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第38話 【I・H本戦(3) 雪菜、奮戦】

 I・H編、第38話です。いつも拍手コメントを頂けている方々、本当にありがとうございます! 大変励みになっております。この場で改めてお礼申し上げます。


柊がブロック代表を決めた頃、ライト・フライ級の別ブロックでは今まさに雪菜と早弥香が激突しようとしていた。新鋭の一年生と格闘令嬢、勝利を掴むのは果たしてどちらか?










ズシャアッ!



 雪菜の右フックが、早弥香のテンプルをヘッドギア越しから打ち付ける。当たりこそジャストミートとは言い難かったが、次へ繋ぐ分の足しにはなりそうだった。
その証拠に、打たれた早弥香の方はまだ完全に体勢を立て直すには至っていない。

(チャンス!)

拳をギュッと握り締め、雪菜は大きく息を吸い肺に酸素を溜め込むと一気呵成に早弥香へ突撃していった……



 I・H全国大会、ボクシング競技大会2日目。ライト・フライ級、Fブロック決勝戦は数ある試合の中でも注目を浴びる好カードとなった。

赤コーナー側、新鋭一年生ながら激戦区Fブロックを勝ち残ってきた福島県代表・葉月 雪菜(はづき せつな)
青コーナー側、“格闘令嬢”の異名を持つ優勝候補筆頭、京都府代表・新堂 早弥香(しんどう さやか)

両者の試合は1Rが終了、大方の予想を覆すような展開が繰り広げられている。即ち、雪菜の方が早弥香を圧していたのだ。

第1R開始から両者は隙を探り合い、又は誘うべくフェイントを仕掛けたりといった、静かだが激しい闘いを展開。
基本的に手の届くギリギリの位置をキープし、呼吸を合わせたかのようにお互い間合いを潰して数発打ち合ってはまた離れる、といった息の詰まる攻防が1分近く続いた。
そんな状況を打破したのは残り40秒を切った頃、雪菜の放った1発の右ストレートだった。

「シュッ」

口から空気の漏れる音と同時に、雪菜は左ジャブ2発から右ストレートを連続で放つ。ジャブを丁寧にブロッキングした早弥香は、続くストレートに対しサイドスウェーでかわしつつ同時にがら空きの腹に拳を叩きつけるプランを瞬時に立て、実行に移した。が、



バシィッ!



目測を誤ったのか、それとも想定外に鋭かったのか。どちらにせよ、早弥香のプランは崩れ去り雪菜は思わぬ好機を手中に収める事となった。
この流れをみすみす不意にしてしまうような、甘い判断しか出来ないようではこの強敵に勝つなど到底不可能だろう。その点に関して、雪菜は見事に及第点をクリアしたと言っていい。
攻守の分かれ目に上手く乗っかり、雪菜は残り時間を優位に攻め続けたのであった。

「いい感じだったぞ、葉月」

セコンドに就いている中年男性が、握り拳を作り雪菜を褒める。このまま圧せれば勝てるかも知れんぞ! と年甲斐もなく息巻いていた。
優勝候補筆頭に対して、一年生がまさかの優位を見せているのだ。仕方のない事かも知れない。だが、そんなセコンドのはしゃぎようと打って変わって、当の雪菜はただ無言で頷くのみ。

とてもはしゃぐ気分ではなかった。

(倒しにいったつもり、なんだけどなぁ……ストップどころかダウン1つも奪えなかった。やっぱり強いや)

隙あらば渾身の一撃を喰らわせ、一気に決着をつけるつもりでいた。様子見などとは無縁、全身全霊のラッシュである。県予選なら……いや、並の代表選手程度なら間違いなくRSCも狙えたと思う。
それが叶わないまでも、ダウンは必至だった筈だ。だが、レフェリーストップもダウンも奪えなかった。雪菜にとって、これは相手の実力を認めると同時にプライドをも傷つけられる結果となった。

一方青コーナーでは、早弥香が深呼吸を繰り返しながら雪菜の攻めに感心しきりであった。

(あの娘、まだ一年生ですのに……凄いラッシュでした。わたくし、なんて幸運なのかしら!)

