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第27話 【I・H予選(11) 全国覇者、佐山】

 前回の更新から、随分と経ってしまいました。I・H編、第27話です。これからはまたペースを上げてUPしていきたいと思いますので、よろしくお付き合い下さい。


ライト級決勝戦、アンナは美智子を相手に1R終盤、テンカウントを数え上げられ敗北を喫してしまう。この結果に納得のいったアンナは、素直に美智子を祝福しようとするのだが……










「ただ今の試合、1R1:49、RSCにより赤コーナー……白鷺選手の勝利となります」

 ウグイス嬢のアナウンスの後、レフェリーに左腕を掲げられた美智子は満面の笑みで勝利を誇り、観客からの拍手喝采をその身に浴びていた。
レフェリーを挟んで対峙するアンナも、負けたなりにすっきりした表情で美智子に祝福の拍手を送る。アピールをひとしきりし終えると、美智子は金髪の少女へと歩み寄り……ガシッ! と抱き寄せた。
傍から見れば、互いに健闘を称え合う爽やかなこの抱擁。これに一層大きな拍手が降り注いでいた、その裏では少女2人によるあまり爽やかではない会話が交わされていた。

その内容は、次の通りである。

「……今回は私の勝ちって事になった訳だけど」

「う、うん」

「はっきり言って、全ッ然納得してないから」

「え、えっと…?」

「とりあえず、お祖母さまのシューズは一旦私が“預かる”事にするわ」

「“預かる”?」

「そう。あんなまぐれ当たりのピンポイントブローなんかで勝った! なんて誰に誇れると思うの?」

「でも、実際私の負………」

「ストップ! それ以上は言っちゃダメ。とにかく、私はまだ貴女と白黒ついただなんて思ってないんだから。次に闘う機会があったら、その時に改めてシューズを賭けて勝負!」

分かった!? と強引に話を切り上げると、美智子はポンポンとアンナの汗ばんだ肩を軽く叩き今まで見せた事のない澄んだ笑みを見せた。

(一応認めてくれた……のかな? これって)

どうにも強引だが、天真爛漫な美智子の事をアンナは嫌いになれそうにない。


次に闘う機会があったら………


青コーナーで帰り支度をするアンナの脳裏に、美智子の言葉が反芻されていく。

(白鷺さん、かぁ。目指してみようかな? あの人を)

クスッとひとつ、微かに微笑むとアンナは晴れやかな気分でリングを後にする。美智子をライバルと認識した瞬間であった。



 控え室でアンナの敗戦を聞いたナミ・柊・心の3人。だが、腫れた顔に晴れやかな表情を貼り付けたアンナを見て、落ち込んでいる訳ではない事に安堵していた。

「さて、後はわたしと柊だけね」

ナミは気を取り直し、柊の方を見る。そう、残るは柊のライト・フライ級及びナミのフライ級。その決勝戦2試合。まずはライト・フライ級、柊の出番となる。
少し時間に猶予がある為軽く身体を動かす柊だったが、急に「トイレ」と言うなり控え室を出ていってしまった。言動や表情は落ち着いているのだが、行動に落ち着きがない。

(変に緊張するようなタマじゃないとは思うんだけど……アイツ)

そう思いつつ、ナミは由起に柊の相手が誰なのか訊ねてみた。

「強敵よ。というよりは順当、というべきかしらね」

意味深な発言と共に、由起は自身の作成した例の資料を差し出し閲覧を促す。それに目を通すナミ。読み終えた頃には、軽く溜息が漏れてしまっていた。

「天命館(てんみょうかん)高校三年、佐山 光子(さやま みつこ)。前年度I・H全国大会優勝者、か。確かに順当、ですね」

この資料を見ながら、ナミは柊のくじ運の悪さは筋金入りね、と心の中で1人ごちる。

女子ボクシング部設立を賭けた男子ボクシング部との試合では、U-15全国ベスト4の柳澤 翼(やなぎさわ よく)。
新人戦やこの神奈川県予選で、共に無敗の世界チャンピオンの愛娘・獅堂(しどう)きららとぶつかった。
そして、決勝戦に来て前年度I・H覇者、佐山 光子。

今考えれば、本来勝ち得る筈のない格上の強敵ばかり。しかし……とナミは思う。高頭 柊という天才は、柳澤やきらら、更には非公式ながらあの加藤 夕貴にすら勝利してみせた。
彼女の中に眠る未知の才能。そして下馬評の不利を悉く覆してきた、その意外性。それらが、この一見無謀極まる対戦におぼろげながら光明を見出し得るのではないだろうか?

