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第31話 【I・H予選、エピローグ 記念撮影】

 I・H編、第31話です。I・H予選編もようやくここで終了、これからひとつエピソードを挟んでいよいよ全国大会編、頑張ってペースを保っていきたい所。


ナミvs静留のフライ級決勝も、ナミのRSC勝利により幕を閉じる。全試合を終え、光陵女子ボクシング部はひとつの大舞台を経験。その闘いを終えたのであった。










 2日間に渡って繰り広げられた、I・H女子ボクシング競技大会・神奈川県予選……その全試合を終え、今リング上では全階級の優勝者たちがカメラのフラッシュに焚かれていた。
全員が優勝の証として金製のメダルを首から提げ、ファイティングポーズを構えている。今年初出場となる、全員一年生選手の光陵高校からは、

高頭 柊 (ライト・フライ級)
下司 ナミ(フライ級)
知念 心 (フェザー級)

以上3名がこの群れの一角を占めるという、まさに大健闘であった。ナミと心に関しては、中学時代から培ってきた知名度もあってさほど驚かれる事もなかったのだが、注目を引いたのはやはり柊。
先の新人戦に於いて『ただの1発もクリーンヒットを許す事なく優勝を遂げた』という偉業があったとはいえ、まさか昨年の全国大会覇者である佐山 光子(さやま みつこ)をも退けての優勝などは、誰もが夢にすら思っていなかった。
これは、今年の神奈川県予選1番といっていい大番狂わせであっただろう。

(今回のMVPは柊で決まりかな?)

カメラマンの注文に従ってあれこれとポーズを変え、ナミはそう思った。


予想通り、MVPの栄冠に輝いたのは柊であった。



 撮影を終え、その後のインタビューも無事終了し(ちなみに柊と心は揃って面倒くさそうな表情を隠しもしなかったのだが)、ナミたち3人は控え室へと戻る。

「3人とも、お疲れさま」

ドアを開くと、そこには女子ボクシング部員全員が揃っており一同を代表し東 久野が労いの言葉で迎えてくれた。

「あれ? 東先輩、いつ来たんですか?」

「ついさっきよ。空手部の方も終わったから、そのままこっちの様子を見にきたという訳」

思わず声に出してしまったナミに対し、久野は穏やかな表情で答える。3人もの全国大会出場者が決まった事を聞き、どうやらご満悦の様子。
久野は空手部主将という立場もあり、そちらを優先した結果女子ボクシング部の応援には来られなかったのだ。が、それでも女子部の一員という自覚はあったようだ。
ごめんなさいね、と謝罪する久野に笑顔を返すと、ふとナミは気になった事があり訊ねてみた。

「そういえば……空手部の方はどうなりました?」


I・Hの首尾はどうなったのか?


そういう意味合いである。それを聞いた途端、今まで満悦だった表情が一変、『鬼東』の異名に相応しい形相へと移り変わっていく。

「不甲斐ない限りだわ。あれだけ私が稽古をつけたというのに」

久野の、この形相とやや自嘲気味に紡がれた言葉から大体の事情を察したナミらは、この話題にはこれ以上触れない方が無難だと理解するのだった。



 きちんとした応急処置を施された後、優勝者3名は着替えるべく更衣室の方へ移動しようとする。その矢先、

「あ、待って。着替える前にちょっと会場の外に出てきてほしいんだけど……」

部員たちを引き止める間延びした声が上がった。越花である。女子ボクシング部専用の緋色のジャージを着て、その両手にはいかにも高価そうなカメラが納まっていた。

「え~~、会場の外ぉ?」

汗だくで肌に貼り付く試合着の嫌悪感から出来る限り早く逃れたい気分の3人は、越花の言葉に難色を示す。だが、どうしてもと頼み込まれては断るに断り切れず、仕方ないといった風で一同は途中控え室の外で暇を持て余していた植木を引っ掴み、会場の外へと移動していった。

越花に促されたまま会場の外へと出た一同は、まだ燦々と地上を照りつけてくる太陽の日差しにげんなりしてしまう。それは、夏が大好きなナミですら例外ではなかった。

「で、こんな炎天下でなにをしようっていうの?」

あまりの暑さにうんざりした表情で、我慢に耐え兼ねて口火を切ったのは順子。

「うん。どうせだから、みんなで記念撮影しようと思って」

見るからに重そうなリュックサックを下ろし、何やら機材をゴソゴソと取り出し越花は答えた。

「記念撮影?」

その回答に、今度は柊が声を上げる。どうにも面倒くさがっての一言のようだ。

「うん。私たち女子ボクシング部の初めてのI・Hな訳だし、そんな中から3人も全国行きが決まったんだから……その記念」

愛用のカメラに三脚だの何だのと慣れた手つきで取り付けながら、越花は間延び口調で柊に告げる。どうやら、ただの思いつきで言っている訳ではないらしい。
その証拠に、越花の準備してきたカメラ一式の充実ぶりがその事を物語っていた。