あんな強くてまだまだ先のある選手と手合わせ出来るなんて、と興奮に身体を微かに震わせる。セコンドも、じっくり見れば早弥香の眼がキラキラと輝いていた事に気付いたかも知れない。
“格闘令嬢”という二つ名、それは格闘センスの比喩だけで名付けられた訳ではない。彼女の闘い対する姿勢・捉え方をして付けられた異名。
光陵高校のイタリアンハーフ、城之内 アンナと同じく、彼女もまたバトルジャンキーなのであった。

「早ぁ弥、そろそろ……」

友人と思わしきセコンドの女子部員からマウスピースを差し出され、早弥香の意識は次第に現実へと引き戻されていく。

「あ、はい。出し惜しみはなしです。次から全力で倒しにいきます」

口調はあくまで穏やかに、だがその双眸に宿す光は冷徹なまでに研ぎ澄まされていた。



カァァァァンッ!



 第2Rが開始される。1Rでの優勢の勢いを駆って攻める雪菜は、だが早々に流れはもう変わってしまった事を悟らされてしまった。
皮肉にも、雪菜が第1Rで流れを掴んだパンチ……早弥香の放った1発の右ストレートによって。



ズギャッ!



肩を入れ込んで、肘から先を固定し捻りを加えたパンチ……コークスクリューブローである。貫通力の倍加した必殺ブローが、雪菜の左頬を完璧に打ち抜く。

「ぶはぁッ」

強烈な威力と、今まで受けた事のない衝撃が顔面を通して全身へと伝播されていった。汗と唾液を撒き散らし、体勢を崩しながらも雪菜は寸での所でダウンだけは免れる。
それは偏(ひとえ)に、アマチュアグローブとヘッドギアによる防護の賜物であった。

刹那の隙を突いたこの1発に、よほどの自信と手応えがあったのだろう。ダウンを確信していたその顔が一瞬凍り付き……次の瞬間には普段通りの表情へと早変わりする。
一年生といえど、眼前の少女は県の代表をその拳で勝ち取った、まさしくボクサーなのだ。自分も出し惜しみはしないと決めた以上、この程度で狼狽えるなどあってはならない。


全力で倒す! 立てなくなるまで殴り続ける!!


早弥香はまだ体勢の整っていない雪菜へ一気に詰め、容赦の欠片もない追撃を開始した。矢継ぎ早に繰り出される早弥香のパンチの雨を、雪菜は辛うじてガードで凌ぐ。
が、このままではレフェリーのダウン宣告が入る事だろう。そうなれば、流れは完全に早弥香に傾いてしまう。
2Rに入ってまだ中盤に差し掛かったばかり。優に1分以上も残っている今、早弥香に流れを持っていかれるのは非常にまずい。
耐え凌げる自信は、雪菜にはなかった。雪菜は攻めのボクサーであり、守りには適さないと自分でも分かっていたからだ。

「くッ」

徐々に圧力に押し込まれ気付けばロープを背負う形となっていたが、雪菜は冷静にディフェンスしつつ反撃のパンチを返していく。



ビシッ、バンッ! ガスッ、ドスゥッ!!