そう、ナミには思えるのだった。



 一方、女性用トイレに向かった柊はその入り口付近で当の佐山 光子と鉢合わせしていた。胸元のゼッケンに『天命館 佐山』と書かれていた為、初めて見る柊にも人目で理解出来る。
頭の左右からそれぞれ色の異なるリボンで括られ、垂れ下がるひと房の髪の束。いわゆるツインテールというやつだ。
鼻筋は綺麗に通り目は切れ長と、大人びて見える端麗な容姿。そして、肩書きの割には華奢に見える身体つき。柊には、決してこの決勝戦を闘う相手が強そうだとは思えなかった。

柊が色々と考えていると、光子も柊の存在を視認したらしく自然体で話し掛けてきた。

「あら、貴女が光陵の高頭さん? はじめまして、私は天命館の佐山。この後、貴女とグローブを交える相手よ」

よろしくね、と穏やかな微笑みを湛え右手を差し出す。こっちこそ、と柊は右手を握り返した。握手した瞬間、柊は光子に対しある違和感を覚え握られた手を見つめる。


華奢な身体つきの割には、妙に手が大きい気がしてならない。


感じた違和感の正体を瞬時に看破した柊は、そこで光子が相変わらずの微笑みで見つめていた事に気づいた。

「な、なんだよ?」

強気に言い放ち右手を離した柊は、だがどこか気後れしたような雰囲気を見せる。強そうに見えないと思っていた光子の、その言いようのない圧迫感を本能的な何かで感じ取っていたからである。


どこかで感じた事のある、この圧迫感……


そう考え記憶の糸を辿ったその先、柊は2人の人物の姿に至った。

男子ボクシング部主将、桃生 誠
そして空手部主将、東 久野

『光陵の双璧』と謳われる、2人の先輩の姿。ただ、この際考えるべきは「何故この2人を思い浮かべたのか?」ではなく「何故この2人が浮かんできたのか?」であろう。
柊とて馬鹿ではない。この2人が浮かび上がった理由……それはつまり、「目の前の相手は桃生・久野に匹敵する所に位置している」という事に他ならないのだ。

(ようするに、この人はあんなバケモン連中と同じって事か)

男子ボクシング部対女子ボクシング部での、あの2人の闘いを思い出してみた。とても緻密で獰猛な、2頭の獣がお互いを喰らい合っているような激しいイメージ。
そう考えるだけで、背筋に走るものを感じてしまう。だが、それでも麗しき日本人形は内に芽生えそうになった弱気を振り払った。
そもそも柊の根幹は強気の人であったし、何より誰が相手でも負ける気など毛頭ない。獅堂 きららを2度に渡って破った事で、多少なりと自信もつけてきている。
少なくとも、きららも全国レベルの実力者であろう事、疑うべくもない……と柊は思う。

「結果はどうあれ、お互いベストを尽くしましょう」

光子は柊に微笑みかけながらそう告げると、トイレの中に潜り込んでいった。イヤなヤツじゃなさそうなんだけどな、と光子の雰囲気に好印象を受ける。
だが、負けるつもりはないと改めて気持ちを引き締めていった。



 トイレを済ませ、青コーナーの控え室に戻った柊は早速決勝戦の為の最終準備に取り掛かっていく。

(ま、なんにせよココまで来ちまったんだ。後はやるだけってな!)

