロッカーで上履きからスニーカーに履き替えていた。

(2日でもう5人揃ったのか……案外楽勝じゃない)

そんな事を考えながら1人で上機嫌になり、自然と顔が緩む。そんな折、

「下司」

と、息を弾ませながら話しかけてくる声があった。その声を聞いた途端、緩んでいた顔が一気に不機嫌そうに引き締まる。その様は、さながら顔芸でも見ているかのようであった。


「鉄平ぇ……」

 振り返ると、そこには体操着姿の我聞 鉄平(がもん てっぺい)が立っていた。走ってきたのか、肩で息をしている。そのアゴ先からは汗が滴り落ちていた。

「何か用? わたしもう帰るんだけど」

「ウチの主将がお前に用があるんだってさ」

鉄平は、流れる汗を体操着で拭き取るとナミに用件を伝え一緒に来るよう催促する。

「主将?」

オウム返しに聞き返すナミ。鉄平が入っているクラブと言えば、間違いなくボクシング部であろう。という事は……

「ああ。桃生(ものう)主将だよ」


 現在の光陵高校に於いて、ボクシング部主将の持つ権力は下手な教師より上である。元々I・H(インターハイ)の常連であり、創設以来の偉業の数々によって運動部内での格付けもダントツのトップ。しかも現主将である桃生 誠(まこと)は、一年の時にI・H全国ベスト4まで残った実績を持ち、また二年にして主将に抜擢された経歴を持つ。
しかも現生徒会長でもあるのだ。権力がない訳がなかった。

 植木(うえき)からも、女子ボクシング部の設立に対して一番の難敵はこの桃生であろう事を事前に言い含まれている。そんな相手がわざわざ指名してきたとあっては、無為に断る事は出来なかった。

「わかったわ。桃生先輩の所に連れてって」

ナミは承諾し、鉄平の後を付いていった。





 体育館の近くまで来ると、一際立派な建物があった。ドアの右横には、


『ボクシング部』


と書いた看板が立て掛けてある。鉄平に促され、足を踏み入れるナミ。そこには、十数人もの部員が各々無言で練習している空間が広がっていた。
練習している部員たちの邪魔にならないように注意しながら、部室の奥へと進む鉄平とナミ。そして、

「主将、下司を連れてきました」

鉄平はナミを桃生に引き合わせた。

「ご苦労だった。練習に戻れ」

桃生は一言そう言って鉄平を下がらせる。


「さて……」

 桃生が腰に手を当てた恰好でナミの方を見据える。自信から来る風格なのか、身に纏う空気が少し重い。それは、キックボクシング部員の啖呵に対して一歩も怖気づかなかったナミをして、思わず息を呑んでしまう程のものであった。

「ボクシング部主将、桃生だ。早速だが……」

尊大と感じる態度で自己紹介をし、

「植木先生から話は聞いている。貴様、女子ボクシング部などというものを作りたいそうだな」

険しい視線を向け、やはり尊大な態度で話しかけてくる。

「は、はい……」

普通なら初対面でこのような尊大な物言いをされれば文句のひとつも言う所なのだが、場所が場所だし、何より桃生の放つ妙な圧迫感がナミを萎縮させ歯切れの悪い返答をさせてしまっているのである。

「ダメ、ですか………?」

ナミとしては、そう恐る恐る聞き返すのが精一杯だった。


「駄目だな」

 桃生は威圧するように目を細め、即答していた。

「女がボクシングなど……我が校の品位が下がるだけだ」

言葉を続ける桃生。どう見ても偏見による侮辱以外の何物でもない。



カチンッ!



これにはさすがにナミも黙ってはいられなかった。

「それってどういう意味ですか? 女子がボクシングしたら何故品位が下がるんですか!?」

萎縮していた気持ちも、今となっては何処かへ吹き飛びナミは桃生に抗議する。

「分からんか? 我がボクシング部は昔から全国クラスの強豪校として名が知れている。もしお前たちが女子ボクシング部を設立したとして、大した成績を残せないようなら……その汚点は我ら男子部にも降りかかってくる。世間は別々には見てはくれんからな」

「う……」

桃生の言う事に反論出来ないナミ。確かに、女子部が無事出来たとしても良い成績を残せる保証はない。しかも、もし悪い評価を下されれば、それは『強豪校』としての評価へと繋がる恐れもある。
只の高校ならそこまで気にする事はないのだろうが、光陵は仮にも強豪校なのである。その風評は無視出来る物ではなかった。

 ナミは反論も出来ないまま、下を見続ける。

「どうやら分かったようだな。なら……」

その様子に理解を得られたと確信した桃生は、ナミに帰るよう促そうとする。が、

「良い成績を残せればいい訳ね? 桃生くん」

横から女の声が聞こえた。


「ッ!?」

 その声が聞こえた時、桃生の瞳が僅かに動揺の色を見せた事に果たして何人が気付けた事だろか。ナミは声の主の方に視線を向けてみた。
上下緋色のジャージを着込み、左の胸元には『光陵ボクシング部』と金の刺繍が施されている。山積みのスポーツタオルを両手に持ったまま、声の主は桃生に対して意地悪そうな笑みを向けた。


「大内山(おおうちやま)、何が言いたい?」

 動揺の色を浮かべたのはほんの一瞬だったらしく、普段通りの厳しい視線を大内山と呼ばれた女子に向けるのであった。




to be continued……
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Author:チャパロット
基本的に携帯サイトで書かせて頂いているもののリメイク(?)ですが、ちょくちょく文を変更してたりします(あと拙いですが自作絵なども)。
何かある方は、ckcwb305あっとまーくsutv.zaq.ne.jpにご連絡下さい。

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