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第26話 【I・H予選(10) vs美智子、波乱の決勝戦】

 I・H編、第26話です。

女子ライト級、決勝戦。アンナと美智子、因縁の絡み合った闘いが始まる。全国への出場権とたえ子のリングシューズ、手にするのは果たしてどちらか?










「ただ今より、女子ライト級決勝戦……2分3Rを行います」

 照明に照らされた総合体育館のリングの上に、全国への出場権及び一足のリングシューズを賭け試合に臨む2人の女子ボクサーの姿があった。

「青コーナー。光陵高校、城之内選手!」

リングアナにコールされ、アンナはヘッドギアの隙間から零れる金髪を照明で反射させ、少々ぎこちなく四方に一礼する。

「赤コーナー。洛西高校、白鷺選手!」

一方の美智子は、特に気負った風も見せず悠々と四方へ一礼していく。綺麗にセットされた、首筋にかかるぐらいの淡い茶色の髪をヘッドギアに納め、アンナ程ではないが透き通った白い肌はうっすらと汗を纏いライトの光で美しく彩られている。
日本人離れしたプロポーションも、一層美智子を引き立たせた要因の1つといえよう。そして何よりも異彩を放っているのは、黒い右目と碧い左目……虹彩異色症(オッドアイ)。
その神秘的な色合いを含んだ双眸は、今まさに対角のアンナへと向けられていた。


これ以上ない敵意を剥き出しにしながら……



 両者レフェリーの注意事項を受けた後、挨拶を交わして各コーナーへと戻る。自コーナーでセコンドの植木から最終確認をされる間も、アンナの碧い瞳はこれからグローブを交える相手の方を注視し続けていた。そして、それは相手も同様であったらしい。


お祖母さまのシューズはあんたには渡さない。私が貰うわッ!


仇の如く見つめる、色の異なる両目。鈍く光るそれが、あたかもそう語ってきたかのように、アンナには思えた。苛烈なまでの敵意と気迫に呑まれてしまったのか、つい喉を鳴らしてしまう。

「城之内、やる前から相手に呑まれてどうする。しっかりしろ!」

選手の不安を察した植木は、セコンドとして檄を飛ばす。だが、さして効果は得られないだろうな……と、己の無力を痛感する思いであった。



カァァァァンッ!



 試合開始のゴングが鳴った。グローブタッチの後、両者は一旦間合いを離す。オーソドックスな右構えのアンナに対し、美智子は左構えのサウスポースタイル。
これにまず驚いたのは、実はアンナではなく由起。彼女の集めたデータ、その資料の中には美智子は右構えのオーソドックススタイルであると記載していた。
少なくとも、数少ないデータの中では信頼に値する情報であった筈なのだ。

(やられたッ!)

右構えはフェイク。美智子の本来のスタイルはこの左構えなのだろう。情報戦で裏を掻かれた事に、由起は臍(ほぞ)を噛む思いであった。或いは、本来のスタイルを見せる必要もない位に彼女の実力が飛び抜けているのか。
気迫に呑まれどこか消極的なアンナへ、美智子は逆に積極的な攻勢に出るべく動きを見せた。

「シッ!」

美智子は肩の筋肉を震わせ、右ジャブを2発放つ。

「ん?」

その、美智子のジャブの打ち方に軽い違和感を覚えたのは植木。リードブロー……ジャブはあくまで牽制や足止め、又は次へ繋ぐ為の布石を目的とする。
肩に力を込めて溜めを作る必要などない。そんな事をすれば、ジャブに必要不可欠なスピードが損なわれてしまう。それでは意味がないのだが……

植木の感じた違和感は、だが次の瞬間には霧散し否応なく理解へと至る。



ズシャッ!