若干の緊張感をその小さな身に纏い、美麗な顔に決意という名の化粧を施しながら、ただ静かにその時を待つ。

柊が呼び出しを待つ傍ら、もう1人の決勝戦進出者であるナミは落ち着きなく身体を動かしていた。不安から、ではない。緊張感はあるが、むしろ高揚感の方が強いくらいである。

「ん~~、少しは落ち着けよ下司。今からそんなだと、試合やる前からバテちまうぞ」

気分の高揚から動いていたナミだったが、傍から見れば忙しない限りであったらしい。長椅子に腰を下ろしていた柊が、実に鬱陶しそうな声で主将を窘めた。

「ん? ああ……ごめんね」

自分が動き回っている事で柊の集中力を妨げてしまったと感じたのか、素直に謝るナミ。いくら柊の肝の太さが常人離れしているといえど、やはり15かそこらの女の子である。
決勝戦の舞台に立つ、そのプレッシャーは半端なものではないだろう、とナミは思う。

「ま、まぁ相手はとんでもない強敵だけど、全力で立ち向かうしかないわね。それでもし適わなかったとしても、誰もアンタを責めたりしないわよ」

激を飛ばすにしても器用な言葉の思いつかないナミは、取り留めのない言葉しか掛ける事が出来ない。

「あ? いーよ別に気を回さねーで。別にオレ、負けるつもりはねーし」

そんなナミの不器用な気遣いに少し微笑みを見せつつ、柊は事もなげに答えてみせた。


負けるつもりはない


と。

勝つ自信でもあるのだろうか? 去年の全国覇者に対して。それとも、ただ自分を奮い立たせる為の言葉なのであろうか。ナミがその真意を探ろうと声を掛けようとしたその時、

「光陵、高頭選手! 出番です」

係員から最後の舞台へと上がるよう声が掛けられた。おう、と短く返答するなり長椅子から勢い良く立ち上がると、

「んじゃ、一足先に行ってくるぜ」

いつもと変わらぬ落ち着いた様子で、柊はナミにグローブを着けた右手をぷらぷらと振り控え室を出ていった。

「………ま、あの調子なら案外ひょっとすればひょっとしたりして」

ここまで来たら、必要以上に心配しても仕方ない。柊がその天才性を如何なく発揮出来る事を願いながら、ナミは自分の事へと集中力を高めていくのだった。



 リングへと上がった柊と光子。試合上の諸注意を受け、後は開始のゴングを待つばかり。

「いいか高頭、佐山は全てのレベルが高く纏まった万能型のボクサーだ。だが逆に言えば、スピードに関してだけはお前に分があると俺は睨んでいる。相手に付き合うな! お前はスピードを使ったヒット・アンド・アウェイに専念するんだ、いいな?」

ロープの外から聞こえる植木の声1つひとつ頷き、マウスピースを捻じ込まれる柊。右手で位置を調整しつつ、その視線は一瞬たりと光子から離さなかった。



カァァァァンッ!



決勝戦開始のゴング。両者リング中央でグローブを合わせるや否や、光子の先制ジャブが柊へと襲い掛かってきた。

「くッ」

立ち上がりからいきなり不意打ち気味に放たれたジャブは、パァンッ! と乾いた音を立てる。光子の左拳と柊の顔の隙間、咄嗟に差し込んだ右手が辛うじて直撃だけは避けていた。
左拳を素早く引き、立て続けに数発ジャブを打ち込む光子。それらをバックステップでかわし、柊はついでに一旦距離を大きく開ける。

(クソッ、ジャブのクセに重いじゃねーか)

タン、タン、とリズムを取りじっくりと光子を見据える柊。ただジャブを数発打ち込まれただけだが、それだけで相手の強さの程は何となく分かったような気がしたのは、きららのような強敵と闘った経験の成せる業であろうか。

(オフェンスはさすがにとんでもねーな。なら!)

ディフェンスはどうだ!? と間合い外から一転して、光子目掛け突進を敢行していった。



キュッ、キキュッ!



身を屈めガードを固め、光子に肉薄していく。その動きに合わせジャブを放ち突進を妨害にかかる光子。降りかかる弾幕を左右の素早いステップでかわし、射程距離に捕らえるや右ジャブから左ストレートのワン・ツーを打ち込んだ。



スッ、ブンッ……チッ!



