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第35話 【雪菜、現る】

 I・H編、第35話です。この辺りからキャラクターがかなり増えます(名前だけ)が、あまり気にせずのんびり読んで頂けたら幸いです。
ちなみに、当世界観ではルール等一部(女子の試合時間1R=2分、胸打ち禁止等)を除き、男子基準で進めております。ご了承ください。


部の仲間やかつてのライバルらに見送られ、神奈川を発つナミと柊。全国大会開催地、沖縄の地で彼女たちを待つ者は?










「………」
「………」

 試合用のユニフォームに身を包み通路を歩いていたナミと柊は、突然後ろから声を掛けられ振り返り……言葉を失ってしまった。
肩甲骨ぐらいまである。サラッとした黒いストレートヘアー。右耳の上に辺りには、どこかで見た記憶のある髪留め。
滑らかに吊り上がった眉が強気そうな性格を多少醸し出してはいるものの、全体的な造形から言えば柔らかい印象を受ける顔立ち。
そして、呼び止めた時の妙な間延び口調。ナミと柊2人、この時全く同じ感想を抱いていた。


『ミニチュア越花がいる』、と……


時は少し遡り、全国大会前日、沖縄県。女子ボクシング競技大会・神奈川県代表として、私立光陵高校から

下司 ナミ(フライ級)
高頭 柊 (ライト・フライ級)

と、それを脇から支える植木 四五郎、大内山 由起、そして荷物持ちを引き受けた中森 陽子の計5名が、無事に当大会中世話になる宿舎へと到着していた。
飛行機で沖縄に着き、バスに揺られる事数時間。宿舎へと到着した光陵一行(男子部主将、桃生 誠、他男子ボクシング部員数名含む)は、早速宛がわれた部屋へと向かい荷物を下ろす作業へと入っていった。
黙々と必要物品をバッグから取り出していく柊に比べ、ナミはまるで修学旅行中であるかの如く大はしゃぎしている。

「おい、早くしねーと風呂のじか……クシュッ!」

見兼ねた柊がはしゃぐ主将を急かすよう声を掛けようとしたが、途中自身のくしゃみによって言葉を止めてしまう。その後何度かくしゃみを連発し、その隙に準備を終えたナミから

「早くしないとお風呂の時間なくなるわよ?」

と、逆に催促されてしまった。得も知れぬ屈辱感を味わいながら入浴後夕飯を済ませ、女子ボクシング部のみで植木の部屋へと集まり最終ミーティングを行う事となった。

「とりあえずライト・フライ級及びフライ級の要注意選手を大内山から説明してもらう。よく聞いておけよ」

植木に促され、由起は全員に資料を手渡す。神奈川県予選の時と比べても、明らかにその量が違う事に少なからず辟易してしまうナミと柊。
だが、県予選終了からあまり時間がなかったにも関わらずこれだけの資料を作成したのだと考えると、自然と由起に感謝する思いの2人であった。

「それじゃ、先にライト・フライ級から始めましょうか」

うっすらと目の下に隈の浮かんでいる由起が、見た目に似合わぬ張りのある声で要注意選手の説明を始めた。

「まずは今更言うまでもないんだけど……東京都Aブロック代表、建陽(けんよう)高校の加藤 夕貴さん」

ファイルされた資料の1ページ目をめくれば、そこには柊の幼馴染みでナミに唯一の黒星を刻んだ、胸の大きなポニーテールの少女の写真。
夏休み初期に敢行した、湘南スポーツセンターでの柊とのスパーリング以来音沙汰なしだったが、どうやら彼女も無事に代表として全国へ来ているようだ。

「次に北海道代表。豊浦(とようら)高校三年、鳳 初音(おおとり はつね)。彼女も強敵よ」

次にページをめくった先には、いかにも気の強そうなロングヘアーの女の子が写っていた。後頭部に付けられた、大きな赤いリボンが目立っている。

「他にも島根県代表、米子大附属二年の堀 香月(ほり かづき)や奈良県代表、天理(てんり)高校二年の檜(ひのき)ほのかなんかもいるわ」

矢継ぎ早に、だが適切に注意点を伝える由起。その間植木も含め、全員が感心しきりであった。ちなみに、堀 香月は国内最大手ジムと名高い『堀ボクシングジム』の会長、堀 秀之(ほり ひでゆき)の遠縁の親戚に当たる。
また、檜 ほのかに関しては関西で“ボディースナッチャー(腹打ちの名手)”の名を欲しいままにしている全国区の選手である。