アンナのブロッキングを貫通し、その口元に拳が突き刺さったのだ。続く2発目もその頬を抉り込み、弾かれたようにアンナの頭部が大きく後ろへと仰け反らされていた。

「なッ!?」

自分が殴られた訳でもないのに、驚愕の表情を見せる植木。たかがジャブでアンナの頭を吹き飛ばしたというだけでも、驚愕に値する。
桁外れのハードパンチャー……それこそ、加藤 夕貴のような天性のパンチ力でもなければ、およそ成し得ない芸当といえよう。だが、彼女からはそういった強打者特有の気配、雰囲気は感じられない。

それに、美智子の打ち方にどこか違和感が残る。どこかで見た気がする。それも、それほど遠くない過去に。

違和感、いや既視感といった方がしっくりくる、その美智子の打ち方をじっくり観察する植木の近くへ、ジャブで寄せられたアンナがジリジリと後退してきた。
退きながらも、ただ黙って後退している訳ではなくアンナも手を出していく。が、その悉くが美智子を捉えられない。ディフェンスに関しても、平凡ならざる才能を発揮しているようだ。
アンナのパンチは当たらず、美智子は逆に右ジャブだけで金髪の対戦相手を翻弄し続ける。



ズシャッ!



「くぁッ」

何発目かの右ジャブを顔面に受け、アンナはエプロンコーナーの植木や由起、陽子に見上げられたまま……



ダンッ!



片膝をキャンバスに着いてしまっていた。開始後、僅か37秒の出来事である。

「ダウン!」

それを見たレフェリーはすぐさま両者の間に割って入り、美智子をニュートラルコーナーへと下がるよう指示した。美智子は淡々とした足取りでニュートラルコーナーに引き返し、トップロープに両腕を掛けアンナを見下ろす。
ただその目は、あくまで徹底的にアンナに殴り勝つ意志を伝えるかの如く敵意を剥き出していた。

ダウンカウントを数えられていく中、カウント8まで休むよう指示する植木。その隣で、「あの、先生」と植木を呼ぶ声。何事かと声の方を向くと、声の主が真剣な眼差しで顧問の方を見つめていた。

「どうした中森? 今はちょっと手が離せないんだがな」

「先生、白鷺さんのあの構え……もしかしたらコンバート(転換)してるのではないでしょうか?」

陽子の思わぬ一言に、植木は脊髄に電撃が走る思いがした。

「ッ!? そうかコンバートか!! くそッ、見落としてた……」

コンバーテッドボクサー。植木の知る限り、そのようなタイプは1人しかいない。愛弟子の、我聞 鉄平(がもん てっぺい)である。彼も、ジャブを有用する為本来の右構えから左構えへとコンバートしているのだ。
ただ、鉄平と同じコンバーテッドボクサーでもそのファイトスタイルは異なるように見える。植木の感じた違和感は、まだ他にも理由があるような気がしてならないのだった。



 アンナが指示通りカウント8で構え、レフェリーは試合再開を促した。その後も美智子は相変わらず威力充分な右ジャブだけで、アンナの顔を嬲り続けていく。
だが、アンナとてただ打たれ続けていた訳ではない。



バンッ!



相打ちの形で、アンナも右フックを美智子の左頬へと叩きつけた。

「ぐはッ」

アンナの右を貰い、目から火花が飛ぶ思いの美智子。

(くッ、やるじゃない城之内。でもそうじゃないと張り合いがなさ過ぎるわ!)

キッとアンナを睨みつけ、更なる右ジャブを打ち込む。肩の筋肉を震わせ、手首を内側に向ける。そこから肩を突き出し身体を開きながら、右拳を捻り打ち出していった。
ジャブにしては、相変わらずの大仰な打ち込み方。

