スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

第37話 【I・H本戦(2) 情勢】

 I・H編、第37話です。


I・H全国大会、ブロック1回戦。柊が無事に突破した中、ナミは優勝候補の一角とされる尾崎 玻璃子と対戦。開始直後の奇襲が功を奏し、打ち合いに持ち込む事に成功。そして、会心の1RKOをもぎ取るのだった。










「フライ級・Eブロック第1試合……1R1:58、青コーナー下司選手のRSC勝ちとなりました」

 I・H全国大会、光陵高校はライト・フライ級の高頭 柊に続き、フライ級の下司 ナミも2回戦へとコマを進めた。
尚、2発連続で強烈なカウンターを喰らい前のめりに倒れた初戦の相手、優勝候補の一角と挙げられていた尾崎 玻璃子(おざき はりこ)はウン後完全に失神状態に陥ってしまうというアクシデント。
その後3分程度で意識は戻ったものの、激しく脳を揺らされているかも知れないと担架に乗せられリングを後にする。勝ったのは凄く嬉しいのだが、やはり何度体験してもこういう後味の悪さには慣れる事はないな……とナミは思うのだった。

控え室へと戻り由起に処置を受ける間、あちこちで他の試合結果が話されているのを耳にした。というよりは、勝手に耳に入ってきたというべきだろうか。

まず、ライト・フライ級Bブロックの加藤 夕貴も無事1回戦を突破。他にも優勝候補として名を挙げられていた選手たちは軒並み全員が2回戦進出を決めていた。
一方フライ級では、同じく優勝候補だった玻璃子がまさかの初戦落ちという波乱に、多少なりとざわついているらしい。そして、その玻璃子を破ったナミに特にマークが入った事まで聞こえてきていた。

「一気に有名人だな、下司」

そんな話が流れる中、柊は茶化すようにナミへと話しかける。

「……元々下司さんの名前は全国区だよ? 柊ちゃん」

茶化す柊の後ろから突如割り込む声があった為、一同は一斉に発信源へ振り向く。そこには、一同にとって見知った姿が立っていた。

「加藤さん!」

柊以外の全員から呼ばれ、少女……加藤 夕貴は笑みを浮かべながら頭を下げた。

「お前、こっちの控え室だったのかよ」

再会の挨拶も適当に、柊は面倒なヤツが来たと顔で表現しながら夕貴の方を見る。

「うん、あたしも青コーナー側だからね。お久しぶりです、皆さん」

ナミらと同じく大会用のユニフォームを着ている夕貴は、改めて軽く会釈を交わす。1回戦で負傷したのだろうか、その左瞼には絆創膏が貼られていた。

「1回戦突破、おめでとう。下司さん」

「アンタもね。それにしても……」

祝福の言葉を素直に受けつつ、ナミの視線はある一部分へと注がれる。

「………また大きくなったんじゃない? ソレ……」

「ッ!?」

視線の到達点、平均を遥か上回った2つの膨らみに夕貴は慌ててバッと両腕で隠す。

「な、なに言ってるんですか!? そんなすぐに大きくなる訳ないって!!」

顔を紅くしながら夕貴はナミを睨む。胸が大きい事に、どうやら相当コンプレックスを持っているようだ。なに食べたらそんなエロボディに育つのかしらと捨て台詞を吐き、ナミは近くに置いてあったスポーツドリンクのキャップを開け一口つける。

夕貴はナミとの会話を一旦切り、長椅子に座っている柊の方へ目線を切り替えた。

「こないだの合宿のスパー……あれは完全にあたしの負けだった。でも、負けっぱなしは嫌だから、この大会で借りを返したいの。だから、勝ち上がってきてね」

言い方こそ柔らかいものだったが、これは明らかな柊への挑戦状だった。そこに、幼馴染みとしての感傷はない。1人のボクサーとしての感情……柊にリベンジしたいというものだけがひしひしと伝わってきた。

「残れるかどうかは分かんねーけど、やるだけはやるさ。負けるのキライだし」

あとお前にもな、と夕貴の放つプレッシャーを真っ向に浴びつつ怯んだ様子を見せない柊は、強気の表情で夕貴の挑戦状を受け止めるのだった。


次に闘う事になっても負けねーよ


そういう、必勝の気概であった。



 あまり長話も良くないとの事で夕貴が引き揚げると、次の出番が回ってくるまでの間ナミは大人しく由起の資料に目を通し、柊は引き続き横になっていた。
暫くして柊に係員から呼び出しが掛かる。