ロープ際での激しい打撃戦が展開される。早弥香の左フックが雪菜の顔を揺らし、お返しとばかり雪菜の右ボディーアッパーが早弥香の鳩尾を突き上げる。
逃げ場を潰された雪菜が死中に活を見出すには、早弥香を退かせるしかない。一方の早弥香も、全力で倒しにいくとの宣言通り、ただひたすらに拳を振るう。
アマチュアの試合には珍しい構図だが、2人の心情から言えばむしろ必然の展開といえた。

「ハァ、ハァ……」

早弥香の攻勢に堪らず、クリンチで場を凌ぐ雪菜。振り解こうと身体をよじらせ、時折脇腹にフックを叩き込む早弥香に対し、雪菜は苦しそうな息遣い。
パンチを返してはいたものの、やはりロープ際に詰められてからの連打に晒されたのは痛恨の極みであった。殴打とプレッシャー、その2つが雪菜のスタミナをガリガリと削っていたのだ。

残り20秒を切り、苦し紛れにクリンチで逃れた雪菜の重みと体温を感じながら、早弥香はある事に気がつく。

(脚が震えてる……? 予想以上に効いてるみたい。でしたら!)

やや時間をおいて、レフェリーは2人を離した後試合の再開を促す。

「ボックス!」

その掛け声が掛かるや、早弥香は今までの上品なボクシングスタイルから一転。雪菜を肩で再びロープ際へと押し込んだ。クリンチの際に見た脚の震え……それをダメージとスタミナの消耗からくる痙攣と睨んだ早弥香は、ラフスタイルへと変えたのである。
元々、早弥香はフルコンタクト系空手の出身であり、中学日本一の実績を持つ。荒々しいスタイルは、むしろ彼女の本領発揮といえるだろう。

「ぐッ」

いきなり胸元に肩を押し込まれた衝撃で、雪菜はくぐもった呻き声を出してしまう。押し返したかったが、脚がどうにも上手く動かず為すがままロープ際へと逆戻りしてしまった。
再び追い込まれ、逃げ場のない上今度は脚も上手く機能しない。

(やばいや~。とにかくこのラウンドを凌がないと……)

う~、と小さく唸りながら雪菜は残り10数秒間の猛打を耐え抜くべく、ガッチリとガードを固める。残ったスタミナを全て吐き出す覚悟をも共に固めて。
スゥ、と息を吸い呼吸を整えると、早弥香は一気呵成に両の拳を手負いの対戦者へ叩き込み始めた。ガード越しだろうがお構いなしに打ち込まれていくその連打は、さながら散弾銃の如し。

「ぐッ、くぅ! うぅ~ッ」

途切れる事なく打ち込まれるパンチの雨は、またも雪菜を容赦なく削る。クリンチで逃れる前と全く同じ構図。少なくとも傍目にはそう映った事だろう。
だが、その暴風雨に晒されている当の雪菜本人には、今自分を痛めつけるこのラッシュが決して傍目通りなどではない事を理解していた。
繰り出されるパンチのスピードが、1.5倍ぐらいには速くなっている。ガードした腕や被弾した腹などに伝わってくる衝撃が、段違いに重い。

手数こそ大きな変化はないが、1発1発のパンチそれ自体に籠められた力と決意は、予想を上回る速度で雪菜を粉砕しに掛かっていた。


次のラウンドまで回さない。ここで倒し切る!


早弥香のパンチと表情が、聴覚に触れない言葉となってそう伝えてくるかのように、雪菜には思えた。



ドスゥッ!



「うぐッ」

右ボディーストレートをど真ん中に貰い、雪菜の口から呻き声が漏れプクッと頬を膨らませる。胃の辺りを押し潰されるような感触が、雪菜に更なる吐き気を催させた。
その後も数発に渡って腹を打たれ、遂に……



ズドォッ!



強烈なボディーアッパーを受けた雪菜は、その拍子に唾液と逆流してきた若干の胃液を吐き散らし、そしてそれらを纏ったマウスピースが半ばはみ出してしまった。

「ごぶぁッ」

くの字に折り曲げる身体が、ダメージの程を否応なく周囲に伝えてしまう。痛みと苦しさにより滲み出た涙のせいで視界が歪む中、正面を向くと早弥香の姿がなく……



ズギャアッ!