「むッ!?」

しばらく美智子のジャブを見続けていた植木は、この時ようやく彼女のジャブの正体……その違和感の謎に思い至った気がした。

「ス、スクリュー……ジャブ、だとぉ?」

美智子が放つパンチの正体を把握した彼は、だがそれを俄かには信じたくない気分であった。



コークスクリューブロー



恐らく、ボクシングというスポーツに於いて『必殺パンチ』などと称される中では1番耳にした事のあるパンチだと思う。拳銃から撃ち出される弾丸にヒントを得たというこのパンチ、その最大の特徴は“貫通力”にある。
身体全身の可動を連携させ肘から先を固定し放つコークスクリューブローは、捻りによって貫通力が増しダメージも上がる……というのが、よく必殺パンチとして多用される所以であろう。
ただ、全身の可動を連動させなければならない分容易に連打出来るものではないし、関節……特に肘関節に強烈な負荷を強いる事となる。
そんなコークスクリューブローだが、ごく稀にこれをジャブで用いる選手がいる。強靭な肘関節と柔軟な筋肉という、共存の極めて難しい条件を併せ持つ者が使用出来る、貫通力の高いジャブ。
男子の、しかもプロの世界でも滅多にお目にかかれないレアパンチといっても過言ではない。それを、たかが15、6歳の女の子が巧みに操っているのだ。

「冗談だろ!? 獅堂といいあの白鷺といい、高頭といい……どうなってんだ、こいつらの世代は」

実際にプロボクサーとして活躍した経験もある植木にしてみれば、これは相当に異常事態といって良かった。


この世代の日本女子は、規格外の選手が目立ち過ぎる


嬉しい事であるのか、それとも嘆かわしい事であるのか。今感じている感想がどちらのものなのか、正確には判断のつかない植木であった。
とにかくも、今やるべきは彼女たちが育った未来への想像より、今苦境に立たされている教え子を救う為の思案である。

パンチの交換を続ける両者。だが、ヒットの度合いは明らかに美智子の優勢。所々アンナのパンチも当たってはいるのだが、それはKOには繋がらないような弱いパンチに限る。
大きくて強いパンチは、決して直撃を許さない。美智子にしてみれば、アンナのパンチ力を脅威に感じての事なのだろう。
後、やはりテクニックの差は如何ともし難く、パンチの当て方やフェイントの掛け方、距離の取り方や攻撃を仕掛けるタイミングなども正直雲泥の差を感じさせていた。

「ぶぅッ、ぉごッ!」

美智子のパンチが当たる度、アンナは唾液を噴き出し身体を右往左往させていく。このままではポイントを取られ続け、レフェリーがポイントアウトを宣言、試合終了となるのは明白。
だが、アンナは今出来る事を懸命に行っていた。今の彼女には、試合前に見せた迷いはもう見られない。やれる事をひたすら、ただひたすらに続けている。


全力を以て美智子に挑み、だが遠く及ばない。実力の差があり過ぎる。


植木も、由起も、闘っている当のアンナさえもそう認識した時、この試合の勝敗は決してしまった。アンナと美智子、2人が同時に拳を繰り出していく。
アンナの右と、美智子の左。お互いのストレートが宙を舞い交差……



ピシッ!
ズシャアッ!



お互いの顔に炸裂した。アンナの右ストレートは美智子の鼻っ柱を。美智子の左コークスクリューブローはアンナのアゴ先を。

「ごばあッ!」

アンナのストレートで顔面を打ち抜かれ、美智子は大きく身体をグラつかせる。しなるようなアンナのソリッドパンチに、ほんの一瞬美智子の意識はブラックアウトしていた。
一方のアンナにしてみれば、この試合初めてともいえる大攻勢のチャンス。

(よし、一気に!)

無防備に近い姿を曝け出している格上の相手。仕留める事の出来るチャンスなど、もう巡ってこないかも知れない。これを逃す手はないと、アンナは全身に力を込め右拳を引き絞る。
湧き上がる観客の声援を背に受け、引き絞った右拳を一気に繰り出すアンナ。ブラックアウトしてしまっている美智子に、これを回避する術はない。今まさに右ストレートがその顔を吹き飛ばす、その瞬間……



ドンッ!