「さて、と。んじゃ行ってくるか」

グズる鼻を拭い、柊は長椅子から立ち上がると植木らと共に控え室から出ていく。1人取り残されたナミは、柊の勝利を祈りながらも再び資料へと目を通そうとする。その時、

「貴女が下司さん?」

と声を掛けてくる者があった。

そちらを見やると、覗き込むように少し前屈みの体勢でこちらを見ており、すぐに解けそうな簡単なアップで髪を纏めてある。試合用のユニフォームを着ている所を見ると、どうやら大会の選手のようだ。
ナミに向けられた柔和そうな表情は、この場合余裕の現れのように見えた。その余裕・自信を裏打ちするかの如く、眼前に立つ女性(少女というには大人びて見える)から感じるプレッシャーは相当にキツい。

「そうですけど……」

どちら様? と訊ねようとした矢先、左胸の辺りに『桔梗学院』の刺繍が視界に飛び込む。この学校名を見て、この女性が誰であるのかナミは瞬時に悟った。

「明智(あけち)……奈々子(ななこ)…さん」

確かめるような口調で呟いたナミに、女性……明智 奈々子は「はい」と満面の笑みで返答。それは、自分の事を知ってくれていた事に対する笑みであるかのよう。
去年の高校三冠、そして今年もフライ級の優勝候補筆頭に挙げられている超有名人。その彼女が、自分に一体何の用があるのか分からなかったので、ナミは素直に「なにかご用ですか?」と若干敵意を込めて訊ねた。


ナミとしては、彼女と仲良くするつもりなど毛頭ない。少なくとも大会が終わるまでの間は、敵の1人でしかないのだ。


そんな真意を知ってか知らずか、奈々子は相変わらず笑みを浮かべたまま

「尾崎さんを倒したという一年生に興味が沸いたから見にきたの」

と来訪の目的を伝えた。

「興味、ですか?」

「そう、興味。一年生なのに大したものね。尾崎さんを1Rで失神KOなんだもの」

そう話す奈々子の目は、爛々と輝いている。そこに探りや杭を打ちに来た、といった打算的なものは感じられない。どうやら本当に興味、ただ一点で来ただけのように思えた。

「どうも。相手、わたしの事を格下と舐めてかかったのが運の尽きだったんですよ」

ここで謙虚な事を言って奈々子に余計な警戒心を抱かせたくないと考えたナミは、努めて尊大な言い方をしてみせる。


わたしの実力を甘く見てたから足元を掬われたのよ


光陵高校男子ボクシング部主将、桃生 誠の口調をイメージしナミは尊大な物言いで話す。『所詮は調子に乗った一年坊か』と油断を誘う為の、これはナミなりの策であった。が、

「そうね。尾崎さんの油断がなければ、あんな鮮やかなKOタイムは無理だったでしょうね。でも、その油断……つまり隙を上手く突いて結果を残

したのは、れっきとした貴女の実力よ」

奈々子は、ナミの拙くも尊大な物言いに何ら動じた様子もなく淡々と同意する。まるで、油断した玻璃子が間抜けなのよ……そうバッサリ切り捨てたかのような感想だった。

「今年の一年生は強い娘らが多くて本当に楽しみ。特に貴女は気に入っちゃった。ふふ、この大会でグローブを交えられたらいいわね」

玻璃子への嘲笑の時に見せた、失望とも哀れみともつかない冷ややかな表情から一変、奈々子はまたも好奇心旺盛な子供のような笑顔でナミに伝える。
そして、ナミの返答を待たずして「それじゃあ、また会いましょうね」とだけ告げ、さっさといなくなってしまった。残されたナミは、まるで嵐が通り過ぎた後の薙ぎ倒された木々でも見るかのように、つい今まで奈々子のいた場所を呆け顔で眺め続ける。

「な……なんだったのよ、あれ………」



 その後、2回戦もしっかり勝って帰ってきた柊に続かんとナミも意気込んで試合に臨む。奈々子の事を思い出すと無性に腹が立ったので、それを忘れるかのように。或いは腹立ちをぶつけるかのように手を出しまくる。


「ストォップ!!」



カンカンカンカンカンカーン!



気付けば、試合はもう終わっていた。対戦相手だった少女は、だらんと両腕を下げお尻を3段目のロープに乗せる形で、力なくロープへ身体を凭れ掛からせている。
その顔は下を俯き、汗や唾液、血などがキャンバスに落ちていくのをつぶさに見ているかのよう。そして、そんな状態の彼女を護るかのように身体を割り込ませているレフェリーが、しきりに両腕を頭上で交差していた。

「あれ…勝っちゃっ、た?」

気付かぬ内に2回戦っを突破していたナミは、続く3回戦も無難にクリア(勿論柊も)し1日目は無事終了。ライト・フライ級、フライ級共に優勝候補たち全員が問題なく勝ち残り、夕貴や葉月 雪菜もしっかり残ったらしい。