ひと通りの準備が整ったのだろう、越花は三脚付きカメラを一旦離し一同を撮影しやすいように誘導し始める。会場を背景に、越花の指示の下ナミたちはそれぞれ並んでいく。

「植木先生を真ん中に、その周りをナミちゃん、柊ちゃん、心ちゃんで囲んで。あと……」

普段はおっとりしている越花だが、いざ指揮権を与えてみればこれが予想以上に的確な指示を出す。意外といえば意外な素質であった。

「配置はこんな感じでOKかな。はい、それじゃ撮るよ~」

自動タイマーをセットし終え、パタパタと越花が走り輪の中へと潜り込む。顧問である植木を中心に、その周りをナミ、柊、心の優勝者3人が首にメダルを掛け試合着のままで並ぶ。
さらにその周りをアンナ、由起、順子、久野、越花、都亀、陽子が固める。皆思い思いにポーズを取り……



カシャッ!



無事に記念撮影を終えた。



「みんなの分が出来たら渡すね」

 カメラ一式を片付けつつ、越花が皆に告げると今度こそ着替えを済ませ引き揚げる準備に移っていく。ナミら3人が着替え終えて会場を出ようとした際、出入口付近で偶然洛西高校の一団と顔を突き合わせる事となった。

「お、光陵高校の皆さんもこれからお帰りですか」

洛西の顧問と思わしき30台後半ぐらいの、若干小太り気味の男性が挨拶代わりに声を掛けてくる。物腰の柔らかそうな、温和な雰囲気の男性であった。

「え、ええ。洛西さんも今日はお疲れ様でした」

顧問としての立場上、植木が洛西の顧問とやり取りをする中、ナミはつい1時間前に激闘を繰り広げた樋口 静留と向かい合っていた。その顔には湿布がペタペタと貼り付けられ、右の目尻の辺りが少し薄紫色に変色しているのが見て取れる。

「随分といい顔になってるわね、下司」

自分の事は棚に上げ、ナミの顔に皮肉めいた感想をぶつける静留。着替える際、鏡を見てナミ自身もギョッとする程に瞼が腫れていたのを思い出す。

「アンタこそ。なかなか見映えが良くなったんじゃない?」

負けじとナミも静留に皮肉混じりの感想を返していく。若干の沈黙の後……

「あっはははははは」
「ふふっ、あはははは」

お互い我慢出来ずに笑い合っていた。

勝った負けたは確かにあったが、だがそれは遺恨を残すという訳では決してない。互いに全力を出し切った結果に、晴れ晴れとしたものはあれど憎々しい感情などは一切なかった。

「貴女に焦点を合わせてこれまで頑張ってきたんだけど……まだまだ及ばなかったわ」

蟠(わだかま)りの一片も見出し得ない、実に清々しい笑顔を湛え静留はナミの方を向き直す。それに対し、少し照れたような表情でナミは静留の視線を受け止める。

「そんなッ、まだまだなんて事はなかったわよ! 正直キツい試合だったし………」

何にしてもいい試合だったわ、と静留が右手を差し伸べてくるのを見つめナミは満面の笑みで手を取った。

「貴女の全国大会での健闘を祈ってるわ。神奈川県代表として頑張ってきて」

「ええ、もちろん。樋口さんの分も大暴れしてやるわ!」

エールを受けたナミは強気の顔で言うや、2人は軽く抱擁を交わす。それは、拳を交えた者同士が育んだ友情の形であったのだろう。そして、ナミと静留以外にも同じく決勝戦を闘ったライト級のアンナと白鷺 美智子も概ね同じようなやり取りをしていた。

その後最寄りの駅で洛西一同と別れ、電車に揺られて一路母校を目指す。

椅子に座り疲れて眠りこける者
2日間の事を思い返して談笑する者
会話には参加せず、窓の外に広がる景色を眺める者

等々……

そんな部員たちの中にあって、1人女子ボクシング部主将たるナミはある考えを纏めようと思案していた。



 一同が光陵高校に戻ってきた時には、既に日が傾きかけて夕暮れ時となりつつあった。一旦女子ボクシング部室に入り、各々適当にパイプ椅子を掴んでホワイトボードの前に座っていく。