次の瞬間、雪菜の顔面に『下から突き上げられた』右ストレートが突き立っていた。ぶぎゅッ! と声にならない声を上げた雪菜は、打ち上げられた衝撃に抗う事なく身体を弓なりにしならせていく。
ロープに凭れ掛からなければリング下に落下したのではないか? と言わんばかりに反り返り、汗や唾液、マウスピースなどが舞い上がる。
伸び上がったまま腕がだらんと力なく垂れ下がった時、

「ストーップ!」

レフェリーが身体を割り込ませた。



カンカンカンカンカンカーン!



崩れ落ちそうになる雪菜を必死に抱き留め、レフェリーの右腕だけがせわしなく頭上で振られる。まだ辛うじて意識を保っていた雪菜は、誰かに抱きかかえられている感触の中、微かに耳へ届く鐘の音を聞き、

(ああ…終わっ、た………)

自分が敗北した事を理解し、そのまま意識の保持を放棄。急速にブラックアウトしていくのだった。





「ん……んぅ…?」

 額と頚椎にひんやりとした感触を覚え、雪菜はゆっくりと目を覚ます。目線の先に眩いばかりの照明を捉えている事から察するに、どうやら横たえられているらしい。
まだ重い頭を、続けて身体を持ち上げると額からタオルが零れ落ち、腹の辺りに乗った。

「葉月選手、動けますか?」

紳士然とした態度と口調でレフェリーが雪菜に容態を確認すると、

「あ、はい。大丈夫、です……多分」

頭を軽く振り意識を覚醒させつつゆっくり立ち上がる。まだ僅かに脚が震えているものの、歩く分には問題なさそうだ。1度赤コーナーへ戻りセコンドと2、3言葉を交わすと、雪菜はまだふらつく足取りでリング中央へと向かっていく。

「ただ今の試合、2R1:59、青コーナー……新堂選手のRSC勝ちとなりました」

アナウンスが試合結果を告げ、バッ! と早弥香の右腕が掲げられた瞬間、観客席から拍手喝采が湧き起こる。雪菜も早弥香に拍手を送りながら、内心別な事を考えていた。

(あと2秒で2R終わってたのかぁ……もったいない事しちゃったなぁ。あーあ、高頭さんと勝負してみたかったなぁ)

喧騒に包まれたリング上で物思いに耽っていた所へ、「葉月さん」とつい今し方まで激しく殴り合った相手、Fブロック代表となった早弥香が声を掛けてきた。

「え? っと、はい?」

急に呼び掛けられた雪菜は、本人なりに慌てた様子で早弥香へと向き直す。

「良い……本当に楽しい勝負でした。ありがとうございました」

ふかぶか~、という擬音でも聞こえてきそうな、上品で深い会釈。育ちの良さを感じさせる早弥香の挨拶といった所か。

「あ、いえ、私こそ勉強になりました。決勝トーナメント、頑張って下さい」

礼儀正しい早弥香の態度に敗北の悔しさも忘れ、雪菜はバンテージを巻いたままの右手を差し出す。気付けば、自然と手を差し出していた。
頭を上げた早弥香はニッコリと可愛らしい笑顔を覗かせ、柔らかく右手を握り返す。「はい、頑張りますね!」と屈託のない表情で答え、2人はそれぞれのコーナーへと引き返していく。
その途中、まだ微妙にふらついていた雪菜に早弥香が肩を貸す、という一面などがありFブロック決勝戦は幕を閉じた。



 好勝負を経て強敵は去り、更なる強敵が決勝トーナメントへと歩を進める。それは、これまで以上の激闘を予感させるに足る面子の集結を意味していた。
ナミ、柊、共にここからが本当の正念場といえた。




to be continued……
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Author:チャパロット
基本的に携帯サイトで書かせて頂いているもののリメイク(?)ですが、ちょくちょく文を変更してたりします(あと拙いですが自作絵なども)。
何かある方は、ckcwb305あっとまーくsutv.zaq.ne.jpにご連絡下さい。

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