因みに、桃生も1日目は難なく突破したようだった。

「当然だ。お前たちと一緒にするな」

偶然夕食を共にした時、桃生は相変わらずの尊大さでそう言い放つ。ただ、どこかナミや柊に対して以前の冷たさは消えているように見えた。



 翌日。この日で、各ブロックの代表が決まる。A~Hブロック、計8名による決勝トーナメントを行う為に、今日の試合は絶対に落とす訳にはいかない。
ただ、1日目を勝ち抜いてきただけあって対戦相手も厳選された実力者ばかりで、更なる激戦が予想された。そういう意味で言えば、柊はクジ運が良かったらしく、ブロック内で優勝候補と当たる事はない。
ナミも初戦の尾崎 玻璃子以外は大した強敵もおらず、本来の実力が出せれば負ける可能性の極めて低い相手ばかりであった。

一方で、この2日目で大きな山場を迎える者もいた。


ライト・フライ級福島県代表・葉月 雪菜である。


光陵女子ボクシング部員、葉月 越花の従姉妹である彼女は、ブロック決勝に於いて優勝候補の筆頭である新堂 早弥香(しんどう さやか)とぶつかるのだ。
まだ一年生の雪菜にとって、試金石ともいうべき試合となるのは確実といえよう。

「正直、厳しいんじゃないかしら?」

というのは、データ集めをしていた由起の言。“格闘令嬢”の二つ名は、やはり伊達ではないらしい。

「ただ、葉月さんって下司さんと非常に酷似したファイトスタイルなの。だから、上手くラッシュにさえ持ち込めれば……」

勝機もあるかもね、と分析を交えて詳しく試合の予想を立ててくれた。

「随分詳しいな、センパイ。もしかしてアイツが葉月の従姉妹だって事、実は最初っから知ってたんじゃ……?」

それだけデータが揃っているなら、雪菜に関する詳細を予め把握していたとしても何らおかしくはない。柊の疑問に対するその答えは、わざとらしくそっぽを向いてみせた事で全員が悟る結果を招いた。


こいつは確信犯だ


と。



 2日目の試合も順調に勝ち残り、光陵の一年生コンビは見事ブロック代表の座を掴み取った。が、手放しで喜ぶには少々引っ掛かる部分もある。
柊の動きに、1日目のキレが……遡っては県予選の時に見せた動きと比べて鈍っているように、植木や由起には映ったのだ。とはいえ、パンチも良く当てているし被弾も数発程度。全国大会にしては見事過ぎる健闘ぶりといっていい。
普通に見ているだけなら気にも留めない程度の、反応の遅れ。だが、もっと早く決められたと思われる場面でらしくないミスを犯し、結果として長引いた試合は確かにあった。

柊の不調を感じた時、真っ先に思い浮かべるのは知念 心の一言。


スランプになったら、とか考えなかったのか?


必要以上に気にし過ぎだと分かってはいるのだが、負い目として残る限り払拭は出来ないと思う植木であった。

「高頭。お前、調子の悪い所はないか?」

ブロック決勝を終え控え室に戻った際、植木は思い切って本人に確認してみる。ただの杞憂ならば言う事は何もない。だが、もしどこか悪くしているのであれば、顧問の責任としてこれ以上の出場は考えなければならなかった。

「別に。なんともねーよ」

そんな植木の気持ちなどどこ吹く風の柊は、いつも通りサラッと流す。

「そうか? ちょっと動きが鈍いように見えたんだが」

柊に回りくどい言い回しは無意味と、単刀直入に訊ねてみた。

「そう? だったら相手が強えーんだな、きっと。まぁほら、全国の代表と闘ってるんだぜ? 予選や新人戦のようにはいかねーって」

植木の言葉に、柊はこれまたあっけらかんと答えてみせる。確かに理には叶っている。全国の強豪が集まるこの大会、県内の闘いとはレベルが違う。
まして相手は基本的に上級生ばかりなのだ。幾ら柊が天才的なセンスを秘めていようと、一筋縄でいかないのは当然の成り行きというべきなのかも知れない。

「そうか……お前がそう言うなら、俺はもうなにも言わん」

こうなっては、植木としてもこれ以上の追及を断念せざるを得ない。後は何事もない事を祈るばかりであった。



 柊が決勝トーナメントへとコマを進めた一方、葉月 雪菜は今まさにブロック決勝のリングへとその身を降臨させる。
決勝トーナメントへと進む為、最大の障害となる新堂 早弥香に勝つべく雪菜は気合いを両の拳に乗せ、思い切り打ち合わせるのだった。





to be continued……
スポンサーサイト

コメント

Secre

プロフィール

チャパロット

Author:チャパロット
基本的に携帯サイトで書かせて頂いているもののリメイク(?)ですが、ちょくちょく文を変更してたりします(あと拙いですが自作絵なども)。
何かある方は、ckcwb305あっとまーくsutv.zaq.ne.jpにご連絡下さい。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。