オッドアイの少女の叩き込まれるべきイタリアンハーフの少女の右拳は、思い切り地面……キャンバスへと突き立てられていた。

「あ、れ……?」

急に全身から力が抜け、支え切れなくなったその膝は重力に抗い切れずにキャンバスへと屈してしまう。まるで体重が何倍にもなったかのように重く感じられ、アンナは左肘を着け四つん這いの格好でハァハァと身体を上下させていた。



「ダウン!」

 ようやく巡ってきたチャンスに起死回生を賭けたアンナの、突然のダウンに戸惑いの色を濃く見せつつレフェリーはダウンの宣告をする。ニュートラルコーナーへ下がるよう促された事で、ようやくブラックアウトから回復した美智子は今ひとつ状況の掴めないまま指示に従う。

「城之内さん、一体……先生、どうなってるんですか!?」

アンナの突然のダウンに理解が及ばず、半ば半狂乱のような陽子の叫びが木霊する。

「ピンポイント…ブロー」

陽子の問いに対し、喉の奥から搾り出すような低いトーンで一言だけを呟く植木。それを聞いた由起の顔が、徐々に青褪める。どこか信じたくない事実を聞かされたかのように。

「先生、なんですかそのピンポイントブローって?」

2人の様子からして、それが相当よくないモノなのは間違いないだろう。読み上げられていくダウンカウントを遠く耳にしながら、陽子はその植木の呟いた単語の意味する所が気になっていた。

「アゴ先を掠らせるようにパンチを当てる高等技術のひとつで、脳を揺さぶり三半規管を麻痺させる。意識ははっきりしているが、ちょっとの間身体は全くいう事を効かなくなるっていう、厄介なパンチだよ」

難度はさっきのコークスクリューの比じゃねえけどな、と補足を入れ、植木は唇を噛み締めていた。リング上では、カウントを数えられているアンナが焦りの表情で立ち上がろうともがいているのが見える。

なんで身体がいう事をきいてくれないの!? と半泣きに近い表情を浮かべ、ずるずると脚を引き摺り近くのロープへと向かっていく。歓声の中、越花や順子、都亀らの声が混じって聞こえてくる。
その声に後押しされたかのように、カウントが6の時点でようやくロープに辿り着いたアンナは左腕を絡ませると、立ち上がるべく力を入れようとした。
カウントが8を数えた時、アンナはようやくロープにしがみつき立ち上がる仕草を見せる。そんな中、ニュートラルコーナーで控えていた美智子は、立ってきて続きをしたいという気持ちともう立たないで欲しいという気持ち、半々であった。


前者は、このまま試合が終わってもお互い納得のいく結果にはならないだろう、という理由の為。
後者は、右腕に負担を掛け過ぎて筋肉が軽く痙攣を起こしてしまっていた為。


(くッ、開始早々からスクリュージャブを打ち過ぎた!)

アンナの試合や情報を目にする度、長丁場は不利と考え短期決戦を挑んだ美智子。ピンポイントブローなどという奇跡の産物も相まって、今の所は圧倒的優位といっていい。
だが、もしこのまま試合が続行されスクリュージャブを続けたら? 最悪の場合、負荷に耐え切れず右腕が壊れるかも知れない。だとしても、彼女にだけは絶対負ける訳にはいかなかった。



 一方、アンナは頼りないロープの弾力に身を預け、残り僅かなカウントを背に受けながら必死に立ち上がる。脚の感覚もようやく回復し、何とか間に合うか!? といった矢先、ひとつの不幸が彼女を襲った。



ズル……バウンッ!



ロープにしがみついていた左腕が反動で外れ、ロープの隙間に上半身が飛び出したのである。サードロープを跨いで再び四つん這いになってしまったアンナに対し、

「テン!!」

無情のテンカウントが宣告され、試合終了のゴングが会場内に鳴り響くのであった。





to be continued……
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Author:チャパロット
基本的に携帯サイトで書かせて頂いているもののリメイク(?)ですが、ちょくちょく文を変更してたりします(あと拙いですが自作絵なども)。
何かある方は、ckcwb305あっとまーくsutv.zaq.ne.jpにご連絡下さい。

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