右ジャブはかわされるものの、左ストレートは微かにヘッドギアを掠る。勿論ヒットには換算されないが、オフェンスに比べディフェンスはまだ穴がありそうな感じだ。
ここは攻めるが上策か? そう判断した柊は、意を決しこの試合、攻めを重点的に行う方針に決めた。こうなると自然、打ち合いの様相を呈していく事となる。
柊が右フックを放ち、それを事もなげに左腕で払いざま光子の右ボディーストレートが唸る。

「くッ」

襲い来る右に、柊はすぐさま左肘を盾にして被弾を避けた。お互い近~中距離でのパンチの交換。柊のディフェンスは相変わらずの冴えだが、内心かなり冷や汗ものだった。
並外れた動体視力と、それに直結した反射神経のおかげで直撃だけは許していない。だが光子の攻撃はかなり辛辣かつ徹底されており、柊のパンチに対し払いのけると同時にパンチを打ち込んでくる。
知念 心や柊とはまた違った、タイプの異なるカウンターといえた。しかも更に辛辣なのは、相手に先に打たせておいてそれを大きく払い、相手のバランスを崩した所に打ち込んでくる所にあろう。

攻撃と防御が一体化した、実に厄介な戦法であった。

何発目かのパンチを間一髪かわし、柊はまたも距離を離す。この打ち合いはかなり分が悪い。そう思い光子の射程外へと退避したのだが……

(ん~、やりにくい相手だな。でも!)

呼吸を整え、柊は3度目の特攻を開始する。集中力を高め、相手の一挙手一投足に全神経を注ぎ、襲い来るパンチの雨を掻い潜る。
そして、身を低くした体勢の柊は突き上げるように左フックを放つ。それに対し、光子は打ち下ろしの右ストレートで迎撃。両者のパンチが、獲物を捕らえんと振り抜かれていく。



ズシャッ!



光子の右と柊の左が交差し、互いのパンチはそれぞれの頬を抉っていた。

「ぐはぁッ」
「ぶほぅッ」

ほぼ同時に呻き声を発し、身体を仰け反らせる。柊の左フックの方が当たりは深かったようだが、何より光子は打ち下ろしのストレート。
重力に乗って加速度の増したパンチの上、柊は同階級の他の選手と比べ打たれ弱い。ダメージの程はほぼ互角といえた。

タフネスに差の出た2人、先に体勢を立て直したのは光子。未だ視界のブレる柊目掛けて、フルスイングの右フックを振り回した。

「くぅッ」

グラつく頭を無理やり覚醒させ、柊は目いっぱい身体を捻り回避しようとする。



ダンッ!



豪快なフックが唸りを上げ、柊の小柄な身体は派手な音を立ててキャンバスを跳ねた。

「柊ちゃん!!」

カメラのフレーム越しにリングを覗いていた越花が、思わず悲鳴を上げてしまう。それ程に、派手な倒れ方だった。これにすぐさまレフェリーが2人の間に割って入り、試合を一旦止める。

「スリップ!」

だが、周囲の期待や反応とは違った判定をレフェリーは下した。

スリップダウン。汗で足を滑らせたり体勢を崩してこけたりして、直接的な加撃でダウンした訳ではない場合、これが適用される。

殴り倒されてのダウンではない為、無論一切のマイナスはない。無理に身体を捻った結果、柊は大きくバランスを崩してキャンバスへともんどり打ったのであった。

ある意味で九死に一生を得たといえるかも知れない。



カァァァァンッ!



レフェリーが柊を立ち上がらせたと同時に、第1R終了のゴングが鳴った。両者とも自コーナーに引き揚げ、セコンドにマウスピースを引き抜いて貰い処置を受けていく。

「どうだ? 高頭」

正面に陣取る植木が、脚をマッサージしつつ訊ねる。光子と対峙した感想を求めているのだ。それを理解した柊は光子の方を見据え、、ただ一言のみを告げた。

「強え、な。確かに。でも……獅堂のヤツに比べたらやりやすい相手だよ」





to be continued……
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Author:チャパロット
基本的に携帯サイトで書かせて頂いているもののリメイク(?)ですが、ちょくちょく文を変更してたりします(あと拙いですが自作絵なども)。
何かある方は、ckcwb305あっとまーくsutv.zaq.ne.jpにご連絡下さい。

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