「よくもまあ、これだけ強敵だのなんだのが集まったモンだな」

半ば呆れ顔で、柊は悪態を吐く。正直、いちいち覚えるのも億劫……そんな心境であった。

「確かにこれらの選手は優勝候補の一角に名を連ねてるわ。だけど、今大会私が1番危険視してるのはこの選手よ」

由起はそう前置きし、最後のページを皆に促した。


京都府代表、河原崎高校二年 新堂 早弥香(しんどう さやか)


写真に写るその姿は凛々しさと優雅さを兼ね備えた、見事な京美人というべきものであった。柊に負けず劣らずの、漆塗りのような漆黒の髪は首の辺りで一旦結ばれ、更に腰元まで自然に流れている。
構えられたファイティングポーズからは、無駄な力みなど一切感じられない。表情は穏やかだが、それはどことなく余裕の程を匂わせるものであった。

「新堂 早弥香って、あの“格闘令嬢”ですか!?」

そう言って、驚愕の表情を見せたのは中森 陽子。彼女が驚くのも無理らしからぬ事なのかも知れない。国内三指に数えられる大財閥、新堂財閥の三女にして小学生時に柔道、空手を習うや中学生時には空手日本一に輝き柔道でも無類の実力を誇っているのである。
その、技術の習得スピードはまるで砂が水を吸うかのようであり、いつからか世間は彼女の事を“格闘令嬢”と呼ぶようになったのだそうだ。
ボクシングを始め格闘技に疎かった陽子ですら知り得る程に、早弥香の知名度は高いものであった。

「そう、その新堂 早弥香よ。彼女、高校に入ってからはどうやら矛先をボクシングに向けたみたい。最初の1年間は公式試合に出ないでみっちりトレーニングを積んでたみたい」

由起の説明に徐々にではあるが熱が籠もる一方で、柊はあまり熱心には聴いていなかった。イマイチ強さの程が実感出来なかったからである。
或いは、面倒くさくなって覚える事を放棄し始めたのかも知れない。

(あんまり悪いヤツじゃなさそーだな)

この程度の感想しか、現時点の柊には持てそうになかった。



 ライト・フライ級の説明をひと通り終え、由起はペットボトルの烏龍茶を一口つけると次はフライ級の要注意選手の説明へと移行していく。

「まずはこの選手ね。千葉県代表……阿刀田(あとう)高校三年、尾崎 玻璃子(おざき はりこ)」

別紙でファイルされた資料の1ページ目には、髪全体を後ろに櫛付けた強気な表情の少女の写真。戦績も豊富なもので、30戦以上をこなし黒星はたったの2つ。
勝ち星の内8割にも及ぶRSC(KO)はなるほどハードパンチャーぶりを如実に物語っているかのようであった。

「鹿児島県代表……松橋第2高校三年、大久保 優奈(おおくぼ ゆうな)。九州アマチュアチャンピオンね」

ショートカットに纏め不敵な笑みを浮かべながら、優奈は威嚇するかのようなファイティングポーズを取っている。

「地元沖縄県代表……九重(ここのえ)商業一年、後藤 心奏(ごとう かなで)。この選手に関しては下司さんの方が詳しかったかしら?」

そう言うと、由起は視線を資料からナミの方へと向け他の全員もそれに倣った。

「ちょっとぐらいは、ね。U-15全国大会の初戦の相手だったのよ」

当時はライト・フライ級だったが、ナミや樋口 静留らと同様フライ級へと階級を上げたようだった。肌は小麦色に焼け、髪はちょうど今のナミぐらいの長さ。
落ち着き払ったその表情は、どことなく冷静さを印象づける。

「基本アウトボクシングなんだけど、隙あらばインファイトもガンガン仕掛けてくる、やりにくい相手だったわ」

当時手合わせをした時の事を思い返し、ナミは心奏のデータを見ながら感慨深げに語った。

「そして、彼女が今大会の優勝候補筆頭と噂の……」

由起に促され、最後のページを開く一同。そこには、


兵庫県代表、桔梗(ききょう)学院二年 明智 奈々子(あけち ななこ)