「えー、2日間お疲れさん。とりあえず明日から3日間は休養日とする」

ホワイトボードの前に立ち、植木が今後の予定を皆に伝えていく。

「で、今後の予定だが……優勝した3人、それと俺、大内山は8/20の金曜日から3日間、今年の全国大会開催地である沖縄に向かう。その間、練習メニューを組んでおくから……そうだな。東、こいつらの面倒を見てやってくれ」

久野は三年生であり、実質上空手部を引退する立場にある。空手部の事は後進に任せるという一言と共に、植木の依頼を承諾し周囲の部員たちに目を光らせた。
自他共に厳しい久野の指導ぶりはかなり有名で、それを知る面々は今から疲れが増したような顔をし、この日は解散する事となった。

皆が帰路に着く中、ナミは兄代わりの顧問を呼び止めた。いつになく神妙なその表情に、植木は何事かと見据える。

「で、どうしたんだ? ナミ坊」

「うん。2つほど相談があるんだけど、いい?」

最初の教え子の、何やら真剣な相談事に植木は妙な胸騒ぎを覚える。何か、とんでもない事を頼んでくるのではないか? そう直感し、帰る道すがら聞いてやるよと一旦話を保留してしまい、まるで先延ばしにするように新校舎へと向かってしまった。

一方、1人部室に残る羽目となってしまったナミ。その心中は、結構複雑であった。すぐに伝えられなくて落胆すべきなのか、それとも少しでも延びて安堵すべきなのか。
1つ目の相談は、特に問題なく受け入れてくれるだろう。問題は2つ目。全国大会を間近に控えたこの大事な時期に、果たして植木は聞き届けてくれるだろうか?

植木がいなくなった10数分。待つ身として物寂しく思い、近くにあった上質なサンドバッグにポス、ポス、と軽く拳を打ちつける。

(やっぱり言うの、やめようかなぁ)

サンドバッグを叩く内、急に決意が萎えてくる感覚に満たされてくるのを感じてしまう。この状態があと1分も続いたなら、恐らく言わない方向へと気持ちも傾いていただろう。が、程なくして

「待たせたな。それじゃ帰るか」

顧問はスーツに着替えて現れてしまった。



 すっかり夕闇に閉ざされた、歩き慣れた道を教師と生徒は連れ立って歩く。互いにどこか話の切り出しにくい空気を纏ったまま、車道を走る車の騒音だけがやけに大きく聞こえてくる。
この空気に耐え切れなくなったのか、それとも年長者が切り出してやるべきと考えたのか、先に口を開いたのは植木の方だった。

「しかし、お前もよく頑張ったな。一年生で全国だぜ? 全国」

俺もだったけどな、と気を利かせたつもりなのか、ただの自慢なのか判断の難しい一言を付け加えて互いに苦笑する。

「あと、高頭と知念もな。ブランク明けの知念とまだ初心者みてえな高頭が優勝するとは思ってなかったんだがなあ」

更に続く植木の言葉。これには、ナミも概ね同様の感想を抱いていたらしい。ただ、この時『高頭』と名前が出た瞬間ナミの肩がビクッと反応していたのを、植木は見逃さなかった。

「で、ナミ坊。相談ってのはなんだ?」

意を決し、植木は真顔でナミへと向き話を切り替える。またもビクッと肩をいからせる少女に向きつつ、植木は黙って紡がれるだろう言葉を待った。

「うん……とりあえず1つ目なんだけど。越花を副主将に推薦したいと思うの」

越花を副主将に置く。現在の所、女子ボクシング部は主将たるナミ以下は全て同列の状態であり、いざという時の牽引役に欠く。今日の記念撮影の際、越花の見せたテキパキと指示を出す様に、ナミは彼女ならと思ったのだ。
これに関しては、植木も妙案と同意を示す。本来なら由起を、とも思うのだが、彼女はデータ収集に入ると平然と学校にも来なくなるという困った悪癖があるだけに、今ひとつ任せるには躊躇してしまう。

その点越花なら、温和な性格だしトラブルも少ないように思う。ナミ1人に重責を背負わせるのも問題があるので、この件に関してはナミの予見通りあっさりと決まった。
問題は次。以前からナミは1つ確認してみたい事があった。それは遠く、新人戦の頃まで遡る。ナミはスゥ、と息を吸うや、思い切って伝えた。

「四五兄ィ! わたしを柊とスパーさせて!!」





to be continued……
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チャパロット

Author:チャパロット
基本的に携帯サイトで書かせて頂いているもののリメイク(?)ですが、ちょくちょく文を変更してたりします(あと拙いですが自作絵なども)。
何かある方は、ckcwb305あっとまーくsutv.zaq.ne.jpにご連絡下さい。

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