という名があった。

「あーー!! そういえばコイツ、フライ級だったっけね……くそッ」

最後のページに載っていた、長い髪を1本の大きな三つ編みに結った女子ボクサーの写った写真。それを憎憎しげに睨み、毒を吐くナミ。
それは、この明智 奈々子という存在を失念していた事に対する、自身へ向けた毒ともいうべきものであった。

「有名なのか? コイツ」

畳の敷かれた床の上を、胡坐の姿勢で資料とにらめっこしていた制服姿の柊がナミの方を向く。男性(植木)がいるにも関わらず、全く人目を憚らない所は実に彼女らしいと由起辺りは思った。
恥じらいというものに無頓着なのか、それとも見えていないと確信しているのか。

「明智って、去年高校三冠を取ったぐらいメチャクチャな強さの選手なの。わたし、去年はライト・フライ級だったから視野に入れてなかったのよ」

フライ級に奈々子がいる事を失念していた自分に腹が立つ、とナミはお手上げのジェスチャーをしてみせる。

「高校三冠って?」

聞き慣れない単語が飛び込んできた事で、柊は更なる質問を投げ掛けた。同様に知らなかったらしい陽子も、小さく挙手しながら教授を請う。

「I・H……いわゆる高校総体、毎年3月に行われる全国高等学校ボクシング選手権大会、あと秋の国体……国民体育大会。その3つの大会全てを制覇すると、高校三冠って呼ばれるのよ」

ちなみに2年続けて制覇すると高校六冠ね、とナミは2人の質問に簡単な説明をする。高校生でありながら大学生や社会人を相手に勝ち抜くというのは、並大抵な事では勿論ない。
それだけで奈々子の実力がいか程のものなのか、大体は察するに至ろうというものだ。

「なんにせよ、お前らはまだ一年生。今回は全国の壁というものを経験してもらいたい。そして今後に活かす為に学んでくれ」

植木の一言で最終ミーティングが終わり、長旅の疲れから部員たちは全員早めに寝付いた。



 そして8/20、金曜日がやってきた。I・H本戦、その初日である。長い開会式を、欠伸を噛み殺しつつ(ナミは割と平然と大口を開けて欠伸していた)終わるのを待つ。
ともすれば精神攻撃かとも思える長い開会式の挨拶も滞りなく終え、柊とナミは出番が来るまで控え室に詰めるべく連れ立って通路を歩いていた。
植木と由起は別の用事、陽子は「お母さんに会ってくる」とよく分からない言葉を残し、それぞれ同行していない。

「陽子のお母さんって、この近くに住んでるのかな?」

通路を歩きざま、赤地に白のラインが入ったユニフォームに身を包んだナミがアゴに指を添えながら隣を歩く柊に呟く。

「あ? ウソに決まってんじゃねーか! 大方便所にでも行ったんだろ」

アイツの母親ってもう亡くなってんだぜ? と陽子の親友である杉山 都亀から聞いた話を以てナミに返答する柊。

「『花を摘んでくる』とか、そういったやつ? もっと分かりやすいように言いなさいよね!!」

わざわざ分かり難い言い回しをする陽子に、ナミはプリプリ怒りながら通路を進んでいく。やれやれと肩を竦める仕草を見せると、柊はひとつくしゃみをした後ナミの後ろをついていった。

そんな2人の背後から、

「ねぇ、そこのお2人……光陵の」

間延び口調で呼び止める声があり……『ミニチュア越花』が立っていた。

2人の眼前に立つ少女は越花にそっくり、というよりは瓜二つ。寧ろ生き写しと言っても過言ではないぐらいに、その容姿は酷似している。
間延び口調も実によく似ていて、違う所といえば声と体格ぐらいであろうか。少女も試合用のユニフォームを着ている所を見るに、どうやら大会参加者のようだ。
身長も柊やナミと変わりがない為、近しい階級の選手なのは容易に窺えた。

「えっと……誰? アンタ」

優に10秒近くを呆けた後、ようやくナミはそれだけを相手に告げる。

「私? 私は葉月 雪菜(はづき せつな)。ライト・フライ級、福島県代表だよぉ……越花ちゃんから聞いてないかな?」

そういって彼女……雪菜は2人の前で小振りな胸を反らすのだった。





to be continued……
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チャパロット

Author:チャパロット
基本的に携帯サイトで書かせて頂いているもののリメイク(?)ですが、ちょくちょく文を変更してたりします(あと拙いですが自作絵なども)。
何かある方は、ckcwb305あっとまーくsutv.zaq.ne.jpにご連絡下さい。

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